STORY |
このFWにおいて最も重視されているのはヘンリー(39)とデリラ(43)という二人の人間であるのは間違いない。無線機経由のみで会話を交わすヘンリーとデリラの会話内容や心境の変化という点がゲームの魅力となっている。とは言え最初から最後まで単に会話だけをさせていても変化が無いので、ストーリーの展開が発生してそれに応じての意見の言い合いなどをさせているという構成である。 肝心の二人が交わす会話の内容に関してはネタバレを避ける為に具体的には触れない事にするが、両者共に自身の現在の人生に対していろいろと考えている状況にあり、その辺りの告白とか悩みの相談とかも出て来る。二人共もう若くないのでその年齢に応じた問題などが多く、その意味では同年代のプレイヤーには実感として理解出来る件が有りそうな反面、まだ若いプレイヤーにとってはあまり共感を得られない物になるかもしれない。それとこの程度は書いておいても良いと思うのだが、「悩みを抱えていた2人でしたが、最終的には幸せで希望に満ちた未来を切り開く事が出来ました」といった感じのストーリーでは無い。 面白いのはお互いに人間臭いキャラクターである所で、一般的な「誰からも好意を持たれる様な魅力的で良い人」という設定では無い。別に悪い事では無いのだが、ゲームに登場する主役級のキャラクターはこの魅力的なタイプの人間としてデザインされている事が多い。対してFWではそうは設定されておらず、「とても人間として素晴らしく魅力的な2人の主役が織り成す美しい会話劇」にはなっていない。特にデリラの方は「このキャラクターを気に入るプレイヤーはむしろ少数派なのではないか」と思わせる様な人物像で、決して悪人キャラでは無いのだがいろいろとあって(私から見ても)魅力的とは言えない。ゲームでは「悪人だがキャラクターとしては魅力的に描かれている」というケースもままあるがそういう風でも無い。しかしそれだけ現実感を持った実際に居そうな人物という印象が強く出ており、皆が好意を抱くタイプでは無いにしてもストーリーを面白くするという面では効果的に働いているキャラクターであると、そこは評価出来る。 もう一人のヘンリーはデリラに比較すればプレイヤーに嫌われるケースは遥かに少ないと言えよう。デリラの方もヘンリー側の発言に応じて態度は変わったりもするが、ヘンリーはプレイヤーが操作しているので自身で発言を選択出来るシーンが多い。するとプレイヤー自身が考えている様な内容を含んでいる選択肢を選ぶ事が多くなり、それだけヘンリーの発言はプレイヤーの選択に寄った物となる。その発言が以降のヘンリーの発言や出現する選択肢にも影響してくるので、更にヘンリーにはプレイヤーの思考を反映した発言が増えて行く。つまりヘンリーの基本的な思考内容は選択肢に応じて極端に変わったりはしないがある程度の振り幅を持っており、その範囲内でプレイヤーの思考とシンクロする余地がある為に、それだけ「自分の考え方と似ている思考を持っている=魅力的」という効果を発揮し易い。もちろん(主にリプレイ時に)ある種の思考に意図的に誘導するという楽しみ方もある(デリラに対して好意的/批判的な発言に偏らせて変化を見る等)。 ただしヘンリーには選択の余地がない発言も多数有るので、それ等がプレイヤーの共感を得られなければ魅力は薄れていく事になる。後はオープニングで明らかにされるヘンリーがこの監視塔へとやって来た理由をどう考えるかが、共感出来る人物なのかの判断に影響してくる。個人的にはヘンリーの方も特に魅力的なキャラクターであるとは映らなかったというのが正直な感想。ただし「主役級2人がどちらも魅力的な人物とは感じられないのならば、その2人によるストーリーを楽しむ事も出来ないのではないか」というのは当然の疑問となるが、そうではないという所がFWがユニークで魅力的な作品と位置付けられる理由にもなっている。これはネタバレを避けている事から実際にプレイしてみて欲しいとしか言えない。 ストーリーの問題点として結構な数のプレイヤーから挙げられている件について解説しておく。ただしネタバレは避けるので持って回った言い方になるのは理解して欲しい。 ゲームの途中であるミステリアスな事件が発生し、そして後は最後までその事件の真相を追うという形で進められる。この事件に関わる謎やそのストーリー展開は大変に面白く、止め時が見付けられない小説の様な感じでラストまで一気にプレイさせられてしまった。しかし明らかにされるその真相とは、それまでの魅力的な展開に見合っているとは言えない物であった...というのが不満を生んでいる件になる。私自身の感想としても見事な真相解明とは思えない。どういう風にという理由はネタバレ無しには一切書けない。 謎解きと言えば実はこういったミステリ(推理小説)は結構有る。魅力的な謎の提示(不可能犯罪とか見立て連続殺人とか)と見事な解決があってこその傑作なのだが、その域に達している作品は残念ながらそれ程ない。謎の提示は魅力的だが真相は期待外れという物は珍しくなく、あるいはその逆に真相解明は面白いがそれまでの展開は魅力に欠けるというタイプも有る。この事に「謎の提示部分は魅力的で面白いのだから、どっちも詰まらない物に比べればずっと良い」と一定の評価を与える人も居れば、「最後の謎解きこそがメインなのだから、それがダメでは魅力的な謎を提示していても意味が無い」と価値を否定する人も居る。 個人的には明かされる真相へのガッカリ感は否定出来ないが、それまでの内容には非常に楽しませて貰ったので一定の評価はしたいと考えている。それとこのFWはこの謎解きが一番のメイン要素では無い為、そこまで大きく全体の評価には影響しないというのもある。ただし批判しておきたい点として、この事件に関連する出来事や真相へと至る推理においては、どうも論理的な整合性に粗が散見されるという感は受けた。プロットホールなどとも言われるが、明確に説明出来ない様な点が生じてしまったりもしているという意味である。 エンディングについてはややこしい面も有るので説明。基本的にはエンディングは一つだけという意見が多数派。一方で別エンドが有るので2個という意見もあり。しかしこの別エンドとは「最後に本筋とは異なる形で行動してもゲームは終了する」という事からエンディングにカウントすべきだともされているのだが、実質そうやっても何か違うイベント発生やメッセージが出る訳でもなく、意味が無いから別エンドとは言えないという風にも捉えられている。終了した人限定だが“ending”等を含めて検索すればどんな風に違うのかを撮影した動画が幾つも見付かるはずだが、これは別エンドとは言えないとして低評価の物が多い。 これはエンディングの意味をどう考えるかにもよるのだが、最後の方の選択肢によってヘンリーとデリラが今後どういう風に行動をするのかは変化するので、これをもって選択肢による複数のエンディングが存在するという風にも取れる。あるいはゲーム全体を通じての会話の選択肢によってヘンリーとデリラがお互いをどういう風に思っているかは変化するので、これを多数の別ルートへと分岐する構成だと考える事も出来たりする。 最後にストーリーとしては本筋とは完全に別件でレンジャー2人の手紙のやり取りという物が存在しており、これは保管箱などから見付けられる。シークレット的な場所にも隠されているが、全部見付けて読んでみて2人の間に何があったのかを推理してみるという楽しみが用意されている。 |
GRAPHICS & SOUND |
Unityを使用。途中でバージョンアップされているが、べースのUnityはバージョン5のままと今となっては古い為に、現行ハードウェアにおけるパフォーマンス面では不利ともなっている。よってゲーム向きではないノートPC等でのプレイでは重さが感じられるかもしれない。 グラフィックス設定のプリセット4種。個別の設定項目は6個とそれ程多くない。画面モードはウインドウとボーダーレスフルスクリーンの2種(排他的フルスクリーンは無し)。 グラフィックスというかアート全般は著名なOlly Mossが担当しており独特の味が表現されている。テーマ的にはフォトリアリスティックで美麗なグラフィックスを使用して本当に大自然の中を探索している気分を出した方が良さそうにも思えるのだが、そこをリアルでは無いローポリ気味のグラフィックスに置き換えている。ゲーム内ではキャラクターの写真も幾つか見られるが、全て写真風の写実的な表現ではなく漫画的な描写が採用されている。 ボリューム調整可○, 3Dサウンド対応, ボイス有り。それが主役だけあってヘンリーとデリラのボイスのクオリティは高い。BGMは必要な時だけ鳴らされる方式で割合的にはあまり使用されてはいない。また森の中の虫や鳥等の鳴き声や風等の自然音のエフェクトも控え目であり、かなり静かな世界という印象を受ける。これは会話がハッキリと聞こえる様にとのバランス調整なのかもしれない。 |
BOTTOMLINE |
[PROS] ○主役2人は直接は顔を合わせずに無線機での会話のみという設定が新鮮 ○ヘンリーとデリラの会話内容における深味 ○「何を話すか」だけではなく、「何を話さないか」まで選択出来る自由度の高さ ○それまでの会話内容に応じて、ちゃんとその後の発言内容も変化するという複雑なシステムを構築している ○発生する事件は非常にミステリアスであり、一気にプレイを進めてしまう様な面白さを備えている ○リアルでは無いが美しいデザインのグラフィックス ○オープニングの演出 ○日本語翻訳は質が高い [CONS] △定価の割にはボリュームとしては短め(3〜5時間) ×事件の真相はそれまで提示されていた謎の魅力に比較すると物足りない ×謎解きにおける論理の構築に粗が感じられる ×(低予算なのは理解出来るが)森の中に野生動物がほぼ居ない等のリアリティに欠ける一面 |
マップはそこそこ広いがオープンワールドのデザインでは無く、スクリプトによって展開されるストーリーを追い掛けるという構成。いろいろなコンテンツが脇道に用意されているので自由に探索して長時間楽しめるというゲームでは無い。ストーリー重視だが舞台が広大な自然保護区なので、オープンワールド風に移動距離は長い設定になっているという事である。 ヘンリーとデリラという2人の主役の人間性, 会話内容, 行動などを楽しむのがメインコンテンツだが、楽しむとは言っても明るい内容では無いし、ハッピーエンドの輝かしい解決を見られる訳でも無い。爽快感の感じられない、ある意味では重苦しい内容の話を体験する事を面白いと感じられるかどうかになる。だがゲームの評判は非常に高いし、興味を持ったのならば実際にやってみて欲しいと推薦はしておく。 途中で発生する事件とその後の展開は非常に面白い。それを楽しめるのは良い事なのだが、肝心の明かされる真相については不満足感が生じてしまっている。ここは本文でも書いたように、真相解明までは楽しめたのだからある程度は良しとするのか、真相がこれでは意味が無いと捉えるかは人による。まあこの事件が本題では無いのでプレイ前にはあまり気にしないで良いかも。ただミステリが好きで、そんなに面白い謎が提示されるのならば体験してみたいと考える方にはあまりお勧めはしないとは言っておこう。 脇道は無視して突っ走るタイプのプレイヤーだと3時間位で終わってしまう可能性も有り、それが対価格比との兼ね合いで批判も出ていた過去を持つが、現在ではセールも多いしその辺は大きな問題にはならないであろう。 |