<AI>
このゲームが大きな特徴として挙げているのが新しく作成されたAIシステムである。これはゲームの核となっている部分でもあるので、そのシステムについて順に詳しく解説していく事にしよう。
1.基本
NOLF2のAIの最も重要な概念は、事前にAIの動作がScript(設定)されていないという点である。従来の行動がスクリプトされているゲームでは、プレイヤーがある地点に達した時にそれを合図に攻撃に出て来たりとか、または単純に発見したら攻撃という行動形式になっている。或いはステルス系のゲームであれば、決められた順回路を何かアクションが起きるまでは全く同じ様に巡回しているという形に設定されているのが普通である。NOLF2では「こういったシステムではゲーム内の”世界”が生きているようにプレイヤーは感じる事が出来ない」という観点から新しいAIの行動様式を作成している。少々難解だが要約すると以下のようになる。
それぞれのAIにはSmart Objectと呼ばれるAIが実行可能な行動が存在し、反応としてStimulateという知覚能力が有り、取る事が出来る行動をGoalsetとして持っている。もう少し具体例を挙げる。
Smart Object: AIが行える行動
Stimulate: プレイヤー等からの音声及び視覚情報。また自分が記憶として所持しているゲーム世界の状況からの刺激。
Goalset: そのAIが”動作”として取れる行動の全て。攻撃する・逃げる・応援を呼ぶ・飛び降りる・回転する等。
ゲーム内のAIはそれぞれがSmart Object(SO)を幾つか持っており、これはキャラクタの種類(兵士・科学者・NPC等)によって異なるし、その場の状況によっても異なる(或いは同じ場所でも各AI個人によって設定は違う)。例えば警戒の緩い場所においては、デスクにて仕事をする、外にでて一服、食堂にてコーヒーを飲む、ベンチでうたた寝、トイレへ行く、周囲を巡回して廻る、会った仲間と会話、といった行動がSOとしてアサインされている。一方で警戒が厳しい場所等では、持ち場を離れずにその周囲を若干動き回るだけとかに設定されていたりする。
ここでのポイントはこれらの動作は事前に設定された物では無いという点で、各人は与えられたSOをランダムに選択して行う(行動の確率的な順位付けは有る場合あり)。よってプレイヤーはAIが次に何をするかを判断する事が出来ない。AIの行動を幾ら観察しても次に何をしてくるかのパターンは分からないので、従来のステルス物の様な「2人のガードが同時に眼を離すタイミングがあるので、その間に忍び込めば気が付かれない」といった攻略法が通用しないという意味でもある。(余談だが開発スタッフはインタビューにて「ゲームの攻略本が作りにくいのは難点だね。こうすれば良いという絶対的な手法が存在しないから」と話していた)。
次にStimulateだが、これは世界の記憶という点が大きな要素を占めている。各AIはそれぞれ個人的に自分の行動範囲の状況が”本来どうなっているかを記憶”している。部屋の電気が点いているのか、ドアが開いているのか閉まっているのか、引出しが開いているのかといった点を憶えている。もし記憶と異なった状況を発見した場合には警戒レベルを上げるようになっており、この程度はその種類によって異なる。単純に開けっぱなしの引出しを見付けた程度なら元に戻した後に周囲を探索して何も無ければそれまでだし、自分の眼前で電気が消されたり点けられたりを見た場合は警戒レベルは高くなる。プレイヤーからすると電気を消したりして姿を隠す事は出来るが、世界を変化させるほど敵の注意を引いてしまうという問題が出てくるという意味にもなる。もっと直接的な刺激としては音や視覚であり、これらには敏速に反応するし警戒レベルも大きく上がる。
Goalsetは実際に取る事が出来る行動であり、全AI平均で26種類アサインされているそうだ。どういった事をするのかを、それぞれの行為のプライオリティと周囲の状況に応じて判断して(ある時はランダムに)決定するというシステムであり、キャラクタ毎にそのプライオリティは異なっている。例えば「今敵らしき者を見たか?」という時に、兵士ならば早急に探索に移るが科学者ならば関わらずに見過ごすと行った事も起きる。
具体例としてはプレイヤーを発見して戦闘モードに入った時に[そのまま戦闘に入る・アラームで応援を呼ぶ・一旦逃げる]といった大局的な判断がまず下され、その後周囲の環境に応じて[そのまま攻撃・伏せて攻撃・サイドステップ・回転してDodge・物陰に隠れる・机を蹴倒して盾にする]といった具体的な行動に移る。
ここでも重要な所は、AIはその場で何をするかを判断しており、事前に何をするかを決定している訳では無いという点になる。上記戦闘の例で言えば、プレイヤーは敵がどんな動きを次にしてくるのかを予想する事が出来ない。「こいつを倒しておけばアラームを鳴らされる心配は無い」、「このパターンで倒せる」といった予測が通用しないので、その場で臨機応変に対応しないとならない。一度失敗した後に再度Loadしてやり直しても、前回の失敗が役に立つかは分からないという訳だ。
2.知覚関連
AIは戦闘中でも常に「自分の周囲の環境の計算」及び「視界からの情報判断」を行っており、そのプロセスは非常に複雑である。最初のは一種のCollision Detection(衝突判断)であり、自分の周囲の環境がどういう風になっているのかを常に計算しているという意味。つまり自分の右側には壁があるからそちらには少ししか動けないとか、左側には障害物があるので身を隠すことが出来るとか、1m前は階段であるとかの判断をしている。左右にステップを踏んだりとか、床を回転して幻惑したりといった行為でも、それが出来るスペースがある事を確認してから行っているのだ。よって他のゲームに見られるような欠点、[単純にプレイヤーの方に向かって来て障害物に引っ掛かる・壁や床を利用して見えない範囲に動くとそれだけでこちらを見失う・動いては不味い方向に動いてしまう(そっちに動いたら落ちるのに動くとか)]が解消されている。
次に視界からの判断では、敵の使っている武器の判断や、仲間が少なければまずはアラームを鳴らしに動いたりとかするし、仲間と一緒ならば攻撃的に来るといった判断を行う。また敵を探す時にある仲間が右方向へ動けば自分は左方向を探しに行くとか、戦闘中一人が左側にステップして開けば自分は右方向へ動いて狙いを付け難くさせるといった行動を取ってくる。
これらの凄い点は、第一に自分が隠れた場合にそれを検知する事が出来るばかりか、検知出来ないケースではちゃんと検知しないという点である。自分が敵の目の前で壁に隠れれば、そこに隠れたという事を認識して追って来られるが、その間に更に別の場所に隠れればこちらを”ちゃんと”見失ってしまう。その後は見付けるまでランダムに周囲を探すようになり、何故かどこに逃げても付いて来てしまうという不自然さが無い。
次にどこに隠れられるかをその都度判断しているので、どんな状況でも同じ様に行動する事が出来る点。他の多くのゲームでは物陰に隠れて攻撃して来る事は出来ても、それは「ここに隠れられる」というアサインが事前にされているのを単純に使っているだけである。仮にそのAIを別の場所まで引っ張り出した場合、同じ様に障害物として使用出来る物があっても、アサインされていない場所ではそこに隠れたりが出来ない。一方でNOLF2では障害物があればそれを利用出来るといった判断をどこでも下す事が可能である。この方式の利点は、どんな形状のマップに置いても自己判断で行動が出来る点にある。これまではマップのデザイン(形状)とそこに置かれるAIは密接な関係にあり、片方を直したらもう片方も調整しないとならないという欠点があった。通常はまずマップが出来てからそれに合わせてAIという方式である。しかし今回の新AIでは双方の独立性が高く、ゲームの製作上も制約が少ないという面を持っている。
3.STEALTH
*自分の持つ記憶と違う点には気が付いて、通常はその周囲を簡単に探索に入る
*死体にはちゃんと気が付いて警戒レベルを上げる。この場合は探索は執拗になる。
*雪の上に残した足跡にも気が付く能力を持っている
*音声情報に関しては、その方向まで関知する
*情報の伝達は実際に会った者同士でしか行われない
最後の項だが、これはプレイヤーが発見されると何故か他の場所にいた敵までが皆居場所を知ってしまうという事は無いという意味。
4.REALITY
今回のAIはより人間に近くリアリティ重視なのか?の問いに対しては”NO”という答えが返って来ている。
「我々が目指したのはプレイヤーが納得出来るレベルのAIであり、リアルかどうかに関しては特に考えていない。例えば映画の中では全てが現実同様に起きる必要は無い。視聴者が見ている間不自然さを感じなければ良いだけであり、映画の中でのリアリティーは現実とはレベルが違う。つまりゲームの中で不自然さを感じさせないレベルのリアリティーを確立できればそれでOKなだけだ。重要なのは面白さであって、その為にはある意味リアリティーは邪魔でもある。
例えばこのゲームではAIの知覚範囲は実際の人間に比べて遥かに低い。実際の世界であれば気が付くような距離で見られたり、或いは音を立ててもAIは検知しない。実は当初はもっとAIの知覚能力は高かったのだが、それだとどう隠れてもプレイヤーを見付けてしまうという問題があって現在のレベルに修正した。プレイヤーはCateとしてステルス行動を行い、それがある程度の努力によって上手く行く事がゲームを面白くするという点では最重要であり、そのレベルにまで知覚を落としている。肝心なのは”ここまではOKでこれ以上はダメ”といったAIの検知能力の線引きをプレイヤーが明確に行える事で、それさえ達成できれば現実世界同様である必要はどこにも無い」。
その外ドアの開閉音とかも通常敵には聞こえないし、効果音でも聞こえない事になっている物が多く有るようだ。ドアをそっと開けたりとかを選択出来るゲーム(RTCWの様に3通りに開けられるとか)にすれば良いが、それを取り入れるのは煩雑になる>それなら一律聞こえない事にする>ただ効果音としてプレイヤーには聞こえた方がいいから音は出す、といった判断だろう。
後はステルスを面白くする為に導入されているのがHidiingシステムだが、これもリアリティーとは掛け離れている要素と言える。詳しくはその項にて。
5.問題点
今回の新AIシステムの最大の弱点、それは多大なCPUパワーを要求する事である。「今回製作したAIは常に、自分の記憶と周囲の環境に変化は無いか、視界として捉えられる範囲に異常は無いかの判断と、自分の周囲の環境とのCollision
Detectionを行っており、更にプレイヤーを発見して行動に移った際には、与えられたGoalsetから適した物を選択して実行するという処理を行っている。これは単に何か異常を発見するまで与えられたルートを動いているだけのAIに比較すると、常にCPUの能力を使用している事になり負荷が大きい。それ故今回はAIのRespawnをシステムとして採り入れざるを得なかった」。この「AIのRespawnをシステムとして採り入れざるを得なかった」、これに関して具体的に言うと以下の様な意味になる。
まず何故Respawnが必要なのかについてだが、もし無くしてしまうとゲームの重要な要素であるステルスが成立しなくなるという問題が生じるからである。ゲーム自体が意図としてステルスが重要という面を打ち出しており、それを実現するには戦闘しても不利という認識をプレイヤーに与えないとならない。しかしこのゲームではプレイヤーはそれなりの戦闘能力も持ち合わせており、もしも「決して敵はRespawnしないし数も限られている」という認識を与えてしまった場合、ステルスなど使わずに戦ってゲームを進めてしまう方が簡単と考えるプレイヤーが増えるのは明白。そこを倒しても無駄だからステルスで行くしかないと認識させるには、[ステルスを意図したマップでは敵はRespawnする]という方式を使うしか無いという判断になる。
それなら戦うのが辛い程度の数を最初からマップ内に配置しておいて、ステルスで行くのが理想だが戦って倒すという方法にもチャレンジが出来るという方式にすれば良いのではないか? ところがAIが高度な処理を常に周囲の環境に対して行っているというシステムの処理負荷からして、一度にマップ上に配置出来るAIの数は限られてくる。その数は最低環境(P3
500MHz)でもゲームが正常に動く事を保証する以上は限界があり、戦闘で突破するには多いというほどには増やせない為に、Respawn方式にしたという事である。或いは前作ではプレイヤーには開けられない場所にAIを置いておき、警報を鳴らすとそれが出てくるといった調整方法も見られたが、今回はそれをやってしまうとやはり同時出現数が多くなってしまって処理落ちするという可能性が有るので出来ないとなっている。
これがThiefの様に根本的にステルスのゲームで、戦闘自体が選択肢に無いタイプであればRespawn無しで敵の数を調整すれば良いだけなのだが、NOLF2ではプレイヤーに戦闘能力を与えているし、またキャラクタを戦闘面で強化させる事も可能という自由度を与えているだけに適当な敵の人数という調整も難しいとなっている。よって高度なAIの導入とステルスを両立させるにはこの点はRespawnをシステムとして組み込むしかないという結論になる。
次の頁