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PERSONAL CHALLENGE SYSTEM
 ゲームの大きな特徴は自動的に難易度を調整する機能を持っているという点になり、これをSiNではPersonal Challenge System(PCS)と呼んでいる。その実現の為に非常に複雑なシステムを採用しており、様々な角度からプレイヤーの能力を分析し、それに応じてゲーム内容を変化させるようになっている。

 簡単に言えば常に適度な難易度を保つようなシステムであり、現在の設定でプレイヤーが苦戦しているならばそれに応じて難易度を下げてやり、逆に簡単にクリアしているようならば難易度を上げてやるという調整が自動的に行われる。「そこそこは死ぬ」ので簡単では無いが、「繰り返してもクリア出来なくてストレスが溜まる」ほどでも無い、という状態になるように、ゲーム終了までの間ずっとリアルタイムで難易度を調整し続けるという方式。通常の調整は内部的に設定された小さなエリア終了毎に行われるが、特定のエリア内で繰り返し死亡している場合にはその場でダイナミックに難易度を調整するという機能も持っている
 詳細な調整システムについては公開されていないが、「敵を倒すまでの秒数」、「銃の命中率」、「死亡回数」、「受けたダメージ量」、「HPの平均値」、「エリアのクリア時間」といった多数のデータを収集。それを「敵の出現数」、「出現する敵の種類」、「攻撃の正確性」、「死亡時にMedikitを落とす割合」といったパラメーターに反映させるようになっている。

 開始時の難易度設定は存在しているが通常のゲームとは異なっており、2つの異なったパラメーターをスライダーを動かして設定する方式で、これはゲーム途中では変更不可能である。一度クリアすると一切のSaveが出来なくなる超高難易度のHardCORPS Modeと、導入部分を飛ばして武器を入手した時点からプレイ可能となるSkip Introがアンロックされる。

 プレイヤーが設定するのはChallengeGive Assistanceの2項目。前者はベースとなる”難易度調整度(後述)”を決定する物でCasualからExtremeまで。後者は特定のエリアでプレイヤーが進めなくなっている際に(連続して死んでいる場合に)、どれだけ早く難易度を下げてやりアシストをするかの設定となる。なおここでNeverを選択した場合には一切のアシストが無くなるが、これは自動難易度調整自体が切られるのか、難易度を上げて行く方だけは調整が働くのかは不明。

 現在の値はメニュー画面からStatsにて参照可能となっており、Challenge Ratingが現時点でのベースとなっている難易度値であり、Instantaneous Challenge Ratingがその瞬間(エリア)における難易度となる。ただしこの数値は幾つかの調整要素の現在の値から計算されているので、全く同じ値で同じエリアであっても、どういう風に調整が行われるのかはその時々によって異なる。
 エリアをクリア後にプレイヤーの成績を計算し、基準を上回るならばベースとなるCRの値を上げると共に、成績に比例させて次のエリアでのICRの値も調整。下回るならば逆方向へと調整が行われる。もし同一エリア内で死ねばICRは徐々に下がって行き、クリア後にそれがCRにも反映される事になる。



 自動難易度調整システムはちょっと見ると良いシステムの様に見える。最初に選択した難易度が見込み違いで、非常に難しかったり或いは逆に簡単だったりで面白さを損なうという事が無くなるし、また特定個所でチートでも使わないとクリアが無理となってそこで投げ出してしまうという危険性も無くなる。
 しかしその反面欠点も抱えており、私自身も使用には反対派である。これは調整不可にしろというのではなく、調整出来る方が良いと思うが、それはマニュアルで調整する方式にするべきという立場(或いは自動調整を有効にするかどうかを選択可能)。例えば同じエンジンのHalf Life 2やJupiter EngineのFEARNOLF2の様に、Optionから難易度を変更するとそれが即座にプレイ中のゲームに反映されるというのが理想。次点としてSerious Samの様に、一度アンロックしたマップ(ミッション)ならば難易度を変更して最初からやり直せるというスタイル。つまり変更する際にはプレイヤーの同意が必要と考える。
 ただ自動難易度調整で面白くなる要素も有るので、どういう形で何を変化させるのかにもよる。この辺の利点・欠点については細かく話すと長くなるし、このゲーム特定の問題でも無いので省略させてもらうが、一応私の考える代表的な問題点だけ書いておく事にする(このゲームが全てに該当する訳ではない)。

×クリアの達成感が損なわれる
 難しい箇所を何度か繰り返してトライして最後にはクリアというのはよく有るが、自動難易度調整だと「それが自分の実力での達成」ではなく、「調整された手加減による達成」に置き換わってしまう。要はあくまでもチャレンジして同じ条件でクリアまで頑張るのか、無理そうなので難易度を下げるのかはプレイヤーに選択権を与えるべきと考える。
×ゲームから戦略性が消える
 プレイ中に学習した「この武器の攻撃はどれだけのダメージを与えるのか」、「それぞれの敵の種類別耐久力&攻撃力」といった知識を基にして、シチュエーションに応じて戦略を立てて戦うのがアクションゲームにおける面白さの重要な要素と考えている。例えば「この敵からの攻撃はダメージが少ないので、ここはむしろ動き回らずに当てる方に専念すべき」、「この敵はXをY発当てると死ぬので、それだけの弾を放った直後に他の敵にスイッチして戦うのが効率的」、「この敵は手強いので強力な弾を消費してでも早期決着を図るのが有効」等々。これらは全ての値がゲーム内で固定値だから可能になる戦略であり、自動的にパラメーターが変化してしまってはその場その場で戦ってみないと分からないという状態になってしまう。
×敵の個性が薄れる
 特定の敵の攻撃力・正確性・耐久力といった値がその都度調整されてしまうと、能力に一貫性が無くなるのでその敵の個性が消えてしまう。弱い敵では詰まらないのでその都度調整した方が面白くなるとは思えず、弱いという点も含めての個性である。出す敵の能力は変化させずに、登場する種類や数を変化させるのならば問題は少なくなる。
×自動調整と言っても実は自動では無い
 これは実際にこのゲームに関わっている問題なので後述する。



PCSの問題点
 ここでは問題点に絞ってSiN:EP1においての検証を行ってみよう(総合的にはGameplayの項にて)。事前に100人以上のテスターによって集められたデータから製作されたというシステムだが、そう上手くは行かなかったというのが実際である。


×失敗1: バグ
 この件については開発チームに全責任が有る訳ではなく、不幸な事項が重なったという点で情状酌量の余地は残っているが、第一の失敗はシステム自体のバグである。或る地点に於いてPCSが正常に働かなくなり、異常に難易度が高くなってしまって進めなくなるという問題が発生した。全てのプレイヤーがゲームをちゃんとクリア出来るようになる為にわざわざ設けられたシステムにて、逆にプレイヤーが進めなくなるというのは悲劇である。

 簡単に原因を話すと、調整項目の一つにプレイヤーの進行ペースを測定する物があり、これはプレイヤーが必ず通過する地点に間隔をおいて設けられていて、その間を通過するのに何秒掛かったのかを測定。それが基準値よりも速ければ難易度を上げ、逆なら下げるという風に調整される。ルートを元に戻ったりも可能性が有るので、一度通過したらその測定地点は削除されるようになっている。ところがプレゼン用に改造したマップに於いて設定された、古いタイプの通っても消えない種類の測定地点が一箇所気付かずに残されたままになってしまった(非常に小さいので気が付かなかったそうだ)。
 この測定地点はプレイヤーの大きさよりも狭いという非常に短い間隔で残されており、よってプレイヤーがここを通過すると異常なまでに短い時間でポイントを通過したと判定されてしまい、一気に難易度が上がってしまうという事態が発生してしまった。実際には取りあえずクリア出来た人が大部分だったようにそれだけならまだ良かったのだが、このポイントは一度通過しても消えない為に、たまたまこの地点を何回も通過した人の場合には難易度が加速的に上昇してしまい進めなくなるという状況にまで陥ってしまったのである。

 この問題への対処はリリースから一週間後に行われており、そこそこ迅速な対応とは言える。しかし不幸だったのは、このゲームが発売当日からSteamで販売されていたという点である。海外では発売の解禁日が設定されているだけで、日本の様に発売日にはほとんどの店にちゃんとゲームが並べられるというようにはなっておらず、欲しくても入手日には結構バラツキが生じるのが普通である。ところがEP1はダウンロード販売がメインなので同じ日に一斉解禁となり(プリロードも可能とされていた)、発売から早期のプレイ率が高い状況にあった。しかもこのバグはゲームの最後の方に存在しているのだが、エピソード形式で短いのでそこまで時間が掛からないというのも災いし、パッチがリリースされた時点では既に時遅しという事になってしまったのである。実際にパッチが公開されるまでに出たゲームのレビューには、難し過ぎてバランスがおかしいという点を欠陥として挙げられたりもしており、評価に於いて痛手を受けるハメになっている。或る意味このゲームは、ダウンロードでのパッケージ版との同時販売は、致命的なバグを抱えていた場合にはより大きな問題となってしまうという恐ろしさを知らしめたとも言える。

×失敗2: 解説不足
 こちらは開発サイドに問題が有るし、また今でも直されていない。それは先に紹介した難易度設定スライダーの説明不足という点。この頁に有る画像はデフォルトでの位置になっているのだが(私のプレイしたのは後なので最初からこれがデフォルト設定だったのかは未確認)、これを見てどう思われるだろうか? 問題は上のChallengeの方で、この目盛りは”中央がNormal難易度に当たる”と考えて動かしてプレイした人が出てしまった。実際には上記のSSの位置がNormalであって、中央へ動かしてしまうと三段階も難易度を上げてしまう事になる。
 確かにデフォルトの設定は見た目がcasualに近くなっているが、これは正確には一般に言う難易度では無くて”難易度調整度”とでも言う設定であり、「どれだけ難しい方向に、より速く・強く調整を行うか」という設定である。つまり或る測定エリアに於いて基本とされる成績が50点とした場合に、「それよりもX点高い成績だったら次はこれ位上げるのが丁度良い」といったテストによる測定結果からの設定を”そのまま使う”のが上記の左から2番目の目盛り位置となり、即ちNormalという意味合いになる。よってこれを右側にズラすと”本人の持っている能力以上に難易度は上がって行く”という意味の設定になり、開発側のコメントを借りれば、「プレイヤーがどんな能力の持ち主だったとしても、難易度はプレイヤーの能力を超えて上がって行く」という状態になる。

 話を戻すと、やはりこの状態だと明確な説明が無い限りは「真ん中がNormalである」と勘違いする人はそれなりの数出て来ると想像される。発売後に公式Forumでは「勘違いして設定し難し過ぎると言っている人がいるが、この設定はそういう意味合いでは無い」という解説が行われているが、公式をチェックする人がどの程度存在するのかも疑問だし、もっと誤解の無いような説明かシステム(例えばデフォルトから右へ動かそうとすると警告が出るとか)を導入する必要性を感じる。

×失敗3: 自動難易度調整の難易度調整
 先に書いた通りに、開始時に行った難易度設定は以後一切変更する事が出来ない。しかし内部的には値は変更されているのだから、ゲームの途中で変更する事は無理な仕様のシステムでは無いはずだ。もし設定変更が可能であったら1番で述べたような問題が発生してもその場で個々に対処が可能だった訳だし、それならばプレイヤー側にて途中で変更可能とする余地を与えるべきではなかったかと感じる。
 勿論そうする事で問題が発生するというのは考えられる。精巧に計算を行っているのに勝手に変えられては変になってしまうとか、予期せぬバグを引き起こしてしまうかも知れないとか。

 何故変更出来ない点を問題として採り上げるのかと言うと、実際の所このPCSがそれ程有効に働いているとは思えないからである。考えてみれば分かる事だが、”自動”とは言ってもどれだけ調整するのかは製作側が予め決めておいた計算が行われるだけであって、神の如き存在が本当に適した設定を常にプレイヤーに対して用意してくれる訳ではない。一般のゲームではそれぞれの難易度を製作側がテストによって得たデータ等から設定するので、実際にはより多数のプレイヤーにおける感覚とはズレた物となってしまい不評となるというケースも出て来る。実は自動難易度調整も同じ事で、単に普通のゲームで言う”初期設定での難易度調整”の問題をクリアしているだけであって、問題が”自動難易度調整システムの難易度調整”に置き換わっているだけなのだ。
 要するにPCSとはテスターの成績を分析した結果から、予め決まった値を使って「この位の成績なら、次はこの程度簡単に(難しく)するのが適切」という調整を行うシステムでしかなく、その”自動難易度調整機能それ自体の難易度”、つまり行われた難易度の調整結果が簡単・最適・難化のどの方向に実際には感じられるのかは、そのプレイヤー毎に異なって来てしまう。もしテスターの平均能力に比較してプレイヤーの平均的な能力が高かった場合には、難しい方向へと調整しているにも拘らずプレイヤーには調整度合いが緩くて簡単と感じてしまうし、反対に劣っていたならば難しくなり過ぎだと感じる人が多くなるだろう。その結果として自動で調整が行われているのに、一般的な難易度設定を持つゲームと同様にして、難易度調整システムのパラメーター変更度合いが簡単・難しいという風になってしまうので、自動とは謳っていても自動難易度調整の”調整度合い”は完全な物とはならない

 この点は私が考える自動難易度調整の弱点の一つになるが、そういった観点からするとこのEP1では「どの程度難易度調整を強く行うか」という設定を設けたのは評価出来る。しかしそれがゲーム中にはいじれないのでは意味が無い。難易度の調整が緩くて簡単と感じたら自動難易度調整の難易度を上げてやり、どうも難しくなり過ぎると感じるなら下げてやるといった調整が出来た方が良い。自分の選択した”自動難易度調整の難易度設定”が、本当に自分に適した調整になるのかどうかはプレイを開始するまでは分からないという点は、一般的なゲームでの最初の難易度選択と変わりないのだから、プレイしてみて違和感が有るなら変えられるのがベストである。
 当然パラメーターをいじり過ぎると、急に難易度が変化し過ぎて不自然に見えるというデメリットは有るが、その辺は調整をどの程度行うかはプレイヤーの好みに任せれば問題ないだろう。変過度はそのままでベースの方だけを変更するという手法もあることだし。

×失敗4: システムの穴
 これは上記の点と比較すると大した問題ではないが、高い難易度においてシステムの穴を突くという行為が出てしまっている。例えばスコアが計算されるHardCORPSがその一つ。初期設定の難易度を高くするほど高ポイントとなるのだが、そうしておいて実際には想定されるレベルの戦闘を行わずに進めてしまって点を稼ぐというやり方になる。

 PCSの詳しい機能と調整方法についての説明を避けたのは、システムが知られてしまうとその隙を突いてプレイヤーが意図的に難易度を操作するような動きをしてくる可能性が出て来るから、というのが理由の一つとして考えられるが、実際には全てを隠すのは不可能に近く、そしてそういった問題点を突いてのハイスコア狙いという事が行われている。現実には個人情報収集の問題でランキングは匿名でしか行われてはいないので加熱はしていないようだが、敵が出現する前にSpawn箇所を突破して逃げてしまったり、敵が出現し切る前に次の計算が行われるエリアまで到達して全ての敵を出さないようにするといった、システムの穴を付く行為を考え出すという誤った方向への戦略が考えられているというのは意図していた事では無いはず。

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