Steam Greenlight

 Steamではインディーズ会社を支援する各種システムを近年起ち上げているが、それについての紹介と感想などを書いてみたい。


 今回はGreenlightを採り上げる。これは全く内容を知らないという人の方が多いと思うので説明から。定義としては「Steam Greenlight は新たにSteam上にリリースされるゲームを決定するため、コミュニティの協力を借りるシステムです。」, 「Steam Greenlight は以前の提出プロセスに代わるものとなります。Steam の利用は初めてで、ゲームを提出してみたいという全ての開発者及びパブリッシャーは、Steam Greenlight を通して提出しなければなりません。」とあり、2012/08からスタートしている。
http://steamcommunity.com/workshop/about/?appid=765&section=faq


 以前のSteamではそれまでに全くSteamとのコンタクト(販売履歴)が無い会社においては、売りたいゲームを提出しSteamと直に交渉して販売の可否が決定されるというプロセスだった。それを一般公開してやり、Steam側では無くユーザーの投票によって販売の可否を判断するという様にしたシステムである。


 エントリー部門は現在ゲーム, ソフトウェア, コンセプトの3つ。一応の区分としてはまだアイディア段階の物はコンセプト部門に提出し、既に開発が進んでいる物はゲーム部門にエントリーという形になるが、厳密に審査が行われる訳では無い。ゲーム部門にエントリーするには最低でも1本の動画と4枚のSSが必要とされるが、実際にどれだけ出来ているのかはかなり差があるし、逆にコンセプト部門にかなり出来上がっている物がエントリーされていたりもする。


 違いとしてはコンセプト部門は登録無料で、ユーザーからの投票(Yes/No)による採点(5段階☆)を受けられるが、評価されてもそれは直接の販売許可には結び付かない。対してゲーム部門に登録するには100ドルの専用アカウントが必要(スパム防止の為でお金は全額チャリティに寄付される)。こちらもやはりユーザーからの投票(Yes/No)を受けられて、その成績が審査され認められればGreenlitステータスになり、ゲームが完成したらSteamを通して販売する事が可能になる。ゲームのジャンルや中身等に基本的に制限は無く、悪意有る内容, 公序良俗に反する, 著作権問題, 18禁アダルト等に触れなければOKである。


 また登録するのは既に他のサイトにて販売されている完成済みゲームであっても良い。同じく投票による審査を通ればSteamでも販売出来るようになる。このケースではGreenlitになった際に「必要な分いくらでも、無料であなたのゲームのキーを差し上げます。」という特典がある。正確な仕組みは解らないのだが、Greenlit前に何等かのバンドルやDesuraにて購入していたユーザーに対して(原則として他のダウンロード販売サイトを除く)、制作会社が要求すれば特別にタダでその分のSteam登録用キーを貰えるというシステムである。だから以前に購入したゲームが有ってそれがGreenlightに登録されているなら、既に持っていたとしても賛成票を入れてGreenlitになるのを支援する意味がある(中には通ったら改良版をリリースすると宣言している物も含まれる)。なおキーの追加情報はIndie Game Bundle Wiki内のKeys AddedThe Greenlit games that gave keys thread などにまとめられている。


 では実際にどういう風に選考が行われるのかとなると、ある程度の説明は書かれているが詳細は非公開である。まず我々ユーザーは各登録ゲームに対して、それがSteamにて販売される事を支持するかどうかの投票を一度だけ行える仕組み。この投票結果は登録している各会社(個人)だけが見る事が出来て、自分のゲームの頁訪問者数, Yes/No票数, 全体でのランキング順位等を知る事が可能である。中には途中経過を報告しているゲームもあり、例えばGreenlitになったPapers Pleaseのサイトにて成績表とはどんな感じなのかが見られる。

 登録した会社側のコメントなどは多数見られるのだが、それによれば重要なのはランキングであって、票数よりも長く上位ランクに留まる事が選考時に有利とされるらしい。或いはトップテン辺りにランクインした場合、かなりの短期間でも通過を認定されるケースがある。それとNoの数は上位のゲームでも大凡全体の4~6割を占めるそうで、GreenlitになったゲームでもNoの方がYesよりも多いというケースがあるが、純粋にYes票さえ多ければそれはほとんども問題とされない模様。



 私自身はアクション系のインディーズ作品には大して興味が無いのだが、アドベンチャーやホラー物については以前よりアマチュア作品でも追い掛けているので、そのセクションを定期的に見たりはしている(初期の混乱期を除く)。そんな中でここまでの感想として最初に挙げたいのは、選考基準が想像していたよりもずっと緩いという点になる。どうやらGreenlitに選定される基準として、「実際の所そのゲームが完成までに到達する可能性がどれだけあるのか?」はほとんど考慮されないようである


 ちゃんとした会社を既に起ち上げており、開発資金の目処もついているような物は予想よりも少なく、Greenlitに達したゲーム制作側のコメントなどを見ると大別して三つに分けられる。一つはもう既に完成に近いレベルにあり、短期にリリース可能というゲームでこれは問題無し。二つ目は個人レベルで制作している物で規模としてもそうは大きくないタイプ。制作資金的な問題は少ないが、これから本業の合間に作っていくので完成までには数年レベルと思わせる物も珍しくない。三つ目はある程度は大きな規模のゲームで制作人数と資金が必要だが、それを集めるのはこれからというタイプ。デモとしてアピール出来る段階まで作ってから、配布と同時にKickstarter等の資金募集サイトにて制作資金を調達する予定といった物である。こちらではその資金募集が成功する見込みがある訳では無く、もし失敗すればそれでプロジェクト自体が消滅という可能性が高い。


 長期間予定はまだ良いとしても、最後のタイプにおいてはゲーム開発の資金集めに成功する物は相当少ないと考えられる。Greenlightでの投票は誰でも気軽に行えるが、対して実際に金を出して支援してもらうというのはハードルの高さが違い過ぎる。まず資金援助の募集を始めましたとGreenlitの頁で告知しても、投票後にもずっと頁をチェックしてくれているファンは少ないので告知自体を知らせるのが大変。そして告知を知って貰ったとしても、次には実際に金を出して貰えるかという更に厳しいハードルが待っている。どうもこの辺の資金調達の見込みはあるのか?についてValve側でヒアリングを行ったりはしないらしく、せっかくGreenlitになっても完成品として世に出る物が低い割合では意義が薄れてしまう事になる。まあGreenlitになる基準が低いのは悪い事ばかりではなく、例えば他のある程度は大きなインディーズ会社に面白そうだと目を付けられて、そのゲームの制作権込みでスカウトされるというチャンスも有り得る。だが現時点で既にGreenlitに達しているゲーム数は555本と相当数に上っているが、リリース済みはまだ239本と割合としては少ない。この辺の完成品達成率の低さについてはValve自身からも失敗とのコメントが出ており、それが早期アクセスという後発システムに繋がったりもしているのだろうが、この件についてはまた別の機会に持ち越したい。



 次に上記と関連するが、完成見込み度ではなくほぼ人気投票で決まる為に、面白そうだと思わせるのが最重要となり、実際の完成度は問われないという傾向が出ている。言い換えると紹介頁でのアピールの巧さが、実際のゲームのクオリティよりも優先されがちという状況にある。長い紹介文を書いても全部理解して貰えるとは限らず、むしろ簡潔にまとめた方が好まれる傾向にあったりするが、それはかなり端折ってまとめられた紹介なので、実際のゲームの内容とは掛け離れているというケースも生じる(実際には入っていない要素が入っているかの様に書かれていたり等)。結果的に紹介下手な所は大きく不利になるので、ゲームは完成度が高いのに票を集められないとかが起こり得る。



 続いてはGreenlightのコンテンツの見辛さも問題点である。ユーザー側には現時点での各作品の投票状況を知る方法が無く、単にジャンルを指定して登録順にソートする程度しか行えない。よって初めて来た場合、全部くまなく見るか、最新の登録作品を見るかといった感じで選択肢が狭い。唯一出来るのはコレクションの名目で作品をまとめる事くらい。例えば自分が面白いと思う作品をまとめて他人に紹介するとかは可能だが、これもどの紹介者の物が優れたセレクトなのかを知る方法は無い。


 一般ユーザーに現在の人気ランキングを見せないというのは、おそらくランキングを出してしまうと上位の物にしか注目が行かなくなり、一部のゲームしか皆に見て貰えなくなるからだと思われそれはそれで理解出来る。しかし現在の様に大量の作品数を逐一見て回るしか無いというのはやはり問題があり、何か補助となる情報を開示してもらいたいというのは強く感じる。



 実際に作品をエントリーしている側からも不満の声は多く見受けられる。中でも競争システムへの不満は大きい。ゲーム登録数は現在1600本以上を数えるが、この中でランク50位以内に入るのが一応の目標とされている。そして獲得した票数では無くこのランキング順位がより重視されるシステムなので、他のライバル作品の動向が選考に大きな影響を及ぼしてしまう。つまり人気の高いライバル作品が多く居る時期にはランキング上位に入るのが難しいのに対して、Greenlitに一度に100本とか達した際にはそれ等がランキングから消えるので上位入りの大きなチャンスとなる。その際に投票を集めたい所なのだが、先に書いたように各ユーザーは一度しか投票出来ない&ランキングを見られないので、丁度その時期に登録されたゲームの方が有利になってしまう(最新作順にソートして見る人が多いから)。それ故にランキング順位よりも、それまでに獲得した票数の方を重視して欲しいという声が多い。それと変な話ではあるのだが、登録したゲームのデモをSteamで配布する事が出来ないのも問題。別のミラーサイトへのリンクを張って紹介出来るのみとされている。


 だが好ましい面も持っており有りがたがられているのも確か。インディーズ(個人)にとっての最大の難関とは、そもそもそのゲームの存在を知って貰えるチャンスが少ないという件に集約される。単に自分の起ち上げたサイトで宣伝しても知らしめるのが難しいし、関連するジャンルのゲームサイトで紹介して貰っても劇的に人が増える可能性は低い。よってIndie DBの様なまとめサイトにてアナウンスするのが定番だが、これもまた多数の人の目を惹けるのは一部の作品のみである。


 一方でSteamの場合、Greenlightの頁にアクセスしてもらえる確率は高くないが、とにかく分母が途轍もなく大きいのが利点となる。現在のアカウント数は7500万人を突破しており、一日当たりサインインするユニークユーザー数は600万人を超える。大雑把な計算だが月に一度はサインインするユーザー数が一千万人は居るとして、その中で100人に1人がGreenlightにアクセスするとして10万人。ジャンルが多数有るので10ジャンルとして各ジャンルに1万人の計算(例えばアドベンチャーならばその関連ゲームを見るのに1万人)。当然全員とは行かないが、それでも登録ページを数千人が見てくれるチャンスがある。この数はインディーズの会社にとっては非常に魅力的な数字であり、宣伝費を持たない立場の彼等に取っては欠点を相殺してくれるだけの価値があるシステムだと言えるだろう。(Greenlitに到達するにはYes/No合計で最低でも3万程度の投票が必要というのが相場らしい)。



 といろいろ書いてきたが、実はこのGreenlightは将来廃止される事が既に2014/01にアナウンスされている。これはインディーズ会社への支援を止めるのでは無く、より進化したシステムへと変化する為の措置だとされているが、いつ停止するのかやどんなシステムになるのかといった情報は出ていない。今でも登録は募集中なのでまだある程度は続くと考えられる。


 個人的には審査は最小限にして、数多くのゲームがSteamにて売りたいと考えるならばそれが可能になる様な方式が望ましいと思う。販売されればリリース時にトップ頁の新作案内に載るので、ユーザーの目に留まる確率はGreenlightの項よりも遥かに高くなり、インディーズ会社の宣伝としては十分過ぎる程である。そして売られれば買った人からの評価が付くので、それが以降のユーザーからの判断基準にもなり、面白いと評価されたゲームは売れて、そうではない物は売れなくなるというノーマルな状態になっていくはず。月にインディーズ会社から100本以上新作が発売されるとかでもなければそれで問題はないだろう。


 発売前の段階でのアピールは早期アクセスの方に統合するとかで良いのではないか。Greenlightはアピールの為に良い場所ではあるのだが、その理由からあまりにもエントリー数が多くなってしまっている現状では、目立てないゲームも増加しており問題となっている。よって今の登録制システムを維持するなら、少なくともある程度は完成するまで(デモを用意出来る等)は載せられないとかの制限を設けないと上手く機能しない様に思えてならない。