Paint the Town Red

早期アクセス中のゲームにおいて開発する側が困る事と言ったら、筆頭は「ゲームが売れないので金が入らずもう開発が続けられない」という件。続いて「想定よりも制作が困難で開発が年単位で長期化」, 「技術力不足で約束していた事が実現出来ない or バグを修正する事が出来ない」あたりになる。だがその一方で特殊な事情から困った事態になっているというゲームも存在している。それが今回採り上げるPaint the Town Redとなる。

7DFPSジャム 2014にて公開後に正式版を目指して本格的に開発を開始。Steamでのリリースは2015年10月13日。既に5年以上が経過しているが未だに早期アクセス状態であり、ようやく2021年の早期に正式リリースされる予定となっている。

Paint_the_Town_Red-210115-01
ゲームの内容としては一人称視点の近接格闘アクション。基本は殴りとガードを使っての戦闘となり、その辺のアイテム類を掴んで武器にも出来るのだが、数回使うと壊れてしまうという設定。またはチャージして投げ付けるという風にも出来る。銃器類は全く無いか少なく、また有っても弾薬がほぼ無し。エネルギーを溜めての3種の超能力系攻撃も有り。オンラインでの4人Co-op対応。

大きな特徴としてキャラクターがボクセルで作られており、その為に細かい部分破壊などが可能。それを利用して派手なゴア表現が用いられている。リアルなグラフィックスで人間を描いた場合、技術的には可能であってもレーティングの問題からゴアの表現には制限が加わる。しかしデフォルメされた人間像なので残酷なゴア表現、例えば頭部などが部分欠損するとか、眼に棒を突き刺すとか、顔を抉ってダメージを与えるとかを行える様になっている。大量の流血表現なども同様。

私自身はGreenlight時代から面白そうだというのもあって注目しており、EA開始から少し経過した2016年1月に購入。そして以降の開発状況に関する満足度だが、率直に言ってしまえばガッカリ感が強い。ゲーム本編とも言えるメインコンテンツはシナリオモードで、これは酒場やディスコなどのロケーションが異なるマップが用意されており、この中でプレイヤーの行動開始により喧嘩がスタート。全員がプレイヤーに向かってくる訳ではなくて全体で喧嘩が巻き起こるという設定で(常にある程度の数はプレイヤーを追って来る)、そこで最後の一人として生き延びればクリア。ロケーションによって敵の種類(タイプ)とか存在する武器類が異なっており、それ等を連続してクリアして行くストーリーモードが実装されるという約束だった。

だがEA開始から5年以上が経過している現在、提供されているシナリオモードのマップはたったの6個だけとあまりにも少ない。当然ストーリーモードは実装されていない。各マップをルールや設定を変えてリプレイを楽しめる様にという面ではトップダウン, 無重力, 銃器モード等かなりのModが用意されているのだが、べースとなるシナリオが少ないので見た目の変化に乏しい。その他では指定された条件でチャレンジをクリアして行くアリーナモード(現在5つのカテゴリ別で、各カテゴリには8個程度のチャレンジが含まれる)、条件を指定して自由に戦えるサンドボックスモードなどは存在するが、やはり本編がコンテンツ不足なのでそれを埋め合わせるまでには至らない。

その一方で大きく成功した要素も有る。レベルエディターを開発して提供しワークショップ対応にもした事により、これを書いている時点で6000以上のカスタムマップ, 600以上のキャラクター用テクスチャーがアップロードされており、高い評価を受けている物も多くてシナリオモードのマップ不足が補われている。その充実度に救われている感はあるが、実際に開発側が作った物は少ないというマイナスの印象は拭えない。

Paint_the_Town_Red-210115-02
そんな中でBeneathと呼ばれるコンテンツが登場する。その名称で明確にアナウンスされたのは2016/07頃の様だが、当時はまだオンラインCo-opやレベルエディターの開発途上だったのでそちらの注目度が高くてあまり関心も呼ばなかったと記憶している。より具体的に語られ出したのが2018/03からで、ではどんな内容のコンテンツだったのかと言うと、

・ローグライク(パーマデス)
・プロシージャル生成される各マップ(ダンジョン)内でゴールを目指す(クリアで次の世界へ)
・クラス制で能力が異なる5種から選択してプレイ(魔法使い系もいる)
・敵はゾンビ, モンスター, 魔法使い等
・マップ内のショップで買い物や成長が可能
・プレイ中の成長の他に死亡時に持ち越せる恒久的なアップグレード要素は有り

より長く楽しめる様に別モードを導入するというのは良く有る話なのだが、これを見ても分かる様に別モードと言うよりは本編のアセットを利用して作られた別ゲーと言う方が適切な位に中身は異なっている。

プレイヤー側の反応は三様。面白そうだという好反応もあれば、人間の敵と戦うという点が重要且つ基本であって、この様なローグライクでRPG的なゲーム性は望んでいないという反発も発生。そしてBeneath側のコンテンツが本編で利用出来たりもあるしまあ良いのではないかという中庸派。この辺の意見の相違はリリース後の現在でも変わっていない。

Paint_the_Town_Red-210115-04
だが実は重要な問題はそこではなく、その開発期間の長さというのがより深刻な件と言える。Beneathの開発状況はアナウンスされてからも続けられてはいたがただひたすらに遅れ続け、最終的にリリースされたのは2019/11/27の事。つまり実質2017年から2019年の3年間、本編のアップデートが控え目になる代わりにこのBeneathの開発に注力していたという事になる。内部事情は正確には解らないが、早期アクセスの開始前から数えて6年間開発を続けているとして、そのおそらくは半分以上の期間を本編では無いある1つのモードの開発に費やしていたという風に推測出来る。さすがにそれは異常であると言わざるを得ない。

コンテンツを増やしてゲーム性にバラエティを持たせたいというのは理解出来るが、その別モードの開発が予測よりも遥かに長期間掛かりそうだとするなら、その時点で先に本編の完成を急いでまずは正式発売し、それから追加のコンテンツとして開発を再開するというのが常識的だろう。なんで3年以上正式発売を遅らせてまで、開発を約束していた訳でもないまるで違うゲームモードを重視するのか? 

開発サイドもBeneathの開発長期化により本編の開発も遅れてしまったという謝罪は何回かしている。ではそこまでしてBeneathにこだわった理由とは何かと言うなら、単純に「気に入ってしまったから」という話ではないのかと私は考えている。ゲーム制作は大変な労働である訳だし継続にはモチベーションが重要であり、当然自分達が開発していて楽しいという物を制作したい。それが本編からBeneathへと切り替わってしまった。またはBeneathの方が高く評価されそう, 将来性がある, 売れそうだとかも併せての判断であったのではないか。

では結果としてBeneathはPtTRの所持者にはどう受け取られたのかと言えば、これは見事に成功したと判定出来る。大成功という程では無いがSteamchartsによればそれまでの2年間以上は平均して100人前後のプレイヤー数だったのが、Beneathのリリース後には200人前後へと倍化。特にスレッドの盛り上がりは顕著で、障害報告は勿論だがフィードバックや希望事項などで大量の書き込みが見られる様になっている。開発側も早速Beneathの4人Co-op対応へと開発を急ぐなど好評に応えている。

しかしこの成功が冒頭に書いた様に困った状況を生み出している。それは今後Beneathをどういう風に扱っていくのかという問題である。仮に今全ての所持ユーザーにアンケートを採ったら、開発の一番の優先は本編では無くBeneathにするべきだという意見の方が勝ちそうに思える。私自身としては本編のシナリオの開発に注力して欲しいのだが、中立的な立場から「本編とBeneathのどちらが、このゲームを知らないユーザーに対して受けそうか?」と聞かれるならBeneathの方だろうと考える。もともと本編のコンテンツ自体があまり一般受けはしないだろうという感は当初よりあって、ローグライクのFPS物という事で一般受けはBeneathの方がしそう。現状ではまだBeneathの方もコンテンツが充実しているとは言えない段階だが、それだけに拡張性は高そうだし更に力を入れて開発を続けるならばより面白くなる可能性を秘めている。

Paint_the_Town_Red-210115-05
早期アクセスは途中でゲーム性の変更も有り得るという形態ではあるが、ではどんな風にでも変えられるのかとなるとそれは違う。極端な例としてFPSとして制作していた物を、ストーリー設定は同じだがポイント&クリック式のアドベンチャーゲームに変更しましたでは通らないだろう(実際に販売サイトの運営側から何等かの処罰が下されるのかは何とも言えないが)。ここでの「近接格闘のアクションゲームをローグライクにして世界観等も変更しました」というのはそこまで極度では無いとは言え、変化の幅が大き過ぎるのは確かである。

EAではユーザー側の意見を採り入れながら内容を変化させていくという観点からは、ユーザーの過半数の賛成を得ているならば大胆な変更も可能ではとも思えるが、EAの早期に購入して支援してくれたユーザーの期待を裏切る訳にはいかないという事情もあり、Beneathへの注力を好ましいとは考えないユーザーもそれなりに居る以上は単純に賛成者数の割合だけでは決められない。もちろん両方のコンテンツを同時に発展させて行かれれば一番良いのだが、それだけの資金や人員が居ないのであれば両天秤は双方のアップデートの遅れという酷い事態を招きかねない。

現時点でのストア頁においてはBeneathは目立っていない状態で、この辺りは開発側の立場の難しさを感じさせる。トレーラーにも一部で映るのみでBeneath専用の物は無いし、ストア頁の記述においてもちょっと触れられている程度で、しっかりとストアの記載を全部読まないとローグライクのモードも備えているとは気付かない。ローグライク&FPSで検索してヒットしたユーザーにも間違いかと思われてしまう恐れがある。長年掛けて制作していたお気に入りのモードであるならもっと前面に出して宣伝したいという気持ちはあるはずだが、そちらがメインという風に受け取られるレベルになると初期からの本編の方を充実させて欲しいという人達に失礼という気兼ねもあるのだろう。

Paint_the_Town_Red-210115-06
とは言え目立たないままでは、(おそらく本編のコンテンツのみでは大衆受けはしなさそうなため)正式発売しても大きな注目を集めてヒットする可能性は低そうだから、それと一緒に知られずに埋もれてしまう事になりかねない。ではどうするべきなのか。

一つはBeneathを別ゲームとして独立させてしまうという手法が有る。PtTRからは切り離してしまい単体の有料製品として売り出すの意味。これなら堂々と宣伝が出来るし、FPSのローグライクを求めている人達の目にも留まり易くなる。PtTRの現ユーザーにはこの単体版Beneathのキーをプレゼントすれば問題無い。あるいはこのままBeneathはPtTRのコンテンツとして残すが、別に有料で拡張版のBeneathをリリースするという手もある。Beneathは特に要らないという現ユーザーは基本的な内容に留まるPtTR内のBeneath Basicsとでも言える内容だけをプレイ可能。気に入っていてそれ以上を遊びたいならば単体発売のBeneathのデラックス版を有料で購入するという形態。

そこまで大胆な切り替えでは無く穏当な手段としては、ストア頁にて「2つの大きく異なるコンテンツを含んでいるゲームです」とハッキリと説明してしまって両方のファンを呼び込むという手もある。これの欠点は片方だけにしか興味が無いという人には割高に感じられてしまうという所。

私の意見としてはBeneathに異常なまでに力を入れてしまって本編の方がおざなりになってしまった件については納得が行かないのは確かだが、Beneathが全然面白く無いという話ではないし、そこまでして制作した物が現状ではまるで目立っていないのは勿体ないという気持ちもある。もっとFPS&ローグライクのファンに知って貰える様に努力はするべきだし、それでPtTRの売り上げが伸びたらBeneathだけではなく本編の開発の方にもその資金を回して欲しい。それが上手く行くのならばもっとストア頁にてBeneathの宣伝を強化しても良いのではないかとは考えている。

最後に近々正式発売の予定だが、もっと売れて発売後も(特に本編側の)開発が加速して欲しいので、興味を持ってくれた方には購入の方を検討して欲しいとお願いしておく(私のフレンド内でも所持者は非常に少ないので)。

Paint_the_Town_Red-210115-03