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COMBAT
 戦闘面での目立った特長としては、第一に登場するゾンビの特性が挙げられる。このゲームのゾンビは実際にはウイルス感染者という設定であり、旧来のノロノロと歩きながら襲って来るようなタイプではなく、通常の人間の身体能力を残したままの存在となっている。スローなテンポで展開する「敵も遅いがこちら側も遅い」という一般的なサバイバルホラーの様なバランスのゲームでは無い。

 敵となるゾンビのスピードは非常に速く、陸上競技の短距離走者の如く両腕をブンブンと振りながら、文字通りの全力疾走でこちらに向かって突っ込んで来る。この様なスピードで10人,20人という数の敵が一斉に走って来る為に恐怖感(プレッシャー)はかなり高い。対するプレイヤー側も普通のアクションFPSの様に高速での移動&攻撃が可能となっており、瞬間的なエイムの能力が重要となる“高速vs高速”という形でのスピード感重視のアクション物となっている。

 プレイヤーの周辺エリア内に同時出現する数はCPU負荷の関係で30-40程度が上限だそうだが、キャンペーンと通してでは1000体を超える数が登場するようになっている。人間と同様の身体能力を持つので高い台や障害物をよじ登ったりも可能で、塀や金網も越えて追い駆けてくる。ドアを閉めて時間稼ぎは可能だが、通常の木製のドアならば破壊する能力をも持つ。なおゾンビではなく感染者なので頭を撃たないと死なないという制限はなく、同じくポピュラーな設定の「プレイヤー側が攻撃されるとゾンビ化する」という要素も、主人公4人は免疫の持ち主なので適用されない。またゾンビの攻撃と方法として良く見られる、体の一部を千切り取って投げてくるという様な遠隔攻撃の手段は持っていない。


 L4Dの戦闘の面白い点としては、まず敵の移動能力の高さが効果を挙げている。ゾンビのAI及びチャプターの形状は、「プレイヤーには行く事が出来る場所だが、ゾンビには到達出来ない」という安全地帯を無くす事を目標に作られている。そしてそれが実際にほぼ実現されているので、安全に逃げ込める場所が無い→恐怖感を生むという状況に繋がっている。

 次に敵のやって来る方向が予測出来ないという緊張感。数多くのゾンビが一斉に突っ込んで来る敵のラッシュでは、その出現方向が予測出来ないようになっている。前方だけではなく後方からもという単純な物ではなく、屋根の上とかの頭上から降って来るケースも有るし、チャプターの境目となっている高い壁や土手等を乗り越えて出現したりもする。今クリアして来たばかりのエリアから大量に出て来たり、小さな部屋から物凄い数が飛び出て来る事もある。またその出現場所は一方向に絞れるとは限らないので、挟み撃ちに遭うケースもある。いずれにしろ敵のラッシュとなるパートでは、皆で協力して全方位をカバーしないとならないという形でテンションの高い戦闘が実現されている。

 ただし敵はプレイヤーが同じエリアに入った瞬間に必ずこちらを検知するという風にはなっておらず、むしろ最初から配置されているゾンビは反応が鈍い者が多い。近くに寄っても反応しなかったり、撃ち合いになっているのにそのままフラフラしていたりなので、遠くから攻撃して数を減らしたり、戦わずに突破したりも可能になっている。


 武器は種類が少なく、基本的にハンドガンを除くと3つのタイプしか用意されていない。ただプレイ前にはちょっと物足りなさを感じていたのだが、実際にプレイしてみるとバランスとしては良く出来ている様に感じた。これ以上強力な武器の導入はゲームバランスを壊す恐れがあるので、武器を増やすべきかどうかは難しい所である。雰囲気的にもあまりプレイヤーに強い武器を持たせると恐怖感が薄れる危険性があるからだ。

 殴り(Melee)攻撃が重要というのもL4Dの特徴の一つ。この攻撃は結構威力を持っている上に、味方に対してFFのダメージが入らないという利点があるので、乱戦状態になっている際に特に有効となる。しかし幾らでも繰り出せるので有効的過ぎるという印象も。殴りの連続速度を遅くするか、スタミナによって乱発出来ないようにするといった制限を設けた方がより面白くなりそうである。(後にL4D2やSurvivalではスタミナの概念が導入されたが、このキャンペーンでは以前のままとなっている)。

 FFについてはExpertはもうちょっとダメージ量を抑え目に、逆にNormalではもっと高くても良いと思えるが、その他は概ねバランスが取れていると感じた。常にFFがカウントされるのではなく、特定の状況では無視されるようになっているのも上手いやり方である。FFが常にONという仕様には心配もあったのだが、その辺はちゃんと難易度によってダメージ量を変えたりしており、ストレスに感じないように調整されている。FFの回数が最後に表示されるので、無視して撃っていたプレイヤーは判るし、また自分が他人よりも多くFFしているというのが本人にも伝わるのは効果的な手法と言える。


 難易度はEasy, Normal, Advanced, Expertの4種類。Normalは比較的易しい作りとなっており、FPSに慣れたプレイヤーが集まるとフィナーレ以外は物足りなさが残るだろう。これまでのValveのゲームはコンソールへの移植版はあるものの、基本的にはPCのFPSユーザーを考えて作られて来たが、今回は広い層へのアピールによって大きな売り上げを目指しているので、カジュアル層の参加が多いという辺りを考えての難易度設定ではないかと想われる。

 FPSに慣れているゲーマーにはAdvancedが最も適した難易度で、Expertはキャンペーンをクリアするのが難しいと言えるほどに難易度が高く設定されている。Expertの難易度がこの位なのは別に良いのだが、Advancedをクリアしてしまうと次はExpertしかないので、その間に別の難易度が欲しかったと感じる。難易度設定は4つだけではなく、もっと細かく分けた方が段階的に難易度を上げてのチャレンジがモチベーションとなるので有効だと思えた。


 余談になるが、Valveは自虐的に「時々制作会社なのか、テストプレイを行う会社なのか判らなくなる」と言う位に、開発の初期段階から最後まで徹底したテストプレイによるバランス調整を行う制作態度で知られているが、このゲームも例外で無かったそうだ。ただ問題として、L4Dはこれまでのゲームと違い最大で4人までのプレイヤーがチームを組むので、HL2の時とは異なり十分な数のテスターを集めるのが難しかったと話しており(単純計算で4倍のテスターを雇わないとならない)、その辺がテストの遅れによる発売延期に影響した模様。

 全くの初対面の人間同士のテストもあれば、有名なクランのメンバー4人でどれだけ連携出来るのかのテストも実施。慣れたプレイヤーと素人の組み合わせでのゲームプレイのテスト。また皆同じ部屋でチームプレイをさせるのと、別々の部屋での4人プレイ時のチームワークの違いの検証等。シングルプレイの時よりも検査のパターンが大幅に増えているのでとにかく大変だったとコメントしている。しかしこの調整の成果はちゃんと現れていると言えるだろう。

キャンペーン
 発売時点で収録されているキャンペーンは4つ。当初は早目に発売するので、その後追加チャプターキャンペーンをリリースして行くという方針だった。しかし結果的には発売が1年以上予定より延びたのに、収録数は最初の予定通りの4つのみ。いたずらに数を増やすよりも、徹底的にテストした物に厳選した方が良いという考えだと想われる。とは言えやはり4つというのは少なく、今後短期間に追加で続々と出るなら話は別だが、ここは欠点と言わざるを得ない。むしろ徹底してテストを行うというValveの方針からすると相当時間が掛かる可能性の方が高い。(結果的に追加のキャンペーンはほとんどリリースされず、この点は大きな失望を与えた)。


 各キャンペーンは名前やポスターを含めて映画を模したデザインになっており、クリア時のエンドロールもそれに倣っている。名称は最初から順にNo Mercy, Death Toll, Dead Air, Blood Harvest。後半に行くほど長さは伸びて行く傾向にあるが、難易度は各チャプターによって異なるという感じで、後の方ほど明確に難しくなるというデザインでは無い。

 各5つのチャプターから構成されており、最後のチャプターがフィナーレという名称で特別な設定となっている。無線に応えて戦闘がスタートしてから一定時間敵の猛ラッシュに耐えながら救助の乗り物が到着するまで頑張り、そこに生存者が一人でも乗り込んで脱出すればキャンペーンがクリアとなる。通常Tankが2回登場するのと、フィナーレ開始後は死亡すると復活出来ないという条件下なので、他のチャプターに比較すると難易度は相当に高い。その分回復アイテムや投擲アイテムは多く用意されている。

 またキャンペーンの最初のチャプター以外のほとんどの物には「クレッシェンド」と呼ばれるイベントが何所かに一つ含まれており、エレベータのボタンを押したりといったトリガーで敵の猛ラッシュが始まるようになっている。先に進む為の進路を開くイベントなので、チームは先に逃げたりする事は出来ず、敵を全滅させるまで狭いエリア内で戦い続けないとならない。


 キャンペーンの中でのロケーションの流れにはあまり統一性が無く、各チャプター単位での独立性が高い。全てが明け方や夜といった暗い設定になっているが、チャプターのバリエーションは豊富に感じられ、同じ暗いという設定の中で上手く差異を生み出している。広い場所もあれば一人ずつしか通れないような狭い通路もあるし、インドアとアウトドアの切り替えも頻繁に行われる。連続してプレイしてもデザインに単調さを感じさせないという点は、相当練って作られているという印象。

 ただし進行ルートに関してはあまりバリエーションが無いという印象を受けた。必ず通る箇所が存在しており、比較的短いインターバルでそういったポイントが出現するので、その間をどう進むかという短いルート分岐しか用意されていない。枝道系はアイテムの置き場として使われる事が多く、難易度が高い場合には各種アイテムを探したりするのも重要となるが、Normal程度だと特に逐一寄らなくても問題無いというレベルなので、よりルートは直線的になる。

 これについては、当初は非常にオープンな構造のチャプターや、大きく分岐するチャプターも存在していたそうだ。しかしプレイテストの結果や、ゲームのシステムの変更等によって不具合が見られるようになったので排除されている。例としてオープンな構造のチャプターだと皆が離れて動く傾向が強くなってしまうし、分岐を設けると2チームに分かれてしまったりもする。或いはどっちに進むかで意見が割れたりも生じてテンポが悪くなる。またどちらかの方が有利という風に判断されてしまうと、常にそちらのルートが選ばれてしまうので分岐の意味が無いという事にも。そこで中央ルートを設けて一定のラインを常に通るようなチャプターのみにしたそうである。

 だがやはりチャプターの構成をバラエティに富んだ物にするとなると、もっと分岐やオープンな進行ルートは有った方が良いというのが個人的な感想。チームの分離に問題が在るのならば、ランダムにどちらかのルートは塞いでしまうといった設定でも良いと思う。(これはL4D2や1のDLCにて実現された)。

問 題 点
 続いては幾つか問題に感じた点をまとめてみる。


 ゲームにランダム性を生み出すAI Directorの操作により、確かに「同じ展開が2回と生じない」という風にはなっている。だが現状ではキャンペーン(チャプター)の数が少ないので、誰もが何時までも遊べるほどリプレイ性が高いというレベルには至っていない。仮に30-50時間程度遊べたとして、これは一般的なシングルプレイ用ゲームに比較すれば十分に長いが、対戦マルチプレイの人気作品に比べると短いと言える。ゲームバランスは良く出来ているのだが、武器と敵の種類が少な目という点もマイナスに働いている。

 更に言えば最高難易度のExpertはあまり変化が感じられないという弱点を持っている。“リプレイ性=意外性”と考えるなら、その下の難易度では敵の出現位置をいろいろと変えられるし、アイテム出現の可能性にも変化が付けられるのだが、Expertは全体を通して敵のラッシュが多く、回復系アイテムはほぼ出ないというのが決まっているので変化という面では弱くなる。

 例えば下の難易度では探索していると思わずメディキットが発見出来たり、途中の救急箱の中身が変化したりが味わえるが、Expertでは救急箱の中はピルばかりで道中にもメディキットにはまず御目に掛かれないと意外性が低い。またあまり余計な戦闘をしないように部屋探索を無視する傾向も含まれるので、その分動きがゴールに向けて直線的になりがちで単調になる。


 捕まってしまうと自分自身では倒す事が出来ないHunterとSmokerという存在は、個人行動を防ぐ意味で非常に有効であるというのは先に書いたが、逆にこの設定がマイナスに働いてしまうケースもある。動ける状態のプレイヤーが残り一人か二人になって、更に敵のラッシュが続いている様な状況では、その生き残りがHunterかSmokerに捕まってジエンドというケースが結構多くなる。(ダウンしたプレイヤーから狙える位置ならチャンスは残るが)。どうしてもラッシュの敵相手に注意が向くのと、ラッシュ時は登場音が聞こえ難くなるのでHunterかSmokerの存在に気が付き難い。結果的に人数が減ると格段に難易度が上昇してしまう様になっている。この点は何らかの救済措置の様な物が有っても良いのではないかと思えた。


 L4Dのコアとなる要素はプレイヤー4人のチームワークであり、それを推奨する様な数々のシステムも導入されている。ところがゲームのテーマの方はホラーとなっており、プレイヤーを驚かせてパニックに巻き込むというのが重要視されている。開発側も如何にしてプレイヤー側をパニックに陥れるかを重視しており、またそのプレイ中の予想外のパニックこそがゲームを面白くしている最重要要素であるのは確かだ。ところがチーム内にパニックが起きるという事はチームワークが乱れるという事でもあり、これは緊密なチームワークを要求するゲームの大前提と相反する。つまりチーム内でちゃんと協力して進めようというのを推奨している反面、実際にゲーム側が仕掛けて来るのはそのチームワークを崩してパニックを引き起こそうという行為であり、その点で自己矛盾しているのである。

 もっと具体的に言えば、チームワークは確かに重要だが、パニックによってそれが崩れるのも等しくゲームの面白さには重要となっているので、チームワークが崩れなくなると逆に面白さが失われる傾向にある。完璧なチームワークでどんな事態にも冷静に対応出来るプレイヤーが増えると、それはゲームの推奨するチームワークを実現してはいるが、破綻が無くなるのでゲームプレイとしてはスリリングではなくなってしまうのだ。冷静に見られるホラー映画ほど詰まらない物はないというのと一緒。

 リアル系特殊部隊物のCo-opの場合には、非常に冷静且つ緻密にクリアして行くのも、その作業的なストイックさが根本的な面白さなので問題は無いのだが、このゲームはあくまでも激しいアクション物なので、皆が冷静に対処出来てしまうと展開の変化に乏しくもなるし、プレイが作業的にもなってくる。なのでここは何か慣れたプレイヤーやチームをもパニックに陥れるような仕掛けが別に欲しかったと感じる。例えば敵の攻撃で一定時間麻痺等で動けなくなるとか銃が撃てなくなるといった行動制限や、同じく音が聞こえなくなって特殊感染者の出現が判らなくなる等いろいろと考えられるだろう。

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