<GRAPHICS>

 第一に最大のポイントとも言える舞台となる都市Lost Heavenについて。Mafiaでは実際に1930年代の世界にプレイヤーが入り込めるように、またゲームの途中でマップのローディングといった事が起きて現実に引き戻されないように、その都市全体を一度にメモリに読み込んでしまうという手法が取られている(厳密には都市を外れるとローディング有り)。使用しているLS3Dエンジンも広大な面積をストレス無く描くという目的に合わせてチューニングされており、開発過程では「一度に読み込める範囲の街データでどこまでのリアルさを実現出来るのか」に全ての焦点を合わせたと述べている。
 実際の所それによって完成された街並のクオリティは素晴らしく、この類の「現実風の街をゲームの舞台として再現するゲーム」の中ではNO.1なのは間違い無い。同種ではMidtown Madness, Driver, GTA3といったゲームがこれまでに有ったが、それらを遥かに凌ぐクオリティである。ゲームでは無く本当に街の中を走っているような雰囲気を感じさせてくれたのはこのMafiaが初めてでは無いだろうか。特にオープニングの数分に渡って街中の各所を描画するムービー・シーンは圧巻である。

 Lost Heavenでは一度にデータを読み込むという点を最重視しているので全体的なTextureの精度はそれほど高く無い。一つのビルにおいては繰り返しのパターンで描画したりと限界も見える。それでも街の描画がリアルに見えるのは、まずスケール感(縮尺)が非常に正確だからというのが言えると思う。その他の類似ゲームでは”ある程度正確に”というレベルで妥協している所を、徹底的にこだわって当時の街を再現している。例えば道と建物の縮尺とか、家ならば庭と家の寸法や形状が現実に非常に近い。他のゲームならば頭の中で考えた物をデータとして用いてそれらしく見せるレベルの所を、風景写真や航空写真をそのまま使って製作されたかのような印象である。おそらくは当時の資料を相当集めて、そこから地形や風景データを起こしていると思われる。要するに資料として使った写真をゲームの街に重ねるとほぼピッタリと重なるレベルの再現性にまでこだわっている様な感じだ。こういった面はゲームとしては特別に意味の無い高層ビルなどの描写にも覗えるし、細かな場所に至るまで緻密な描写が施されている。

 建物等に使用されているTextureは先に書いたように、今のレベルとしては確かにそれほどではない。しかしビルの形状はそれぞれが変更されており、その模様は繰り返しが多いが街全体でのビルの形状は繰り返しが目立たないようになっている。この繰り返しによる単調さには相当気を使っているようで、街中を隅々まで走るとその細かさや多様さに驚かされる。工事現場や工業地域の細かさは言うまでも無く、Chainatownや郊外の高級住宅地も美しく独特の雰囲気を醸し出しているし、Freerideにてアクセス出来る広々とした郊外の風景も秀逸である。MMシリーズは時代的にもグラフィックスのレベル自体がかなり単純であるし、GTA3も確かにビルの描画に多彩さはあるのだが一方で単純な場所はそれなりに単純化されている。例えばMafiaにおいては完全にのっぺりしたビルがパターン化して並んでいるという印象はどこにも無いが、GTA3ではそういった個所があちこちに見られる。なおアウトドアの街マップからは建物の内部へは自由に行き来は出来なくなっているが、これは容量上仕方の無い点だろう。
 車類もそれほど細かくは無いものの重量感をもって描かれており、同類作品のような軽いオモチャの様なイメージは無い。どうしても街を再現するタイプのゲームでは、車一台それぞれの質よりは通行量を多くというのを優先せざるを得ないために、単体にそれほど高度なグラフィックスは使用出来ない。しかしMafiaでは高いレベルでは無いが一応表面のクロームの反射効果は行われているし、これだけの通行量を考えると充分なレベルにまで達している。

 一方でインドア系のマップでは範囲が狭いという事でアウトドアよりも高解像度のTextureが使われており、こちらはかなりの水準で綺麗である。やはりここでも綺麗なだけではなく雰囲気も重視という感じであり、当時を思わせるような内部デザインの建築が随所に見られその描き込みは非常に細かい。置かれている調度品まで丁寧に作成されている印象。


 キャラクタのモデリングや動きに関しては凄いという感じは無いが優秀な部類。ちょっと体の動きが硬い感じがするのが難点か。用意されているアニメーションのパターンは普通レベル。しかし街中を歩いている通行人の一人一人の描画は細かく出来ており、軽くする為にペラペラの低ポリゴンで作成されている単なる飾り風な人間では無く、人間として感じられるレベルにまでは達している。単純な描き分けではあるが、歩いている人間そのものの種類が結構多いのも良い点だ。これもこれまでの「街再現系ゲーム」から一歩進んだ点になる。後はインゲームのエンジンを使用したムービーシーンにおける表情の変化は相当に細かく、各人の微妙な顔の変化とかは見物である。残念ながら実際のゲーム中には顔にそれほどのパターンは使われていない。

 エフェクト系はリアル指向のゲームなのでさほど派手では無い。影の描画は高いレベルと思うが、三人称という事もあって武器のエフェクトは目立たないし爆発系の描画もそれほどでは無い。ムービーシーンでのタバコの煙は特に綺麗であるのだが。血のエフェクトも想像していたよりは地味であり、また若干リアルさにも欠ける印象である。夜間や夕焼けといった時間帯の変化による風景の描画の変化は綺麗であるが、一方でライティング系はそれほどでも無い。

 Ls3DエンジンはDirect3Dに対応。当然重さに応じてDraw Distanceの設定は出来るのだが、最大にしても重さを考えてか適当な範囲でクリッピングが行われる仕様なのはやや残念な点。Textureは標準とLowの2種類で圧縮Textureにも対応しているが、これは対応しているビデオカードにてメモリの使用効率を考えてのものであり、それ用に高解像度の物が用意されている訳では無い。厳密に言えば圧縮しない方が正確にはなるが、見た目ではほとんど変わらないので重いならばCompressedの方が良い。アンチエイリアスは4xまで設定可能。遠近感の正確な描画の為にW-Bufferもサポートしているが、これは対応していないカードでは描画が変になるので注意。
 重さという面では上記の通りに適当な距離で切ってしまうので異常に重いという印象は無い。ただし一方で軽いという感じも無いのは確かだ。高解像度やTripleBufferingをアンチエイリアスと合わせて実現するにはそれなりの性能のシステムが必要である。それとメインメモリは最低でも512MB以上有った方が良い。
 個人的に気になったのは、夜間のシーンでは人や車といった描画オブジェクトが相当少なくなっているにも関わらずかなり重くなる点(ライティング関連と思われる)。そして爆発シーンでは一瞬止まるくらいに負荷が掛かる点。



<SOUND>

 MafiaのBGMは基本的に当時流行していたSwing Jazzをベースにしており、街中の走行時はそのロケーションに応じて曲が変化し、インドア系でもそれは時々使われていたりする。ダンス系のボーカル入りの音楽だったりもするのでゲームの重厚な雰囲気とはそぐわないと考える事も出来るが、1930年代当時のギャングの世界の雰囲気再現という意味からはこれ以外の選択肢は無かったという事なのだろう。通常の走行中は案外のんびりとしたゲーム性でもあるので、その意味ではこのサウンドはよくマッチしているとも言える。その他はシーンに応じてサスペンスタッチの緊迫感のあるBGMが使われていたりするが、一番印象的なのはメインとなるテーマ曲だろうか。これは耳に残る良い出来である。
 ゲーム中のサウンドもハイクオリティであり、銃はクラシックな物ばかりだがそのサウンドは良く出来ているように思う。特筆すべきは会話におけるサウンド及び演技のクオリティで、これは本当に映画の様な出来と言えよう。各人がそれぞれイメージにピッタリの声質で見事な声の演技をしていると感じた。

 このゲームの素晴らしい点は街中の喧騒の再現というのが非常に良く出来ている点で、その音の密度や変化は昔のMM2やDriverの比では無いし、同類のGTA3をも圧倒している。これには大きく3Dサウンドが関わっており、Advanced HD(EAX3.0)に対応しているそれは現時点の対応ゲーム中ではNo.1クラスと言える。すれ違う車の音ははっきりとした移動感を伴なって聞こえるし、周囲のサウンドは包み込む様な感じで厚みを感じさせる。グラフィックスの再現性と合わせてゲームの雰囲気作りに大きく貢献しているのは間違い無くトップクラスの出来である。

 英語についてはある程度は読解力が必要。このゲームでは普通の場面での会話が多いので、画面から凡そ何が話されているのかを推測する事が難しい個所が多い。また字幕は出せるのだが会話のスピードがそこそこ早いので、それに合わせて消えるのが他の物に比べると早い方である。それとゲームのクリアに関しては理解出来なくても問題無いとも言えるが、ストーリーが重要視されているゲームなのでそれを味わえないのはかなりのマイナスとなってしまう。苦手なら日本語版をお勧めしたいが、こちらは既に販売が終了しているのが難点。



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