<GAMEPLAY 2>

◎自由度
 自由度に関して言えば、プレイヤーであるAlexは最初の内はリニアな展開に沿ってスタートするが、その後はどのFactionに属して(味方して)行動するかの制限は無いし、途中で味方するFactionを変えても(裏切っても)構わない。自分自身が共感出来る組織を選ぶとか選択は自由である。ただしこれはゲーム内で与えられた範囲内での選択であって、どれだけの自由度が有るのかはケースによる。どの組織に近付いているかで受けるObjectiveは変わってくるし、或いは全く相反する依頼を別々の組織から受ける事もある(片方を達成する事が別の組織からの依頼の失敗となる)。ゲーム中に多数用意されたNPC等から依頼される2nd Objectiveもどれを行うかは自由。それとDEIWではゲームオーバーになるのはプレイヤーが死んだ時のみであり、各Objectiveが成功するのか失敗するのかはゲームの進行には関係が無い(結果がどうなろうがそのままの状況で進んでいってしまう)。ゲームの進行を進める為のフラグとなる主要なObjectiveは成功させないとならないが、これには誰かや何かを守るといったタイプの物は無くて自分が死んだ場合のみ失敗となる。

 プレイヤーが善の立場として振る舞う必要性も無い。何かの選択肢を与えられた際に、どれが正しいのかを決定するのはプレイヤー自身となる。そもそもゲーム内には通常世界の様な善悪の設定は無く、困っている人を進んで助けるのが善で、無差別に人を殺すのが悪といった価値観は存在していない。或るFactionにとって善である人間は他のFacitionにとっては悪ともなり、よって大量の人間を虐殺する行為が善か悪かはどういった面から見るかで変わってくる。或いはFactionに関わらず目に入るNPCを片っ端から殺しまくるのがプレイヤーの考える”新しい世界の秩序”であるならば、そういう風にプレイしてもらって一向に構わないというゲームである。一応ゲーム中に登場する主要な人物のほとんどは殺そうと思えば殺す事は可能だが、ストーリーの展開上何時でもという風にはなっていない(武器禁止のゾーンが有ったりと制限が有る)。


 DX1では「問題解決の自由度」を主に追求しており、ストーリー的な状況の変化に関してはそれほど複雑ではなかったのだが、DEIWでは前者だけではなく後者に関しても変化が多いような構造となっている。確かに中心となるストーリーを変化させる事は出来ないのだが、それ以外の部分に関してはかなりの部分を変化させる事が可能だ。以下に例を挙げよう(ただしこれらは常にそうなのではなく、そうなるケースも有るという意味である)。

*マップがスタートした時に与えられるObjectiveはそれ以前の行動によって変化する
*複数のスタート&出口が存在するマップが有る(その前に通って来たルートで変わる)
*(会話直後の当人のリアクションは当然として)会話の返答によってその後の展開が変化
*状況に応じて会話時に出てくる内容自体が変わる(或る人間に話し掛けると必ず同じ内容の会話になる訳ではない)
*それまでに行った行為や展開によって会話の選択肢が増減する
*ヘリのパイロットは二人の内から一人を選ぶ事が出来て、選んだ人間によって次のロケーションにてスタートするマップや場所が変わる
*ロケーション内のマップを巡る順によって展開が変化。
*取った行動によって別のマップ内の状況が変わる事がある。例えば自分にとっては敵の組織の人間が配置されている等。
*どの人間とどういう順番で話すかで受けるObjectiveが変化する


 構造的にゲーム内に設定されている全てのObjectiveや出来事を一回の連続したプレイで見る事は不可能(分岐が発生するので)。或る個所で死んでしまった人間はその後(死んでいなければ出てくる場所には)出てこなくなるし、逆に殺せるのに殺さなかった人間とは他の場所で再会したりもする。それと関連してDEIWでは自由度を高める為に必ず敵を倒さないとならない個所は存在していないので(望むエンディングに到達するには必要なケースは存在する)、敵を殺さずにクリアも可能である。
 もっと特殊なケースとしては「DX1では我々はプレイヤーの解法を予想してマップをデザインする事が出来たが、今回は世界とObjectiveだけを与えて解決方法はプレイヤーに見付け出させるという風にしている。既に内部テストでも我々自身がそんなやり方が存在するとは思いもよらなかった様な方法でObjectiveをクリアするケースが続々と報告されている。こんなゲームはこれまで存在しなかったという意味で、プレイヤーの行動がそのまま反映される仮想世界を築く事が出来たというのは誇れる点である。」とコメントされており、作り手が考えもしなかったようなクリア方法も考えらるという自由も与えられている事になる。

 こういった自由度がゲーム中に上手く機能しているのかに関しては、何をやろうが一応デッドエンド(そこから先に進めなくなってしまうような展開に陥るケース)になるようなバグは持っていないようである。こんな所までちゃんと変わるのかと驚かされる個所も有って、例として各所のニュース端末ではプレイヤーが行った行為に応じてニュースの内容が変わったり増えたりもする。その反面バグ的な要素も幾らか含んでおり、「Aから依頼を受けてBに行って目的を達成しAに戻って報酬を受けるというケースで、先にBに行って目的を達成してしまった場合にもAで報酬は受けられるのだが、会話のつながり等が変な風に感じられる」という点。「まずAで話を聞いてからBを達成するという場合に、先にBを達成してしまうとリストにAが残ったままになる」といったNotesのObjectiveのリストの整合性問題等が存在する。

 上記の様にDEIWは非常にリプレイ性に富んだゲームであり、DX1ではキャラクタの成長要素と問題解決の自由度によってリプレイ性を高めていた点に、複雑化した構造のマップ構成とシチュエーションの変化という要素を追加している。大きくストーリーへの変化を与える事は無理とは言え、ゲーム内世界の変化度合いは遥かに大きくなっており、リプレイ時にも新鮮で楽しめるという点に関してはDX1を上回っている。3,4回目のプレイでも新たな発見(展開)が有ったりして、この部分は高く評価出来ると言って良い。
 しかし同時にゲームのデザインがリプレイ性の実現に寄り過ぎているという感触は受ける。つまり「何回かリプレイするとその面白さが見えてくる」という事を重視して作成されており、DX1はそのリプレイ性が高く評価されたのでその面を突き詰めるという方向性はまあ良いのだが、その分一回分のプレイ感は薄められているという印象。どれだけリプレイ性が高いゲームであっても一回しかプレイしない人も確実に存在している訳で、その意味ではこのデザインは危険性が高いとも取れる。「起きる事は一緒でどうアプローチするかが変えられる」という通常の意味でのリプレイ性の高さであれば、ゲームの面白さはプレイする人によってそれ程変化しない事になる。しかし「起きる事自体が変わる」という要素に重きを置いているとなると、たった一回だけのプレイしか行わなかった時に、それがたまたま面白くない展開になってしまう可能性が有る。つまり前者のタイプであるDX1はたとえ一回だけのプレイであっても流れは一緒なのでプレイヤーによる面白さに変化は生じ難いが、DEIWはプレイヤーの行動によって体験する事が変るので、受ける印象の幅が広くなってしまうというのが難点。


◎問題点
 このゲームの大きな問題点について。それは一言で表すならば”簡単”という点である。このゲームは非常に高い自由度をプレイヤーに与えているのだが、その代償として以下の様な問題点を抱えてしまっている。

1.ゲーム構造
 他の項でも書いたようにこのゲームはどの程度のObjectiveを達成するかはプレイヤーに任されている。その高い自由度は評価に値するが、同時にこれは相当な手抜きしてもOKという事でもあり、実に呆気なく短時間で最後まで行けてしまう可能性もある事を意味していて、プレイヤーによるとはいえ大きな代償となっている。DX1を楽しんだプレイヤーならば或る程度は寄り道して時間を掛けて楽しむとは思うのだが、そうでない人の場合はこれで終わり?といった感想に成りかねない。
 RPGではメインとなる必須クエストはそれほど無く、後はプレイヤーの自由に任されているというデザインの物はよく見る。しかしRPGでは成長の要素があるので、本当にメイン以外はやらないで進められるといったデザインにはなっていないのが普通だ。例えば次のブロックに行く前に倒さないとならない敵がいて、少なくともこの敵に勝てる程度まではレベルを上げておかないとならないといった条件を付ける。よってプレイヤーはどのサブクエストを受けるかは自由だが、或る程度はそれをこなしてレベル上げや武器&アイテムを入手しておかないとならないという構造。しかしDEIWではSkillといった成長要素は無くなっており、またObjectiveを達成して入る経験値といった要素も排除された。よって本当に無視しようと思えばそのまま進めて行ってしまえるゲームとなってしまっている。

2.Biomod
 今回の一番大きな変更点は、途中でBiomodを差し替えられるようになった点だろう。一度装着したら外せなかったDX1に比べると大きな進歩であって、この事自体はプラス点なのは間違いない。しかし実はこれが大きな弊害を同時に生み出している。それはBiomodを交換出来るという風にするには、それだけの数を用意しておかないとならないという点。DX1では9*4で全ての能力をMAXに上げるには36個のBiomod Canisterが必要となっていたが、そもそもどれだけ探してもゲーム内にそれだけの数が用意されていなかった。一方でDEIWでは5*3で全てをMAXに上げるには15個のCanisterが必要となるのだが、ゲーム中に存在するCanisterの数はその倍の30個以上にのぼる。或る程度の探索でも途中でBiomodの能力をそこそこ差し替えられる程度にするには全体ではその位は必要だし、実際に途中で交換出来るのはゲームを面白くしている(序盤では役に立っても他とのバランスで換えたいと思う事はあるので)。だがその為にゲームの中盤過ぎ位で全てがMAXの状態になってしまったりして(探索度合いによるが)、その後は明らかにプレイヤー側が強くなり過ぎるという状況になってしまうのも確かだ。

3.戦闘
 これも簡単になっている。ここでは長くなるので他の項にて詳しく解説。或いは非戦闘型のステルスキャラの場合、特に戦う必要が無いというのもある。

4.問題解決
 何等かの目的(障害)に直面した時の解決方法はより自由度を増しており、これはこれで良い事である。しかしどんな風にでもこなせるというデザインは、別の面から見ると”達成する事自体”は簡単であるという事にもなる。DEIWでは「ゲームに用意された幾つか有る選択肢の中から何とか可能な物を探し出して行う」というバランスではなく、「幾つかの可能な選択肢から好みの物を選んで行う」というゲーム性であり、出来る限り複数の選択肢を与えるような構成となっている。戦闘型のキャラクタであれば常に戦闘を選ばないとならない様にはなっておらず、或る個所をステルス的な行動でクリアしようと考えれば何とかなってしまう個所が多い。つまり詰まる事が少なくてスイスイと進めてしまうという個所が多くて簡単となる。

5.難易度
 高い難易度という物が存在していない。最も難しいHardにしてもゲームバランスとしてはそれ程難しくはならない。デザイン上難易度設定では戦闘関連のバランスを変えられるだけであり、普通のFPSならば幾らでも難しい物を設定は出来るのだが、このゲームではBiomodという超人的な能力が存在するのでそれも簡単には行かない。


 結論としてはDEIWはプレイヤーが超越的な改造人間としてのプレイを楽しめるようには出来ているが、バランス的に厳しい設定の難関を突破する事に面白味を感じる人に取っては物足りなさの残るゲームとなっている。大半の個所がすんなりと進んでしまうので、難しいゲームを征服したという達成感に欠けると言っても良いだろう。多分この点は開発側も分かっていて、高い自由度を与えるのと進行を難しくする事を両立させるのは困難という考えからこういう風にしたのだと思われる。ゲームを楽しめれば難易度はそれ程気にしないという人には問題とはならないが、難易度の高いゲームが好きな人には大きな欠点となる事項である。



◎XboxとPC
 デモがリリースされて以来、Xbox版に合わせる為にゲームシステムやI/F等が単純化されてしまっており、PCでのゲームプレイがダウングレードされてしまっているという不満が多い。この辺に関してはインタビューでは、「ゲームのデザインに関する決定は、それが我々の求めるゲームプレイのコアの部分に影響を及ぼすのかという観点から下している。よってコアとはならないと考える要素は単純化したり排除したりしている。」とあり、「Xboxに合わせる為にゲームプレイを簡素化しているという事は無く、仮にPCのみであってもこれと同じゲームとしてリリースされていた」と結論付けている。或いはWarren Spectorは「自分はゲームをプレイする時にPCとコンソール機を意識する事は無く、そもそもPC用のゲーム・コンソール用のゲームという考え方自体に反対だ。面白いゲームに機種は関係無い」と反論している。
 しかし私自身はこれを彼等の本音と考えていないと言うか、要は企画として考えているだけのゲームを目標の制作期間で作成する為にはそれなりの予算が必要で、それを実現するにはXboxでの発売も組み込まないとEidosからの予算が供給されない。だからXboxでも発売するようにしたという事ではないか。単に立場上そこまでぶっちゃけて話せないという事だろう。確かに金が降って沸いてくる訳ではないので現実的な判断とも言え、特にその妥協を非難しようとは思わないが。実際問題として今回の開発メンバーはDX1の時の倍の60人近くとなっているし、発売も予算と人員が無ければもっと先になっていた可能性も高い。

 結局はXboxに合わせた訳ではないと言っても、Xboxでも出来るような事を選択するというデザイン的な取り決めは行われたのでは無いかと想像している。つまりPCに合わせればもっと良く出来るが、それだとPCでしか実現出来ないのでXboxでも可能となる次善案が採用されたりといった事。ゲームプレイの項目に限らず種々のI/F設定に関しても、これで完璧と満足しているとは到底思えない。



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