STORY |
まずは誤解を与えかねない件として、ストア頁の説明を読むと「九龍城砦を舞台にして起きる事件」であるかの様にも受け取れるがそうではない。主人公のロクは心霊現象をテーマにした番組「霊界脱出ゲーム」のスタッフで、都市伝説をテーマにした取材を通して彼が体験する恐怖をテーマにしている。全体は幾つかのパートに分かれており、ロクとキャシーの2人を軸にして展開するのは最後まで変わらないが、九龍城砦はその中で最初のCH1を占めるのみでそれ以降は出て来ない。 東南アジアをメインとしてそれぞれの土地柄(風景)、地元の幽霊や心霊伝説等を扱ったホラーゲームは増えており人気作も多い。そこには日本や西洋系では味わえない雰囲気や文化を持っているからという理由がある。その意味ではこの作品も中国(香港)を扱っているので、その風景等の珍しさというのは大きな利点である。 という事で香港のスラム街(魔窟)として有名な九龍城砦は格好のホラーゲームの舞台であり、またグラフィックスの表現としてもその薄暗さや雑然とした汚さが高いレベルで醸し出せている。よって九龍城砦で探索をするチャプター1の雰囲気は非常に良い。だがその後は別のロケーションへと話が移ってしまう事から、香港独特のオリエンタルな雰囲気などは大きく失われてしまう。他には劇場が出て来るがやはり九龍城砦ほどの魅力は無い。だから全部ではないにしろ、もっと九龍城砦のパートが多い方が良かったのではないかという気はする。 全5チャプターだが個人的な分類としてはロケーションは4つ。現実世界だけでは無く異世界パートも含まれる。選択肢分岐などは無しでエンディングは1つだけ。回収アイテムとしてはストーリー補完用のドキュメントが存在しているが、ほとんどが本道に有ってまた親切アイコンで見逃しの恐れも少ない。登場人物(重要人物)は少ないのでこれも理解に困難は無し。ただしドキュメントを読んでいないと会話に出て来る「ゴースト」とは何の事だと解り難いかもしれない。そのゴーストとは番組にレギュラー出演している人気霊能力者の愛称である。幽霊探知器という便利なアイテムを提供してくれたりもする。 ストーリーの質は平凡。特都市伝説に絡ませたりした幾つかのエピソードから構成されているが特に怖かったり面白い物は無し。それと最後は「続く」の形で終わってしまうやり方で、エピソード形式では無いが「もし将来続編が出せればそこに続くよ」という風になっている。ラストでの展開は意味不明な点が多く、それは続編で説明しますという話なのだろうが消化不良という印象は否めない。 |
GRAPHICS & SOUND |
Unreal Engine 4 使用。グラフィックス設定のプリセット無し。個別の設定項目は3個のみと少ない。画面モードは排他的フルスクリーン,
ボーダーレスフルスクリーン, ウインドウ。4K対応。 九龍城砦を筆頭に風景などの背景グラフィックスの質は良い。対して弱点が目立つのは人物のグラフィックスやアニメーション。ただここはインディーズ会社に共通する泣き所でもある。私はそのゲームにどれだけ金が掛かっているのかを判断するのには、登場人物の顔の(肌の)質感やフェイシャルアニメーションのクオリティを見るのが良いという考えを持っているが、このゲームにおいてもそこは粗が目立つ。例えば襲われて死亡時にドアップで表示される敵の顔は、人間タイプであっても肌がプラスチックの様な質感でリアルさが足りずに怖くない。また攻撃や移動時のアニメーションパターンも少なく、更に動きに違和感も感じさせる(もっと重量があるはずなのに軽く速過ぎる動きをする)。 ボリューム調整可○, 3Dサウンド対応, ボイス有り(中国語 or 広東語)。ボイスの質に関してはあまり聞き慣れない言語なので何とも言えない。問題はボリューム調整が一つだけで全音量を共通調整という仕様。BGMが大き目の音量設定となっておりまた低音がかなり効いているケースもあって、それを考えるとややSEやボイスに比較して抑え目にしたいのだが出来ない(更に言えば全体音量を下げようにもプレイ中は設定画面に入れないので、画面切り替えでWindowsの音量ミキサーを使うとかにしないとならない)。 |
BOTTOMLINE |
[PROS] ○全般的にマイルドな恐怖表現だがゲームとしてはしっかりと作られている ○九龍城砦の雰囲気 ○アクション, ステルス, 謎解きなどバラエティに富んだゲームプレイ ○幾つか面白い(上手い)演出有り ○ゲーム内には親切設計の箇所が多い(セーブ間隔, アイテムハイライト等) [CONS] ×怖さは控え目でホラーゲームのマニア向きでは無い ×ストーリーは平凡&次回に続くという形で終わってしまう ×ステルスのシーンはそのシステム面から緊張感に欠ける ×九龍城砦以外のロケーションは普通で魅力が薄い ×車の運転シーンの操作性 ×キャラクターのアニメーションやイベントシーンの演出に粗が感じられる ×サウンドのボリューム調整が個別に行えない(BGMが大きめ) ×プレイ中に設定画面に入る事が出来ない |
ホラーゲームを良くプレイしている人、及び(ジャンプスケアにしろ雰囲気系にしろ)非常に怖いとされるタイプが好みの人には特にお勧めは出来ない作品。特別に新味も無いので、他に評価が高くてかつ「怖い」と評判の物から先にプレイした方が良いだろう。慣れている人がプレイすると怖さが足りないだけに緊張感が欠けて、そこから作業感が強くなってしまう可能性がある。九龍城砦は雰囲気として魅力的で売りとなる要素ではあるが最初のCH1だけというのが弱い。 しかし根本的にゲームとして駄目という作品では無く、しっかりと作られてはいるが怖さは控え目というデザイン。難易度の方も設定は存在せず一つだけで高くは無い(正確に言えば初回で死ぬ事は結構多くても、起きる事が解ってしまえば対処可能という程度)。各種の親切なシステムも用意されており、ホラーゲームの初心者や「ホラーゲームは好きだがあまりにも怖いのは嫌」という方向けにはお勧めし易い作品となっている。 とにかくどれだけ怖いのかがホラーゲームとしての価値の全てという訳では無く、広範囲のファンが楽しんでプレイ出来る様なバランスで高評価を受けており売れてもいる、というこのゲームの様な作品こそが優れているという見方も出来る。よって個人的には高評価は与えられないゲームだが、高評価を受けているという点に関しては納得が行く出来映えではある。 |