TACOMA




公式サイト    STEAM    GOG

 目次     HOME

更新履歴  21/09/16 レビュー掲載 (v2019-12-20)

販  売  制作・販売: Fullbright
 発 売: 2017/08
 日本代理店: 無し

 2021/09/16 現在 Steamにて定価 1,980円で販売中

概  要  アメリカ、オレゴン州のFullbrightによる作品。Gone Homeにて一躍有名になったインディーズ会社からの2作目となる。

 発売から数ヶ月後のデータとして、2013年発売の前作Gone Homeの売り上げは70万本以上なのに対し、このTacomaのセールスは1万本に到達していない状況という大差が付いている。CEOのSteve Gaynorは、「当時のGone Homeが非常に特殊な作品であったという意味であり、現在のインディーズ会社を取り巻く状況は大きく変化している(インディーズ会社が販路が拡大, GHの様なノンバイオレントな探索型ゲームが増加等)。結果としてライバルが多数となり、かつこの作品の注目度もGHに比べればずっと低い。それを考えるとこの売り上げは妥当な数値だろう」とコメントしている。現在の販売実数は不明だが(SteamSpyの推測データでは10万〜20万本)、今回は最初からコンソールを含めたマルチプラットフォームで発売されており、赤字にはなっておらず次作Open Roadsの開発もちゃんと進められているそうだ。


 タイトルにもなっている宇宙ステーションの名前の由来はワシントン州のタコマから。実は初期段階では実在の地タコマを舞台にしたストーリーになる設定だったのだが、これは前作GHと似通ったデザインとなる。そのGHはロケーションや設定は平凡だがこれまでには無かった新しい体験をもたらすゲームとして評価されたが、2作目で同様の事をしてもインパクトが薄れる。あるいは既にこういったタイプの作品は多数出ており、その意味でも場所だけ変えても新鮮さを感じさせる効果は得られないと判断し、宇宙ステーションという大きく異なる背景設定へと移行させた。


 プラットフォームはWindows, Mac, Linux, PS4, Xbox One。

 PC版はEGS Origin(EA Play収録) Itch.io など多数のストアで販売されている(Linux版が含まれる店は限定的なので注意)。


STORY  2088年の未来、舞台となるのは宇宙ステーションTacoma。ヴェンチュリス社は月にてリゾート施設を経営しており、この場所と地球との間での物資輸送の中継を担当している場所となる。半自動化されたシステムにより作業員が存在している訳では無く、管理担当者のみとなっており現在の乗組員は6名。しかしそのTacomaにてあるトラブルが発生する。

 プレイヤーは派遣された調査員アミジョティ・フェリアーとしてトラブル発生から数日後のTacomaを訪れ、既に無人のステーション内部に残されている記録データの回収作業にあたる。


パッチ&トラブル関連
 バージョン表記はメニュー画面には無し。パッチノートを参照すると現行の最新はv2019-12-20となるようだ(Steam上でのBuild IDは4511687)。

 Steam版はSteamworksとの連係(クラウドセーブ, トレーディングカード, 実績機能等)が絡んでくるので、そちらだけ更新されてバージョンが異なる可能性もある。


*セーブファイルの場所は C:\ユーザー(Users)\(ユーザー名)\AppData\LocalLow\Fullbright\Tacoma\ の中(隠しフォルダを表示する設定にしておかないと見えない)。


※ オブジェクトの消失
 一度手にした後にそれを「元に戻す」のではなく単にドロップした場合、そのオブジェクトが埋まって消えてしまうというバグは現在でも発生する模様。特に対策は無いので必要とされる物であるならば捨てないこと。

シ ス テ ム

・難易度は無し。アイテム持ち越しの二周目モード無し。開発者によるコメンタリーモードが用意されている。
・セーブはオート&ゲームを抜ける際に行われる(1箇所のみを上書き)。おそらくその時の状況がそのまま保持される。
・現在の目標の参照機能は無し
・アイコン表示や矢印による進行方向ガイド機能は無し。マップ表示機能はあるが大まかな全体図で役には立たない。
・字幕有り(日本語対応)。

*キーアサイン可○, マウス感度設定可○, マウス反転可○, 明るさ調整可○
*一人称視点固定, FOV調整可○
*スプリント×, 屈み○, ジャンプ×
*照準(カーソル)有りでオフにも出来る
*コントローラー対応○
*Steam実績対応


 日本語翻訳は徹底しておりその精度も高い。様々なアイテム類に表示されるオーバーレイのテキストもちゃんと日本語化される(テキストはオフにも出来る)。それと船体内部のデータは一部が破損しているという設定で、船体内のパネル表示やメール文の中身などが文字化けしているのだが、この辺もちゃんと日本語になった上で文字化けしている。

 ターゲット補正(Sticky)機能有り。コントローラー使用時のオプションと思われる。

BASICS
 Gone Homeと同様にジャンルとしてはウォーキングシミュレーターと呼ぶのが一番近いのであろう。主人公のエイミーには冒頭で告げられる事になるが、宇宙ステーションTacomaには既に乗組員は誰も存在していない。つまりゲームの終了までプレイヤー(主人公)は誰にも遭遇しない。また通信等により誰かとコンタクトをとってリアルタイムで会話するといったシーンも出て来ない。ただ一人だけで無人のステーション内部を探索して記録データを集める仕事を遂行するという設定である。

 GHと大きく異なるのは未来のSF設定としてAR(Augmented Reality)データの回収というシステムがメインに据えられている所。Tacomaには監視システムが装備されており、これは6人の乗員の全ての行動を3Dの動画データとして記録している。未来の話ではあるがプライバシー的にどうなのかとは思うのだが、本人が望むかどうかに関わらず24時間のありとあらゆる行動を全て記録に残すシステムの様である。


 ゲームとしてはどういう風に進行するのかと言うと、Tacomaの内部は幾つかのハブに分割されており、各ハブの入り口にある転送装置に自身の持って来たデータ転送デバイスをセットすれば作業が可能となりその内部へと入れる様になる。その中で最低限必要とされるデータの収集が終わればデータ転送デバイスを回収可能となるので、それを持って次のハブへと進むという風にしていく。進行はリニアで次に進むハブを選択したりは出来ない。

 肝心のAR記録データの方だが、これは発見しないとならないという物ではなく簡単に解るという設定。データを再生するとそこに記録されている乗組員と管理AIのODIN (Operational Data Interface Network, 逆ピラミッドに目の付いたアバター)の行動や発言が動画の様にして視られる。各キャラクターは体型, 役割アイコン, 色等で見分けられるが、現物の記録データでは無く粗い外形での描写となっている。なおストーリーに関わるような(回収必須な)ARデータは見逃しようが無い箇所に有るが、プライベートなシーンを撮影している物は探索をちゃんとやらないと見落とす恐れはあり。その他の生き物としてペットとして飼われているネコがおり、それが収録されている姿をARデータの中から全て見付け出すという実績もある(人間達からは全く離れた場所に隠れていたりするので難関)。

 ARデータは早送りや巻き戻しが出来て自由に何回でも閲覧可能。映っている全員が固まっているとは限らない為に、ターゲットとなる人物の居る場所へと移動してから繰り返し見直す必要も出て来る。追加事項でAR Desktopという物も存在しており、これは目の前の空間に開ける簡易インターフェースの様な物でメールチェックとかが行える。AR再生中にこれを開く乗組員が居るので、その際にその場に居ればその中身を見る事が出来る。これは再生バーにタイミングや乗員アイコンが表示されるので回収しようと思えば特に難しい事は無し(表示オフも可)。

 内部に残されている「回収可能なデータ」のみを収集するという設定になっており、ARデータを含めて破損しているデータは多い。船内の表示パネルやARデータの一部(or大部分)には文字化けや抜けが発生しており詳細な箇所までは理解出来ないというケースもある。AR Desktopの方も破損していて開けないメールが頻繁に出て来る。


GAMEPLAY
 クリアまでは3時間程度。ストア頁には2〜5時間の長さと記載されており幅があるが、これはどの位深く内部を調べて回るかによって変化する。物理的にはかなり短く、スピードランの様にクリアに必要な行為だけをするなら1時間も掛からないだろう。

 普通にメインのストーリーを追うだけというやり方ならば2時間。訪問しなくてもOKな部屋やエリアは多いし、ARデータを詳細に見直さないとならない訳でも、プライベートなARデータを全部再生して確認する必要も無い。開くのに鍵を探して入手, 暗証番号を発見するのが必要なケースはあるが、ほとんどがクリアには必要が無い謎解きとして設定されているので飛ばして先に進められる。

 メインのストーリーに関連性が有る物や、単に各人のプライベートな人生の情報を掘り下げるタイプの物を含めて、乗組員の人となりを知る事が出来る情報類も私室内を中心にそこそこ用意されている。この辺を探してちゃんと読んで進めるとなると3時間コースになるだろう。

 明確に何かが含まれていると解る場所(各人の仕事用デスクトップ等)以外にも個人データなどが隠されており、こういった物は開けられる引き出しを探したりとか全アイテムにインタラクトする様な作業が要求される。もしくは実績解除の為に作業をするなどになってくると4〜5時間にもなり得る。


 大半のオブジェクトは持つ事が出来て回転させて観察も可能だがほとんどの物には意味が無い。その一方で意味を持っているオブジェクトも中には有るのだが、別の物の下に在る為に指し示し難かったり(見落とし易いの意味)、中には箱の蓋を開けないと出て来ないとか、上の物を退かさないと見えない物まであって全部発見しようとなったらかなりの作業量になるはず。インベントリーは無く、アイテム類を運ぶ際には直接持ち運ぶ方式となっている。


 ゲーム的な要素は非常に少ない。何等かのアクションを成功させる必要があるシーンは無し。謎解きなども無いし、上記の様に鍵や暗証番号を探すというケースは出て来るがクリアに必須の物はほぼ無い。

 よって「Tacomaの中で何が起きて、乗組員達はどうなったのか」というストーリーがほとんどを占めている作品と言える。探索しながらそれを徐々に理解していくという形で進められるのだが、ボリュームとしては短いので序盤の進展を語るだけでも結構中身に触れてしまう事になり、ネタバレ無しにはここでは語れる事が無いという風になっている。そこで感想だけを書いておくと、ラストにはどんでん返しとまでは行かないが意外性のある結末が待っており、短いながらも面白いストーリーであると評価したい。

 ただ書き添えておくと、この作品はGHと同様にナラティブなデザインとなっており、プレイヤー側にストーリーの理解を強制しない。一般的なゲームではストーリーの解説において「プレイヤー側に絶対に知っておいてもらいたい情報」は、ムービーやイベントによって強制的にプレイヤーに知らせるという手法を採るケースが多いが、こういった「制作側が望むタイミングで解説を押し付ける」という手法を否定している。

 Tacomaではゲーム中にカットシーンは無いし、強制的に情報を連絡してくるイベントも無い。プレイヤーが探索して発見し、知った事だけが実際に知り得る事になっている。よってプレイヤーが見逃した場合、重要なストーリー理解の為の情報を得られないという可能性も持っている。何故そういうデザインなのかと言えば、一方的に決まったタイミングにて押し付けられるストーリー解説は“ゲーム的”であり、プレイヤー自身が発見したタイミングでそれを知り、見付けられなければ知り得ないというのは“実体験”である。そして自分達の作品はゲームというよりは体験だからという思想による。

 でもそれだとストーリーをちゃんと理解出来ないプレイヤーが増えてしまうという反論に対しては、第一に重要な情報ほど解り易い場所に配置する事で見逃し防止には効果があるとしており、実際にGHよりもずっと重要情報の場所は解り易くなっている。第二にもっとプレイヤーを信用するべきと述べている。例えば時間の無駄だからと情報関連をちゃんと探さずに時間を短縮してクリアするプレイヤーが居るとしても、それだとそもそもこのゲームをクリアするのに要した時間が無駄である。つまりあるゲームがストーリー主導でそれがほぼ全てであると理解しているプレイヤーは、それに興味が無いならそのゲーム自体をプレイしないだろうし、理解した上でプレイするのならば自分からストーリーを理解する為の情報を積極的に探そうとするだろう。だからプレイヤーを信用して情報をこちら側から押し付けない様にするべきだとしている。

GRAPHICS & SOUND
 Unityを使用。グラフィックス設定のプリセット4種。個別の設定項目は5個とあまり多くはない。ウインドウ表示対応。

 AR映像に関して言及しておくと、AR再生時のキャラクターのグラフィックスをよりリアルな実在の人間風にするというアイディアは存在していたそうだ。しかしそれだけの物を作り出すのは膨大なコストと時間が要求されてくる事になるので不可能。またそこそこのレベルの物を作成した場合でも、反って実在の人間の記録映像とするには違和感を感じさせる物になりかねない(不気味の谷現象)。という予算関係の事情から、曖昧な外形のみでアニメーションする形にされている。


 ボリューム調整可○, 3Dサウンド対応, ボイス有りでそのクオリティは高い。一方でサウンド関連はあまり印象に残らなかったというのが正直なところ。

BOTTOMLINE
 ストーリーを追って理解しそれを楽しむという作品であり、ゲームプレイ的な要素はほとんど含まれていない。強みとしては普通のロケーションを単に歩き回るだけではなく、SF設定で宇宙ステーションが舞台であるという新鮮さ。また記録されているARデータを再生して何が起こっていたのかを理解するというシステムとしてのユニークさも備えている。そして肝心のストーリー自体が面白い物となっており、ウォーキングシミュレーターは好きでは無いという方でも、ストーリーが面白い物を求めているのならお勧め出来る作品。

 “映画的”と言うのはゲームに対しても使われる表現だが、このゲームなども非常に映画的、と言うか映画向きという印象を受ける。ここでの“映画的”という意味は「ゴージャスな大作映画の様な」では無く、ストーリー進行をメインとして進められてプレイヤー側からは干渉の余地がほぼ無いという設定からの表現になる。実際にこれを2時間の作品として映画化しても、体感的にはほぼゲームをプレイするのと変わらない様な物が作れるのではないかという気がする。その意味ではストーリー重視の映画好きにも楽しめるはず。

 定価に対してボリュームが少ないという不満は発売時から多い様だが、既に大幅割引きセールも多いので今から購入するなら問題とはならない。


  目次          HOME