<GRAPHICS>

 グラフィックス・エンジンに関してはやはり製作はJohn Carmackが担当。ただしここまで大きなプログラムになるとさすがに一人では作成は困難という観点から、彼の担当しているのは最も基本的なレンダリング関連の土台部分だけになるそうだ。Quake3の頃に比べると全体での担当比重はかなり減ったとの事。従来通りにOpenGLにて動作する仕様であるが、Q3とのコードの共通性はほとんど無い。
 このDoom 3エンジンに関してCarmackは「実際の所D3のエンジンのほとんどの部分は初代Geforceレベルのテクノロジーで出来ている。ハードの進化はソフトよりも遥かに速く、各種機能が実際のゲームとして実現されて世に出る頃にはそれを紹介したハードウェアは既に市場から消えかかっているのが常だ」とコメントしている。それ故かこのゲームの最大の特徴とも言える”影の生成”については、より新しいShadowmapの技法ではなくStencil Bufferを使用している。Stencil BufferとはDirect X 6.0の頃に登場した技法で、Z-buffer(奥行き表現)の他にこのバッファーを設けて影の照らされる部分の判定を行う手法であり、描画の精度面ではDX8レベルからの技法であるShadowmapに劣るとされている。

 D3のグラフィックスを語るに当たっては、グラフィックスが綺麗(凄い)というのはどういう事を指すのかから始めた方が分かり易いだろう。これには大きく分けて2つの要素が存在している。一つは文字通りのグラフィックス・エンジンの能力であり、どれだけ多くのポリゴン数を表示出来るのかや、各種エフェクト類を綺麗に描画出来るのかといった点になる。これまではこの要素が「どれだけ綺麗か」を示すのに大きなウェイトを占めていた。
 ではもう一つの要素は何かというと、ゲーム内部の世界を構成する物(オブジェクト)をどこまで細かく丁寧に作り込んでいるかという点になる。これまでは細かく作り込んだ所でエンジンの性能的に扱えないという事から、部屋の内部にしろアウトドアにしろそこそこの構成要素を作り込んでやって、それをプレイヤーが完全な形に”脳内補完”するという風になっていた。ところがPCの性能とエンジンの性能が上がって来ると、実際に細かい所まで描き込んでもOKというレベルにまで達して来る。
 しかしこれには問題が有って、一つは「細かい所まで正確に作り込むとなると、それを製作する人間のレベルによる差が出易くなる」という点。例えば部屋の内部を簡素化した形で描かせるよりも、徹底して細かい箇所まで写実的に描かせた方が上手い下手の差がハッキリするという意味。となるとレベルの高い製作者(モデラー)を用意しないとならなくなる(限られた中でどれだけ上手く見せるかという能力はまた別の話)。更に加えてこれをゲーム内全体に適用するとなると、マップ内を構成するオブジェクトの製作に膨大な時間が掛かるようになってしまうという点が大きな問題となる。

 そろそろ話題になって来ている家庭用ゲーム機の次世代機においては、ゲームの制作費は現在の倍以上になるといった見積もりの話が出て来ているが、それはマップ内の世界を構築する分のモデリング作業に費やされる人間&時間が大幅に増えるからというのが大きな原因である。ちなみにD3ではモデリング過程に費やした作業時間はQuake3の7倍で、それが高額な製作費用に跳ね返って来ている。id側のコメントでは「D3のクオリティのマップを個人で製作するのはおそらく無理」ともされている。これは予め用意された素材(2D/3Dのオブジェクト)を用いてマップのデザインを行うのは可能だが、マップ内に配置するオブジェクトを全て一人でモデリングツールを用いて最初から作成するのは時間が掛かり過ぎるという意味だ。


 グラフィックス・エンジンその物は或る意味特定個人による製作という側面が強く、それ故に新興会社であっても優秀なプログラマーさえいれば、見栄えの良い物が出来上がる可能性はある。しかし近年の「最新DirectXにフル対応している」といった謳い文句だけは凄いエンジンが、実際にゲーム(デモ)として登場した際にはそれ程凄く感じられないという事は、FPSファンならば経験している方も多いだろう。これはやはり世界の作り込みのレベルが大して進化していないからというのが大きい。
 例としては、エンジン自体は大量のポリゴンを同時に描画出来るとなっても、それだけのポリゴン数に値するだけのオブジェクトが視界内に配置されていない。のっぺりした単一な形状の壁がずっと続いていたり、同じような形のオブジェクトがそこら中で使い回されている。そこが生活空間であると感じさせるだけのオブジェクトが部屋内に置かれていない等々。こういった要素がリアリティを奪ってしまい、エフェクト系は綺麗だがゲーム内の世界は現実感を感じさせない作り物の様に見えてしまう状態を生んでしまっているのだ。
 何しろこれは或る意味必要の無い要素である。何故ならどこまで細かく作り込んだ所でゲームプレイにはほとんど影響を及ぼさないからであり、それ故に予算や人的な都合によって力を入れられない箇所になってしまう。つまり小さな会社にとっては今後泣き所になる可能性が高く、大手の会社にとってもどの程度力を入れていくか難しい要素となるはずだ。

 少々前置きが長くなってしまったが、D3ではこの世界内部の作り込みという点が、これまでのゲームとはレベルが違うという印象を受けた。単に平坦な壁や天井が続いているといった場所はほとんど無く、それぞれが複雑な形状や模様を持たせてある。柱や張り出したパイプといった要素も単純な形にはされていない。また各構成要素は実際に鉄骨やコンクリートで出来ているという重量感を持たせており、単にそういうTextureを貼っただけといった軽さを感じさせない出来である。更に各所には複雑な形状をしている上に細かいアニメーションを見せて動作する装置が置かれているし、マップ内に配置されたオブジェクトの数自体も非常に多くなっている。ちゃんと画面が表示されているCRT画面や、作動すると表示を変えるタッチパネル、実際にビデオが流れるモニタ画面等もリアリティを感じさせる要素だろう。

 勿論完全とは言えないが実際に現実の建物の内部に居ると感じさせる表現力は非常に高く、これだけ徹底して各構成要素に多彩な装飾を施して立体化したゲームはこれまでに無いと思う。大部分は同じ建物内部であり、また現実的な施設なので見た目を大きく変更出来たりする訳ではないのだが、そんな中マップ毎に出来るだけバラエティに富むようにデザインされており、単調な使い回しが目立たないように構成されているとも感じた。
 この現実感を感じさせるレベルのマップの作り込みというのはD3のグラフィックスにおける特筆すべき点と言える。PCゲームのグラフィックス表現の究極の目標が現実と見紛うようなレベルとするならば、エフェクト系の表現以外にもオブジェクトの作り込みが非常に重要であるという点を示したゲームであるとも言えよう。D3ではゲーム自体が長くてマップ数も多いという分その作り込みは大変だったはずだが、今後出るゲームにおいてもこのレベルの作り込みが要求されて来る事になると思われる。


 エフェクト関連ではやはり最大の特徴として挙げられていた影の生成に関して触れなければならないだろう。そのテクノロジー的な点は私自身も大して詳しくないのだが、相当に負荷が掛かっている処理なのは間違いない。影を外してしまったらD3の雰囲気が大きく変化してしまうので、低速のPC向けにどうするか検討中という話だったのだが、最終的にはマップ内の変化しない影やエフェクトとして見せたい影(ファンの回転等)に関しては固定して、動かせるオブジェクト&モンスターに生じる影や、光源の変化による影はOFFも可能にするといったデザインに落ち着いている。よってOFFには出来るが、完全に影が無くなる訳ではない。
 影の生成に関してはいろいろと改善の余地があるようで、Ccarmack自身もまだ満足の行くレベルには達していないと述べている。例えば滑らかな曲面の落とす影をリアルに表現出来ない点等、場面によって変に表示されてしまうという問題を抱えている。この理由からキャラクタ自身の影はOFFになっており、また複数のモンスターが出現した時に或るモンスターの生成する影は他のモンスターの体表面には落ちないという仕様にされていたりする。これは今後徐々に修正されていくそうだ。

 影の効果が最も効果的に感じられるのはモンスターとの戦闘シーンであり、発光するタイプの弾を放って来る敵によって生成される影や、こちら側の銃の明かりによっても生成されたりと凄さを感じさせる。ただあまりゆっくりと鑑賞している暇が無いのは確か。
 逆に問題は全体的に暗い箇所が多い為に、影の生成の凄さがあまり伝わってこないという点がある。つまり元々暗い場所で影が生成されていたりしても、それが暗い箇所に重なってしまうと影として描画されているのが分からないという事である。明るい場所に有ってこそ影は目立つ訳だが、強い光源によって影が作成されるといった箇所も少なく、暗い中に暗い影という風でインパクトが薄められている感は否めない。またFlashlightは影生成に大きな役割を果たしているのだが、武器に持ち替えてしまうと仕舞われる事になるので、そうなると折角の迫って来るモンスターから生成される影というのを拝む事が出来ない。これはModで実現されていたりするが、ライトを装着した武器というのも可能にして欲しかった所である。

 モンスターのデザインに関しては最初は一体10万ポリゴン程度のモデルだったのだが、これでは重いという事で一体5000程度に押さえられている。それでも体表面がリアルに見えるのはBump(Normal) Mappingを効果的に使用するデザインに変更しているからで、体の起伏がモンスター自身の体に影を作るという効果が使われている。また顔や体の筋肉をリアルタイムで変化させるのにはVertex Shaderの機能が使用されている。
 多くの敵は今までのシリーズに登場していた物のデザインを変えた物なのだが、あまりにも違い過ぎて判別が困難な位だ。表現できるポリゴン数が増えたからといってそれだけで凄くなるというものでもないと思うが、今回のD3ではモンスターのモデリング用に専任で外部から映画関連で働いていたデザイナーを雇い入れており、その効果が十分に現れているのではないかと感じた。ここ数年の3DFSP界ではAIに力を入れる為に敵は人間というスタイルでモンスターを登場させる物があまり見当たらなくなっていたが、このD3を見ると新しいテクノロジーを表現するにはデザインに自由度のあるモンスターの方が適任という感じもあり、今後の潮流の変化につながるかもしれない。

 総合的に影に関しては期待が大きかっただけに若干ガッカリさせられたSplinter Cellを初めてプレイした時の様なインパクトを期待していたのだが、それ程のレベルではなかった(或いは見せ方が弱かった)というのが正直な感想。一方でBump Mappingは想像以上にクオリティが高かった。これからはBump Mappingを施されていないキャラクタというのはもう通用しないのではないかとも思わせる出来。Textureは設定の項目で描いたが、良い場所は良いがかなりぼやけた物が使われている箇所も存在している。

 その他プレイ中に感じた欠点としては、大量に出現するNPCの描き分けについては時間が無かったという事なのか、相当同じ物が使い回されている。他には反射光の計算が単純な為に、人間の皮膚の様な複雑な透過物の表現が上手く行かず、プラスチックの様な皮膚になってしまっているという点。

 なおWindowでの表示は可能だが、ワイドスクリーンには対応していない。idのメンバーはワイドスクリーン表示が好きでデモンストレーションでも使っていたりしたのだが、Carmackが嫌いなのでOptionでは選べないようにしたと述べている。



<SOUND>

 サウンド関連はQuake以来のコラボレーションでNine Inch Nails(Trent Reznor)が担当する予定だったが、彼が忙しいという事で御破算になった。個人的にもファンなのでこれは非常に残念。しかし代わりに元メンバーだったChris Vrennaが担当しており(American McGee's Alice担当)、不気味な効果音を作り出している。

 マップ別のBGMは特に無く、特定の場面で不気味な音楽が流れる程度。銃声やモンスターの唸り声等は水準以上ではあるが、もうちょっと派手に使われていても良いのではないかと感じた。音声ログを使った演出については今一つという印象で、各人が普通に喋っているので効果が薄い。この辺は同じ音声ログならSystem Shockシリーズの方が使い方が上手く、恐怖感の演出に効果を挙げているように思う。

 3Dサウンド用のエンジンは5.1CHサラウンドをサポートしているが、これを実現するにはWindows上の設定にて5.1ch以上の構成が有効になっていないとならない。Audigy 2だとコントロールパネルとの同期を選択しておけば、Audigy側のSP設定で5.1chにしてやればD3のOptionからサラウンドが選択可能になる。V1.3にてEAX Advanced HDに対応しており、新たに製作されたリバーブのデータが追加されている。これによりサラウンドでは物足りななかったエコー等の響きの変化が感じられるようになった。


<MULTIPLAY>

 モードはDeathmatch, Tam Deathmatch, Last Man Standing, Tournamentとシンプル。最大で4人までと人数も少ない。シングルプレイに力を入れているのでマルチプレイの方は原始的な物となっている。


<英語>

 ゲーム全体を通すとかなりの数のPDAが存在している為に英語の量は多い部類。各人のe-mailの中にストーリー解説や、アイテムの入ったロッカー等の暗証番号が書かれていたりする。中にはドアの暗証番号が書かれたりもしているので全く無視して進む事は出来ないが、大抵はその近辺で発見されたPDAに書かれているので、常に全部を読まないとならないようにはなっていない。もちろん読まないと暗証番号でロックされたコンテナ内部のアイテムの入手が困難になる分、不利になるのは確かだ。

 問題は音声ログを含めてゲーム中には字幕が無い点で、音声ログに暗証番号が含まれていたりもするので英語が苦手な人には問題有りかも。



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