GAMEPLAY |
全18章から構成されており、プレイ時間は12-15時間程度。ロシアのレビューでは8-10時間程度という記事が出ていたのだが、実際にはもっと長時間掛かるゲームだと感じられる。ただ断っておくと、このゲームは船内探索を味わうという要素が強いので、それに合わせて特に急がずにプレイした場合の数字であり、出来る限りスプリントして必死に先を急ぐならば8時間でもクリアは可能だとは思う。 ロケーションは巨大な砕氷船North Windの内部のみとなり、そのモデルとしては実際に動いている現物をリサーチしており、出来るだけリアルに内部を再現するという方針。サイズ的には甲板はフットボールの競技場2個分程度の広さを持っており、更に内部は9階建てビル並みの多階層で構成されている。だがプレイした感想としては閉塞感の方が強く、巨大な船内を探索しているという印象はあまり受けなかった。 一つの船の中をずっと行動するという点から、18個のマップのバラエティさについては重要となる。最初は船底の動力部分からスタートして、その後船員達の移住区から船のデッキ部分、そして上層部の上官達の居住エリアといった感じで進んで行く。この変化についてはある程度は感じられるのだが、個々のマップが大きく変化するという感じではなく、数個のマップ単位で印象が変わるという程度であり、単調とは言わないがバラエティに富んでいるとまでも言えないレベルだろう。終盤は結構印象が変わるのだが、中盤辺りまでは似たような雰囲気の設定も多く、もうちょっと変化が欲しかったと思う。 その一方で船内の雰囲気については非常に良く出来ていると感じさせられた。グラフィックスの助けも大きいのだが、本当に寒そうで凍て付いた船内を探索しているという感が良く出ている。氷の結晶が張り付いている壁面が、温度上昇と共に次第に解けて流れ出し、ツララが割れて落ちたりする様の表現は実にリアリティが高い。吹雪の表現や船外で凍り付いた各種のオブジェクトも綺麗である。グラフィックスは優れているがゲーム性には関係していないというゲームも在る中で、このCryostasisではその世界観をより効果的に表現する為にその優れたグラフィックスがちゃんと活かされている。 ゲームの進行は基本的にボタンやスイッチを入れて熱源を確保したり、同じ様にしてドアを開いたりがずっと最後まで続く。そして随所にMental Echoの力を使うシーンが挟まるという構成である。冷気により制限時間以内に目的を達成しないと死ぬシーンは考えていたほど存在せず、また特に面白いという物でもない。時々面白い演出が出て来たりもするが、やっている事に関しては終始単調であるとは言えるだろう。普通のアクションゲームではルート進行が単調でも戦闘がバラエティに富んでいれば問題は無いのだが、このゲームは戦闘面がシンプルなので余計に進行の単調さが目立ってしまっている。 進行ルートに枝道はあるが何も無い本当に単なる分岐か、少量の弾薬が置いてあるルートが用意されていたりする程度。難易度設定も無い為に、リプレイ性は低いと言わざるを得ない。 ストーリーの構成はMental Echoでの体験を含めて当時の状況が徐々に判明して来る様になっており、それと併せてゲーム内ではロシアの著名な作家マクシム・ゴーリキーの小編である「イゼルギリ婆さん」(ゴーリキー短篇集収録)の中の一編となる「ダンコの心臓」が所々に挿入されている。最初の内はこの話が何を意味するのかはプレイヤーには分からないのだが、最後にはその小説の持つ意味と、ゲームでの出来事がリンクして来るという風になっている。なお最後はマルチエンディングでは無いのだが、プレイヤーがエンディングに到達する手段は幾つか用意されているという構造である。 実際のストーリーがどんな物なのかはネタバレにもなるので詳しくは書かないが、「面白い」と言うよりは「深い」と感じさせる物で、哲学的とでも言うのか考えさせられる内容となっている。一般的なFPSゲームと比較すると異端でもあり、その独特さも評価出来る。特にM17-18といったラスト近くの展開には意外性があって驚かされる人が多いだろう。制作側がこのゲームを通して何を主張したかったのかが分かった後の、ゲームの最後のカットシーンにはちょっと感動させられてしまった。 物理エンジンは雪片の舞いや壁等の氷の溶解による流れにも適用されているらしく、特に溶解や氷結の表現などは綺麗だが、その分非常に負荷が高い物となっているのはマイナス点。しかし一般的な意味での演算の方は特に複雑ではなく、演算が適用されるオブジェクトの数が多い訳ではないし、死体のラグドール表現も普通である。むしろ死体はピクピクと細かく振動していたりと不自然な点も見て取れる。 また気になった点として死体の扱いがある。転がった死体がそのままの重量で動かない場合、プレイヤーが移動する際に支えてしまって邪魔になるので、多くのゲームでは何等かの処理を適用している。「死体はすぐ消える」、「死体には当たり判定が無くなり透過する」、「重量が軽くなってぶつかると簡単に移動するようになる」等、全て不自然ではあるが移動のストレスを考えると仕方が無い。それをこのゲームでは死体をその場所に固定し、プレイヤーが通る際には上を踏んで通るような処理が成されている(少し上に浮いて通り過ぎる)。ところが場所によっては死体が邪魔をして上手く通れなくなる状態が発生し、死体を殴っても動かせないので最悪の場合にはそこでスタックしてしまう事もあるようだ。個人的には数回通り難くなる事態に遭遇したが、しゃがんだりジャンプしたりで何とか抜ける事が出来た。 |
WEAPONS |
武器は1968年当時の物を精密にモデリングして導入しているが、戦闘がメインではないのであまりその種類は多くない。ちなみにマップ内でパーツを集めると終盤で組み立てて使えるようになるHeat Gunというスーパーウェポンが用意されていたのだが、ムービー等では見られたにもかかわらず実際の製品版には収録されていない。 ※V1.1パッチでWater Gunと呼ばれる武器が追加された。未確認だが上記のHeat Gunの意味かも知れない。ただしその発射される水のエフェクトを見るには、NvidiaのビデオカードとPhysX環境が必要である。 *Lock & Chain チェーンを巻いただけの素手。 *Valve 外したバルブを使っての攻撃。速度は遅くなるが威力は増す。 *Fire Axe 一撃の威力はトップクラスの武器で、上手く使えば堅い敵相手にも有用となる。ただし攻撃速度はスローであり、また振りかぶった際に視点が上を向いて敵から目が離れるという欠点がある。 *Flare Gun 2つの弾を込められる照明弾。熱源となるので敵の動きを規制したりが可能となり、体に撃ち込むと消えるまでダメージを与えられる。ただしどの程度の効果があるのかは詳しく検証出来なかった。弾数は極端に少なく、ゲームを通じて10数発程度しか無いと思われる。 *Mosin Nagant 1891 ボルトアクションライフル。連射速度は低いが威力はそれなりに高い。しかしこのゲームではほとんどの場合何発も当てないと倒せないバランスとなっている為に、一般的な戦争物のゲームでの一撃必殺といった強さは感じられない。むしろリロード速度が遅いのが大きな弱点となっている。特に5発のクリップを撃ち尽くしてしまうと更に時間が掛かるので、全弾を撃つ前にリロードするようにしないと困った事になる。 *Tokarev SVT-40 10発装填可能なセミオートのライフル。単発での威力はMosin Nagantよりも劣るが、リロードまでに数多く撃てるのは強み。クリップも6個まで携帯可能。連射速度は遅い方だが、それでもMosin Nagantよりは上である。よって総合的にはMosin Nagantより戦闘能力は高く、登場後は良く使う武器となるだろう。 *Mosin Nagant with Scope スコープを付けたタイプ。ところがこのスコープの倍率が相当に高く、狭い船内でのインドア戦ばかりのこのゲームでは非常に使い難い。大抵の場所ではスコープの中に敵の顔すら入り切らない位の拡大表示なってしまうので、何所を見ているのかも掴み辛くなっている。何の為に用意されているのかが良く分からない武器であり、ほとんど使う事は無いと思われる。 *PPSH-41 サブマシンガンだが、このゲーム中では最強の武器。弾当りの威力は高くないし連射時の反動も大きいが、それを補うだけの連射能力を持っている。 |
COMBAT |
主人公は初期状態では銃火器を持っておらず、序盤のマップでは素手や打撃武器での戦闘がメインとなる。その後は武器での戦闘に切り替わって行くという形。まず最初に書いておくと、このゲームでは探索と謎解きが主であって、戦闘は従の要素となっている。ゲームの長さに比較すると出現する敵の数が少なく、終盤1/3辺りになって結構数が出て来るという程度で、戦闘になるシーン自体が少ない。中には探索作業だけで全く戦闘が起きないというマップも存在している。 先に打撃戦から書くが、こちらはLMBで攻撃、RMBでブロックという方式で、攻撃時にWSADボタンとの組み合わせでフックやアッパーを繰り出せるというシステム。ブロック状態は押したままで維持出来るが、完全に敵の攻撃を防げるという風にはなっておらず、詳細は不明だがブロックしても多少のダメージが入る事はある。それと攻撃動作を行うとスタミナが減るようになっている。 問題はこの戦闘方法に意味が無いほどに近接戦闘が単純である点。適当に殴り合っていれば勝ててしまう程度の難易度であり、わざわざ攻撃の軌道を変えたりする意味が伝わってこない。敵が攻撃して来たらそれを避けて、体勢が崩れた所を攻撃。ヒットしてよろめいたら連続して攻撃を叩き込むというシンプルな作戦で十分である。敵のAIが利口ではなく、またパターン化しており動きが予測し易いのがその原因。敵の攻撃アニメーションや、当った時のリアクションなどは良く出来ているが、戦闘自体に面白味が大して無い。この点で敵の動きが複雑で読み難く、且つ打撃用武器が多数用意されているCondemnedに比べると打撃戦のクオリティは落ちると言わざるを得ない。後半の堅い敵相手にFire Axeを使う際にはテクニックが要るので面白さが出る程度である。 続いて銃撃戦の仕様は以下の通り。 *照準が存在しないので、通常の状態では敵に狙いを付け辛い *アイアンサイトを用意しており、ほぼこの視点での攻撃となる *左右へのリーン動作は無し *しゃがむと銃の正確性が上がるのかや、自身の被弾面積が減るのかは定かではない *スタミナの続く限りはスプリント動作が可能 *スタミナの回復速度は温度に関係しており、高温の熱源に近付くと早く回復する(開始当初は特に持続時間が短い設定) *リコイル動作は実際に銃が跳ね上がる形式で、敵の攻撃によって視点が動かされるケースもある *飛び降りる際のダメージは大きく、また全てかは不明だが水に落ちると即死する *床に落ちている弾薬を拾うにはしゃがむ必要がある 敵のHPに対して銃器のダメージ量は低目であり、またヘッドショットの概念は無しなので、威力が高いというイメージを持つボルトアクションのライフルでもそれなりに数を当てないと倒せないというバランス設定である。ただし連射性能が低い分、銃器の命中率はそれ程低くないという印象。当ったかどうかは銃弾による熱が赤く敵の体に表示されるので判断出来る。後は敵のリアクション。なお敵が凍っている状態である事から、出血やゴアの表現は含まれていない。 サバイバルホラーにおいて重要な弾薬の量については、当然プレイスタイルにも影響されるが、個人的には多くはないが少なくもないという印象だった。クリップが一杯なので拾えずに余る事はあまり無いが、同時に弾が切れてしまうというケースも無いという程度。このゲームでは脇道探索すれば弾が見付かるというケースが少なく、ほとんどの弾は通り道に置いてあるか敵が落とすという設定なので、探索作業を嫌がる人でも弾不足には成り難いと考えられる。よって弾薬を常に節約して敵から逃げたり打撃戦を挑んだりといった事はする必要が無く、その点ではサバイバルホラーという感は薄いゲームである。ただし特定の武器の弾が少なくなったら、他の武器に切り替えて再度補充されるまで待つ程度の切り替えは要求される。 同様に定番の暗さという要素だが、これについては多くの場所でフラッシュライトが必要という設定。Doom 3ほど極端ではないが、かなり暗い場所が多いゲームなのは確かである。だがバッテリーの概念は無く(数分で消えるがすぐに再点灯可能)、また戦闘中でも同時に使えるので大きなストレスにはなっていない。またゲームの設定として非常に暗い場所で戦うシーンはほとんど無い。これはプレイヤーがスイッチを入れてライトが点いたり熱源が発生したりして明るくなった際に、モンスターが目覚めて登場するケースが多いという理由から。 この戦闘面の評価としては、その仕様をどう捉えるかというのが大きな分かれ目となる。銃の威力は低目だし、その扱いはリアル系の色が強くて軽快には戦えないというバランスになっている(難しいというのではない)。よって一般人という設定なのに突然覚醒してしまう何処かの物理学者やエンジニアとは異なり、単なる気象学者が戦っているという雰囲気は良く出ている。逆に設定にかかわらず純粋にアクション性の高い戦闘を楽しみたいという人には向いていないゲームである。 問題点としては、まず温度の項で書いたように、敵の出現前には熱源が置かれているか熱源を新たに発生させてからになるので、逆に熱源が無い状態の際には敵は出て来ないという予測が付いてしまうのが一つ。理屈としては新たに生じた熱で敵が目を覚ますのでそれに合ってはいるのだが、緊張感を削ぐ原因ともなっている。 次に敵との遭遇前には、そこで出現する敵を倒せると考えられるだけの回復を行える熱源が置かれているので、個々の対決においては先を考えて自分の体温の減りを気にする必要が無い。どんなに低温になっても倒しさえすれば、次の敵に遭うまでにはまた回復が可能だからである。これもまた緊張感が低下してしまう点。 更に対決前の地点に回復用の熱源が存在するので、元のルートに戻れなくなる場合や、カバーが無いので戦闘中に暖まる余裕が無いケースを除いては、戦闘中に一旦引いて再度暖まっての体温回復が可能になってしまう。またそういう場所は結構多い。当然そうなると戦闘が簡単になってしまう訳で、この辺は再度戻れないようにする工夫が欲しかった。一度使ったらしばらくは再利用出来ない熱源でも良かっただろう。 ゲーム後半のバランスにも問題あり。後半になるに連れて堅い敵や複数同時出現が増えて来るのだが、そういった場合に対抗出来る武器が実質PPSH-41しかない。他の武器では連射速度が遅くて敵を早く倒し切れないので、どうしてもPPSH-41頼りになりがちである。PPSH-41が武器として突出し過ぎているとも言える。(接近して来る敵であれば、他の武器でダメージを与えておいて近くに来たら斧を使うという手はある)。その弾薬も難所以外は他の武器で対抗しておけば、十分に間に合う程度は用意されている。結果的にこのPPSH-41ばかりの戦闘となって単調に感じられてしまう事になる。スコープ付きのライフルは無用なので、他の威力が高い別の武器を一つ用意した方が良かった。 敵は15種類ほど用意されており、生前の船での役割によってタイプが異なる。例えば溶接工であれば作業用の器具を持っており、これを使って地を這う衝撃波を放って来る。最初は一般的な人間の能力が拡張されたタイプばかりだが、ゲームの後半になるに連れて人間離れした物が増えて来て、モンスターと呼ぶ方が適当になってくる。 そのAIはシンプルであり、そのままこちらに突っ込んで来るか、遠距離からの攻撃をして来るタイプならば左右に動いたりする程度。知能を使って作戦を考えるというタイプは存在せず、その思考は概ね単純である。人の心を失ってる敵という設定からは知能が低いというのも一応納得は出来るのだが、それ以上にバグや奇妙な動きをする点が問題となっている。 例えば移動中に障害物に嵌ってスタックしてしまったり、壁に向かって移動したままでループ状態に入るケースも見られる。側転して攻撃を避ける敵だと、周囲のオブジェクトを検知しないらしく回転が出来ない幅の通路で無意味にその場回転してしまう。或いはプレイヤーが2F部分に居る時に、こちらに向かって来て真下の一階部分で行き場を無くしてグルグルと回り出したりと、基本的な動きからしてなっていない。スクリプトによる登場シーンで上手く出て来られないというケースも有ったりと、かなり問題を感じさせる出来栄えに終わっている。 まとめると全体的に戦闘面には数々の問題が感じられる。AIがシンプルな上に単体で登場するケースが多いので、戦闘自体も単調な繰り返しとなる事が多い。また難易度が一つだけの上に特に難しくないので手応えも感じられない。更にこれは個人の好みによるが、武器が少なくて性能も低いので爽快感を持ったゲームでもない。終盤には複数の敵が襲って来たりと面白さは増して来るが、そこまでについては戦闘は概ね地味であると言えよう。ゲームのストーリーや設定など関係なく、とにかく戦闘の面白さを最優先に求めるという人には薦められない。 |