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COMBAT
 武器はレンチ, 消火器, ショットガン, AK-47, スナイパーライフル, 火炎放射器(ライター), 火炎瓶, 爪切り, RPGの9種類。一種のギャグとしてだが最強兵器は爪切りで、使うと宙に浮いてエネルギーを溜めてからそれを一気に周囲に放出して人を吹き飛ばす。ただしリチャージ時間がかなり長いという欠点を持つ。先に説明した消火器は普通の敵を怯ませる機能を持つが、それ以外に特に変わった武器は無い。

 敵の種類はマップによって異なり、テロリストやギャング団等がメイン。ゾンビは最初から最後まで出て来るが、ゾンビ化する薬品が蒔かれていないインドアエリア等では登場しない。中にはクラゲ等の生き物を敵にしたりもするし、魔法使いや正義のヒーローといったSF的な敵もギャグの一環として登場したりする。


 難易度的にはNormalではやや低目に感じられるエリアが半分以上。敵がまばらなエリアが大半で、自動回復に加えて逃げ場も在るのでそうなっている。ただしダメージはやや高目の設定で、回復アイテムもそれ程多くない。よって敵に囲まれているケースでは、一端ヘルスが低く下がってしまうと挽回するのが難しいという面も持っている。その為に幾つかのボス戦は逃げ続ける持久戦になったり、格段に難易度が高い対決というシーンにも遭遇する。とは言えセーブ無制限なので特定の場所にて詰まり難いとは言えるだろう。

 中には空港のマップの様にステルスを要求されるシーンも在る。強制ではないのだが非常ベルを鳴らされてしまうと増援が大量にやって来てしまう上に、警備員は一定時間操作が効かなくなる電撃攻撃を行うので始末が悪い。よって巡廻ルートを見て避けたり、背後から襲って昏倒させるというやり方が無難となる。

 その他のシチュエーションの変化としては、まずTASを上げてしまった際にNPCから集中攻撃を受けてしまう点だが、先に書いたように大量のNPCを巻き込めるほどの攻撃力を持った武器がほぼ無いし、そこまでNPCが密集しているエリアも少ないので、敵とNPCの区別無しにメチャクチャな攻撃でもしない限りは滅多に困った事にはならない。次に火事になっている家等で煙による視界の妨げが発生するが、これも登場シーンは限定的。だがインドアエリアでは、カメラ位置の関係から視界が変になってしまうというケースは発生する。


 戦闘全般の出来は悪い、というか詰まらない。第一に武器が弱い設定で、特にショットガンなどはよっぽど近付くか、ヘッドショットや背後から撃たないと大きなダメージを与えられない。普通に攻撃しては3〜5発程度撃ち込まないと一般の敵すら倒せないレベル。よって序盤はまだまともなAK47に頼る事になるが、こちらは命中精度があまり良くないという設定。その他スナイパーライフルも数発ヘッドショットしないとならない威力だし、RPGや火炎瓶は効果範囲が狭くて大したことがない。ライターはリチャージ式でもあり、中ではまともな方で結構使える。後はダメージ4倍にパワーアップすれば強くなるが、これはそれ程出て来ない。

 第二に攻撃の感覚が軽過ぎる。レンチで殴るのも重量感が無いし、銃については音も含めて撃っているという手応えがほとんどしない。死亡時のアニメーションも宙に浮いたりと奇妙な動きが時折見られる。第三に敵の反応が鈍く、こちらが撃って初めて動き出したりというのに結構出くわす。その場で無反応となり止まってしまったり、オブジェクトに向かって走り続けてスタックしたりとバグ的なシーンも登場。出現も目の前の空間に突然沸いて出たりと不自然な事がある。

 更に主人公の動きがスローで敵の反応も遅い為に、ほとんどの戦闘において緊張感が感じられない。スローで牧歌的なイメージであり、攻撃力が低い者同士のダレた撃ち合いという風なグダグダ感が漂っている




 戦闘における大きな特徴としてサポートキャラクタが存在している。これは合計で4人居て、順次ストーリーに合わせて加わるようになる。

The Sick Kid: ゾンビ化してしまったが意識は保っている子供。ゾンビの毒液を吐いて攻撃を行える。
Juan: 事故により記憶喪失のメキシコ人。チェンソーを使える。
Beverly: 上流階級育ちの美人だが低脳の女で、殴りや蹴りで攻撃する
The Sergeant: 片手の軍人。グレネード攻撃を行える。


 システムとしてはこの4人の中の誰か1人をサポートとして呼び出せるという方式。呼び出したキャラクタは自動的に戦い、HPがゼロになると消えるか逃げて行ってしまう。消えてからでも消える前でも、自由にキャラクタは切り替えが可能。ただしHPは自動回復方式なので完全回復させての呼び出しまでには時間が必要であり、一度消えたキャラクタの再呼び出しは灰色表示状態(HP20以下)から復帰するまでは出来ない。

 本来ならばシチュエーションに応じてサポートキャラクタの選択を上手くやる事が重要なゲームという触れ込みだったのだが、実際にはいろいろな意味でそうなっていない。まず全般に役立たずで、AIの動きとしても馬鹿揃い。Juanのチェンソーがまあ役に立つ程度で、Sick KidとBeverlyは弱過ぎて敵の注意を引き付ける程度にしか使えない。Sergeantのグレネードは強力なのだが、自分に付いてくる動きばかりで攻撃する事が少ないという問題あり。そして自分に近い位置で敵に向けて即爆発するグレネードを使うので、自分もろとも吹き飛ばされて死んでしまう事多し。

 そもそも事前に宣言されていた、Beverlyの愛犬をけし掛けて攻撃させる能力や、Sergeantの武器を使ってサポートも可能といった各人の能力が実現されていない。結果的に邪魔ではないのだが役にも立たないという、戦闘への影響度の低い要素として失敗に終わっている。


 以上の様に戦闘面はプラス点がほぼ見当たらないという評価。これには元々戦闘をメインにしたゲームでは無かったという理由もある。他のゲーム要素がカットされたり機能していない結果として、戦闘面がより目立ってしまっているという状態。

GRAPHICS
 独特のグラフィックスはLA在住のアーティストである"kozyndan"が担当している。彼等の制作した原画を3D化しており、一時期流行したCel-Shadingとはまた異なった方式だそうだ。好みが分かれるとは思うが、個人的には絵柄や雰囲気は気に入っている。

 こういった形式のグラフィックスなので、画質設定は影の有無のみ。そしてポリゴンによる描写ではないからだと思うが、解像度は1024*768固定で変更は出来ない(変更しても意味が無いから)。負荷は当然ながら軽い。

 ワイドスクリーンには非対応。アンチエイリアシングも無い。

SOUND
 サウンドはOpenALを使用しており、オプションに設定は無いが3Dサウンドに対応している。

 銃器類のサウンドは良くない。BGMは普通の物の他に、車内のラジオが所々で鳴っていたりという変わった方式。全般に音数が少なく、アンビエントサウンドもほとんど使われていない。その為にこんなゲームも珍しいと思うが、所々で全くの無音になったりする。

開 発 経 緯
 トップで紹介したように各所から酷いレビューを受ける結果に終わったこのゲームだが、アナウンスされた当時はあのAmerican McGeeが初めて最初から製作に関わるゲームとして注目も期待もされていた。それがどうしてMcGee自身曰く、「生涯で最悪のゲーム」にまでなってしまったのか。開発の経緯を補完の意味で記しておく。


 開発のキッカケはEnlightのCEOであるTrevor Chanから、香港の同社の開発チームと共に新しいゲームを作らないかと誘いを受けたこと。この時点で同社がB&C級のゲームを幾つか出している程度のレベルというのは解っていたので、大々的なハイクオリティの物を作るという考えは初めから無かった。

 最初のMcGeeの考えた企画では、コメディタッチの物理エンジンをフルに使用した戦闘ゲームで、オープンワールドの中でお互いが車両をぶつけ合い、その車両や周囲のオブジェクトを破壊しあって戦うという点をフィーチャーした物だったそうだ。しかしこの企画は大規模な物理エンジンの製作やライセンスは金が掛かるという理由もあって却下。Chanの考えではストーリーを重視したアクションアドベンチャーを作りたいという方針だった。

 しかしMcGeeの考えでは、競争の激しいアクションアドベンチャー物を同社の実力で製作するのは難しいと警告。しかも予算は100万ドル以下と設定されており、これは人件費が遥かに安い中国においても十分とは言えないレベル。「今となってはここでプロジェクトから去るべきだったのかも知れないが、逆にこの様な悪い環境の中でどこまで良い物が作れるのかというチャレンジにも興味があり、踏みとどまる事になった」。


 ゲーム全体のスタイルは『Medal of Honor』の様な物にして(もちろん規模とクオリティは別にして)、それをコメディタッチでナンセンス且つバイオレンスな要素も入れようという話になった。その後はMcGeeが企画を担当し、LAを災害が襲うという基本設定や、グラフィックスはKozyndanが担当という点が決定。彼自身はLAの写真撮影等のデータ採取を担当。香港の開発チームが実際のゲームを作る事になった。

 しかし香港のテクニカル面を担当するチームは非常に基本的な部分しか作る事が出来ず、NPCのAI, 衝突判定, 物理エンジンといった多数の要素には、長期に渡って問題が残されたままの状況であった。

 「何故そんな状況でプロジェクトは継続されたのか? それは我々が本当に深刻に“破滅的な失敗”に直面する可能性について考えていなかったからである。既に最初の段階で、このBDLAがB級或いはC級程度にしかならないというのは解っていたが、ここで改めてこれはもう低レベルなゲームにしかならないとは理解出来た。しかしB級なりの面白さや味というのもある訳で、その点を救いとしてアピールするという方法で乗り切ろうと決断していた」。


 その後McGeeは直接香港へと渡り、数週間に渡って直接開発チームと仕事をこなした。ここでは欧米とは大きく異なる中国人のメンタリティについての理解も深まり、ゲームの開発は飛躍的な進捗を遂げたとある。

 この時点での彼の選択肢は二つ。香港に移り住んでチームとダイレクトに開発に取り組むか。それともLAに留まって“確実な失敗”に直面するのか。しかしその時点で後者の選択肢は実質考えられず、彼は香港へと生活の場を移す事になる。その後一年程度は全く開発状況が漏れてこないようになったが、最終的に発売された物はやはり最悪の結果にしかならなかった。


 最後に主な失敗点についてのMcGee当人の説明。「ゲームプレイ, AI, 物理エンジン, ミニゲームの欠如, サポートキャラクターが機能しない, TASのマネージメント要素の欠如。ほとんどの特徴やテクノロジーが実装されていないか、悪い方向に機能しているという状況。これは実装しようとトライしなかったのでは無く、テクノロジー系の開発チームが結局それらを作る事が出来なかったという結果である。当初の予定からすると搭載出来たのは10%程度でしかない」。

 「ゲームの宣伝の失敗。最初からB級のバリュー系ゲームだとハッキリ宣言しておくべきだった。これは『Alice』の続編では無いし、あの様なAランクの大物ゲームでも無い。しかしAlice同様に自分のネームをブランド名として付ける事を許可した結果として、レビューにおいてはそのAliceのクオリティと比較しての評価という風になってしまい、相対的により酷い評価を受ける事になったと言える」。

 「開発チームの真の実力を計る事や、効果的なマネージメントが出来なかった。文化の違いからくる行き違いも多く、こちらの良かれと考えた行為がマイナスに働いたりするケースもあった。それに言語の問題から意志の疎通が不完全だったり、仕事のやり方の違いもあったし、劣悪な仕事場環境というのもLAとは大きく異なっていた。また自分には裁量権が無く、明らかにチームのガンだと思える人物をクビには出来ないといった問題もあった」。

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