GAMEPLAY |
ゲームのボリュームはかなり短く、Steamのデータ集計機能によると平均して3.5時間程度。短い人だと2時間程度でクリア出来てしまうようだ。その後は上級マップが6個遊べるようになるのでこれで1時間程度プラス。チャレンジのクリアには相当時間が掛かると思われるが、こちらは特殊なモードでもあるのでプレイするかどうかは各人の好みにもよるだろう。 このプレイ時間の短さはポータルの数少ない弱点と言うか、プレイヤーから不満として言及されている箇所になるが、デザインとしては意図的に短くしたのではなく、テスターのフィードバックから冗長と思われる部分を削った結果としてこうなったとコメントしている。ただこのゲームはテスト・チェンバーのパートと研究所施設のパートの二部構成になっているのだが、その後に予定されていた研究所のオフィスのパートは制作時間が足りずにカットされたそうである。 ゲームのジャンル分けとしては3Dパズルゲームとでも言える物で、一人称視点でポータルを作成可能なデバイスを使い、障害物を乗り越えたり仕掛けを利用したりして、スターと地点からゴールまでを目指すゲームとなっている。タレットの様にプレイヤーを攻撃する敵に当たる物は存在しており、攻撃を受ければ死んだりもするので倒す事が必要になるケースも有るが、基本的には戦闘ゲームではない。 前半は静的なパズルとなっており、純粋にどうやったらクリアできるのかを考えさえすれば良いのだが、後半になるに連れてそこにアクション要素も加わって来る。つまりどうやってクリアするのかを考えた後に、それを実際にアクションとして成功させる事が要求されて来るの意味。代表的な物はFlingだが、その他の例としてはエネルギー球を受信機まで誘導するのに連続してポータルの位置をリアルタイムで変更して行くというアクション等が含まれている。 このアクションも要求されてくるという点はパズルとしての大きな特徴とも言え、特にパズルゲームが好きという訳ではないFPSゲーマーが多かったにもかかわらず受け入れられた大きな要因となったと感じる。ただしその反面、アクションが要求される事から万人向けとは言い難い面も持っている。上級チャレンジやユーザーマップは別として、本編をクリアするのには特別に難易度が高いアクションは要求されない。普段FPSをプレイしている人なら問題はないレベルであり、苦労するのはパズルを解く方になるだろう。 しかし純粋にパズルが好きで、普段はFPS(アクションゲーム)などやらないという人に対してはちょっと難しいかも知れない。パズルゲームとして面白いのでそういった方にも薦めたいのだが、素早いマウス操作が必要とされる箇所も含まれているので薦め難いとも言える。「ポータルファネルの移動をサポート(落下してポータルに飛び込む際に、その位置調整をある程度行ってくれる)」というアシスト機能は持ってはいるが、これだけでは十分ではない。この辺はそういった純粋にパズルとして楽しみたいという人向けに、アクションが簡単に行えるようなアシスト機能がもっと用意されていたら良かったと思われる。(スローモーションの様に時間を遅く出来るとか)。 難易度的には特別に難しくもなく、簡単でもないというバランスが保たれている。新しい要素を加えた時には難易度を軽減する為に、パネルのアイコンにヒントが有ったり、サイコロの目のタイルによりクリアの順番が判断出来たり、チェック模様のタイルでポータルを作成する場所を示したりと、ガイドを設けて急激な難易度の上昇を防いでいる。この無難な難易度がクリアまでの時間を短くしているのは確かだが、普段パズルゲームをやっている訳ではないプレイヤーが多い点を考えると、過度にストレスを与えるよりは「じっくり考えれば大部分の人には分かる」程度の難易度にしたのは正解であったと思う。段階的に難しくなっていく点を含めてこの辺の難易度調整は相当練られており、地味だが優れている点の一つと感じる。 ストーリー面では短いだけに複雑な話にはなっておらず、ネタバレ無しという条件付だとあまり書ける事が無い。特筆すべきはガイド役のGLaDOSの存在感で、これはそのボイスや台詞を含めてユーモラスでもあり良く出来ている。ゴードン・フリーマン同様に何も喋らないので存在感が希薄な主人公に対して、非常に印象的で心に残るキャラクタである。 数々のメディアから「革新的」・「オリジナル」という賞賛を受けたように、非常に独創的なアイディアのパズルゲームになっているのが一番のポイントである。以下にてポータルがその他の一般的なパズルゲームとどう違っているのかを分析してみる事にする。 第一に単純な事だがマップが完全な3D空間で構成されている点。一般的にアドベンチャーゲームやパズルを好む層はプレイヤーの平均年齢が高い為に、使用しているPCの性能が低目の傾向にあり、そういったユーザーでもプレイ可能な様にポリゴンで制作された完全な3D空間を採用するパズルゲームは稀である。よってこういった完全3D空間のパズルはそれだけでも珍しくなる。 第二に実際にプレイヤーがポータル・デバイスを持って移動する形でのパズルになっている点。その設定故にポータルを打ち出す行為が制限された場所(高さ)からしか行えないし、プレイヤーの視点も一定の高さ以上に上げられないので死角が生じるようになっている。そしてその制限がパズルを構成する上での重要な要素として機能している。例えば打ち出せる場所に制限があるので、そこからもっと高い所等の別の場所に移動したりする事を考えないとならないという点がパズルになる。また上方等の死角部分を最初からプレイヤーには見せない事で、連続したパズルを構成可能にしたり、段階的な見せ方に工夫を凝らしたりが可能になっている。 仮にパズルを構成する基本要素だけを取るなら、3D空間を飛び回るカメラの様な視点からプレイするパズルとして発想も出来ただろう。しかし自由に3D空間を飛び回れるリモコン操作のロボットの様な物がプレイヤーだったら、その空間内のどこにでもポータルを打ち出して制作出来てしまうからパズルとしては成立させ難い。つまりポータルの制作に何等かの制限を与えないとならないのだが、そこに「人間が操作している」という設定を持ち込んで、ポータルの発射位置とプレイヤーの視野に制限を加えたという点が斬新な発想となる。これは答えを知ってからだと誰でも思い付けそうにも見えるが、普通に見えて実は特異な発想であると感じる。 第三に操作する(ポータルを打ち出す)主体に人間的な動きを加えた点。従来のパズルの感覚から制作されたとしたら、プレイヤーがマップ内を移動してポータルを使いながら脱出パズルを解くという所までは一緒でも、人間の目の高さの位置に完全に固定されたカメラを動かしながら進める方式で、ポータルを打ち出す位置が一定の高さに固定された静的な純パズルの様な形式になったのではないかと想像される。 しかしこのゲームではプレイヤーがジャンプしてオブジェクトの上に乗ったり、屈んで姿勢を低くする事が可能になっている。その設定が静的な主体を操作する形式では生まれなかったようなパズルのバラエティさやその解法を生み出しており、結果的にパズル制作と解法の両方の自由度が増すという利点が加わっている。 第四にポータルを通して相手側の空間の描画を可能にした点。ポータルを通して出口の先がどうなっているのかを見る事がパズルを解いたりアクションを行うのに重要な要素として働く箇所が結構有って、これが単に「目印としてしか働かずに向こう側は見えない」という仕様だったらまた別のゲームになったと思われる。例えばポータルの先にタレットが存在する場合など、ポータルを通してこちら側に出ている探知用のレーザービームが見えないと迂闊に前を通った瞬間に撃たれたりするし、かと言ってポータルを通しては攻撃が通らないという設定だとパズル制作の幅が狭められてしまう。或いはジャンプの出口の位置合わせとしても先が見えるのは重要な要素になっている。 ポータルの向こう側を描画するのは一見すると簡単そうにも見えるのだが、製作者コメント等を見ると相当描画の方式をどうするか等の調整には苦労したようだ。一般的なパズル系の制作会社だとこういった高度なグラフィックスのテクノロジーは無理だったりするので、その意味でも差別化の大きなポイントとして機能していると言える。 第五にパズルに物理エンジンを組み合わせた点。操作する主体(プレイヤー)を含めて物理法則に従った動きをするので、ここでもパズルの制作と解法の両方にバラエティさと斬新さが生まれている。運動量を維持したFlingによる飛び出しはその典型例。 最後に解答に自由度(紛れ)が含まれている点。全てではないがそれぞれのマップは異なった解法が用意されており、最初から最後まで必ずこうしなければ解けないという風にはなっていない。その自由度の高さはリプレイ性も含めてこのゲームの魅力の一つであり、クリア後に最小ポータル数でのクリアといったバリエーションも生んでいる。しかし実際の所では、一般的にパズルという物は「唯一無二の解法しかない」という方が美しいパズルとされており、別の方法でも解けてしまうのは”傷”とされる傾向にある。(適当な例かどうかは分からないが、クロスワードパズルでヒントから異なったワードが連想されて、別の組み合わせが欄内に収まってしまう様な事態が起きてしまうのは傷とされる。或いは詰め将棋等も解法以外の詰め方が存在するのは完全作とは見なされない)。その観点からすると自由度を重視したパズルと言うのは実は異端であり、そういう非常にユニークな存在でありながらちゃんと面白さを維持しているという点が、「斬新で素晴らしい」と評価された一因となったのは間違いない。 またアドベンチャーゲーム等の謎解きにて解法に自由度を与えるとしても、それは制作側の想定した範囲内に収まるものだが、このゲームではプレイヤー側の自由な発想による特異な解法も制限されていない。開発側も「YouTube等の動画サイトで、自らが思いもよらなかった方法でマップをクリアしている動画を見ている」と語っており、非常に特殊なアクションを実現する事でマップ内部のショートカット等が可能になっている。 |
問 題 点 |
上でも書いたが、製品版の本編をクリアするのには特別なアクションは必要が無いのだが、上級モードやチャレンジで金メダルクラスを目指すとなると難易度の高いアクションも要求されてくる。だがそのレベルになって来ると、解法は正しいのだが自分のアクションが下手なのでクリアが出来ないだけなのか、それとも考えた解法自体が間違いなのかが判断し難くなるという問題が出て来る。またアクションが下手な人だとそれだけ「このマップ内でどういう事が出来るのか」という発想範囲が狭くなるので、解法の想像をするにも不利となる。 同様に難易度の高い物だと特殊な行為(テクニック)が要求される事も有って、これは「プレイヤー側に可能な行為は全て明確に示しておかないとならない」という点において、パズルとしてはやや問題かも知れない。例えば実はギリギリのタイミングでジャンプして渡れる箇所が存在する場合に、何度か試してダメそうだと判断したら、そのプレイヤーにとってその選択肢は「制作側が意図した行為ではない」として思考の中から無くなる事になる。勢いを付けての箱投げなども同類。絶対にそのテクニックが使えないと出来ないとは限らないが、プレイヤーのアクションの能力によって達成難易度が大きく変化するのは確か。何が行為として可能なのかが明確には示せないという点は、自由度の高い解法の代償として問題点と感じられる。 |
GRAPHICS |
グラフィックス面では特に言及する事も無いし、またその点を売りにしたゲームでも無い。テクノロジーとしてはポータルを通して向こう側を正確にレンダリング可能というのが最大の特徴。設定を上げるとライティングによる反射表現等が綺麗になるが、描画負荷としては普通のFPSに比べれば大した事がないゲームである。 |
SOUND |
サウンドではGLaDOSのボイスが印象的である。人間の女性の声でも無く、完全な機械音声でも無いというその独特なトーンは、相当な調整を加えた上で完成された物であり、無生物であるGLaDOSに人格を感じさせるまでに良く出来ている。元々はオーディションで適任な人間の女性声優を探してその声の使用を考えていたが、台詞を検討する際に候補をテキスト→スピーチ変換のソフトに掛けて聞いている内に、こういった無骨で人口的なトーンの方が合っているのではないかと思い出し、結果的には声優にコンピューター風の声等の様々なトーンで喋らせた素材を加工するという方式で作られている。 その他ではタレットのボイスも良く出来ている。それ以外の効果音系は特に凝ってはいない。 BGMは限定された箇所で短時間しか流れないが、ラストのStill Aliveを含めて良い物が含まれている。 字幕はSteamを日本語モードで起動すれば日本語表示が可能。 |