前回のGreenlightの終了に続いて、今度は2017/06/13よりスタートしたSteam Directについて書いてみる。
Directを通してストアで販売する為の必要手続きは基本的にGreenlightと一緒だそうで、その内容については何かハードルがあるのかは私には良く解らない。ただ気になる点としてGreenlitに到達しているのにSteamで販売されないゲームの中には、他のサイトでは普通に販売されているというケースがある。こういうのは何かSteamで販売する上で審査に問題があって不可とされたのか?などと想像していたのだが、そういうケースがあるとするとDirectの利用に障害が発生する開発者もありえる事になる。
保証金(アプリケーション料)は登録ゲーム一本につき100ドル。これは大量のゲームをスパムの様に投稿させない為の規制であり、売り上げが1000ドルに到達した時点で返金される。1000ドルと言うと10ドルなら100本 5ドルなら200本となりハードルはそれほど高くない様にも見えるが、この金額はSteamストア直での売り上げとなる。無料で配ったり, バンドル内で売り上げたり, 他のサイトで購入したキーを登録したりでゲームの登録数が1000ドル相当の本数に達したらではない。そう考えるとマイナーなゲームにとっては厳しいという感もある。セールで販売数を稼げるが、それだけ単価が下がるので簡単ではない。別件でフリーゲームはどうなるのかという疑問もあり。
登録後30日間はゲームをリリース出来ず、「近日公開」の予告ページに掲載する必要がある。その間にValve側からの登録審査や、ユーザーからは頁の記載内容に誤りがないかといったチェックが行われる。これは制限というよりもむしろ歓迎すべきルールと言えよう。以前より近日登場の頁を経ずにいきなり発売される新作に対して、「そんな事をしたら余計にユーザーの目に留まり難くなるだけ。余裕を持って近日発売の欄に登録して知ってもらえるチャンスを増やすべき」と感じていたので、これは良い方向に働くはずである。
Greenlightにおける大きな問題点として、通過条件が緩い為に低クオリティの作品がストアに溢れかえっているという件があった。これは不正行為による通過操作への対策が無いという問題も含まれている。そこでDirectでは発売されるゲームの審査を行うというプロセスが設けられている。
このレビュープロセスはこの様に記載されている。『開発者のためにはゲームのリリースの妨げとなるような、細かくて煩わしい審査プロセスは避けるべきだと思う反面、ユーザーのためにはゲームが正しく設定されていてコンピューター上での予期しない動作が発生しないことへの確証を得る必要があると考えています。そこで、レビューチームが各ゲームを実際にプレイして、ゲームの設定、ストアページ上の説明との整合性、悪質なコンテンツが無いことを確認するための短いレビュー期間を設けています。設定に誤りや問題がない限り、このプロセスは通常 1 ~ 2 日で完了します。』
上記の様に審査をするのは、著作権等の規約違反に触れていないか, ちゃんとまともに起動や動作をするのか, 内容説明と合致しているか等であって、ゲームのクオリティそのものについては何も審査されないと私は考えている。審査プロセスが入るという事からこれでクソゲーが無くなるといった意見なども見られたが、そういう事にはならないだろう。そもそもクソゲーはダメと言っても、それはどういう基準で決定するのかという問題がある。1割のプレイヤーが傑作だと言い、残りの9割が駄作だと判定するゲームは世に出るべきではないのか? そうでは無いというならその判断基準は何割なのか?という風に答えの出ない議論になるだけである。
他にもGreenlight時代にはAsset Flipが大きな議論になっていた。ゲーム内で使用する2D/3Dのアート素材を自分で制作せずに、(ほとんどor全て)販売店で購入した素材で構成するというゲームである。見た目が似た様になるから販売を許すべきではないというユーザーとの間で、コメント欄にて激しい争いが頻繁に発生していた。これもまた正規に販売されている素材を正規に購入しているのならば規制するとは考えられない。規制されるとすれば「早期アクセス」と謳っているがあまりにも何も出来ていない状態とか、説明文の記述とは大きく内容が異なる(実装されているかのように書かれているが未だ)といった虚偽申告のケースに限られるだろう。
まとめると、自分自身が面白いと思っているゲームは他人がどう感じようが自由にリリース出来るし、自身でクオリティが低いと感じているとしても、売れずに保証金が帰って来ないのを覚悟でゲームを出すならそれは本人の自由。ゲームのクオリティ自体を検閲する事は無いはずである。よってそれが周囲からクソゲーだと言われる様な物であっても、それでも発売したいという人が多いならば、Greenlight時代よりも低クオリティのゲームはむしろ増える可能性もある。
一方で低クオリティゲームが多いという状況を改善してくれる可能性がある変更点もある。それはトレーディングカードを利用した悪質なゲームの排除というシステム面での修正である。 トレーディングカードの変更について
簡単に説明すると悪質なゲームとは、とりあえずゲームの形をした代物を製作する → Greenlightを通過させる。出来ないのならば架空アカウントや金を使った投票依頼などをしてでもGreenlightを通す → 販売者はプロダクトキー生成が可能なので、これでキーを制作して大量の架空アカウントに配布する → 自動動作する架空アカウント(bot)にそのゲームをプレイさせてトレーディングカードをドロップさせる → そのカードを利用して金を稼ぐという物。この場合対象として使用するゲームのクオリティはどうでも良い訳なので、事情を知らないプレイヤーからみると酷いゲームが量産されているという風に見えてしまう事になる。
そこで対策として、ゲーム側がトレーディングカードがドロップする様に設定した後に、コンフィデンスメトリクス (信頼度基準) に到達するまではカードをドロップしないという様に規定された。Steamでは(プライバシーを除く)多数のデータを個別のアカウントから得られるので、それを解析する事でそのアカウントが実際に存在しているユーザーか、単なるbotとして利用されているアカウントなのかをかなりの正確さで判定する事が出来るというのがValve側の主張。そこで実在のユーザーが一定数以上購入しているといった判定により、カード乱獲が目的のゲームではないと判断されればカードがドロップする様になる。この新システムにより、正規ユーザーがちゃんと購入していると認定されない限りはカードがドロップしなくなるので、カードドロップ目的の「形だけゲーム」の販売が大きく減少するはずという理屈になる。なお仕様としては認定時点でそれまでのプレイ時間に応じたカードが即ドロップされるので、認定後に改めてドロップの為にそれまでの時間分を再度プレイし直すという必要はない。
そうなると気になるのはトレーディングカードを目的とするユーザーの影響である。Steamにはゲームの内容には特に関心なくトレーディングカード対応の安価なゲームを購入して、カードの売買やバッジの作成を行うという層が一定数存在している。こういった人達は実在するので、その購入により基準が達成されてしまっては効果が無い。
まず仕様として現在はゲーム販売者が登録するゲームの情報タグ欄にて、「Steam トレーディングカード」の項目は販売者が既に対応登録をしていたとしても、基準達成までは表示されない様になった。つまりカード目的のユーザーがこの「トレーディングカード対応」のタグで検索してもヒットしなくなった為に、そういったユーザーに買って貰えるチャンスは大きく減少している。
詐欺をする側の対策としては、どこか別のサイトで既に対応は済んでいるゲームの一覧を掲載して、「買ってくれればカードがドロップするようになりますから是非買って下さい」と訴えるとかになるのだろうが、カードにしか用がないユーザーが100%ドロップする保証が無いゲームを先行して購入してくれるのかというと甚だ疑問。他の誰かが買ってドロップする様になってから買えば良いと皆が考えて売れない可能性が高い。それともしカード目的のユーザー達が買う程度で基準をクリア出来るのならば、こういった粗悪ゲームを出す事に歯止めは掛からないだろうから、それなりに認定基準は厳しいと想像される。そして詐欺ゲームでも突破が容易となったらドンドン厳しく変更されていくのだろう。
Steam Directの利用度はどうなるのか これは予測が難しい。自由に売って良くなる訳だから販売数は増えるというのはかなり確かだが、どの程度増加するのかは未知数である。年間展望等でも書いているが、2013年以降のSteamでの発売ゲーム数は 565 → 1772 → 2964 → 4207 となっており、ほぼ年に1200本ペースで増え続けている。6月時点での比較では今年2017年はその最高を記録した昨年を300本ほど上回っているが、下半期の方が発売本数は増える傾向にあるので、Directが無かったとしてもやはり1200本増ペースを維持していたという可能性もある。
売り上げの方はどうかと言うと、データまとめで有名なSteam Spyによれば、これだけの数が増えている分、ゲーム一本当たりの所持者数は結構減少している。しかし売り上げランク上位においては特に変化は見られず、それだけ中位から下位ランクの作品、いわばインディーズゲームの多くが販売数減の影響を強く受けているという話になる。今回のDirectのスタートにおいても、それによってユーザーが買ってくれるゲーム数が劇的に増えるとは考えられない。落とす金が同じだとしたら、本数が増えた分だけそれぞれの売れ行きは鈍る事になる。
そうなると「自由に売れるようにはなった。しかし売ったとして期待しているほど自分のゲームが売れるのか?」という懸念が当然出て来る。大量のゲームが同時に発売される事で、お互いが市場を食い合って惨状と化すのではないかという問題である。
第一にそもそも自分(達)の発売するゲームをほとんどの人が知らないし、宣伝する金や手段も無い。次に発売時に新作欄に載るゲームが多過ぎて存在自体に気が付いてもらえない可能性がある(現時点で一日15作位が登録されている)。自分のゲームを実際にストアで見てもらって気に入られないならともかく、それ以前に見てもらえないという問題。更に気に入ってもらえたとしても、発売数が多い分だけ自分の同ジャンルにライバルが存在する可能性が高い。似た様なゲームが複数存在する場合、そのタイプのファンであるユーザーが「じゃあ全部買おう」となってくれれば申し分ないが、とりあえずどれか一本だけとなる可能性が最も高い。するとライバルと評価が互角だとしても売り上げは1/2, 1/3と減り、負ければ1/10とか悲惨な目に遭う事も考えられる。
そこで存在を知ってもらえるチャンスはセールとなるのだが、もはやここも地獄としか言いようが無い。あまりにもゲームが増えた為にセール時の対象ゲーム数も比例して増加しており、皆さんもお解りと思うのだが、今やセール中のゲームを全部確認するだけでも大変というレベルに達している。結果的に割引率が高い物でないと無視される恐れが高くなっており、そうなると目立つ為には割引率の突っ張り合いとなるが、それに勝利したとしても売上額は低くなるという状態に。
以上の様にインディーズであっても発売前から注目されている有名な作品とかでないと厳しいというのは確かで、低予算でそこそこ売れれば良しというゲームならばともかく、ここまでに結構金を掛けているのでやはり多数売りたいと考えている様な所にとっては、自由に売れる様になったとは言ってもバラ色の未来とは到底言い難いのが現実である。
これからの発売本数はどうなるのだろうか? Greenlightの時よりも本数が減るという可能性はかなり低い。対して自由販売が解禁されたので爆発的に増えるという可能性はあるが、上記の様にあまりにも同時発売数が多い時に発売するのは不利という面があり、最初は様子見であまり増えないという事も有り得る。しかし最初が少なくてここから年末に掛けて劇的に増えるという状況も考えられ、そうなると早目に出してしまった方が良い訳でこの辺の見極めは難しい。
近日登場の頁を見てみると、Directの開始から最低限の待機期間を経た7/13~14辺りを発売日としているゲームがかなり多くてこれはDirect経由のゲームだと思われる。ゲームに絞って検索すると全32頁の表示となるが、曖昧だが割と最近でも22~3頁程度だった様に思うので、それが正しければ25本×10頁とすると250本くらい登録が増えている計算になる。これが多いのかどうかは何とも言えないが、少なくともまだ莫大な増加数では無い。
それと現在はラストにGreenlitに認定された1600本のゲームが平行して存在しているという件も、発売数の読みを判り難くしている要素の一つとなる。数が多いとは言ってもある程度は駆け込みだろうし、年内に出せるレベルの物はそれほど無いとも考えられるが、それでも通常時よりも遥かに多い数がGreenlitに認定されているので、こちら側からの発売ゲームが年内だけでもかなりの数に上るという可能性はある。そうなるとDirectと併せて今後数年を超えるような発売数のピークが今年の後半に発生してしまうケースも起こり得る訳で、発売を考えている側からするととても動き辛い厄介な時期なのは確かだ。
大量のゲームが発売される状況に対するSteam側の対策。これもまたアナウンスで触れられているが、Steam側としても出来る限り「各ユーザーが欲しいと感じるゲームを適切に推薦出来る様なシステム」を構築したいとしている。それに関してはSteam Directの開始に当たり特設ページの様な物を設置して盛り上げを図るのかと予想していたのだが、そういった物は無くて単に近日発売欄に掲載されるだけとなっている。
現在明確に示されているのはキュレーター(推薦人)を有効活用しようという案。現在進行中のシステム変更なので詳細は不明だが、完全なオプションであったキュレーターのストア上での影響力を高め、また出来る事を増やして一般ユーザーへの推薦をやり易くするという狙いが公開されている。確かに増え過ぎたゲームの中からそれを欲しがっているだろうユーザーに推薦するシステムというのは重要であり、ユーザー自身のタグによる検索では限界がある。
キュレーターがテーマ別にゲームのリストを作成可能になるそうなので、細分化されたジャンル別に推薦ゲームのリストを公開するといったやり方になるのではないか。他にはYouTuberによるプレイ動画の宣伝効果というのは大きいし、こういった他サイトでの素材をキュレーターが埋め込みで簡単に公開出来る様にもなる模様。
・各ユーザーが自分が好きなジャンルを扱っているキュレーターを見付け易くする
・発売側は自分のゲームのジャンルを扱っているキュレーターに対してそのゲームを提出出来る様にする
・キュレーターは特定ジャンルのゲームリストを作成し、その紹介動画やレビューを簡単に見られる様にする
といった感じでマイナーなゲームでもそのジャンルのファンには見付け易くするという方式と想像している。なおYou Tuberと一緒でキュレーターに大きな権限を持たせると良くないという心配はあるが、この辺はValve側も考慮してのストアシステムを構築していくとしている。少なくとも「そのジャンルのファンなのに、同ジャンルである某ゲームの存在すら知らない」といった状況は双方にとって解消したい問題であり、ストアの新システムが効果的に働く事を期待したい。