VIRGINIA


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更新履歴  20/05/14 レビュー掲載 (1.02)

販  売  制作・販売:  Variable State / 505 Games
 発 売: 2016/09
 日本代理店: 無し

 2020/05/14 現在 Steamにて定価 980円で販売中

概  要  Variable Stateは英国のインディーズ会社でこれがデビュー作となる。起業した際のメンバー二人はAlphaGoで有名となった人工知能開発会社ディープマインド(現在Google傘下)の出身。フロントマンであるJonathan Burroughsは過去にKinect Sports, The House of the Dead: Overkill等の開発に携わっている。会社は現在2作目となるLast Stopを制作中。

 海外ではPS4, Xbox Oneでも発売されている。Origin Accessにも収録されているが、海外ではBasicでも収録されているのに対して日本だとPremierのみとなっている(2020/05/14)。

 開発の始まった2014年前後は『ナラティブ』といったキーワードを中心にゲームにおける新しい手法でのストーリーの語り方を模索するのが盛んだった頃で、実験的な作品を含めていろいろな手法が生み出されていた時期となる。この作品はその中でも実験的な色合いが強く出ており、一番の特徴としてゲーム中に一切の台詞無しという仕様になっている。

 Writers' Guild Awards 2017 にて“Best Writing in a Video Game”を受賞したり、その他でも先鋭的な作品として多数の賞にノミネートされるなど知名度は非常に高い作品である。

STORY  1992年、ヴァージニア州のキングダムと言うのどかで小さな町が舞台。主人公はFBIの新人捜査官アン・ターヴァー。パートナーとなるベテランのマリア・ハルペリンと共にルーカス・フェアファックスという少年の失踪事件を調査する(トレーラーやSSに頻繁に出て来る女性はハルペリンの方で主人公ターヴァーでは無い)。がしかし、実はアンはパートナーには秘密にしている別の目的を持っていた...。


パッチ&トラブル関連
 Steamにはデモ有り。ただし発売前から存在しており、後の本編の修正分を適用してバージョンアップされているのかは不明。

 パッチは1.02が最新。発売初期は結構トラブルも有ったようだが、このパッチ後はトラブル関連の書き込みも少なくなっている。

 Macユーザーは既にこちらの件をご存じと思うが、現時点では実行ファイルは32bit版のみなので注意。

 
※FPSの設定
 デフォルトでは30fpsの設定で、変更しようとすると「30fpsでの動作を前提としているのでこれでプレイして欲しい」と警告が表示される。しかし実際には30fpsに設定すると現在のモニターのリフレッシュレートの半分に設定されるという仕様である。つまり60Hz設定のモニターであるなら表示の通りに30fps設定=60Hzの半分で30fps動作, 60fps設定=フルの60Hzで60fps動作となるが、例えば144Hzのモニターをリフレッシュレート120Hzで使用している場合ならば、30fps設定=120Hzの半分で60fps動作, 60fps設定=フルの120Hzで120fps動作, 無制限設定=144fps動作となる。


※3D酔い
 かなり酔い易いゲームとして知られるので弱い方は注意。フレームレートをこれでプレイしてほしいとする30fpsから変更可能にしたのもその対策の一つと考えられる。だが最大の要因は頭部(視点)の動きでこれは演出上オフに出来ない。大半の一人称視点のゲームでは視点の動きは完全にプレイヤー側のコントロール下にある。せいぜい走っている際に多少の揺れ移動が生じる程度で、またこれはオフに出来るケースも多い。

 ところがこのゲームでは演出上プレイヤーの視点が自動的に動かされるというシーンが結構存在している。実は人間の頭部というのは本人の意識している以上に激しく動いているものなのだが、今後の動作を脳が予見・認識している分には問題は生じない。しかしゲームにおいて自動(一方)的に頭部(視点)を動かされてしまうと、その動きを予見していない限りは脳の予測・認識との間にズレが生じてしまう為に、それが混乱から3D酔いへと繋がる事になる。


シ ス テ ム

・難易度は無し
・セーブはチェックポイントセーブ。履歴は保存されてチャプター単位でのやり直しも可能。
・現在の目標の参照機能や矢印による方向ガイド機能は無し。ミニマップを含めてのマップ表示機能なども持っていない。
・字幕機能は有り。日本語対応。クローズドキャプション機能(聴覚障害者向け)も備えている。

*キーアサイン可○, マウス感度設定可○, マウス反転可○, 明るさ調整不可×
*一人称視点固定, FOV調整不可×
*スプリント×, 屈み×, ジャンプ×
*照準(カーソル)有り
*コントローラー対応○
*Steam実績対応

GAMEPLAY
 ボリュームは2時間程度。映画的な作品として知られるが長さの方もその位。

 一番の特徴は一切の台詞が無いという点。正確には会話シーンは沢山有るのだが、その際に音声としてのボイスやセリフの字幕表示は一切無いという仕様。キャラクターの表情や体の動き等からどんな事が話されているのかを推測するしか無い。

 この様な設定にした理由の一つ目は「セリフ入りで制作する場合のリスクを恐れた」としている。声優にセリフを喋らせるとなると、まずは当然ながら声優に力量が要求されてくる。だが低予算のインディーズで高額ギャラの声優(舞台はアメリカなので実質俳優)を雇えるかとなると疑問符。また著名な俳優であっても自分達が満足出来るだけのパフォーマンスを示してくれる保証はどこにも無い。更には会話重視となるとその辺りのシステム構築も絡んでくるし制作負荷も大きいと判断。そこで設立者の一人Terry Kennyがアニメーション制作が専門だった為に、会話無しでキャラクターの体の動きとフェイシャルアニメーションだけで全てを語らせるという手法はどうだろう?と考えたそうだ。もう一つの理由は同じくセリフが無いThirty Flights of Loving (2012)からの影響。非常に短い作品であるが、これと同様に一方的に見せるだけの受動的な映画的手法では無く、リアルタイムにその世界内にプレイヤーがインタラクト出来る様になっている映画的なゲームを作ろうという意図から。作品を制作するに当たってはこのゲームからの影響が最も強く、同じくセリフ無しでもっと長編の作品をという風に考えたそうである。


 一人称視点で実際にマップ内を動き回る形式で進行するが、“ゲームプレイ”と呼べる様な要素は非常に希薄である。移動の際にどこへ向かったら良いのかに迷わされるケースはまず無いし、パズル系の考えさせられる箇所も無し。インベントリーは無く、何かをするシーンでは自動的に適切なアイテムが選択されて使用される。アクションやステルス行為の達成といったスキルを要求されるシーンも出て来ない。そして会話選択は無いし、ストーリーの分岐も無い。

 特徴となっているのがカーソルで、インタラクト出来る物に近付くと形状が変化するというのはよく有るが、このゲームでは結構離れた場所からでも「そこをインタラクト可能」という箇所にカーソルが向いていると(通常のインタラクトとは別の形状に)カーソルが変化して教えてくれる様になっている。よって立ったままでぐるりと視点を回転させるだけでその部屋の中でどこにインタラクト可能な場所が存在しているのかがいちいち近くまで移動して試さなくても判る。これは映画的な作品なので途中で詰まったりせずに誰でも同じペースでストーリーが進行していく様にする為のデザインと考えられる。


 ストーリー関連。先にストアの説明文に関して触れておきたい。ルーカスという少年の失踪事件を追う二人の捜査官といった感じのミステリードラマ風の説明が書かれているが、実際にはこの失踪事件はストーリーには大して絡んでこない。終盤に来て「そう言えばそんなテーマだったっけ」程度の扱いでしかない。その他の説明文もまるで実際の内容からすると見当外れという感じであり、これは意図的な物なのか謎である。影響を受けている『ツイン・ピークス』における「ローラ・パーマー殺害事件の真相を追ってるんじゃなかったっけ?」的な件と似ていると言えばそうなのだが...。いずれにしろ謎解きのミステリ物を期待しているなら全然違うので注意した方が良い。

 次にこれは既に有名で知られている事なのかも知れないが、ストーリーは意味不明感が強い物となっている。『ツイン・ピークス』に影響を受けたとしているしそれと関連してデヴィッド・リンチ作品を引き合いに出されたりもしているのだが、一見しても意味が解らないタイプの映画やドラマがあるがその類の難解なストーリーとなっている。最初からまるで訳が解らず理解不能というレベルでは無いが、スッキリと理解出来るという話でも無いのは確か。カットアップの様な形で突然シーンが飛ぶケースがあるし、それも同じ場所では無くて全く別のエリアでのシーンへと突然切り替わったりもあり。時系列も必ずしも線形では無い。

 初見で全て理解したという人はおそらく存在しないだろうという程度には意味不明。そしてストーリーの意味について開発側は何も答えていないし今後もそうなるのだろう。プレイヤーの間では議論や考察も行われているが、これが真相だという定説が確立されている訳でも無い。つまり「プレイしてストーリーが理解不能だったがネットで探して解説を読めば解るだろう」とはなっておらず、結局は明確な答えは得られない作品であるという事を承知しておくべきとは書いておく。もちろん個人的にこういうストーリーだったと納得するのはOKだし、開発側もそれで良いと考えているのであろう。ちなみに開発側は発売前の段階ではこの作品のストーリーが広範に理解して貰えるとは考えておらず、発売後に「数多くの批判を受けてしまうのではないかと心配だったが、想像していたよりは評価してくれる人が多かった」と明かしている。

 よって自分自身で深く考察して自分なりに納得の行く答えを出す。あるいはどういう風に考えるかという件について掲示板等にて他者と議論を行うのを楽しむタイプの作品であるとも言えよう。


 世界観に関して。映画やドラマでは訳が分からない作品ではあるものの、人気は得ているし評価も高いという作品も存在している。だがとにかく訳が解らなければ受けるし成功するといった単純な話では無く、意味が解らない上に詰まらない駄作と評価される作品も沢山有るし、この辺は抽象画とかアートの世界でも同様。ここで映画やドラマ、そしてゲームにおいて重要となるのが世界観や雰囲気であって、これがどの位印象的であるかやプレイヤーに好まれるかによって、ストーリーは理解出来ない部分が多いが世界観は良い作品として評価されたりする物も出て来る。Virginiaもその中の一つと言え、世界観や雰囲気に関してはミステリアスで味のある物となっており個人的にはその部分は楽しめた。ただし世界観を気に入るかどうかには当然個人差があり、これが受けないならストーリーも良く解らないし不満となって低評価に繋がる事になる。

GRAPHICS & SOUND
 Unityを使用。グラフィックス設定のプリセット無し。個別の設定項目は少ない。画面モードはボーダーレスフルスクリーンとウインドウで排他的フルスクリーンには対応していない。4K対応。マルチモニター非対応。それと映画的な演出の意味合いもあって標準でレターボックス表示となりこれはオフに出来ないが、21:9にすればこれは無くなる仕様。

 ローポリだが体のアニメーションや表情変化などは力を入れているだけあってさすがに細かい。また世界内の小物類などはゲーム自体には関係が無い物だが、これ等も非常に数が多くて種類も多彩でディテールに富んでいる。見た目はハイポリゴンで綺麗だがゲーム世界内は閑散としていてオブジェクト類が少なくリアリティが足りないといったゲームも多い中で、ローポリゴンだが作り込みは凝っており世界にリアリティが感じられるのは良い点。一方で問題点としては顔の造形がローポリゴン故に似通ってしまう面があり、初回プレイ時は同一人物なのか異なるのかがハッキリしないケースもあり。


 ボリューム調整可○(独立調整は不可), 3Dサウンド対応, ボイス無し。BGMは多彩でミステリー物らしい暗めの物が多いが、オーケストラを導入しており荘厳な雰囲気で良質。演奏はプラハフィルハーモニー管弦楽団でSteamにてサントラも販売されている。

BOTTOMLINE
 おそらく大半の人にはストーリーが(完全には)理解不能と考えられる為、ゲーム以外でも映画, ドラマ等にて「どういう意味なのかストーリーが理解出来ない作品」であっても、世界観や雰囲気とか何等かの別の面がよろしければ納得出来るという方向け。個人的には他者の意見等をいろいろと参照してみたところで解らない点も結構有るが、雰囲気は良いしプレイしてみて損をしたとは感じていない。ただしそれ程一般受けする様には思えないので、現在のSteamにおける賛否両論の平凡な評価は妥当か。

 当たるか外れるかが判断し辛いので勧めにくい作品ではあるが、既に90%オフの100円以下で販売されているのをあちこちのサイトにて良く見掛ける作品なので、気の向いた時に一本の映画をレンタルして観る程度の感覚でやってみるのも良いかも知れない。


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理解の為の情報等
 区切り前の記載は特別なネタバレなどは無いのでプレイ前に読んでも構わない。


 初回プレイは流す感じでOK。複数回のプレイが前提と考えておいた方が良い。理由としてゲーム内に登場する様々な象徴的なアイテム類やシーンに関して、その意味合いが後に示されたりする事があるので、初見時に「これは一体何を意味しているのだろう?」と必死に想像を巡らしても無駄に終わったりするから。2回目以降はとりあえず基本データは理解した上でのプレイとなる為に比較的解り易くはなるはず。


 各シーンは、実際(現実)に起きている事, アンの想像によるもの, アンの体験している精神世界(自発的な想像では無いもの)が入り交じっていると考えられ、それぞれがどのタイプなのかを考えるのが重要となる。


 基本的にはアンの視点で進められるが、そうではないシーンも含まれている。一人称視点なので判別は困難ではあるが、手が画面内に示される際には判別の基準には成り得る。ただし詳しくは書けないが表示されている手を判別手段には使えないシーンも出てくるのでややこしい。








 以下は主に英語だが考察などが書かれている記事。プレイ後に読んでみて自分の考えと比較してみるのも良い。

 Steam掲示板 ネタバレ考察セクション
 What’s going on at the end of Virginia_ _ Polygon
 Virginia's Mysterious Story, Symbols, and Endings Explained
 Subculture +_ 【ネタバレ】『Virginia』ストーリー解釈







 舞台となっているのはアメリカで、現地人ならすぐに解るが日本では解らない可能性がある事項というのが含まれている。それ等について解説。


※FBI
 ゲーム内の書類などに名前も出て来たりするがジョン・エドガー・フーヴァーはFBIの初代長官。組織内人員の秘密調査などを徹底して行って問題がある人間は解雇したり、数々の政治家や権力者の秘密を握ってそれをネタに脅迫まがいの要求を行ったりと強大な権力を擁していた独裁者的な人物。よってストーリーにおけるFBI内部でのスパイ的な調査も独自設定などではなく、実際に行われていた事を題材にしていると言える。



※鳥
 象徴的に登場する赤い鳥だが、これはVirginiaの州鳥であるショウジョウコウカンチョウである。なので鳥自体には「自由」や「解放」といった意味合いが有るのかも知れないが、鳥でなければならなかったのかについては疑問符も付く。単にタイトルのVirginiaを象徴する物として州鳥が選ばれた可能性もあり、ゲームのロゴ画像に羽根が使われていたり収集アイテムの一つが羽根である点などには特別な意味合いは無いのかも知れない。



※切手シートの様なカラフルな紙
 逮捕した少年から押収した物。そして一枚切り取って赤い封筒に入れて自宅へと持ち帰った物。これはブロッターと呼ばれるLSD(幻覚剤)を紙に浸した物である。切り取って舌に乗せて使用する。アメリカにおいては物凄く入手が困難とか高価といった品では無い。