<GAMEPLAY>
このゲームの評価には難しい面が存在する。それはこれが版権・原作物であるという点がまず一つ。原作が存在するゲームの場合、ゲームその物の純粋な評価と並んで”原作のファンから見てどうか”という評価が常に付きまとう事になる。例えば「ゲームとしては普通だが、原作ファンには面白い」とか「原作のファン以外には(意味不明等で)全く楽しめないが、ファンならば楽しく遊べる」という物も有るだろう。逆に「ゲームとしては面白いが、原作の設定無視、グラフィックスが似ていない等の理由で原作のファンはガッカリ」の物もあるし、「原作の名を借りただけの両方の意味からクソゲー」というのも存在する(これが一番多いかもしれない)。更にこのゲームに関してなのだが、構成として大きく2部に分かれており、その前半と後半では感触が大きく異なっている。特に後半パートをどう見るかというのが微妙な所なのだ。
言ってみればThe Thingをゲーム化した物としてどうなのかという視点と、純粋にアクションゲームとしてどうなのかという二つの視点があり、更にゲームが前後半で印象を変えてしまう。それ故評価には微妙な問題が存在しているという事である。
まずはゲームの前半パートに付いてだが、これには高い評価を与えたいと思う。グラフィックスも大きな役割を果たしているのだが、原作映画の雰囲気が上手く再現されている。映画を見た人には御馴染みのシーンが出て来たりして盛り上げてくれるし、マップも映画の観測基地の周辺を舞台にしており、先の見えない吹雪の野外をさ迷っている感じは原作の世界を思い起こさせる。カットシーンを含めた演出なども恐怖感を煽るような物とか優れた個所が多く、プレイ中の怖さというのも結構なレベルだ。
一方で後半部分についてはネタバレになってしまうので詳しく書けないが、普通の意味でのサバイバル・ホラーになってしまうというか、映画のファンとしては前半のテイストで話を発展させて欲しかったという不満がある。話の展開もありきたりな物で、事前にムービーを見ている人には既に察しがついているかも知れない。ただ別に後半が詰まらない訳では無いし、私自身も特にダレることなく最後まで一気に遊ばせてもらった。また概ねXboxやPS2を含めた各サイトのレビューについても、この後半部分については好意的な見解のようだ。コンソールの世界では非常にポピュラーなジャンルとして確立しているサバイバル・ホラーだが、このゲームはそのジャンルに新しい可能性を吹き込んだとか、同じスタイルばかりの中で非常に個性的、といった感じである。この後半パートで感じた私の不満は他の項でまた詳しく解説する。
プレイは10時間から12時間程度では無いかと思われる。このゲームはデフォルトではQuickSave機能を持っていないのでやり直しをどの程度やるかにもよるし、それとゲームの感染システム等を確かめる為にいろいろとロードし直して試したりして遊べばそれだけ長くもなる。ゲームはNormalでは特に難しくは無く普通の難易度。バランスは厳し目が多いサバイバル・ホラー系としては簡単な方に属するのかも。ただしちょっと変った点があって、普通のゲームではボスキャラとの戦闘があったりした区切りの後には回復薬や弾薬が補給出来るのがパターンとなっているが、このゲームではその後しばらくしないと補給ポイントが出て来ない。よってボスとの戦闘に力を使い切ってしまうとその後の展開がキツくて生き延びれないという状態になって、ボス戦前からやり直さないとならない羽目となる可能性も有る。
それとこれはコンソール系のレビューで多く挙げられていた欠点だが、このゲームはリプレイ性が非常に薄い。コンソールではゲームその物のクリア時間はそれほどでも無いが、プレイするキャラを変更可能/高難易度の隠しレベルをアンロック/新武器やアイテムがリプレイ時には登場/タイムアタックの様な別系式のミニゲームを遊べる、といった追加要素に工夫を凝らして総計プレイ時間を延ばすという物が多い。しかしこのゲームでは今挙げたような要素は存在しないし、Normalでクリア後にちょっとHardをやってはみたのだが敵の数とかも変わらないようで変化に乏しい。コンソール中心の開発であれば、グラフィックス面はともかくとしてそちらはもっと考えるべきだったのでは無いかと感じる。
このゲームの肝と言えるシステムTrust/Fearの評価に付いて。これを書かねばならないのは非常に残念なのだが、ハッキリ言ってTrust/Fearの要素は機能していない。これは残念と言うよりも「何故?」という不思議な思いの方が強い。私がかなり前から特別メジャーなゲームではないにも関わらずPreviewの頁にてこのゲームを採り上げたのは、このシステムが有ってこそであった。単なるThing自体の造形の怖さを前面に押し出したゲームであったならば、私もさして注目はしなかっただろう。この機能によって映画の恐怖感を再現すると言うのは秀逸なアイディアであり、この製作チームは映画の事が分かっていると感心していたのだが、いざ蓋を開けてみると.....。
まずTrustに関して。このシステム自体は発売前に多くの部分が明らかにされていたので、自分なりにこういう感じでゲームでは作用するのだろうと想像していたのだが、ある点が想像と違っておりそれが問題の元凶である。それは何かと言うと、Trustが失敗する事は無いという点である。どういう意味か解説すると、私が考えていたのは「味方の隊員に武器を持たせて武装させる事が出来るが、その際に感染しているのかを見極めないとならない。もしもそれが失敗すると感染者に攻撃されて殺されてしまう可能性がある。よってプレイヤーは誰が感染しているのかを疑いながらプレイする為に、恐怖を感じる事になる」というシステムであった。ところが実際のゲームでは決して彼ら(感染者)はプレイヤーを襲って来ない。正確に言うと襲う場合はThingとしての正体を現してから攻撃してくる。
映画の序盤で主人公のマクレディが全員に対して「奴等はこの中の誰かに感染している。しかしまだその数が少ない為に戦ったら不利と考えていて、今はその姿を現さないだけだ。」という言うシーンがある。つまりThingが相手を襲う場合は理想的には1対1の状況で、相手が自分を疑っていないケースとなる。実際に映画の中では人間の姿のままで感染していない人間を襲ったりしている。この事から分かるように最も効果的なのは人間の姿のまま相手を襲う事である。ところがゲーム中では、1対1で行動している場合でもプレイヤーが傷付いて今にも死にそうなケースでも、決して攻撃をして来ないのである。確かにThingに変身する事が攻撃力や防御力を増すというのは確かなのだが、ゲームではこの変身に時間が掛かるのでその間に攻撃する事が出来てしまうのだ。そしてまたこの変身型のThingはあまり強くない。その為に「武器を与えないとTrustが下がるが、与えると感染していた場合に危険」というジレンマが存在しない。プレイヤーは単に武器や弾薬を何も気にせずに与えてやって戦闘を援助してもらい、もしも変身したらその時に倒せば良いというだけ。何故これだけのアイディアを思い付きながらこんな風にしてしまったのか、本当に不思議である。多くのテスターを使ってプレイテストを相当やったとインタビューでは答えていたが、どの辺のバランスを調整していたのか?
更にこのTrustを高く保つ事自体が非常に簡単である。サバイバル・ホラー物としては異例だが武器や弾薬がかなり豊富であり、これらを与える事で常に高い値にしておく事が出来る。自分の武装を優先するか味方に分け与えるかという点に悩まされる事がほとんど無い。危険なのは戦闘中に味方を誤射してしまう事位。この場合は一気に下がるので自分を感染者とみなすという理由から攻撃される可能性は有る。頭に銃を付き付ける行為とか、武器を手放させる為にスタンガンを使うとかも一度も行う必要が無かった。
もう一つのFearについては一応機能はしているとは言えるのだが、扱いにもうちょっと工夫が欲しかった所である。1レベルでは単にその場から引き離すとかで直ってしまう。2レベルの場合は戦闘中であれば敵を倒せば収まったりもするが、敵を倒した状態でなってしまう厄介。既に相手にヘルスが十分あって、弾薬や武器も持っていたりするとあまりプレイヤーには出来る事が無い。別の強い武器を持たせてやるとかは可能だが、この状態だと割とすぐに3レベルになってしまいがちである。問題はこの3レベルで、この状態ではアドレナリン以外に手が無い上に、このアドレナリンが非常に希少である。よって気軽に使うという訳にも行かず、かといって待っていれば必ず自殺してしまう。この辺何等かの解決法を用意してやって、このレベルからでも回復させられる方法を複数用意してもらいたかった所だ。恐怖を感じているとパフォーマンスが落ちるというシステムをもっと上手く使えたのではという点からは、やはりマイナス評価とせざるを得ない。
更に付け加えると隊員の管理という面でもゲーム的な扱いとなっている。生かしておけばずっとチームとして組んでいられる訳では無く、この隊員はここまでという区切りが存在しており、そこまで生かしておいてもいなくなってしまうのだ。それもいなくなる理由の説明があれば良いのだが、それすら無くてマップが変った時点で突然消えてしまったりもする。人数制限という意味合いだと思うが、3人いたのが2人になったりとか、前の場所からロードし直した後にやり直すと付いて来る人数が変ったりとか。よって隊員が駒の様な印象が強くなってしまい、ストーリーの深みという面が薄れてしまうきらいがあるのは否めない。
ゲームの宣伝文句として「謎解きの仕方は一通りでは無いのでプレイヤーによって展開は変化する」とあるが(日本版の宣伝にも書いてある)、これは誤りである。確かにそういう場所も存在するが数えられる程度であり、大抵の謎解き(或いは障害を乗り越える方法)はリニアであって選択の余地は無い。パターン的にも凝った構成の謎解き自体の面白みを感じられる個所はほとんど無く、パズル性を特に押し出さないアクションゲームと同じレベル。基本的に解き方は1通りしか無く、それも単純に壊れた回路をエンジニアに直させるというケースが多い(よってエンジニアが死ぬとゲームオーバーになるケースがある)。後は鍵やコードをどこかで見つけてくるというパターン。そういうゲーム性であっても問題は無いと言えるが、リニアでは無いと宣伝しておいて実はそうでは無い点は悪印象だし、またThingのゲームならばもっと困難を克服するパズル性を出しても良かったのでは無いか(例えば面白い点としては監視カメラを使って局面を打開するという手法があったりする)。それとこのパズルの工夫の欠如が他のゲーム要素に悪い影響を及ぼしているという面もあるのが痛い(後述)。
ゲーム開始前に非常に興味があったのは、どういうシステムで隊員がThingに感染するのか(Assimilation:同化されるのか)という点だ。映画でもわかるようにThingが目標の生物を乗っ取ってその形態を真似るにはある程度の時間を必要とする。よって部隊として一緒に行動するゲームでどういう風にそれを織り込んでいくのかという所が注目点であった。
結論を言うとこの過程はゲーム上はプレイヤーからは予測が付かないという事になっている。要するに「誰が感染した可能性があるのかをそれまでの行動から推理する」といった要素はゲームに盛り込まれていない。このゲームのシステムで感染をゲームに取り入れるとすれば、隊員を引き連れていれば一緒にいる事から感染は無いが、その分前線にいるので戦闘で死んでしまう危険性が有り、逆にHoldにて置いて行けば死の危険性は減るがその間に襲われて感染の可能性が出来るという形が一番妥当だろう。だが残念な事にそうはなっていない。
まずスクリプトとして必ず感染している事になっているパターンが数カ所有り、これはまあ演出として特には問題無い。しかしそれ以外の個所に関しては法則が存在しない。誰が感染しているかはランダムな面も有るし、また感染者を見破れないというのも不味い点だろう。Blood Testが存在しているのに、これは単に自分に使用してその信頼度を上げるという機能の為にのみ存在しており、他の人間の感染を見抜くには実は使えないのである。例えばテストを行ってこのNPCは問題無しと判断したすぐ後にその正体を現したりするようになっている。またパズルの解決と関係するのだが、エンジニアがいないとクリア出来ない個所が多数存在しており、よって”エンジニアは感染していない”という判断がそれで出来てしまうのも大きな欠陥。
感染の仕方についてはどうも試してみた結果、あるポイントを通過する時に現在引き連れている隊員とそのマップ内(先)に存在する隊員の数や種類によって決定されているように見える。つまり「その地点まで生き残っている隊員がいればそこでThingに変身させる」、「エンジニアを連れていない状態でそこに来たら先にいるエンジニアは変身しないが、連れている場合は変身する」等々、隊員の種類と数をチェックするポイントがあって、そこで数が多い場合は変身させるというのが基本のシステムの様に見える。ただし一部例外もあって、新規に遭遇して変身してしまう人間を武器を与えたりする事で救えるケースがあったし、そのポイントにてやり直しても必ず変身してしまう隊員が突然恐怖で自殺してしまうというパターンも見られた。
つまり検査にて見破るという要素や言動にて推理するといった要素は無く、単に変身するのかどうかはゲーム任せというゲーム性である。
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