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マウスほど素敵なデバイスはない

 家庭用ゲーム機(コンソール)のプレイヤーが、PCのFPS(First Person Shooter)を初めてプレイする際に戸惑うものの代表例として、マウスとKBを組み合わせた操作方法が挙げられる。ゲームというのは専用コントローラー(ゲームパッド)を使ってプレイするのが当然だと考えていた人からすると、マウスとKBというのは一般的なPCでの操作に使う物だという固定観念を持っていると思うので、確かにそれを使ってゲームをするというのには違和感を感じるかも知れない。そこで今回は「何故FPSはマウスでプレイするのが当然と考えられているのか」について改めて考えてみたい。


 PCの操作環境に関して言えば、マウス操作を中心とした操作体系が一般人に広まったのはWindows 95以降と言える(MS-DOSでの使用はそれ程ポピュラーでは無かったし、Windows 3.1はユーザー数自体がそれ程多くなかった)。しかしそれ以前からPCゲーマーはゲームの為だけにマウスを導入したりしており、マウスも当初はゲーム用のデバイスというイメージも強かったという歴史を持っている。
 マウスの最も優れている所は「素早く正確に画面上の思った位置にポインタを合わせられる」という点で、それが一般的なPCでの操作にデフォルトで採用されている理由でもある。一方でゲームパッドのアナログ・スティックは、微細なポインタの位置調整には向いていない。例えばゲームのメニュー等においても、PCゲームではポインタをマウスで直接目的の場所に持って行ってクリックするが、コンソールではスティックでの微調整が難しいので選択可能項目の上のみをハイライトが動いて行くという方式になっている。もしウインドウズの操作にマウスの代わりにアナログ・スティック状のデバイス(ゲーセンのジョイスティックの様な)を使うようになったら、目的の場所に正確にポインタを合わせ難くなるのでかなりストレスが溜まるものとなるであろう。


 ただしこれはゲームの入力デバイスとしてマウスの方が優れているという意味ではない。典型的な例としてレースゲームはマウス+KBでの操作を苦手としている。アナログ・スティックならばハンドルの切り角やアクセルの踏み込み具合を一定角度の傾きに保つ事で表現可能だが、マウスでは連続して一定の値を入力出来ないので、カーブを曲がる際にハンドルを45度の切り角を保った状態にするといった操作を行えない。
 実際の所PCとコンソールでは、それぞれのデフォルトのデバイスとなるマウスとゲームパッドでの操作に適したゲームがお互いに発達して(人気を得て)、ゲームの種類による棲み分けが行われているというのが現状である。PCのマウス操作に適したジャンルとしてはFPSやRTS(リアルタイム・ストラテジー)が代表的だが、こういったアナログ・スティックを使う事が難しいようなゲームはあえてコンソール用には製作会社が作ろうとはしない傾向にある。その為にコンソールのゲーマーには「全てのゲームはゲームパッドでプレイする事が可能である」という誤解が生まれたりする。そうではなくて、ゲームパッドでは操作がやり難いゲームはそもそもコンソールでは発売される事が少ないだけで、実はゲームパッド以外のデバイスをデフォルトで使うゲーム市場がPCゲームというジャンルに存在しているのである。


 しかし近年になってFPSに関しては状況も変わって来た。Haloからだと思われるが、ゲームパッドでも調整を上手く行う事でFPSのプレイ感覚を生み出せるという風潮が出て来て、更にXbox 360の様な新しいマシンではFPSが作り難い別の大きな原因となっていたマシンのメモリ容量の問題も改善されたので、ここ1,2年では結構な数のFPSがコンソール用にも発売されるようになっている。そんなコンソールでのFPSから、FPSの本場であるPCゲーム界に入って来た新参プレイヤーが驚くのが、「一般的にはFPSではゲームパッドがサポートされていない」という事実である。コンソールとの並行開発となる最近のゲームではコントローラーをサポートしているケースも有るが、総合的にはゲーム用のコントローラーを使えるFPSは稀である。大抵はゲーム側が認識すらしないので、どうしても使いたければJoytoKeyの様な外部ユーティリティに頼るしかない。


 何故PCのFPSではゲームパッドをサポートしないのかについて語る前に、ゲームパッドではどういう処理が行われているのかについて確認しておこう。先に書いたようにアナログ・スティックでは正確に画面上の目標(敵)に対して素早く照準(ポインタ)を合わせるのはマウスに比較して難しい。ちょっと行き過ぎたので反対方向に戻したら今度は逆に行き過ぎてしまって…..といった動作が繰り返されたりもする。そこでAuto-aimと言って或る程度の距離までに近付いたら自動的に照準が目標に対して動いてピタッと合わさるとか、Soft-aimと言う照準のサイズ自体が大きくてその中に目標が入ってさえいれば中心部部分に居なくても当たると判定される、といったアシスト機能を付けてストレスを軽減するようになっている。
 PCのFPSプレイヤーがゲームパッドでのプレイに不満や拒否反応を示すのは正にこの点で、目標へのエイム(狙い)にアシスト機能が付いてしまっては、FPSの本質的な部分が損なわれてしまうというのがその理由である。ただこの点はコンソールからやって来たFPSの新参プレイヤーには理解が出来ない部分かも知れない。「とにかくパッドでやりたいのだから、別にアシスト機能が付いていても良いのではないか?」と考える人もいるだろう。



 FPSのプレイヤーがゲームパッドでのプレイを嫌う理由の説明として、ここではゲーセン及びコンソールにて現在人気の高いジャンルである”音ゲー”を例にして説明させてもらう。音ゲーと言ってもいろいろ有るが、本質的には画面上を動いている幾つかの音符(記号)がガイドラインを通過するタイミングに合わせて該当するボタンを押し、それぞれのボタン押しがどれだけ正確にガイドライン上の通過タイミングに合っていたかでPerfect, Great, Poorといった評価が付いて、それによる合計スコアを競い合うという物である。
 ここで音ゲーを初めてプレイするという或るプレイヤーが「どうして押したタイミングがどれだけ正確だったのかで評価を分けるのか? 範囲内に入っていたらPoorから何から全て一律にPerfectの判定で良いじゃないか」と言い出したとしたらどうなるか。「いや、どれだけ正確にガイドラインに合わせてボタンを押せるのかが音ゲーの本質部分なのだから、そこをそんなに適当な判定にしたらもうゲームとして成立しなくなる。確かにプレイは簡単になるだろうが、同時にゲームとして深みも無くなるからむしろ詰まらなくなってしまう」といった反論を浴びる事になるだろう。


 FPSのプレイヤーがゲームパッドでのプレイに感じている事もこれと同じである。つまりゲームパッドの照準アシスト機能とは、PCのFPSゲーマーからすると「音ゲーにてPoorから何から全て一律にPerfectと見なしてしまう判定」と同意である。どれだけ正確に画面上の目標に自力で照準を合わせられるのかがFPSの本質なのだから、そこにアシストの機能が入ってしまったら意味が無いし、上に書いたのと同様に「プレイは簡単になるだろうが、同時にゲームとして深みも無くなるからむしろ詰まらなくなってしまう」のだ。
 言い方を換えるとゲームパッドとは、「タイミングがPoor(最低限)の範囲内に入ってさえいれば、全てのボタン押しを自動的にPerfectと判定してくれる」ようになる入力デバイスとも言える。あなたが音ゲーをプレイするとして、この様なチート系のデバイスを使いたいと思うだろうか? 要するに「PCのFPSは何故ゲームパッドでは出来ないのか? やれる方法を教えて欲しい」と言われても、PCのFPSゲーマーに取ってみると「それは判定基準が一律の音ゲーをプレイするのと同じ事で本質部分が損なわれてしまうから、PCでFPSをやりたいのならばマウスでプレイする方法に慣れて欲しい」としか言えないのである。


 何故この様な誤解が生じるのかについても分析してみよう。コンソールではFPSではなくTPS(Third Person)と呼ばれる三人称視点のアクションが主体である。コンソールから来たプレイヤーは「FPSとは単にその視点が一人称に変わった物」という認識を持っているケースが多いが、実は両者はゲーム性自体が異なっている事が多い。
 例えばTPSでは刀や棍(棒)を武器として持ったり、自らの肉体でのパンチやキックを使って戦うという近接戦メインの物が多い。こういったゲームでは敵が近くに居るので的が大きく、照準をそれに正確に合わせるというのはあまり意味が無い。だから製作側も「ターゲット切り替え方式にして、囲まれている際にどの敵を攻撃するか」という点に判断の素早さを要求するゲーム性や、技を出す際のコンボ操作にプレイヤーの技量を要求するといったデザインにして、照準を合わせるという行為は或る程度その敵の方を向いていれば自動的に当たる程度にしてやり、そこには正確性やアクション性を求めないという傾向が強くなる。
 シューティング物にしても、コンソールでは移動と照準という2本のアナログ・スティックを独立させて360度同時に動かすというのが難しい為に、その辺を考慮した仕様がいろいろと考えられている。例えばカバーを使ったシステムがそれで、物陰に隠れて攻撃するのを原則とし、隠れた状態からだと移動用のアナログ・スティック側は複雑な操作をせずに済むので、照準を合わせる方の操作にのみ集中出来るという風に出来る。


 しかしPCのFPSでは基本的に持つ武器は銃器系であり、戦闘においても中・長距離戦が多くなる。それとマウスでは非常に高速で周囲を見渡せるのに対して、ゲームパッドはそれを苦手としている。その為にコンソールでは敵の配置が前方向を重視しがちになるが、PCのFPSでは広範囲から敵が攻撃して来るのでマウスを使わないと素早く応対出来ないという違いも持っている。またアクション性の高い物では激しく様々な方向へと動きながら、同時にマウスの照準を同じく動き回る敵に対して合わせるという動作が要求される等、単に視点が一人称になっただけではなくてゲーム性自体が異なっているケースが多い。よってゲームパッドでの操作にはアシスト機能を加えたりする必要が出て来る訳で、その辺を理解していないと「パッドでも十分にプレイ可能なはず」という誤解が生まれてしまったりする。


 最後にその他のマウス+KBの操作がFPSに向く理由を幾つか列挙しておく。


*コンソールではゲームパッドでの操作が遅くなる事を見越して、敵の反応速度や攻撃の正確性が落とされている事が多く、見た目として敵の反応が鈍くて不自然に見えてしまう
*マルチプレイにて、マウスでの照準とパッドでのアシスト操作が混在していては不公平が生じるので、一律マウスでの操作以外認めないという方式が望ましい
*武器を数多く持てる場合に、KBならばダイレクトに該当の数字キーを押して目的の物を装備可能だが、パッドではそれを素早く選択する方法が無い(その為に武器は2つ程度しか持てずに、それを切り替えボタンで持ち替えるというデザインが多くなる)
*自動的に照準が合う方式だと、体の特定の部位(ヘッドショット等)を狙うというシステムが使い難い
*敵が固まってしまうとアシスト機能が別の敵に向いたりと誤動作の恐れがある


 PCのFPSの世界に新たに入って来た方にはマウスでの操作は違和感があるとは思うのだが、それが最も操作に適したデバイスであるのは確かなので、取りあえず慣れるまではそれで頑張って見て欲しい。