TOP
INHERITANCE
 2016年8月にリリースされたDLC。2018/08/09現在Steamにて498円。本編とのセット版はLayers of Fear: Masterpiece Edition。

 プレイするには本編が必要。本編のメニュー画面から起動する形式。進行をセーブするプロファイルは本編の物(3個)を使用する。これも日本語対応済み。


 このDLCの主人公は画家の娘となり、本編終了から年月が経過した後に彼女が自宅に帰ってきた所から始まる。自宅内を探索する彼女は様々な昔の想い出に浸るが、その結果として過去の父の言動とどう向き合うのかを決断する事になるという内容。なお“inheritance”とは相続・継承の意味。


GAMEPLAY
 ボリュームは1時間からら90分程度と短い。本編とは違ってチャプターにも分かれていない(セーブはメニューに戻ればちゃんと行われる)。

 娘の年齢は不明だが声は若いという印象なので、本編から10〜20年くらい経過しているのではないかと推測される。ちなみに本編はいつ頃の話なのかが掲示板にて議論されたりしていたが、こちらでは具体的な年月が記載されているアイテムも存在している。

 構成としては昔の自宅に戻って内部を歩き回るパートをベースにして、過去の想い出のフラッシュバックのシーンが挿入されたり、精神世界的な奇妙なロケーションを探索したりが発生するという形式。本編の画家とは違い娘は狂っているという訳では無いので、昔のトラウマが影響して異様な精神世界を体験しているのではないかと思われる。


 ゲームプレイは本編とはかなり異なっている。まずホラー色は大幅に薄まった。本編もそれほど怖がらせる事に重点を置いてはいなかったが、DLCではジャンプスケア系の回数やその強度も減少。移動中に遭遇するホラー系のイベントシーンも少なくなっている。またアイテム探し要素も激減しており、本編では移動中に至る所を調べて開けたりしながら長時間に渡ってストーリー関連のデータ集めが続けられたが、DLCではインタラクト可能な箇所が大きく減らされており徹底的な調査という必要性が薄れている(例外はあるが後述)。

 逆に強まったのがストーリー関連の説明的な要素。本編のストーリーを補完する様な出来事が回想のカットシーンなどを用いて娘視点から語られるというのがメインであり、探索型のアドベンチャー的な色合いが濃く出ている作品となった。この変化自体は悪くないのだが、てっきりホラー物だと考えてプレイしたので肩透かしを喰らったというのが正直な所。最初からメインがホラーでは無いと知っていれば違ったかも知れないが、やはり失望感が感じられた事は否めない。それとストーリーを中心にした物だとしても、ボリュームが少ないので展開に深味が感じられないというのは明らかな問題点。唐突に終わる感じで多くが語られないし、精神世界を探索中のイベントシーンが本編に比較してまるで少ない為にその意味での満足感も得られないとなっている。ホラー物ならばこの短さはアリだが、ストーリー解説を重視するならボリュームはもっと必要だと言える。

 謎解きやパズル要素は本編同様に少なく、本編に比べるとやや解り難い箇所が増えているかという程度。オプションとなっている謎解きはともかくとして、クリアする事自体はやはり簡単な部類である。

 注意点として精神世界は子供時代の物なので視点が相当に低くなっており、世界の見え方に違和感が感じられるシーンもしばしば。加えて視界を悪くするモヤの様なエフェクトもあり見辛い事もあって、3D酔いを訴える人がある程度発生している模様。なり易いという方は短いとは言え警戒しておいた方が良いだろう。

GAMEPLAY (続)
 エンディングは本編と同じで三つ。本編ではノーマル(バッド的な意味合い)が一つに、グッド(成功した)と言えるタイプがプレイ中の行動に応じて二種類という構成であった。それに対してDLCでは普通のエンディングがプレイ中の行動に応じて二通りで、トゥルーエンディング的な成功したタイプが一つとなっている。DLCにはエンディング分岐条件の明確な解説が無いので推測だが、おそらく行動に応じて決まる二通りのノーマルエンディングの到達確率は同程度(両方共に実績に登録されており、その解除割合が同じ位なので)。

 しかしこのルート(エンディング)分岐という要素にはリプレイ性を高めるといった効果がある反面、欠点も併せ持っている。その一つがルート分岐によってプレイヤーが体験出来るイベント等が分離されると、用意されている物の内で一部しか初回プレイでは体験が出来ないという事になってしまう件。クリア後に別ルートの方もプレイして貰えるならば良いのだが、当然そんな事をプレイヤーに要求する権利は開発側には無い。「一つのルートをクリアしただけでゲームの感想を語らないで欲しい」と主張したところで強制力は無く、「イベントが少なくてストーリーが充実していないので減点」とされてしまってもそれはそういう分岐デザインを採用した自分達の責任である。本編の様に全体の分量がある程度以上は有るので、片方のルートだけでも体験出来るイベントは十分に多いとかなら問題は少ない(あるいは大量のルート分岐が用意されていて、それをなるべく発見するのが目的とされている様なデザインのゲームならば話は別)。

 このDLCにおける問題も正にそこで、全体のボリュームが少ない上に用意されているイベントの総数がかなり減少しており、それを更にプレイヤーの行動ルートによって分割している為に、余計に一回のプレイでの体験出来るイベント類が少なくなっている。短いので全体リプレイにおける時間的な苦労は少ないし、開発側に言わせれば「だからこそちゃんとリプレイはして下さい」となるのかもしれないが、それはリプレイしてみたいと思わせるだけの面白さが存在してこそ受け入れられる要請であって、このDLCではリプレイ自体が特に面白いとは思えないというレベルに留まっている。

 実際には一回のプレイでは物足りなさが残ったので、見落としたイベントシーンなどを確認してみようと攻略サイトを頼りに2回目は逆方向のエンディングを目指してみたのだが、初回には体験出来なかったイベントがそこそこの量(しかも面白い物も幾つか)存在しており、一回で止めてしまう人が大多数であろう点を考えると「これだけ用意しておきながら実に勿体ないな」と感じられてしまう。


 ボリュームが少ない上に用意されているコンテンツを一回のプレイでは全ては体験出来ないようにしているので、(一回でプレイを止めてしまうプレイヤーに対しては)コンテンツ不足という事態を余計に悪化させているという問題はそれだけではない。そこに実績(トロフィー)重視の弊害という面が更なる悪化に拍車を掛けている。実績(トロフィー)を重視するかどうかは各個人の好みなのでまあ置いておいて、私が嫌いなのは実績を重視する故のデザインという奴である。典型的な例として、FPS/TPSで脇道を探索するとストーリーを補完する様なデータ系のアイテムが見付かる → これはOK。次に収集系実績用の単なるアイテムが見付かるが、併せて弾薬等のゲームプレイに関わるアイテムも置いてある → これもOK。ゲームプレイには関係が無い収集系実績用のアイテムのみが置いてある → これはNG。つまり最後の例では、この脇道は実績用の収集アイテムを隠して置いておく為だけに設けられた物であり、ゲームプレイには何の関わりもない無駄な時間を費やしただけの存在である。こういった実績達成を面白くしようとする為だけで何の意味も無い物がゲームのデザインに影響を与えるというのが嫌な所。

 残念ながらこのDLCもその実績重視という面がデザインに大きな影響を与えていると考えられる。具体的には実績の(コンプリート)解除の為には相当徹底的に探し回ってアイテム回収をしたりする必要があるのだが、そこに面白さを与えようと開発側の努力がシークレット的なアイテム探しに大きく注がれているという印象。ただでさえ少ないイベント類を分岐ルートに分けているのに、更にそれをシークレット発見時に発生するイベントにも割り振っている。よって全体でも少ないイベント数が、2つの分岐ルート&シークレットに振り分けられている為に、シークレット探しをせずに単一のルートのクリアでゲームを止めてしまうプレイヤーに対しては、用意されているイベントの中の一部しか見ることが出来ないという状態になってしまっている。

 攻略ガイドを見ながらのリプレイでは、こういった記事はほとんどが実績ガイドも兼ねているのでそれに関連したシークレット系のイベントも見ることが出来たのだが、そこにはかなり力が入っているという感があって、「本来最も力を入れるのは誰もが体験するメインパートのイベントであってそこでは無いだろう」と思えてならなかった。

評  価
 定価も安いし大幅値引き時に購入したので損した感は無し。2回プレイしたが短いので時間を無駄にしたとも思わないが、結論としては特にやる必要の無いDLCという感想。ホラーと言う要素が相当希薄になっているのもあるし、本編とはかなりゲーム自体のデザインも異なっているので、本編が気に入っているという方ほど失望が大きくなる可能性が高い。

 ストーリー重視という方向にシフトしたのはともかくとして、それならばもっと長目のボリュームにしてより深く語った方が良くなったはず。短い上にルート分岐で体験出来るイベントが減少してしまい、薄味のストーリーという風に感じられてしまうのは狙いを外しておりチグハグな印象である。

 シークレット探し&実績解除を楽しむ人向けにデザインされたゲームという感が強く、個人的には嫌いなタイプの作品でもある。短時間で実績のコンプリート達成が可能で、またその達成に高度なスキルも要求されないという点からの評判は良い様だが、ゲームの内容自体の話では無いのでそこは勘違いしない様に。

 
TOP