カスタム明度

 今回はホームページ制作におけるある悩みについて書いてみたい。それはサイトの見え方について。具体的にはスクリーンショットの明るさや、ページの配色に関してである。


 現在ゲームのSSの撮影には定番のユーティリティとしてFrapsが存在しているが、サイトを開始した10年前頃は同様の物としてHypersnapが良く使われていた(後に無料での試用が期間限定となり使われなくなった)。当時は3DアクセラレーションのAPIとして3dfx社のGlideに対応したビデオカードであるVoodooシリーズが強く、このビデオカードを2D専用かDirect 3DやOpenGLを担当する別のビデオカードと組み合わせて使うというケースが多かったので(Voodooは演算処理しか行わない)、その様な環境でVoodoo側を使うゲームのSSをちゃんと撮れる物が少ないという事情が在ったのである。それかゲーム自身が用意している撮影機能を使うしかなかった。


 ところがゲームや使用ツールにも因るのだが、撮影したSSの明るさにオプションでの設定が反映されず、全てデフォルト設定の明度になってしまうというケースがあって、掲載用に多数のSSの明るさを加工しないとならないという羽目に陥ったりしていた(現在のFrapsではまず無い)。そんな作業中に疑問に感じたのが、「現在明るさを自分にとって適切な値に調整しているが、各人のCRTモニタによってその明るさは異なるのだから、見る人によっては適切ではない事になる。だとするとこれは何か標準とされる明度の基準値が存在しているのではないか?」という点である。



 だが実際にネット上を調べてみて判明したのは、Web上での見え方についての問題はより深刻であり、頭を悩ませている人は多いという事実であった。そこで知った大きな問題の一つが色温度の件である。色温度については検索すれば幾らでも詳しい解説が出て来るが、簡単に言えば全てのモニターには色温度の設定が存在していて、その値の代表値は5000K, 6500K, 9300Kの3種類。6500Kが最も自然な値とされており、高くなるほど青みが掛かった色表現になり、低くなるほど赤みが強くなる。この値には絶対的な基準値は存在せず、モニタの出荷時設定は物によって異なり、また調整機能が付いていないモニタも存在している。


 当時私が見た悩みの多くはホームページ上でイラストやデジカメ撮影の写真を掲載している人からで、この場合その画像が他人からどの様に見えるのかは非常に重要となる。何故ならその色合いも含めて一つの作品と言えるのだから、その見え方が人によって異なっていたのでは困るからだ。印刷物の場合には仕上がり見本を見ながら調整してやれば、全ての人に対して意図した明度や色合いの作品として直に見せられるが、モニタを通しての画像は各モニタの調整によって見え方が変化してしまう。
 そこで問題となってくるのが色温度で、理想的には自然な値である6500Kにて調整したい。しかし当時は主流であったCRTモニタの多くは出荷時の設定が9300Kであり、そのままの設定で使用している人が圧倒的に多数派である。この9300Kという設定はTVモニタの設定がそうなので、それと同じにした方が違和感が無いという理由かららしい。すると6500Kで調整した画像は9300Kの環境では青みが掛かって見えてしまう事になり、それを考えると不自然ではあっても9300Kの環境で調整した物の方が多くの人には自然に見えるので、そうせざるを得ないという悩みが生じる事になる。



 私にしてみるとゲームのSSに関しては色合いの調整をする事はまず無いので、これは撮った物をそのまま載せるというやり方で問題はない。色温度が異なる環境では違った色合いに見える事になるが、それはそれで無加工のSSなのでゲーム側の設定した色合いはキープしているという意味になる。関連するのはページの配色の方で、こちらは見え方が異なるので問題と言えば問題であった。


 しかしこの件については2005年頃に調整用のツールを見付けた事で一旦解決を見た。Web上のコンテンツ制作のガイドラインとしてウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン (WCAG) というのが存在していて、この中に画面上の配色についての分析と推奨値が記されている。それを検査する為の調整ツールとしてカラー・コントラスト・アナライザーというユーティリティが無料で提供されており、これはWeb ページ上のテキストの判読性および画像上の文字の判読性を判断するのに使う物で、日本語版も在ってバージョンアップにより2.0以降は更に使い易くなっている。


 画面の背景色と文字色をクリックして拾うと、それがWCAGの見易さの基準値に達しているのかを判定してくれるツールで、コントラスト比の適合チェックも可能。モニタの設定は当然個人差があるので全てのモニタにおいてちゃんと見える事を保証するものではないが、少なくともこういった世界的な基準値があればそれに合わせられるので大分助かる。それまでは見た目での判断だったので基準を満たしていないページも在ったが、これの導入後はちゃんと合わせるようにはしている。



 しかしここに来て新たな悩みも発生している。先に書いたように、一般的なCRTモニタの色温度は9300Kで、大抵の人はそれを変更せずに使っている。その情報を見た10年前から、それなら私も色温度は9300Kのままでという姿勢で来ていた。液晶モニタが増える中でも、FPSをメインに扱っている関係上、見ている人の多くはCRTモニタを使っているという推測からそれは今でも変わっていない。


 だが既に新規CRTモニタの製造は特定分野以外はほぼストップしており、新しく買い換えるには液晶モニタしか選択肢が無いという状況である。そして液晶モニタでは色温度の初期設定は6500Kが多いそうなので、それを考えるとCRTモニタを使い続けるにせよ、どこかで色温度を6500Kへと変更せざるを得ないだろう。とは言え変えてしまうとこれまでに制作したページの色合いが変わって見えてしまう事から違和感も強く、どこで行うかについて悩んでいる状況である。




 次の問題点は冒頭に帰って明度の調整である。まず基礎知識からだが、調整の三要素となるのは明るさ(Brightness), コントラスト, ガンマ。コントラストとは「最も暗い部分と最も明るい部分の輝度の差」を表す。ガンマ(補正)は入力信号と実際の表示における補正を行う。モニタの特性によって入力された色別の彩度や輝度は変化してしまい、その画面出力は入力信号との綺麗な比例グラフにならない。そこでグラフを綺麗に戻すような補正値を加えてやるのがそれに当たる。最も明るい部分と暗い部分は変更せずに、中間部分の明るさを変化させる物と考えても良い。基本は明度とコントラストを調整してからガンマ補正を行うという手順で、明度やコントラストを変更したらガンマ補正はやり直しとなる。モニター側の調整をいじるか、ビデオカード側での調整値を変更するのかはその人次第だが、片方で調整しきれないのならばもう一方の値を見直してみる必要があるかもしれない。


 これについては調整画像を用意しているサイトも検索すると幾つかヒットするのだが、完全とは言えない部分もある。理由は不明だがサイトによって明るさやコントラストの調整値が異なっていたり、ガンマについては調整のやり方が目視によるよる物なのでどれもちょっと難しい。中には他のサイトのガンマ調整は原理的におかしいと主張しているサイトも在って、どれを信用したら良いのかよく判らない状況でもある。特にガンマ値については使用しているモニタの特性に依存するので、これに合わせれば良いという絶対的な基準値が存在していないので更にややこしい。更に加えて液晶モニタとCRTモニタでの見え方の差という件も出てくるので、調整サイトでもそれぞれに合わせた調整画像を用意している所で行わないと適切にならないというのも注意する必要がある(ただしそれを明記しているサイトは少ない)。


 またこの三要素の調整は周囲の環境によっても影響される。昼間の自然光と夜間の蛍光灯下でのモニタの見え方には差があるので、理想的には幾つかの設定を周囲の光や明るさに応じて切り替えるべきなのだが、そこまでやる人は稀だろう。よって自分が一番良く使う環境下での調整を行うしかない。他にはモニタの経年変化や、電源を入れてからの時間経過による差も影響してくるので難しい。


 個人的には一応幾つかのサイトの調整画像を見て、白から黒へのグラデーションがちゃんと分離して見えるか等は調整している。しかしそもそも適正な値に合わせている人がどれだけいるのかという問題があるし、適正値に調整すると逆に見辛かったり眼精疲労を覚えたりするなら無理にそれに合わせる人もいないだろう。会社内の各人の使用モニタなどを見ても、その調整値には大きな差があるのが実際である。よって私が適正と思える値に合わせても、それが見てくれる人にとってどの程度の確率で適正に見えているのかは知りようがない。それとサイト開設以来現在のCRTモニタが三代目なので、それぞれのモニタのガンマ特性が異なる仕様上、過去のSSを今見るとその明るさ調整が変に見えたりというのもあって、やはりこの点は難しい所である。


 一応現在ではSSは若干明るめの調整にしているケースが多い。これは明るい画像を見て脳内で「実際にはこれよりも暗い」という補正を掛けるのは可能だが、逆に暗い画像で見えない場所が多いと、そこから明るい画像を想像するのは困難という理由による。だが暗いのが特徴のゲームだとそれも問題になる恐れがあるので、常に悩みながらの調整というのが実情である。