☆ THROUGH THE WOODS ☆

15/12/25 更新 目次          HOME
製作/販売 Antagonist        公式サイト      STEAM      INDIE DB
配布状況  2015/10/31にリリースされた ThroughTheWoods_EarlyAlphaDemo(537MB) が最新バージョン。デモのダウンロードはこちらから。なお最初にリリースされたプロトタイプ版はWindows, Mac, Linux用が用意されていたが、現在のデモはWindows版のみとなっておりプロトタイプ版へのリンクも削除されてしまっている。

 更新頻度: 一度アップデートされている

 Steam Greenlightにエントリーして、既にGreenlitに到達している。

 Kickstarterでは$40,000の目標に対して、1,272人の支援者から$43,833を集めて成功している。

概  要  Antagonistはノルウェーのインディーズ会社でメンバーは現在7名。これがデビュー作となる。ノルウェーではそれ程制作会社が多くないのと、その多くがオスロ周辺に固まっているというのもあって会社同士の技術交流が盛んだそうで、やはりホラー物のAmong the SleepをリリースしているKrillbite Studioとは仲が良い関係。それと実は最近「母親が行方不明になった息子を捜し回る」という同じテーマのThe Parkをリリースした大手のFuncomとも、モーションキャプチャー技術の提供を援助してもらっている仲である。

 発売予定は2016/Q1。プラットフォームはWindows, Mac, Linuxの他にXbox Oneでもリリース予定。最近上記のAmong the SleepがPS4でもリリースされており、彼等もこのTTWのPS4でのリリースを考えているそうなのだが、ソニーとの契約が上手く行かない状況でまだ未定という段階である。


 主人公のKaren Dahlはまだ若い母親で、ある日自分が相続した地元ノルウェーの離れ島に在るキャビンを久し振りに訪れたのだが、その際に息子のフィリップが何物かに連れ去られてしまう。彼女は森林の中を彷徨いながら息子を探すが、そこにはモンスター達が徘徊しており生命の危機を迎える事になってしまう。


動作環境  現時点ではWindows版のみ。動作情報関連は無し。

BASICS  三人称視点のサイコロジカルホラー。サイコロジカルとは心理的の意味で、Jump Scares(絶叫を狙ったビックリイベント)系のホラーゲームとは異なるホラーであるという点を強調する際にも使われる事が多い。既に現在ではJump Scares系は飽和状態でもあり、シンプルなフリーゲーム界隈ではまだ結構出ているものの、ある程度大きなプロジェクトだとこの心理的なホラーをメインにしたゲームが増えている。しかし「サイコロジカルホラーはプレイヤーの意識の中に恐怖感を生み出さないとならず、どの様な手法が効果的なのかを考案したり検証するのがjump scaresに比べると難しい」と制作側も話している。

 どの様なゲームなのか?という質問に対しては、通常「Alan Wake meets Gone Home with a twist of Amnesia」と答えているそうである。

 プレイ時間は直線ルートで3時間程度を想定。アイテム収集などの脇道探索を行えばプラス数時間と見積もっている。


 TTWがメインとして扱っているホラーのテーマは森の中の恐怖である。ノルウェーは土地柄森林地帯が多く、子供時代に深い森に対する恐怖心は誰しも持っている。その「森という存在その物」に対する言い知れぬ恐怖感を、このゲームで再度体験して貰いたいという狙いを述べている。具体的には暗い森の中をフラッシュライトの光だけを頼りに進んで行く恐怖感、まるで生きているかの様に見えてしまう木々達、どこから聞こえてくるとも知れぬ様々な音に対する薄気味悪さを体感して貰おうと意図している。その為にサウンドデザインには凝っており、ホラーと言うと大きな音というイメージが強いが、逆に非常に小さな音を利用しての演出をメインに用いている。明かりの方もフラッシュライトは無限に使えるが、光の範囲が狭くなっており広範囲を見渡す事は出来ない仕様で、閉所恐怖症の様な感覚を生み出せる様にデザインされている。

 ちょっと気になったのは重要な明るさの設定で、メニュー内に明るさ調整機能を持っているのだが、調整に明確な指標が示されないので意図しているレベルの明るさが正確には掴み辛い。(暗いエリアがハッキリと見えない様に調整して欲しいとあるのだが、“暗いエリア”とは何所を指すのかがハッキリしない)。なおこのページのSSは何が表示されているのか解り易い様にやや明るめに調整している。実際にはもっと暗くて、フラッシュライトが照らす範囲外は見え難いというレベルになる。


 ゲームのデザインとしても風変わりな面を持っている。まず探索が全てであり、パズルの様な要素は含まれていない。進行ルートを探し回るといったゲーム性でも無い。そしてカレンは戦闘手段を持っていないが、ただ逃げ回るしか無いという設定でも無い

 デモにおける敵は“Old Erik”と呼ばれているが、これは英国では“Old Nick”という名称で、言わば子供達が親の言う事を聞かない際に「そんな風だとOld Erikが来て云々...」とかの子供を脅す為に使われる想像上の悪魔の呼び名である。このゲームにおける敵は多数の種類が存在しており、それぞれが北欧神話やノルウェーの民間伝承などを基にしたデザインにされている。そして各々に有効な回避手段が存在しており、それに応じて対応しないとならなくなっている。ひたすら追い掛けて来るので安全な場所まで逃げないとならないタイプ, 見付かったら終わりなのでステルスで避けて通らないとならないタイプ, 灯りに反応するのでライトを消して見え辛い状況で逃げないとならないタイプ, 光に弱いので逆にフラッシュライトで照らしながら回避するタイプ等、その敵に応じて対応方法を考えないとならない。

 ゲームのデザインとしては各モンスター達の資料が与えられる訳では無いので、初回遭遇時には死亡してしまうケースも増えるとしているが、その中で対応手段を早目に発見しないとならない。それぞれのモンスターは独特の音を発するので注意深く音を聞いている事で早期発見が可能。またそれぞれにテーマとなるBGMも用意されている。サウンドが重要というのには、この敵の識別に必要という件も含まれている。


・キーアサイン不可
・マウス感度設定可, 明るさ調整可, サウンドボリューム調整可
・難易度設定無し
・字幕有り
・チェックポイントセーブ方式(石碑の場所でセーブされる)

*後方三人称視点固定。ライトをオフにすればカメラを360度回転させて周囲を見渡せる。
*インベントリー画面無し
*照準無し。Use可能場所ではアイコンが出る。
*スプリント, 屈み(CTRL)可能, ジャンプは無し

GAMEPLAY  新しいデモは初回のプロトタイプと同じセクションのみをプレイ可能。サイズが大分小さくなっているが、グラフィックス面では向上しているそうなので、圧縮したり最適化が進んでいるという事なのだろう。内容としては短く、急げば10分も掛からないで終了可能。雰囲気を味わって貰うのがメインの物だと捉えるべき。

 森はそれ程広くなく、脇道は有るが広大で移動に自由度があるという構造では無いようだ。ストーリーを語る上ではテンポも重要となり、あまりに散策に時間を費やされてしまうのは困るという事情もあると考えられる。ゲームの最後まで常に存在するのかは判らないが、息子が残していったリフレクター(反射物)が存在しており、これを目印に辿って行く事で迷う可能性は減らせる様になっている。スタミナの概念は無い様でスプリントは持続可能。よって道さえ解ればかなりの速さで移動して行く事が出来る。


 非常に重要な点として「何故三人称視点なのか?」について触れておこう。開発チームもさんざん質問された事項として、「どうしてホラーゲームを作るのに今時三人称視点なのか? どうして一人称視点を採用しないのか?」を挙げている。

 近年のホラーゲームには一人称視点(FPP)が多い。特にインディーズ会社や個人レベルの作品だと圧倒的というレベルで一人称視点を採用している。後は完全な2D物とか、3Dならば見下ろし視点とかになり、後方からの三人称視点の作品は非常に少ないという状況にある。その理由としては、第一に三人称視点をやりたくても出来ないという切実な問題が存在している。既にゲームの背景グラフィックスは相当高度なレベルに達しており、こちらは少人数の制作チームでもかなりのクオリティを達成出来る様になってきている。だがキャラクターのモデリングとアニメーションに関してはそうではなく、こちらは背景グラフィックスが高度になっている分、その中で動かしても違和感が無いレベルのクオリティを持ったモデリングや多彩なアニメーションを達成するには、それなりのスキルを持った人員&多大な作業時間が必要である。よって少人数チームでそのスキルを持った人間が居ない場合、やりたいと思っても三人称視点には出来ないという事情がある。ゲーム中は常にプレイヤーの視点が注がれているキャラクターのモデリングとアニメーションがショボかったら大きな欠点となるからである。これがアクション物とかになると、一人称視点にしたら今度は武器のモデリングとアニメーションという別の大きな負荷が掛かってしまうが、ホラーであればその辺は大幅にカット(or完全削除)も可能なので、製作負荷という観点からは一人称視点は大変にありがたい。

 第二に背景グラフィックスが写実的なレベルに到達してきた為に、一人称視点にする事で「まるでその中を自分自身が探索しているかの様な感覚」を得易くなってきたという点が挙げられる。昔のポリゴン丸出しレベルではその効果も十分とは言えなかったが、現在では廃病院内やら夜道やらを実際に探索している雰囲気を高度なレベルで実現可能になってきている。そこで一人称の方が怖がらせるには有利であるとなって採用事例が増加しているという面がある。

 話を戻してこのTTWでは、逆にプレイヤーがゲーム内キャラクターに感情移入して貰っては困るという理由から三人称視点を採用している。つまりこれは子供を探す母親カレンの物語であり、あくまでも子供を探して森の中を探索しているのは彼女。ストーリーを強調する上では主人公であるカレンが探索をしているのだという印象は最も重要となり、一人称視点が原因でプレイヤー自身が探索をしているかの様な感覚を生んでしまうのはむしろマイナスに働くとしてこうなっている。類型のデザインとしてはバイオハザードシリーズなどが代表的。このシリーズも主人公格のキャラクター達を深く掘り下げて、その人気のあるキャラクターが戦っているという感覚を重視している為、それには常時キャラクターの姿が見えている三人称の方が都合が良いとなっている。若しくは操作キャラクターの切り替え要素を持ったゲームでも三人称の方が有利に働く。

 しかしアクションゲームなら問題無いのだが、ホラーゲームにおいては先に述べた様に三人称視点では、その画面内のキャラクターが行動しているという感覚を強調すればするほど、操作しているプレイヤーは傍観者という感覚を強めてしまう。そうなると怖い目に遭っているのは主人公、敵にやられて死ぬのも主人公といった感覚になり、恐怖感が減退してしまうという弱点が現れるのは避けられない。従って怖がらせるには何等かの工夫が要求されてくる。実際の所このデモをプレイした限りでは、三人称視点では森の中の探索が怖くないとまでは言わないが、やはり一人称で自分が探索しているというゲーム性の方が怖いだろうなと感じてしまったのは確かである。だがホラー要素を犠牲にしてでもストーリー(ナラティブ)な要素を重視するというデザインが悪い訳では無く、そこを成功させられるならば仕方のない代償として受け入れられるはずである。


 デモは相当に短く、敵も一種類しか出て来ないし、ゲームの持つメカニズムを十分に体験出来るとは言い難い。そんな中で私が気に入ったのはストーリーの語り方である。このゲームでは現在の視点から過去の出来事を振り返るという形式を採っている。この様にしてストーリーを語る手法はMafiaCall Of Duty: Black Opsなどが思い浮かぶが、「こんな事が過去にあった」という数々の回想シーンを、プレイヤーが実際にプレイして行くという風にして進められる。

 TTWの独特な所はこの過去回想がダイナミックなナレーションにより行われるという点にある。ゲームは主人公カレンに対するChristian Petersenなる人物による尋問の形で開始される。そしてこの会話はゲーム全体を通して進行していく。完全なスクリプトによって行われるのでは無く、カレンのやった行為に応じて会話は進められる。例えばカレンが何かをゲーム上で行うと、そのタイミングで「なるほど、あなたはXXXを行ったと。それでどうなりました?」といった感じにナレーション(会話)が随時挿入されて行く。中にはプレイヤーがそれを行わないとスキップされて再生されないナレーションもあるようだ。この方式は非常に高い効果を挙げており、ストーリーを発見したドキュメント類から理解していく方式に比較して解り易いし、その内容に引き込まれる度合いも強い。

 何より今何が起きているのかをプレイヤーに正確に伝える手法として大変に有効だと言える。それと操作しているゲーム内のカレンは恐怖に曝されているのに対して、尋問で心境を語るカレンの方は既にそれを体験してしまっている事から冷静で醒めており、そのミスマッチ感が何とも言えない妙な雰囲気を生み出していて新鮮である。声優の出来も良く、現時点では最大のストロングポイントと言っても過言ではない。

 なお尋問者の正体は不明であり、警察の様にも思えるが、モンスターと対決したというその話の内容からして精神科医という可能性もある。またどうやらこの尋問が終わった後に未来へと話が続いて行くという構成では無いらしく、全てが過去の既に済んだ出来事になる模様。そしてその会話の内容からすると、息子のフィリップは戻っては来ていない様に感じられる。


 最後にホラー要素についてだが、デモに登場する敵はシンプルに追い掛けて来るタイプとなり、逃げ切ればOKなのでルートさえ掴んでしまえば怖くない(また解り易いので初回でクリアも困難では無い)。追われるシーンは怖いと言えば怖いが、こういったゲームは既に多いので特に効果的とは感じられなかった。それとセーブポイントが遭遇直前に有る為に、失敗の恐怖感というのも損なわれている。他には音をメインに使った演出で、これは突然音がしたり何かが動いたりといったタイプ。何かが目の前に飛び出して来たり大音響を発したりする訳では無いのでビックリ感は少ないが、元々それを狙っているゲームでは無いのでこの程度の控え目なホラー演出でも雰囲気には合っていると思える。

 
GRAPHICS
&
SOUND
 Unityを使用。グラフィックス設定は4段階で個別項目はモーションブラーのみ。直感的に森の中の怖さを体験して貰うという意味でグラフィックスは大変重要となり、あまり低設定でのプレイには適さないゲームと言えるだろう。写実的な描画を実現させる為に現地取材などを行って実際の森林で写真を撮り、そのデータからテクスチャーを作成したりしている。


 サウンドの方もゲームの中心的な役割を果たす物として力が入っている。専任のサウンドデザイナーが居て、やはりサンプリングなどからリアルなエフェクトを作り出している。特徴としては非常に小さな音を使い分けるというスタイルで、静寂が支配する森林の中で枝が折れたり風に揺れたりする音や、鳥や虫類の出す音を聞かせたりといった微妙な音をメインにしている。その為にヘッドフォンを強く推奨している。私はサラウンド対応ヘッドフォンを持っていないので、普段は音の拡がり感重視で5.1CH構成のスピーカー構成でプレイしており、ヘッドフォン推奨というホラータイトルでもそれは使わない事が多いのだが、このゲームに関しては小さく細かい音が中心なのでヘッドフォンの方が明らかに向いていると思う。なお3Dサウンドには対応していない様なので、その意味でもマルチチャンネルのスピーカーを使う意義は薄い。

感  想  正直言ってゲームプレイが面白いのかどうかはこのデモからは判断出来ない。あまり怖くは無さそうな感もあるし、ストーリーは面白いとしてもホラーゲームとしては普通レベルという可能性も十分に有り得るだろう。それでもダイナミックなナレーションという語り口は大変に気に入ったので、これは今から購入候補に入れている。


 現在の完成度:資金集めにも成功している事から予定通りに発売されそうで、もう7,8割方は出来ていると推測される。

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