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AI
 AIの優秀さはCrytekが大きく前面に出している売りである。「我々のAIが最も優れているとは言わないが、周囲の状況を判断して自由に行動出来るという点ではこれまでには無かったレベルの物と思う。普通のFPSではリニアな進行に合わせてAIが上手く動くように設計されているが、Far Cryでは特にスクリプト的な操作は行っていない」。(発売前の時点でのコメント)。

 彼等は周囲の地形を自己判断して動き、このルートを通って敵に接近せよといった設定はされていない。その為に同じ場所からプレイを始めても、完全に動きが同じになるといった事は起きない。陣地を四方から攻撃出来る構造ならば、攻撃を受けた方向に応じて適切に動いて来る。これはリプレイ性の高さに重要な意味を持つと自賛している。AIはそれぞれに何種類かのタイプ分けが行われており、所持武器によって偵察担当や遠距離からの攻撃担当と分担が決まっている。基本的にはそれに従って行動するので、チームとして協同の攻撃というのも上手くこなしてくる事になる。更に或る程度以上の人数になるとリーダーを擁しており、彼がコマンドを出して各兵士を攻撃に当たらせる(左右に人員を割り振って移動させたりとか)。この時にリーダーを真っ先に倒してしまうと統率が乱れて、各人が勝手に行動する傾向が強くなるといったデザインとなっているのも面白い。
 初期状態では決まった場所を見張るか巡回しているだけだが、プレイヤーの存在に気が付くと行動に移るようになる。こういった動作は音による感知の他に無線機による通信によっても行われる様になっており、音が聞こえないように倒しても援軍が来てしまうという可能性が残っている。逆に言うと敵の陣地を偵察して無線機が有る場合は、攻撃時にそこに近付く人間(主にリーダー)を倒す事が重要となる。

 AIの行動パターンは多彩であり、こちらの動きに対してダイナミックに反応して来る。最初からスクリプトとして設定されているルートしか動けないのではなく、障害物になる物が有ったならば自動的にそれをカバーとして認識可能。戦闘状態になった際の移動距離も相当に長く、こちらが逃げてもそれを追ってどこまでもやって来るようになっている。銃撃戦ではカバーからカバーへと移動したり、走って左右に動き回ったりもするので狙い難い手強い相手となる。集団での攻撃の際にはプレイヤーを囲むようにして散開する傾向が強く、こちらも厄介な能力となっている。周囲に有る車両や据付のマシンガンをちゃんと使えるというのも優秀な点。
 認識能力もしっかりとしており、例えば集団の中の一人が警戒状態になった場合(黄色か赤)、同時に周りに居るAI全てが同じ状態になるのではなく、接触して情報を交換しない限りはその情報は伝わらない。こちらが隠れた状態から攻撃した場合にはちゃんと分からないようになっており、不自然にこちらの居場所を瞬間的に探知してしまうという事にはならない。周囲を観察したり腰を落としてゆっくりと警戒しながら歩き回ったりと自然な動きを見せてくれる。一方で通常ならば隠れられる草の中に伏せたとしても、それが敵の目の前であったならば隠れた事にはならないという判定もちゃんと出来ている。

 総合的には良く出来ており、当時のAIの中では極めて優秀な部類に属すると言って良いだろう特にアウトドアの複雑な地形をちゃんと認識して動けるという点は賞賛に値する。ただしインドアに於いてはその能力は普通のFPS的になる傾向が強いのと、ミュータント系は設定上そうではあるのだが頭はよろしくない。

 やや弱いと感じる点は、障害物の影から露出部分を最小限に抑えて(Lean等)攻撃して来るというケースはそれ程多くない。隠れる時は隠れて、攻撃する時はそこから体を出して撃って来るという風になっている。また当らないように体勢を低くするという傾向も薄く、立ったままで相対するので的が大きい。車両は扱えるのだがそのまま海に飛び込んでしまったり崖から落ちたりと、その操作面ではあまり良く出来てはいない。
 目に付く欠点としては、ロケット弾への反応が鈍く避けようとせずに当ってしまう事がよく有る。また自分が持っている場合だと、目の前の障害物を認識出来ずに当ててしまって自爆する失敗が多い。それと攻撃する場合にこちらが何であろうと戦法を変えない傾向にあり、こちらが据付のマシンガンを持ったり、車両のマシンガンを使っていても同じ様に攻めて来る。こちらが生身であれば集団で一気にやって来るのは有効でもあるのだが、マシンガンを持っている状態だと格好の餌食となってしまいがちである。


 FCにおけるAIの大きな問題点は実はその能力自体に在るのではなく、難易度による変化のさせ方が問題となっている。FPSにて難易度を変える際に最もポピュラーな手法として使われるのは、攻撃を受けた時のダメージ量の変化である。しかしこのゲームでは(Realistic以外は)ダメージ量を変化させるのではなく、敵の銃の命中精度を落とすという手法を採用している。ここまでは良いのだが、それと合わせてAIの各種能力自体を落とすという調整が成されており、難易度が下がるに連れて「前に出て積極的にこちらを探索しなくなる」、「カバーからカバーへと移動しなくなる」、「集団行動でこちらを囲むような動きをして来なくなる」、「こちらがステルス移動時の探知能力が落ちる」、「Grenadeを投げなくなる」というように、端的に言えばドンドンと馬鹿になって行く。よってプレイヤーの選択した難易度によってゲームから受ける印象は随分と変ってしまう事になる
 具体的には難易度Challenging辺りならば優れたAIという感じになるが、これがNormalとなるとトーンダウンしたようになり、あまり優れたという印象を受けないかも知れない。AIは売りの一つでもある訳だし、折角のその能力を見せないというのは宝の持ち腐れである。AIの動き自体は難易度を下げても変らないようにして、受けるダメージ量の方を下げて行くといった調整方法を採用するべきだった。

 折角の優秀なAIもその見せ方が上手く行っていない。例として同様にAIが優秀と言われているFPS、F.E.A.R., S.T.A.L.K.E.R.辺りと比較してみよう。この両者に共通しているのはMedikitを携帯可能で任意に適用可能という点である。AIが優れているのを見せるには、戦闘は長時間に及んだ方が多彩な動きを見せられて理想的である。しかしプレイヤーの耐久力を非常に高くしたりするのは好ましくない。そこで携帯式のMedikitを持たせる事により、「相当長時間粘れるが、(適用が間に合わない場合には)死の危険性も有る」という設定を作り出す。これは自分達の製作したAIの優秀さをプレゼンするという意味からは上手いやり方と言える。
 もしFCでもこのような方式を採用していれば、プレイヤー側も簡単には死ななくなるのでAIの能力を存分に味わえたであろう(Xbox版の様な休めば自動回復という方法も有る)。しかしそうはなっていない上に元々死に易いバランス調整であり、長時間に渡っての撃ち合いになるケースはあまり無い。即ちAIの能力のプレゼンの仕方としては上手くない。優れたAIの動きによりこちらが倒されても、それが過度でなければプレイヤーに感心もされるだろうしプラスにも受け取って貰える。だがFCの様にまともに戦うと頻繁に殺されて、またチェックポイント方式なのでやり直し区間が長いとなると、AIが優れていたとしてもそれはフラストレーションによってマイナス評価へと変って行く事になる。優秀なAIがイコール「プレイヤーをすぐ倒せる位に頭が良くて強い」では無い訳だ。

 ゲームの方向性もAIの設定とややミスマッチな感がある。先に挙げたF.E.A.R., S.T.A.L.K.E.R.ではプレイヤー側のステルスには限界があり、正面から敵と戦う事を余儀なくされるケースが多い。よってプレイヤーはAIの優秀さを嫌がおうにも味わう事になるが、優秀な戦闘向きAIを製作した以上はこういったデザインに持って行くのは極く自然な流れとなる。しかしFCではそのベクトルは逆方向を向いている。
 このゲームではAIが優れているのでまともに戦うのは不利となっている。よってプレイヤーは敵がこちらを発見出来ないような遠距離から攻撃してやったり、上手く誘き寄せて”ハメ”の形を作って倒したり、ステルスで戦闘その物を避けたりという行動を推奨される事になる。言ってみれば「折角作った優秀なAIが、その実力を出来るだけ発揮しないような形を作って行く事が理想」とされるゲームになっている。マイナスとまでは言わないが、ちょっと勿体無いと感じてしまう点でもある。このAIならばもっと戦闘よりのゲーム性に持って行くか、そういった方法も可能というオプション(敵を倒すと頻繁に回復アイテムを落とすとか)を設けたりした方が良くなかったかと思える。



難  易  度
 このゲームの問題点として最も多く挙げられているのが、開発したCrytekも失敗を認めているがその難易度の高さである。純粋なNormal難易度(難易度補正機能OFFの状態)での比較に於いては、その難易度はFPSゲームの中でもトップクラスと言える。これについてはバランスとして非常に難しい箇所が幾つも有るという件と、終盤のマップが異常に難しいと言う件の2つの問題が叫ばれている。

 難易度が高い理由の半分位を占めていると思われるのが任意地点でのセーブが出来ないという仕様。高い難易度だがクイック・セーブ機能で緩和しているというFPSゲームも有るが、FCではそれが無い上に基本的な難易度も高いので当然非常に難しくなる。チェックポイントの間隔もバラツキが有って、特に次まで10分以上掛かるというような箇所の繰り返しとなるのはストレスが溜まるし、実はそういう箇所に難所が固まっていたりするので始末が悪い。
 難所を必死で何とかクリアして来たのに最後の瞬間にやられてしまったりすると、今の10分15分をまた最初からやり直すのかとなるし、更にはそれが3回、5回目となれば脱力してしまう。またこのシステムは最低でもHPが半分の状態からのやり直しが可能となっているが、場所によってはすでにその時点で無理があり、もっと前の地点にまで戻ってやり直す必要性が生じるケースも出て来る。

 このクイック・セーブが出来ないという件については相当な抗議が有ったので、Crytek側でも手をこまねいていた訳ではなく、V1.2では試験的な機能としての導入も行なわれた。しかしこの1.2はすぐに回収されてしまい(原因はこの件ではなく特定のハードウェアでの障害)、修正されてリリースされた以後のパッチでは結局任意のセーブが出来るようにはなっていない。やはりエンジンの仕様上一から作り直さない限りは組み込むのは無理となって、正式なサポートは諦められたようだ。

 [参考] クイック・セーブ自体は-devmodeで起動すれば実行は可能。インストールしたフォルダ内に存在する DevMode.lua を開いてやり、その中のInput:BindCommandToKeyのセクションに以下の2行を追加すれば可能となる(F9でセーブ、F10でロード)。

Input:BindCommandToKey("#Game:Save('quicksaved_game');","f9",1);
Input:BindCommandToKey("#Game:Load('quicksaved_game');","f10",1);

 しかしV1.33にて実験してみた結果としては問題あり。まずロードするとHUDが消えてしまうという現象が頻発。またランダムに「AIがマップ上から消えてしまう」、「全てのAIがこちらに気が付いた状態でスタートしてしまう」、「AIが突っ立ったままになり撃っても反応しない」といったトラブルが発生する。よってこれを使う事はお勧め出来ない。難し過ぎるのでどうしてもというならば、F2キーによる次のチェックポイントへのジャンプや、無敵モード(god)が使えるようなチートを組み込んで使うかしか無いと思われる。


 この難易度の高さはAIの面でもマイナス方向に働いている。AIの項で書いたように、AIがその力を十分に発揮するにはChallenging以上が理想なのだが、Normalの時点ですでに相当な難易度の高さという状態では、AIは優れ物になるが難易度としてはフラストレーションが溜まるという事になってしまう。

 AI Auto Balanceも問題を悪化させた原因の一つである。この機能についてはマニュアルにも書かれておらず、正確にはどういう働きをするのかがハッキリしなかった。発売後に難易度の問題でForumに抗議の声が多くなってから、ようやくその解説と「難しいならばこれを使ってもらいたい」というアナウンスが成されている。更に不味かったのが、この機能は初期バージョンではONにしてあっても働かない・誤動作する事があるというバグを持ち(V1.1にてそれは修正された)、話題作だけに発売後すぐに飛びついた多くのプレイヤーや、評価用に先にゲームを受け取ってプレイしていたメディアのレビューに於いては、特に難易度の異常な高さを指摘される可能性が高くなっていた。またこの機能はゲームの途中でもチェックを外してしまうとOFFになってしまうので、何かの拍子に切ってしまうと働かずに難しいままでのプレイが繰り返されるようになってしまう。
 現在ではこのAABの働きにより、難しさはともかくとして繰り返してプレイしていれば何時かは先には進めるという様にはなっている。しかしそれが良いのかとなると疑問もある。個人的には自動難易度調整という機能は好きでは無いのだが、FCではその悪い面が典型的に現れているからだ。AIが露骨に馬鹿になって行くので、クリアは確かに出来るが不自然さが付き纏って離れない。繰り返すに連れて、「こちらを見付けてから撃って来るまでに時間が掛かるようになる」、「隠れずにその場で棒立ちになる」、「滅多に銃を撃って来なくなる」、「目の前で撃っているがこちらに当らなくなる」といったあからさまな調整が目に付き始める。とにかく先に行ければ何でも良いと考える人には良いのかも知れないが、チートで戦っているかのようでクリアに達成感を求めるような人だと白けてしまうのではないか。


 ゲームを難しくしている一般的な要素についても触れておこう。まずはインドア系の戦闘。こちらではステルスでの戦闘回避ルートが減り、戦わないとならないケースも多くなって通常のFPSの様な感覚に近くなる。最初の内は普通に撃ち合っても何とかなる場所が多いが、中盤辺りからは厳しい場所が増えて来るようになっている。御互いにクリアな視点からの撃ち合いになったりするので相手側からも当て易くなり、隠れてLeanで攻撃するという戦法が基本となる。しかしインドアではアウトドア程の広く多彩なルートが用意されている訳では無いので、取れる作戦のバリエーションにも限りが出て来る。よって隠れながら戦って倒そうとしても、相手にするには敵の数が多過ぎるといった箇所では非常に難易度が高くなる傾向に有る。

 ミュータントの存在も大きな問題である。特に嫌なのがTrigentsとFat Boysの2種類。Trigentsの腕による打撃攻撃は非常にダメージが高く、ArmorとHPが最高の状態でも2発も攻撃を受ければ死んでしまう。それが高速ジャンプで飛び掛って来る上に、見た目的には届いているようには見えないような間合いからの攻撃も当たってしまう。取りあえず接近される前に倒す以外ないが、それなりにタフなので複数匹で攻めて来られるとキツイ。必死で傭兵達と戦って生き延びたのに、突然現れたTrigentsのたった一発で即死してやり直しというケースも多く、そのアンバランスさにはガッカリさせられる。
 Fat Boysは頭が悪くて単に遅いロケット弾を撃って来るだけなのだが、このロケット弾はスプラッシュ・ダメージの範囲が広いので逃げるのは面倒。とにかく近付かないのが得策だが、通り道に居たりする場合はどうしようもない。そして倒そうにも非常にタフであり、仮にロケットやGrenade弾を使っても5-8発程度を当てないと倒せない。或いは逃げても遠距離からロケットは撃って来るので、先のエリアで他の敵と戦ってる最中に数百メートル先から飛んで来た物に突然当ってしまうという悲劇も起こり得る。彼等が集団で登場するマップも有って、そういう場合には狂ったように飛んで来る大量のロケット弾を相手にしないとならなくなる。特にラスト付近では数が多くなり、極めて高い難易度の原因の一つとなっている。
 もしこのゲームがアクションFPSだったならばアクセントとして面白い存在になったとは思うのだが、ステルス重視でこれだけ死に易いバランスのゲームにこの様な敵を出すのは相応しくない。正直な所居なかった方が面白くなったのではないかと感じる。

 先に慎重に索敵しておけば良いとは言え、相当マップが広いだけに思わぬ場所からの攻撃を受けるケースも出て来る(例えばまだ先に控えている別の島からとか)。特にロケットを放って来る相手は非常に厄介で、クリアしたと思ったら相当な遠距離からロケットを撃ち込まれて死亡してしまいやり直しとかも出て来る。位置が判っても遠いと倒すのも困難で、伏せて狙おうとすると次々に飛んで来るロケットの(直撃は無くても)スプラッシュ・ダメージが有るので容易には伏せての対抗が出来ない。

 Crytekとしては上の方の難易度はそういった物を好むプレイヤーもいるので特に問題は無かったが、NormalやEasyでの難易度調整が失敗したという分析。その後の新エンジンはクイック・セーブもサポートするように作られており、現在(2007/06)製作中のCrysisでは下の方の難易度を大幅に下げて誰にでもクリア可能な調整をも行なっているそうだ。確かに難易度を下げる事で手応えが無いという批判を浴びる可能性は生じるが、ゲームを作る側からするとクリア前に放り出されるのに比べたら数段マシだろう。ちなみにUbisoftにより移植されたXbox版では、主人公の能力のパワーアップや自動回復機能等によりその辺のバランスは修正されており、レビューでも難しいという声は大幅に減少している。

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