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OPEN WORLD
 アクションゲームにおける”自由度”という要素にはいろいろな意味合いが含まれている。「アクションで行くかステルスで行くかというキャラクタのタイプの自由度」、「どうやって突破するのかという方法(作戦)の自由度」、「先に進めるのに通るルートの自由度」といった物がポピュラーである。しかしSTALKERが追い求めたのはこういった自由度ではなく、「その世界の中で自由に振舞って構わない」というスタイルの自由度になる。要は別に急いでストーリーを進めようとしなくても構わないというスタンスを持ったゲームになる。このタイプの有名なゲームとしてはRPGだがThe Elder Scrollsシリーズ(Morrowind, Oblivion)が挙げられるだろう。この様なスタイルを目指すというアクションゲームは稀なので、やはりこの点は注目度が高かった。以下はこのタイプの自由度に絞って書いて行く。

 ゲーム進行の自由度に関しては開発途中で変更が加えられている。当初のデザインではストーリー性は薄く、一つの大きな仮想世界を作り出してプレイヤーが思うように中を行動出来るという一種のワールド・シミュレーションの様な形態のゲームを目指していた。しかしテストプレイの結果、あまりにも高い自由度を持たせてしまうと、ストーリー進行を追いたいと考えるプレイヤーから「漠然とし過ぎていてゲームに集中出来ない」という不満が出て来た為に方向を修正。もっとプレイヤーを誘導するような具体的なストーリーを設定してやるという方針に変更されている。
 具体的にはプレイヤーを動かして行く”イベント”や”クエスト”が設定されており、或る程度は進行にガイドラインを設定するというのが基本方針。製作側の誘導によるミッションが全体の60%を占めており、その他はNPCから依頼されたりランダムに発生するタイプの達成は自由というミッションとなる。つまり自由行動と設定済のストーリーをミックスさせたスタイルに変更されたという事になっている。

 では実際のゲームではどうなっていたのかと言うと、考えていたよりも遥かに直線的にストーリーを追えるような構成になっている。ストーリー進行に関連したメインのクエストは常に明確に表示されるようになっており、そのクエスト自体にアクセスする為には途中でZone内を探し回る必要が有るというデザインにはなっていない。或る物を解決すればすぐに次のストーリー用のクエストが出現するので、それを追って動いて行けば余計な寄り道をせずに最後まで行ってしまう。プレイヤーを迷わせないという意図は理解出来るが、ここまであからさまにしてくるとは思っていなかった。このやり方だと単にそれを追って進めて行くプレイヤーには自発的にZone内を探索するという間が設けられないので、一般的な最後までストーリー進行が続いて行くタイプのゲームと大して変わりなくなってしまう。何故ここまで極端な方針転換を行なったのかには疑問が残り、自由度という要素を狭めていると言わざるを得ない。

 よってゲーム全体のプレイ時間は直線的に進めば15時間程度でも可能となっており、40時間は掛かるとされていた話とは大きく変っている。ただ実際には強力なArtifactや多数の武器を探したりする人も多いだろうから25-30時間程度は遊べると思う。もっと徹底してマップ内をくまなく回るならば延々とプレイする事も勿論可能である。


 以下はRPG要素と自由度という観点からこのゲームを分析してみたい。まずこのゲームにおけるRPGという要素については誤解も多いようなのでその点から確認。製作側がRPG要素を含んでいるとよく話しているのが原因とも言えるのだが、実際には自由にクエストをもらえる・会話要素・購買・食事が必要、といった点がそれに当り、プレイヤーが操作するキャラクター自体を成長させるという概念は含まれていない。Strength, Intelligenceといった基礎能力値や各種スキルの様なパラメータは存在しないし、経験値が貰える訳でもない。戦闘に関しては単に良い武器と防具で戦闘能力を上げられるだけという通常のFPSと変りは無いゲーム性になっている。

 RPGゲームでは自由度を上げたいと考える際に、プレイヤーの進行を制限する関門を随所に設置するという方式が使える。例えば先に進む為には或るエリアを通過しないとならないのだが、そこを通るには敵の強さからしてレベル20程度が必要といった調整を行なっておく。よってプレイヤー(パーティー)はレベルを上げる為にクエストを受けて経験値を稼がないとならないが、その為に行なうクエストの選択は自由というデザインにする。そうなるとプレイヤーは好みでどんなクエストを選んでも良い訳だから、それは自由度が高いというゲーム性になる。
 一方でSTALKERでは操作するキャラクタの能力値の成長要素が含まれていない。更にとんでもなく威力の高い武器や、能力値を大きく引き上げるパワーアップアイテムも存在しないし、BulletTimeの様な特殊能力すら無い。これは製作側がリアリティにこだわっているからで、三人称視点への切り替えを認めなかったのも同じ理由。キャラクタ自身の能力が上がってしまうのはリアリティが無いので容認出来ないという立場であり、生き延びるのに必要なのは操作するプレイヤー自身のシューティング能力と、戦いを通して戦法を学んだりする「現実的な経験」のみというデザイン。言い替えると「成長するのは操作しているプレイヤー自身のみ」にしたかったという考えによる。

 この事はつまり最初から最後までそれ程大きくキャラクタの強さが変化しない事を意味し、そうなると難易度的にこのエリアには入れないというバリアを設定する事は困難になる。何故ならRPGの様にキャラクタのレベルによる絶対的な能力不足という枷が存在しないので、難易度の上げ幅は限定されてしまうからだ。寄り道して探索していない分武器や防具は劣っているから関門での難易度は通常のプレイヤーよりも上がったとしても、それは操作するプレイヤー自身の技量で補える範囲に収まる程度になる。別の方法としてアイテムを見付けないとならないとか、大金を貯めないとならないといった枷を設定する事は可能だが、このゲームにはその様な要素も含まれていない(Radiation等の障壁以外)。
 よって自由に振舞って構わないと言われても、そうやってゲームの世界中を旅し続けても目に見える形での見返りが少ない。純粋に他を回ってプレイする事自体が面白いだけであり、利益という観点からはあまり意味が無い行為になってしまう。結果として寄り道してクエストをほとんどこなさないでも、ストーリーに重要なミッションだけを追って進めてしまう事が難易度的には可能になってしまう。そしてそうやってプレイして出て来る感想は、「進行がリニアな一本道で、クリアまでの時間も短い」という不満になる。これは批判を浴びる事が多かったDeus Ex: Invisible Warにも共通する欠点と言えよう。今回のプレイにより実感した事は、自由に振舞える世界とはRPGの様なキャラクタの成長要素が含まれた物でこそ活きる要素であり、キャラクタが成長しないゲームとは相性が悪いという点になる。

 逆説的な言い回しになるが、上記の様なRPGではプレイヤーが好きにクエストを選択してレベル上げを行なえるという”自由”を、通過出来ないような関門を設ける事により”強制”する事が出来る。つまりプレイヤーは非常に高い自由度を与えられるが、もう一段階上の階層から見るとそれは強制である。つまり自由に振舞う事を強制されているという状態になる。「好みでどんなクエストを受けてもらっても結構。ただしクエストをやらないで先に進みたいという希望は適えられません」という形になっている訳だ。
 しかしSTALKERではキャラクタが成長しないので寄り道する事が必須にはならず、つまり”何もしない自由”という更に一段階上の自由をも与えている。これは或る意味ではより高度な自由とも取れるが、実際問題としてはSTALKERでは「用意したサブのクエストをプレイしてもらえない」というマイナス面の方が大きくなっており良い方向には向いていない。


 ただしこの「自由に行動可能な開かれた世界なのにキャラクタが成長しない」という点に関しては、利点として働く要素も有るので全面的にRPGスタイルのキャラクタが成長するという方式が上という訳ではない。両者はお互いに利点・欠点を持っている。ではSTALKERの採った方式の利点、逆に上記の様な自由度の高いRPGの欠点となるのは何か?

 第一に難易度の違いによる障壁が低いので、行動エリア(ここでの意味は戦闘可能なエリア)の自由度については有利になる。上記の様なRPG方式では、エリアによってそこの敵の強さに応じた妥当なキャラクタのレベルを想定しているので、その想定レベルに達するまでは中で戦う事が極めて困難である。よって実力的にアクセス可能な範囲のエリア内でレベルを上げるのに何をするかという自由度は高くなるが、アクセス可能なエリアの広がり方はリニアになりがちである。キャラクタのレベルが上がる毎にアクセス可能なエリアがアンロックされて行くという形になる。自動難易度調整というシステムを上手く導入すればアクセス可能なエリアは広がるが、こうしてキャラクタが序盤から何処へでも行ける様にしてしまうと、今度はストーリーを解説する為の定期的に起す重要なイベントの配置が出来なくなるという大きな弊害が生じるので問題あり。
 一方でSTALKERではエリア内でのNPCの強さにそれ程大きな違いは無い。キャラクタの能力の上下幅が相当限定されている為に、それに対する敵個人の能力値の幅も狭いというデザインだからである。勿論多人数の集団に立ち向かうのは困難だが、工夫して戦って行く事でその辺は補える範囲。よってそこそこの装備を備えた程度の段階からゲームの持つエリアの大半へとアクセスが可能になるという自由度を持っている。この相当広範囲のエリアに自由にアクセス可能という点は、高い自由度を感じさせてプラスになっている点と言える。

 次に難易度のバランス調整がやり易いというメリットが有る。STALKERの基本コンセプトはサバイバルであり、過酷な環境のZoneの中を戦い抜いて生き延びなければならない。その感覚を生み出すには戦闘のバランスはシビアにするのが理想なのだが、その通りに戦闘における難易度バランスは絶妙とも言えるレベルで構成されている。この始めから終わりまで終始緊張感を感じられる厳しい戦闘が連続するという点は、ゲームを非常に面白い物にしている大きな要因となっている
 この様なバランスを実現出来たのは、キャラクタの強さがあまり変化しないという点が関連している。キャラクタの強さの変化が武器・防具程度で、その武器にも一気に大量の敵を薙ぎ倒せるようなSuper Weaponが含まれている訳でもない。よって強さが変化しないから、それに対する敵の数や配置のバランスも調整がし易いとなる。逆に上記の様なRPGの場合だとキャラクタの成長度合いを自由にしているので、エリアに想定されたレベルを上回る状態で入って来られるとバランスが崩れてしまう。典型的な例としては盛り上げるはずのボス戦が、キャラクタが強くなり過ぎていて呆気なく終了してしまうという事態が起きたりする。これはサブのクエストに面白い物が多いほど、プレイヤーは多数の物をクリアするようになってレベルが上がり過ぎてしまうという厄介な問題であり、その辺のコントロールをどの様にするのかが難しいという欠点を抱えている。

 


QUEST
 ゲーム上ではTASKとなっているが開発側はQuestと呼んだりと統一されておらず、一応ここではクエストと呼ぶ事にする。またここで採り上げるのはストーリーに関連する物ではなくて自由選択のクエストについてである。

 先に基礎的なシステムから御浚いしておく。通常はプレイヤーが店の人間やその辺のNPCに話し掛けて、そこで仕事を探しているという会話文を選択すれば幾つかのクエストが提示される。そこから自由に何個でも選択して引き受ける事が可能で、引き受けた物はPDAに登録され、達成期限・目的の物や人が有るならその場所といった情報が参照可能となる。達成した場合には依頼主の元に戻ると報酬が貰えるようになっている。クエストの中には場所は構わないので指定された品(Artifact等)を持って来るタイプの物も多く、この場合は既に持っているならばその場で渡してクリアしてしまう事も可能。また自分の意思に関わらずPDAを通して引き受けた状態になるクエストも時々発生するようになっている。例えば近くで敵の襲撃に困っているので助けてくれないかという依頼。
 クエストは受けた後に依頼人の前に行けるならば会話にて断る事が可能。また達成に失敗するとfailedのリストに登録されるが、どちらにしても大きなペナルティを受ける様にはなっていないように見える。PDAのランキングに影響したりReputain(評判)が悪くなったりは有るのかもしれないが、詳しくは検証出来ていない。


 まず最初に言ってしまうと、クエストについてはシステム的にも内容的にも上手く行っているとは言い難い

 先により大きな問題となっているシステム面での問題から検証する。最大の問題と思えるのは達成までの期限が一日と短い点。本筋に関わるクエストを追っているとゲーム内時間での一日というのは結構早く過ぎてしまうので、引き受けて近くに寄った時にでも達成を狙うというスタイルでのプレイが困難になっている。またこれは報酬を貰うまでの期限となっているので、目的をクリア出来ても依頼者の居る場所まで戻れないと意味が無い事になり、よりその達成が困難になっている。よってクエストを貰うならばメインを一時置いておき、それだけを狙って行動しないと難しい。
 次にクエストを受ける前の内容を教えられる時点では目的地が何処なのか判らない事も多く、また実際に達成してみないと何が報酬として貰えるのかも教えられない。一応受けた後に行く方向が逆だったとかなら断れるが、先に知る事が出来ないというのは単に面倒なだけ。報酬が判らない件は、時間を掛けてでも達成すべき(或いは報酬を受けに戻るべき)なのかの判断が難しいという状況を生んでしまっている。

 クエストの内容についても問題が有る。NPCから受けるランダムで発生するタイプのクエストでは大抵の場合報酬が大した事が無い為に、積極的に受けようと気にはならない。そもそもクエストを受けなくてもちょっと珍しいArtifactを売ればその報酬程度にはなってしまうので、時間の有る時に回収期限の無いArtifactを集めて周り、単純にそれを店で売って稼いだ方が便利となっている。また金を稼ぐ事は無意味ではないが、店にて優秀な武器やArmorの品揃えが豊富という訳ではないので、それ程必死になって金を稼ぐという意味も見当たらない。この点は先に具体的に何が貰えるのかを示してやり、その報酬には金ではなくてやる気の出る珍しい武器の様な物を多く用意するという設定にするべきだった。
 行なうべき仕事内容についてもバリエーションが少ないのが難点。ランダムなクエストではターゲットを殺す・何かを回収して持って来る・エリアに生息するモンスターのクリアといった在り来たりの物がほとんどであり、ユニークな物は(ストーリーの本筋には関係は無いが)特別に用意されたクエストでしか発生しない。
 他には仲間と一緒に戦う事を依頼されるタイプのミッションでは、その依頼主を守らないと勝っても報酬が貰えないケースがある。或いは地域の敵を一掃するタイプのクエストにおいて、全ての敵が発見出来ないという事態が発生する可能性が有る。ただしこれはAIの動きがダイナミックなのとマップが広いので偶に起きてしまうのは仕方の無い点ではあるのだが。

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