CHASER

                                 03/05/12


    146MB  JoWoodより03/06発売予定   公式サイト


<概要>

 製作はスロバキアのCauldron。以前は同じ国であったチェコからは優秀なゲームが幾つかリリースされているが、スロバキアからのゲームというのは聞かないし御国の事情もよく分からない。会社自体はこれまでにも何本かPCゲームをリリースしており、FPSはこれが初めての製作となる。

 このChaserは2001年のアナウンス当時はそのグラフィックによって大きな注目を集めたゲームである。しかし徐々にニュースが出てこなくなり、その後販売元であったFishtankが倒産してしまう。その関係で予定の2002年末の発売は見込めない事に。その資産を引き取ったヨーロッパに拠点を置くJoWood(Arx Fatalis, Gothic等)にそのまま引き取られたのだが、今度はJoWoodが02年ホリデーシーズンの売上の大幅減による赤字で今後のゲーム発売のスケジュールの全面見直しを宣言。その為発売時期は再び白紙になり、更新もストップしていた公式サイトはアクセスも出来ない状態に。実際の所今年に入ってからは情報らしき物はほとんど無く最悪このまま消滅かと思っていたのだが、4月頭に新規デザインで公式サイトが再オープンして発売も6月予定というアナウンス。そして今回のデモリリースという事になった訳である。
 一応ゲームはネットコードやAI、シングルプレイMap等のベース部分は全て完成し、後は各部のバグ取りと最適化作業関連のみという話。USでは代理店が異なるので発売時期は未定。2003年のE3には出展されるそうだ。

 このデモはシングルプレイ専用でマルチは不可。マルチ専用のデモは別にリリースされている。


<動作環境>

HARDWARE 必要環境 推奨環境
CPU Pentium III 650 MHz Pentium III 1GHz
MEMORY 128 MB 256 MB
VIDEO VRAM 32 MB VRAM 64 MB
SOUND 記述無し  

対応OS: Win 98/2000/ME/XP
Direct X 8.1以上要


 まず第一に最初にリリースされたV1.10デモはバグが有るのでV1.30の方を使用する事(V1.10は雑誌の付録に先行収録された物がネットに出回った物)。バージョンはメニューの右下に出てくる。1.1からのパッチは存在しないのでUninstall後に改めてインストールするしかないし、Saveデータにも互換性は無い。

 あまり障害情報が無いので安定性に関しては現段階では何とも言えないが、個人的には特に問題は無かった。起動には問題が有った場合用にSafe Modeも用意されている。

 一つの問題だったのはゲームパッドの認識をOFFにする事が出来ず、システムのプロパティで使用不可にしておかないとキーの変更が出来ない点。



<GRAPHIC>

 自社開発のCloakNTエンジンを使用。このグラフィックエンジンはゲームの大きな売りとして前面に出されている特色であり、これまでのChaserに関する情報の9割以上は「このエンジンが如何に凄いのか」という点であったと言える。3Dアクションゲームではグラフィックの綺麗さ先行で宣伝されるというケースは結構多いし、また実際にグラフィックがゲームに占める割合は何だかんだ言っても大きい。よってそのグラフィックをメインに宣伝するのは悪い事ではない。ただこれにはある大きな欠点が存在していて、それはゲームのリリースが旬を過ぎてしまうと、それまでグラフィックに頼って宣伝していた分反動が大きいという点である。
 2001年の時点で発表されていた数本のCloakNTエンジンの(テクノロジー)ムービーはインパクトが有ったし、当時動いているのを実際に見る事が出来たエンジンの中ではトップクラスだったのは確かだ。しかし2002年のE3以降徐々にそれを越えるようなインパクトのゲームがアナウンスされだして、相対的に話題性は低くなっていく。またこのクオリティで当初予定されていた2002年中にゲームがリリース出来ていたならそれなりに目は引いたと思われるが、今や2003年の6月という時期にまで延期されてしまっている(しかもこれはまだ確定ではない)。既に業界はDirect X 9.0(相当)の機能に対応したゲームにシフトし始めている上に、幾つかその高度な描画能力をムービーとして見る事も可能になっており、またSplinter CellUnreal 2といった高度なグラフィックのゲームも既に発売されているというのが現況である。そんな中ではこのCloakNTエンジンのパワーは相対的に落ちていると言わざるを得ない。

 プレイした限りではグラフィックはかなりのレベルであって綺麗だし、リアルタイムでのダイナミック・ライティングや影の生成もサポートしている。Textureの質もまあ高い方だろう。それと雨が降るシーンも含めて重さをそれ程感じさせないという面も持っている。ただインパクトが有るかと言われると.....。基本的にDX7の時代にDX8の機能を完全サポートするという意図で開発された物であり、それは達成されているような気がするが現在ではそういうゲームはもう幾つも出てしまっている。既に全てのキャラクタに複数の光源からの計算されたちゃんとした影が付くとか、水面をShader機能でリアルに描画するとか、複雑な雨や煙を描画してもParticle効果で重くならないといった要素は珍しくなくなっているのだ。逆にキャラクタのモデリングやアニメーションに関しては最先端のゲームに比較すると劣っているといった印象も受けるし、ムービーでのリップシンクも合っていない。武器や爆発のエフェクト関連についても地味な感が。
 ただそれでもライティングはちょっと独特な感じが有って綺麗に思えるし、複雑なMulti Texturingと思える効果は見て取れる。それとこのデモは暗い場所が多くてアピール面では損をしている感も有るし、ムービーや他の個所のSSを見る限りはジャングルや雪原といったバラエティに富んだ地形描画も可能なようなので、一応製品版ではこれ以上の物を期待は出来るといった所だろうか。6月ごろ出せるならば高水準というレベルである。

 アンチエイリアスを入れなければそれほど重いという感じは無いし、V1.30では光源に向いた際のfpsの落ち込みも軽減されたようだ。Adrenalineを使った時のエフェクトも変更されたが、これは前のモノクロの方が良かったような印象。

   フルサイズ画像           


<SOUND>

 1.10ではEAXを使うと正常に音が出ないという問題が有ったが、これは1.30にて解消されている。とはいえサウンドはあまり良くない。定位は標準的としても武器の音がかなりショボくて迫力に欠ける。実銃系重視ならばもっと高品位なサウンドを使ってもらいたい。一方でBGMはなかなか良い感じの物で耳に残る。



<GAMEPLAY>

 最初に言ってしまうと、ここまで来てもChaserとは実の所どんなゲームなのかというのは良く分かっていない。来月発売予定にしてはサイトでの情報公開も不十分なレベルである。これまでもCloakNTエンジンに関する記述がほとんどでゲーム性に関してはあまり語られる事が無かった。
 一応の概略としてはゲームの舞台は2044年の地球で主人公はJohn Chaser。彼は自分が何者なのかという記憶を失っており、警察やマフィアといった組織双方から追われる身となっている。一体自分は何者で何故付け狙われるのかというのを探っていくというのがゲームの目的。ロケーションは世界中に及び、中には日本でのYakuzaとの戦闘も有る様だ。最終的には火星に渡るという事にもなる。

 ゲームの中心となるのはストーリーそのもので、これには数々の意外な展開が待ち受けており、ゲーム合間のムービーシーンにて効果的にそれが判明していくというスタイル。ゲームの狙いとしては映画の様なゲームを作成する事であり、プレイヤーが映画の主人公としてプレイしているような感覚を味わえるようにする事と語っている。
 多くのFPSゲームではゲームの背景設定には凝るとしても、ストーリーにはそれほど複雑な物は用意しないというのが普通である。Gameplay最重視でストーリーは単に悪の組織を倒していくといった流れに沿った物が多い。しかしこのChaserでは「意外性の有る二転三転するストーリー」と「映画的な演出」が最優先事項であり、それに次ぐのがそれを表現する為のグラフィックエンジン。その次にGameplayといった優先順位の構成である。それ故Gameplayの詳細が見え難いし、肝心のストーリー面については面白味を損なうので一切明らかに出来ないという姿勢。よってどんなゲームなのかが見えないといった結果となってしまう。一応以下がアナウンスされている事項。

*武器は基本的に実銃系がほとんどで未来系の物はほとんど無い。全部で23種類登場する。
*敵は人間系主体で機甲化兵士も存在する。全部で75種類もいるらしい。
*激しく撃って戦えるようなアクションFPSではないが、ステルスを徹底したゲーム性でもない
*マルチプレイは標準的な物に加えて独自のチーム戦モードを加えている

 取り合えず2つのMapをプレイ出来るデモからの感想を記しておこう。場面としてはゲームの一番最初では無いが、どの程度の進行個所なのかは不明。出てくる武器の種類は少ないし、敵は基本的に1タイプしか出て来ない。

※ダメージは結構大きい部類であり慎重さが要求される反面、先を覗うLean動作が出来ないのでストレスを感じる
※難易度がシビアな割には、倒した敵がヘルスやArmorをランダムで落とすという適当なバランス
※ステルスで先制攻撃を仕掛けられる個所も有れば、完全にスクリプトで攻撃される個所も有る
※こちら側からでは分からない嫌らしい個所に敵が潜ませてあり、先制攻撃を食う確率が高い

 AIに関しては単純に同じ個所に突っ立って攻撃するのみではなく、撃ちながら一時的に壁際に引いたりとか、障害物の陰に屈んで隠れたりといった動きを見せてくれたりと動きは悪くない。ただし射撃精度がかなり高い上にこちらを認識するまでが早い。特にこのデモでは背景に溶け込んで若干敵が見えにくいので余計に不自然さを感じる。しかしこのゲームの不味い点はAIというよりもその配置の仕方で、一度撃たれるまで分かりにくい個所に置かれているばかりか、プレイヤーが或る地点を過ぎると存在していなかったはずの場所に敵が出現する事が多い(しかも後方が多い)。一度やられて出現個所を憶えても或る地点まで行かないと出現自体しないので厄介である。
 これとダメージの大きさを合わせると死にながら進んでいくという憶えゲー的な側面が非常に強く感じられて、Loadingが早いとはいえストレスを感じる部分もある。ゲーム中プレイヤーはAdrenaline Modeと呼ばれる時間がゆっくりに見える能力を発動出来てMax PayneにおけるBullet Time)、おそらくその為にバランスを取って敵を強くしているのだと思われる。ただそれでゲームが面白くなっているのかと言うとそうでもなく、そもそも二番煎じであるしMax Payneの様に使っていて面白さを感じない(或る意味Slow Motion Cheatを使ってプレイしているのと同じ感覚)。

 気になる点としてはこのデモの敵はあまり強くない方だと推測出来るのだが、これ以上の敵が出て来た場合にバランスとしてどうなのかというのがまず有る。これ以上敵が強くなるというのは今以上に死に易くなるという事であり、こちらも強力な武器が手に入るのだろうが、より生きるか死ぬかのリアル系FPSゲームに近くなるのではないかという心配。Adrenaline Mode連発で無いと無理といったゲームになると面白味が無くなるだろう。
 次に基本動作が変な感じで、物に上るジャンプが高速で行われるという印象。障害物を越える時に瞬間的に移動するように上るので足を曲げる(Crouch-Jump)タイミングが取りにくい。また最初の個所で水路に落ちると箱を使わないと通路に上がれないというのは製品版では何とかして欲しい個所。後は上に書いたようにどのMapでもこんな風に憶えゲーの色彩が強いのかという点が気になる。

 ゲーム性としてはシリアスさを出したいと考えているのだろうが、全体として薄っぺらい感じで重厚感が無いのが痛い。アイディア的にもAdrenaline Modeに多彩な種類が有る訳では無い様だし、未来らしくImplantでの能力強化と言った要素も無ければRPG的な成長要素も存在しない。いくらストーリー重視とは言っても、基本的なGameplay面でのアピール度が弱過ぎる感が有る。何等かのユニークな特徴も無ければ、ベース部分のシューティングもサウンドのせいも有って爽快感も大して無いし、組み込むと言われていた物理エンジンの効果は少なくともデモでは見る事が出来ない、等では辛い所。


<総論>

 ADVゲームやRPGには「Gameplayはそこそこだがストーリーが非常に面白い」という事で評価されるゲームが存在している。そして私もそういうゲームは嫌いではない。よって製作側の宣言通りにストーリーは本当に面白いのであれば、Gameplayは標準的なレベルであっても考えても良いかなとは思う。
 しかしFPSのゲーマーにはGameplay重視でストーリーは二の次という人も多く、このデモ程度のレベルでは今のFPS界にアピールする能力は低いのではないだろうか。AIはそれほど悪くないのでレベルデザインの調整次第では結構良くなると思うのだが、デモからの反応でそれほど大きく修正するとは思えないし、そうなると製品版ではグラフィック面がもっと凄いか、武器サウンドがちゃんとしているとかでないとやはり弱い。また重要なマルチプレイに関しては全くの未知数であり、シングルプレイをとにかく重視というスタンスから言って期待はあまり出来なさそう。

 ストーリー関連事項は明かせないという事なので、発売されてレビュー等で評判を見てからの話になるか。ただもし9月以降の発売ラッシュ時まで延びてしまうとその中に埋もれてしまいそうである。



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