<GRAPHICS>
DEIWは最初はUnrealエンジンで開発されていたのだが、途中から自社開発のオリジナルのグラフィックス・エンジンにて作成されている。レンダリング部分に関しては元のエンジンの痕跡はどこにも残っていない完全な新型。1においてはグラフィックスはゲーム作成における優先順位が低く(10番目だったとか)、自由なゲームプレイの実現の為にシナリオ系に人を割いたのであまりレベルの高い物は作成が出来なかった。しかし今回はグラフィックスの表現力が当時から格段に上がった事を踏まえて、リアルな世界の表現に積極的に利用して行こうという方針になっている(今回は3番目の優先順位だったそうだ)。
※Per-Pixel Lighting with Volumetric Shadows
※Fully Dynamic Lighting
※Normal Mapping (Bump Mapping)
以上の様な点が特徴として挙げられており、これ等を実現する為にVirtex & Pixel Shaders対応のビデオカードが”必須”となっている。一番の特徴は全ての光源からのデータを元にしてリアルタイムでゲーム世界の影を正確に描画するという点で、これは同エンジンにて作成されているThief 3も睨んでの物となっているのは確かだ。非常に複雑なシチュエーションにおいての影の処理に関しては”どこまでやるか”とか”どう処理して見せるか”は、その処理の重さを考えた上で開発者毎に変わってくる。例えば或る光源が照らしている所に別の光源を持ったオブジェクトが複数入って来た時の影の重ね合わせや変形処理等は、その重さと相談してどこまで正確にやるかを決めるという風になる。DEIWでは重くなってもリアルにという姿勢であり、全ての光源からの影の計算を出来るだけ正確に行うという方針。その分影の出来方に関しては自信があるようだ。
そしてObjectの表面にはNormal Mapping にて高さのデータを持ったTextureを同時に貼り付ける事により、これに当たる光の角度によって表面に影を生成してやり、低ポリゴンでも立体的でリアルに見えるようにするという描画を行っている。キャラクタに関してはセルフシャドウが用いられており、顔や服の形状によって自分の影が自分自身に投影されるようになっている。ただしAlex自身の影は描画されない。
肝心のグラフィックスの質に関しては良い点と悪い点両方が混じっているという印象。光源を移動させるとそれがちゃんと反映される影の描画は非常にに綺麗であり、当時としては他のゲームでは見られないような綺麗さを感じる個所も少なくない。通常のゲームでは負荷を押さえる為にLightmap処理を行っており、これは事前に影となる場所を計算しておき作っておいた影を貼り付けるものなのだが、これにはマップ内で光源が移動しないという条件が前提となり、例えば天井のライトを動かした時に家具により出来る影を変化させるといった事は出来ない。DEIWではこのLightmap処理を全く行っておらず、リアリティを出す為に全ての影をリアルタイムで描画している。よって天井のライトを持って揺らしたりした時の影の変化は、固定されていて動かせない家具であってもちゃんと描画される。複数の光源からの照射によって同時に複数の影それぞれが正確に伸びて描画されたり、自分が持ち込んだ燃えるドラム缶等にてちゃんと影が増える点等は見物であり綺麗である。正確な影の描画でリアリティを出すという点では大きな成功をしていると感じた。Normal
Mappingでも非常に綺麗に見える壁の凹凸やNPCの服の質感等にその効果が見られる。
その一方でTextureに関しては質の悪い部分も見られ、また全体的にもそれ程ハイクオリティとは言えない。Xbox版よりはハイクオリティだそうだが、近年のFPSゲームとしては標準的なレベルだ。Normal
Mapping処理を含めてこれ以上質を上げるとパフォーマンス的に問題が出るという調整から押さえてあるのかとも思えてしまう。
エフェクト系は基本的に綺麗であり、炎の描画や煙・ガス等はShaderによって描画されている。Bloodに関しては当たった時のみで流れ出るという描画は無くGore表現も無し。キャラクタについてはFacial
ExpressionやSkeltal Animationといった要素を大幅に導入しての質のUPが図られているが、顔の表情の変化等はそれ程複雑なパターンは用意されていないようだ。一方リップシンクは細かい。気になるのはNPCに比較して肝心の主人公の顔の造形が結構粗い感じを受ける点。
このゲームでは屋外は全て夜のマップとなり、インドアでも暗い場所が多いので全体としては非常に暗いデザインとなっている。製作者側がどの程度の暗さを標準としているのかはBrightnessを基準に合わせる設定が無いので不明だが、多くの場所ではLightのBiomodやPistolのライトを使用して明るくしてやらないと行動が難しいというようになっている。ムービーについては最小限しか使われておらず(主人公が決まっていないので作りにくい)、基本的にはゲームエンジンを使ったカットシーンでの構成となる。別撮りのCGムービーはオープニングとエンディングのみ。
以上の様に最新の機能を採用している新エンジンの実力は高く、その描画面のみを見るならばトップレベルの出来と言っても過言ではない。しかしそこには素直に凄いと言えないような重大な弱点が存在している。それは非常に重い事。多分現在(2003末)発売されている3Dアクション系ゲームでこれだけ重さを感じさせるグラフィックス・エンジンは無いのではないかとも思わせる位に重い。私のマシンでは(P4
2.4GHz, 512MB, Geforce FX5600)解像度1024*768でのプレイはほぼ無理で、800*600で設定をほぼMaxにしてまあ何とかというレベル。またForumでの記述を見る限りでは、現時点でのハイエンドPCでも決して軽いとは言えないレベルの様である。開発側によればゲームのパフォーマンスはビデオカードのFillrateにほぼ比例するそうで、CPU等が速くてもビデオカードがハイエンドクラスでないとパフォーマンスのUPは無理。。
一応グラフィックス・オプションに関する説明をしておく(矢印で2画面目が出るのに注意)
*Bloom − Glow Effectと呼ばれる物で、柔らかくボーっと照らす様なエフェクト。V1.1にてDefaultでOFFにされた。OFFにする事でfpsの改善が行われ、また見た目的にもシャープな画像となる。このレビューでのSSは全てOFFでの物。
*Multisampling − アンチエイリアスの事。私のマシンでは他の設定をHighに保ったままではx1以外は困難。
*Shadow Qaality − 場所によっては大きなインパクトを与える。Highにて人間の影を描画、Mediumで動かせるObjectの影を描画、Lowだと固定されているObjectの影のみを描画となる。あまりにも重いという事からか、V1.1では完全にOFFにする選択が追加されている。
*Vsync − 垂直同期。これをOFFにする事でかなりfpsが改善されるケースも多い
普通に移動している分には何とか許容出来る範囲ではあるのだが、光源が多くなる個所においてはスローダウンするのがハッキリと感じられる。例えば光源となるObjectを持ち運んで移動させてやった場合に、置く場所と見る角度によってはカクカクになってしまう。それと戦闘時においてはPistolならばその銃口からの閃光、ロケットならば飛んでいく軌跡に応じてのライティングがちゃんと周囲を照らす分、撃ち合いになると逐一その分の影の計算を行っているようでかなり重くなるケースも。
もう一つ気が付いた欠点は、キャラクタモデルの使い回しが多い事。よくPCでヒットしたFPSゲームがコンソール機に移植される際に問題視される点だが、マップのデータでもうメモリが一杯一杯なので出てくるキャラクタのモデルを同一化してメモリ利用率を減らしてしまうという手段に出る。このDEIWでもXbox版とのデータの共通化という事からか、出てくる人数の割にはキャラクタのモデルが相当に少ない。顔に関しては髪型を替えたりしてはいるが、顔のモデル数で分けると種類はあまり無い。その為に町のゴロツキから店の主人、支配人といった全然違う職業の人間が同じ様な顔で繰り返し出てくるのは興醒めである。
<SOUND>
まずはBGM関連から。DEIWでの音楽はAlex Brandonを中心として作成されている。彼はこれまでにUnreal, Unreal Tournament, そして前作Deus ExのBGM製作に関わった人間であり、実際に前作のBGMは非常に出来が良かったので今回もそのクオリティには大いに期待されていた。しかし彼がキャリアの中での最高傑作と自賛するDEIWの音楽は、或る意味では期待していたファンを裏切る物となっている。彼は今回これまでの様にマップ単位でテーマ曲の様な物を作成し、プレイ中に何度もそのテーマが繰り返されるのは退屈と考えるようになった。そして今回作成したサウンドは言うなれば、「マップのテーマには沿っているが押し付けがましくなく、鳴っているのか鳴っていないのかが分からない程度だが効果的な音楽」であり「単調に繰り返されない環境音」でもある。作成には元になるテーマ音の上に様々な音楽の断片をランダムに乗せてやってリアルタイムで鳴らしているそうで、一つの曲のスタイルでは収録されていないそうだ。
実際に音楽はほぼ環境音と化しており、プレイしてもこれまでの様に”テーマ曲”の状態で耳に残る物はほとんど無い。音量も非常に低く、鳴っているのかが分からない程度のボリュームである。FPSでは一般のサウンドに対してMusicのボリューム設定は低くなっているのが普通だが、このゲームではMusicだけを突出して大きくするようにでもしないとBGMはハッキリとは聞こえてこない。今作ではBGMは本当に空気の様な存在となっており、出来は悪くないと思うがちょっと残念という気はする。
メニューで流れるテーマ曲は1の物をアレンジしており出来は良いのだが、これはゲーム中には使われていない。しかし曲としてはゲーム内のポップスターであるNG Resonanceが歌う曲が収録されており、これはHolo Jukeboxで聞くことが出来る。これはなかなか耳に残る物が多く出来は良い。なおこの曲は実在のバンドであるkidneythievesが提供している。
サウンドに関してはPhysics Sound Systemと呼ばれる全く新しいサウンドエンジンを採用している。これまでもゲーム内の全てのObject(材質)に対してそれに物がぶつかった時のサウンドを変えているというのは存在していた。しかしこのPSSはその上を行っており、相互にぶつかった時に出る音をその動いているObjectの重量からの物理計算を加えて正確に算出するという事を行っている。投げた空き缶が固い床に当った後に跳ねて、金属製の壁に当ってから木製の椅子に当るといったサウンドの変化を、インパクトの強さを含めて正確に再現しているという意味。更にこの際に部屋に備えられたドアがどれだけ開いているかといった要素から、当の部屋の中での反響度合いを再現してその音が部屋の外のどこまで伝わったのか(どこにいる人間にまで聞こえたのか)まで算出するというサウンドエンジンである。開発側もこんなエンジンはこれまでに存在しないし、作っている会社すらないはずと豪語する自信作となる。
問題は実際に聞いている分にはそれ程の凄さは感じられない点で、効果音に関しては普通の出来というレベルである。確かにドアの開閉等による変化は起きるし、閉鎖した空間から漏れてくるくぐもった音の効果は良く出来ていると感じる。しかしそれ程状況に応じてちゃんと音が変化するのかどうかは何とも言えない。特に以下にも述べるがリアリティを追求しているのに3Dサウンドに対応していないのでは、その肝心のリアリティに欠けている印象を与えるのは避けられない。
3Dサウンドに関してはEAXの様なAPIには未対応であり、Dolbyの表記は有るのだがこれはXbox版でのライセンス表示がそのまま残っているのかどうかは不明。少なくとも設定には存在していないし、明確な解答も得られていない。現在でも別のDirect3D用のプログラムを導入したりとか、内部設定を書き換えたりで3Dサウンドの実現を目指している人はおり、実際に成功している人も結構いるようだが、サウンドカードの種類やOS等複雑な条件が絡んでくるので確実な手法というのは見付かっていない。私の場合も内部の設定をいじる事で若干の移動感(ロケットの弾の音等)は出たが、しっかりとしたポジションニングは実現出来ていない。雰囲気実現の為の要素として3Dサウンドのカットは大きく、その点からは減点せざるを得ないだろう。
なお男性と女性を選べる関係上ボイスのデータは2倍になっており、会話量の多さと合わせてサウンドデータの量は相当多いそうだ。
<INTERFACE>
インターフェイスに関しては1から大幅に変更されており相当な簡素化が図られている。前作をPS2に移植する際にパッドでの操作を可能にする為にI/F系を見直した結果、如何にPC版の操作は煩雑で無駄が多かったかに気が付かされ、その時点から次作ではこういった簡素化されたI/Fで製作する事を決めていたそうだ。つまりこれに関してはXboxと同時開発という事からそれに合わせたのではなく、これがベストだと考えるのでPCでもそうしたとコメントされている。
HUDの構成は独特であり両側に曲線を描いてベルトに装備されたアイテムとBiomodが表示される。このデザインはAlex Dの視点その物を直接表している(彼の目には世界がこういう状態で見えているという意味)。透明度や色は変更可能なので画面に重なっている点に関しては慣れればそれ程気にはならない。
装備スロット数はすぐに取り出せるベルトに6個、そして内部的に6個のスロットが用意されている(StrengthのBiomodを持てば増える)。全てのアイテムはどのような大きさであっても同じ1個のスロットを占めるように変更された。必要に応じてベルトと内部の物を入れ替えてやるシステムで、緊急時はPauseを掛ければ内部スロットの物でも持ち替えられるとは言え、これは面倒になってしまった感を受けた。そもそもゲームプレイ的にすぐに出せる物を6つに制限するというのなら話は分かるが、Pauseを掛けられるのでは制限には大して意味が無く、PC版であれば特定のアイテムに関してはショートカットキーでの選択をサポートするべきだろう。全体で12個というのはかなり所持アイテムの選択が厳しくなったと言えるが、ゲーム自体がそれほど難しくないので大きな苦労は感じなかった。
操作系ではMantle動作(Jumpキーを押し続けているとよじ登る動作をする)がユニークな点。座った状態が音を立てない状態と設定されており、座ってゆっくり歩くという動作は省かれている。AutoaimもONにする事が可能。一々貴重なMultitoolを使う前にSaveしてから試す必要が無いように、箱を開けなくても中身が見えるように透明化されたのは改善点。
デモにおいては相当I/Fに問題が感じられたのだが、V1.1パッチによってその大部分は改善されている。HUDの間隔が狭くて見にくい、文字のフォントがXboxに合わせて大きい、またそれ故すぐにスクロールして流れていってしまう、マウスの動きにラグがあるといった点は修正されている。右クリックによるアイテムの差し替え機能や、I/F画面中にボタンが追加されてESCキーの使用頻度も減らされている。Quick
Save/Loadの為のキーも追加されたし、biomod/inventory/datavaultの呼び出しキーにてそれを元に戻したり相互に画面内を移動したりする事も出来るようになった。
問題点としては以下の様な点がある。
*障害物に近付くと持っている武器が隠れる(どける)という風になっているのだが、反って今持っているのかが分かりにくくなっている
*死んだ相手からアイテムが落ちるようになったのでそれが死体の下に入ってしまう事が多く、一度死体を持ってどけないとならない事が多い
*照準の合わせ位置が中央からズレるケースが多く、固まってアイテムが落ちている際に目的の物が取りにくいゲースも多い
*武器禁止の個所に入るときに一々同じ会話が繰り返される
*Notesが妙に間が開いていて見難いのと、Objective等が逆順にスクロール出来ない
*ENTERキーを押さないとならないという個所があるのはマウスのクリックでも出来るようにしてもらいたい。
*ジャンプが変になる(高く飛び上がる)事が有る
*その相手との会話(カットシーンになる)が終了したのかどうかが再度話さないと分からない
Saveに関してはそのサイズが巨大だった前作に比べるとかなりサイズがコンパクトになった。しかしSave箇所のSSが保存されなくなり、またLoadingが非常に長いという欠点が生じている。なおSave及びキー設定はMy Documents内に保存される形式なので注意。
特殊な点としてOptionの各種設定が保存されないというのがあって、キーの設定のみが全てに共通した設定となり、その他のGraphicsやSoundについてはSaveされたデータに設定が保存されるという形式。よってiniファイルをマニュアルで設定しない限りは起動画面は常に640*480となる。なんでこういう風にしているのか分からないが、設定を色々と変えてプレイしている場合には過去のデータをLoadした時に問題となる。
<英語>
英語自体はそれ程大量という訳ではないが、それでも普通のFPSゲームに比べれば多い方である。問題点としては会話のログが保存されなくなっており、後で内容を見直したりすることが出来なくなっている点。サブタイトルは可能だが画面に流れる文字を止められないので、少なくともそれが理解出来る程度の速度で読まないとならなくなる。
実際問題としてはゲームをクリアするのに英語は大して分からなくても問題無い。ObjectはNotesに書かれるのでそれだけ理解出来ればOKである。しかしこのゲームはストーリーに重きを置いているので、英語を飛ばして進んでしまうとその面白さが伝わらないという危険性が高い。
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