FPSキーワード探究 第一回 「FOV」

 第二回の予定もまだ立っていない段階だが、とりあえずFPSにおいて重要なキーワードを掘り下げていこうという企画の第一弾として、まずはFOVを採り上げてみようと思う。FOVの持つ意味やプレイへの影響から、近年のFOVが狭いゲームの増加というトピックまでいろいろと。


 最初に医学的な見地からの基礎事項。FOVとはField of View(視野)の略語であり、当然垂直と水平の2方向が存在するが、FPSの世界ではFOVと言ったら普通は水平方向を指す。人間が頭部を動かさずに眼球だけを左右に動かして見られる水平方向のFOVは200度程度だが、同時に見られる範囲は当然それよりも狭くなる。眼球を動かさずに見る時のFOVは150~160度位となり、その全範囲にフォーカス(ピント)を合わせられる訳でもない。フォーカスが合うのは60度程度とかなり狭くなり、端の方ほどボヤケて見え難くなる。それと視覚情報は脳で処理される為に、意識下での注目点はもっとずっと狭い範囲になる(文字を読んでいる時等)。


 よって一人称視点でプレイするFPSゲームにおいて、リアリティを出すにはこの人間の視野に近付ける事が理想なのだが、現実にはそれは困難という状況である。ゲーム創世時代から長い期間はアスペクト比が4:3というCRTモニターがほぼ大半を占め、これは横方向に長くないので水平方向に長いFOVを確保するのは困難。ワイドスクリーンが一般的となった今でも、横方向に長い人間のFOVを再現するほどには横長では無いというレベルに留まっている。画面の上下を切ってしまえば幾らでも横長には出来るものの、逆に表示サイズが小さくなる事で没入感が大きく損なわれてしまう。よって現時点ではATIのEyefinityの様に複数のモニターを横に並べるか、継ぎ目を無くすならば曲面形状のパノラマタイプモニターを使うしかない。更に外界からの映像を遮断するという観点からすると、ゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)を付けて人間の視野をシミュレーションするというのが一番の理想型であり、また3D映像というのを考慮するとこの形が未来のゲームに向けての研究事項にもなっていくだろう。


 実際にFPSで使われるFOVの値だが、90年台後期(疑似では無いフル3Dの時代になってから)においては90度というのが定番だった。4:3のアスペクト比であるCRTモニターでの表示を考慮しての設定である。当時の人気ゲームであるQuake 3Unreal Tournamentもこの値で、両者のエンジンを使って作られた多数のゲームでもデフォルトである90度を採用している物が多い。しかし近年ではこのFOVの値を狭くしたFPSが増加しており、60~70度辺りという物も結構出て来ている。


 FOVの計算方式として代表的な物を挙げると、旧来のCRTモニター時代のゲームは“Vert-”と呼ばれる物がほとんど。これは水平FOVを90度の様に固定してしまい、後は表示面積に応じて縦方向のFOVを自動計算するという仕様。ほぼ4:3しかなかった時代の産物であり、ワイドスクリーン時代の現代においては滅多に見られない方式となった。この方式はワイドスクリーンを考慮していないので、現在それでプレイするとなると4:3の表示を可能にするモード(アスペクト比固定拡大機能)を持っているモニタが必要とされる。そうでない場合には強制的に4:3表示がワイド画面に映されるので、横に伸びた画面になってしまう事になる。


 一方で現在主流なのは“Hor+”で、これは垂直FOVの値を固定するという方式。水平方向の画面サイズが多様化している現代に合わせて作られている。垂直方向のFOVを固定し、後はその画面サイズで許される所まで水平方向を描写するという方式で、つまり画面のアスペクト比によって水平FOVの値が変化するという仕様になる。よってこの方式ではアスペクト比とセットでないとFOVの値は意味を持たない。デメリットとしてはワイドスクリーンの方がCRTよりも広いFOVを持つので、WS側に合わされるとCRT(4:3)でのプレイ時にFOVが狭くなるという点。


 他には“Anamorphic”というのがあり、これはFOVの値を固定して、画面サイズに合わない場合には上下にレターボックス(黒帯)表示をするやり方。デメリットはこの黒帯表示が嫌な人には好まれないという点。この黒帯を無くす設定にも出来るケースが多いが、ゲーム内世界の縮尺を変更する事で対応するのであまり良いとは言えない。例えば16:9がデフォルトの表示を4:3のモニターに入れ込もうとすると、オブジェクトやキャラクター等の全ての表示が縦方向に伸びて横方向に潰れてしまう事になる。


 



 FOVの値を変更すると見え方はどの様に変わるのか。ここではメニューから簡単にFOVの値を変えられるSerious Sam 3: BFEを例として使う。以下は4:3のCRTにてデフォルトの水平FOV75度を基準として値を変えてみた画像である。


 


 以上の様に通常の方法でFOVを変更する場合には、水平FOVと同時に垂直FOVも連動して変わる様になっている。理想としては水平FOVだけを変えられれば良いのだが、それには物理的にモニターのサイズを横に引っ張って伸ばさないとならず不可能である。カメラレンズを覗いて集合写真を撮る時を考えてもらうと解り易いと思うが、両端の人が枠内に収まらない場合、入る所まで後ろに下がって(ズームアウトして)調整する事になる(フィルムのサイズを横長に変えられないのならば)。つまり横方向を延長する=水平FOVを伸ばす=視点が後ろに下がる、という話になる。視点を下げずにFOVを増加させることも出来るが、これは先に示した様にゲーム内世界の縦横比が狂ってしまう状態になるので、極端なFOVの増加には適していない。


 また限られた長さの方向へと広げるので、幾らでもFOVを大きく出来るという訳ではない。現在の横長モニター程度の長さでは、無理矢理水平FOVを180度近くまで伸ばすと画面が歪んでしまい見辛くなってしまう(よく魚眼レンズが例として使われる)。同様にあまりに狭くしても表示画像は異常になる。



 では何故ゲーム側が設定しているFOVを変えようとするのか?だが、昔は対戦で優位になる為というのが主だった。Q3AやUTなどの高速展開で反射神経が要求されるデスマッチ全盛の時代においては、周囲の敵の姿を素早く捉えるというのは非常に重要な事柄だった。そこでデフォルトのFOV90度から110~120度程度にまで広げる事で、90度だと見えない位置にいる画面両端の敵でも把握出来る様にして、少しでも対戦時に有利にするという意味で変更していた。一方でシングルプレイにおいては、デフォルトの90度で十分という観点からFOVを拡大するのはさほどポピュラーでは無かった。


 だが近年では別の理由でFOVの拡大を要求する声が高まっている。シングルプレイかマルチプレイかにかかわらず、デフォルトでのFOVの値を狭めるゲームが増加しており、物凄くFOVが狭いゲームとして槍玉に挙げられる物で水平FOVが60~65度辺り。これでは感覚的にプレイがし辛いとして従来の90度程度にまで広げたいという人が居て、中には狭いFOVだと3D酔いを起こすという声も見受けられる。


 先に制作側がFOVを狭くする理由とは何かを順次挙げていこう。第一に現在のHD機(Xbox 360, PS3)の周辺事情。リリース当時は5年程度での世代交代が見込まれていたのだが、現時点では幾つかの理由から次世代機の投入には業界全体が消極的であり、この二機種は延命されている状況にある。しかしハードウェア性能は変わらないのに、ユーザー側からはグラフィックスの向上を常に要求されており、それに応えないとならないしライバル他社にも勝たないとならない。だがフレームレートは一定以上に保たないとならないという制限があるから、グラフィックス処理の負荷を高めて綺麗にするのは簡単な課題ではない。そこで出て来たアイディアがFOVの減少である。


 例としてポリゴン数を考える場合、90度のFOVで表示した際に画面内に存在するキャラクターやオブジェクトのポリゴン数が計90万ポリゴンだったとする。ここで左右を15度ずつ切ってFOVを60度にした際に表示範囲内が計60万ポリゴンまで減ったとしたら、それだけ描画の負荷は軽くする事が出来る。そしてその減った分の負荷をリッチなエフェクト処理等に振り分ける事で、見た目的にはより綺麗なゲームを生み出せるという算段である。


 第二にコントローラーでの操作性。比較画像を見れば解るように、FOVを狭くするとズームされた様に見える状態になる。逆にFOVを広げると視点が離れるので、敵のキャラクターが小さく表示される事になる。コントローラーでのアナログスティック操作は微細な動きを苦手としており、それを補助するのに各種エイムアシストが設けられているが、これが露骨に働いて見えるのはあまり好ましくない。しかし敵が離れて小さく見えるほど照準は合わせ難くなり、アシスト機能がより強く必要になってしまう。よってFOVを狭くして敵の姿が近くに大きく見える方が、コントローラーでの照準操作には向いているという話になる。


 第三に視認性との関連。モニターとの距離の違いからコンソール版のプレイ環境の方が遠くの微細なターゲットが判別し難いので、遠距離に敵を配置する事が多目のゲームではFOVを狭くして敵を拡大する方が発見し易くなるという事情がある。(マルチプレイにてスナイパーが特に有利にならない様にするとも言える)。


 そしてゲーム性とのマッチング。例えばホラー物だと周囲を良く見渡せない方が効果的だったりするし、ゾンビなどが自分に接近してくる時でもより間近に見えるので恐怖感を高められる。また打撃武器を良く使うゲームにおいても、敵との距離感が近い方が当てている感覚を表現し易い。



 この様にして主にコンソール側の事情でFOVを狭くされている件が、マルチプラットフォームの開発エンジンなのでそのままPC版にも採用されているケースがほとんどであり、それに対して掲示板等で抗議のスレッドが幾つも出来たりしている。では開発側が「FOVを広くしてくれ。或いは自由に変更可能にして欲しい。」というそういった要望に対応してくれているのかというと、実際にはそんなケースは滅多に無い。PC版がかなり売れているゲームでのみ、時折対応が見られるという程度である。


 しかしここで一つの疑問が湧き上がる。FOVが狭いという件に対して、全ユーザーの過半数とは言わないまでも2割位が反発すれば、かなり大きな問題として制作側も採り上げてくれる筈である。中には酔うという形で身体的にダメージを受ける人までいる訳で、この辺はポケモンショックではないが重要視されて良い点だろう。だがその様な動きは無いという事は、FOVの狭さに不満を訴える人が割合からすると少ないという状況を表している。もっと具体的には売上比率の高いコンソール版のユーザーからはFOVへの不満はほぼなく、不満を言っているのは売上比率の少ないPC版ユーザーの中の更に一部だけなので、全体数から行くと相当少ないという結果になっている。この差はどこから来るのだろうか。


 実はこれには両者のプレイ環境の差が影響している。コンソールでゲームをプレイする時の標準的なスタイルとは、最大市場である北米ユーザーのプレイスタイルがモデルとなり、これは大画面TVにて広いリビングでプレイするという形になる。ここでTVを視る時の姿勢を考えてみると、ほとんどの人間は自然に適正な距離だけ離れてTVを視ている。ここで言う適正な距離とは、最初に述べた人間の視野においてフォーカスを合わせられる角度の中に、TV画面の水平方向が収まるという範囲である。(なおこれは60度前後と書いたが、ホームシアターで有名なTHXでは45度以内が理想的としている)。つまり頭を左右に振らないと視られないという近さは論外だし、出来れば眼球も左右に動かさないで画面全体を視ていられるレベルが好ましい。よってそれを実現出来るだけの距離を置くのが普通という話になる。TVを左右の端がボケて見える位近くで視聴する人は少ないだろう。


 これに対してPCゲーマーは、モニターとの距離がずっと近い位置から画面を見ている。モニターのサイズや形状(ワイド)、そしてどれだけモニターから離れているのかには個人差があるが、画面の端から端までをフォーカス可能な範囲内に収められていない状況でプレイしている人の割合は相当多いと考えられる。よって眼球がいろいろな位置へと動かされる事になるが、主に文字を読むという通常使用時においては特に問題とはならない。


 ところがFPSをプレイする際には話が違ってくる。コンソールのユーザーは上に述べたように、大画面TVの全体を視野がフォーカス可能な範囲内に収めており、つまりFOV60度だとしても、その表示画面全体にフォーカスが合わされている。ここから「フォーカスが合う範囲内のFOVが60度以上あるなら、ほとんどの人間は違和感を感じない」という結論を導き出してみる。一方のPCユーザーでは、もしFOVが90度以上あれば画面左右にフォーカスから外れる部分が30度分在ったとしても、フォーカスの合うエリアが60度以上保たれているので違和感は生じない。しかし全体でもFOV60度にしか満たないゲームの左右がカットされてしまうと、フォーカスの合っているFOV範囲が30~40度程度しかなくなってしまい、これは余りにも狭いので違和感を覚えたり、酷い場合には酔ったりするという風になる。(なのでFOVを変えられないケースでは、モニターから距離を置くか小さな画面でプレイする事で違和感を低減させられる可能性がある)。



 そこでFOVが狭いのであれば、それをユーザー側で広く変更してしまえば良いという考え方が出て来る。そんな事が出来るのか?となると、これはゲームによって異なるとしか言えない。昔のゲームほど多くなるが、設定ファイルの中にテキストとして具体的に数値が書かれているという物も結構在り(FOV=90の様に)、こういうタイプならば変更するのは容易い。しかし近年ではこういう形式は減少傾向にあり、一種のModとして外部ツールの様な物を使わないと不可能とか、未だに変更する方法が発見されていないという物も存在する。


 ただ制作側が変更する事を許さないという立場にいるので変更不可にしているケースは少ないと思われる。昔はFOVを変更して見える範囲を広くするのは対戦マルチプレイにおけるチートであるという見方もあったが、ワイドスクリーンが普及してサイズ別にFOVの値が変わったりする仕様も増えたので、そういった見方は減少してきている。実際の変更不可能な理由としては、「コンソール版では変更する必要が無いのでその製作エンジンでは固定値として扱われており、設定ファイル内に書かれていないのでユーザーからはアクセス出来ない」, 「GFWLに対応しており、実績解除のチート対策として設定ファイル関連が暗号化されていて、その中に記述されているのでアクセス出来ない」, 「(実例が存在するのか知らないが)SteamのVATやGFWLでチートを使っていると見なされるとBanされるので、FOVの変更がチートと判定される可能性を考えると手を出せない」等。


 なおこのFOVの値だが、各種掲示板でのFOV論議などを見ると設定値について勘違いしている人も多い(私も当初はそうだった)。昔ながらのFPSプレイヤーだと「FOV=水平方向の値」という固定概念があるからだと思うのだが、現在の主流は「垂直FOV固定, 水平FOV自動調整」のHOR+方式であり、よって設定ファイルの中のFOVの数値は水平ではなく垂直方向のFOVという方が増えている。ところがそれを勘違いして「こんな異常に低い(水平)FOVの値があるか!」と大騒ぎする人は後を絶たない。


 例えばよく当時の騒ぎを憶えているゲームとしてCrysis(2007)のFOVのデフォルト設定値は60だが、これは垂直方向の値であって水平方向ではない。実際にはこの値だと16:9のワイドスクリーンでは水平FOVは90度、4:3のCRTならば75度となる。当時はまだCRT使用者も多かった事から、その75度を狭いと感じて「これは60度である」と勘違いし、「60度なんてFOVは許せない」と怒る人がいたものである。そして続編のCrysis 2はデフォルト値が55に変わったが、やっぱり「(水平)FOVが55度なんて狭過ぎるだろ!」として怒っている人が見受けられ、年月が経過した今でも「FOVの値は常に水平FOVを示す」と誤解している人はまだ結構いそうである。先に書いたように物凄くFOVが狭いゲームでも水平FOVは60~65度辺りなので、これよりも低い値ならばそれは垂直FOVの設定値だと考えた方が良い。確かに垂直FOVの値を増やせば連動して水平FOVの値も増加するが、水平FOVの値だと勘違いして垂直FOVの値を90度とかにしてしまうと、水平FOVの値が相当高くなって画面表示が変になる可能性が高い。こちらは有名なBattlefield: BC2 FOV Calculatorで、解像度と望む水平FOVの値を入れると、それに該当する垂直FOVの値を計算してくれる。


 FOVを変える方法というテーマに戻るが、掲示板でのFOV論議になると良く出る意見として、「こんなのPC版のオプションの中にFOVの変更項目を設けさえすれば全て解決するじゃないか」というのがある。だが実際にはそういうゲームは稀だし、この提案に反してFOVの値を変更可能にするにのはいろいろな問題が実は存在している


 第一に距離感の問題。再度SS3のFOV比較画像を見て欲しいのだが、これは画像だけを見るとプレイヤーの立ち位置が異なっている様に感じられるが、実際にはプレイヤーの存在位置はデフォルトのFOVの位置で同じである。つまり視点だけが後ろに下がっている状態で、自分の姿は見えないが背後霊の様にして世界を眺めている状態にある。よってFOVを広くすると、このケースでは打撃武器のハンマー使用時に、明らかに見た目としては届かない距離に居る敵に攻撃が当たるようになってしまう。ショットガンの様な近距離用武器の間合いも同様に感覚がズレるので、その辺のデメリットを考慮しないとならない。


 第二に武器&腕の表示問題。SS3はFOVの変更に公式に対応しているが、そうではないゲームの方が多い訳で、そういったFOVの変更を想定していないゲームにおいて問題が発生する。FPSの画面下部には武器及びそれを持つ腕が表示されているが、水平FOVを広くしてやると垂直FOVも増加するので、視点が後退する事により武器と腕がより手前の方まで見える状態になる。SS3では常に表示される武器と腕の状態を等しく保つ事で対応しているが、想定外のゲームではここで異常が発生するケースが多い。


 例えばDead IslandはFOV変更を想定していないが、外部ツールを使えば変更する事が出来る。だがFOVを広くする事で視点が下がるので、より腕が手前側まで見えるという計算になり、それにより打撃武器を振る時等の腕の長さが不自然に見えてしまうというデメリットあり。しかしこれはまだマシな方で、ゲームによっては、 画面から武器と腕が消えてしまう, 異様に変形した武器と腕が表示される, 画面上の武器と腕の表示面積が増加して視界が遮られる、といった現象が発生したりする物もある。それと合わせてHUDの表示位置がズレてしまう, 変形してしまう, 大きく(ちいさく)なってしまうというケースも考えられる。



 第三にゲームバランス。FOVを拡大する事で周囲が良く見えるようになるので敵を発見し易くなり、それによりプレイヤー側が想定よりも有利になってしまう可能性。逆に視点が遠くになるので、遠方のスナイパー等が見え難くなって不利になる可能性。この様に制作側が意図したよりも簡単or難しくなってしまう恐れがある。また実績を持つゲームでは、達成難易度が変わる事による不公平感の発生も考えないとならない。 


 第四にマルチプレイにおけるチートとの絡み。これは描画エンジンにもよるのだが、極端にFOVを広げて左右の壁際に近付いたりした際に、視界が回り込んで壁の向こうが見えてしまうというケースがある。これは本来見えるはずの無い場所が見えるのだからチートに値する。FOVの値を制限すれば良いではないかと思うかもしれないが、FOVの値を変えられるという仕様自体が、それを利用して各種のチートプログラムを盛り込む余地を高めてしまう。そもそもプレイヤーが見ている視界情報をいじる事が出来るというFOVの変更要素そのものが危険であり、チート防止の観点からは出来るだけユーザー側の改変を遮断するのが理想。そしてユーザー側からの要望における最優先事項はチートを許さない事なので、それを考えるとFOVを変えられるような仕様には出来るならしたくないという考え方がある。それとチート摘発プログラムを複雑にすると誤検出によるBanが発生する危険性も高まるので、これもなるべく避けたい項目である。


 以上の様にFOVの変更を公式にサポートするとなると余計が手間が掛かる事になるので、最初からFOVの変更を可能にしたゲームは滅多に無いという話になる。内部パラメータを非公式にいじってプレイするのは自己責任になるので、表示異常等が発生しても開発側の責任は問われない事になるが、先に書いたように設定変更用のパラメータにアクセスするのが難しくなりつつあるので、FOVを自由に変更するという可能性が減少し続けるのは確実だろう



 次にちょっと話題を変えて、FOVと酔いの関係について語ってみる。3D酔いというのはそれこそDoomの時代から存在する物だが、描画が完全3D化してからの酔いの原因として、筆頭に挙げられていたのが画面の揺れである。これはHead Bobと呼ばれる事が多く、体が動いているのを表現する為に画面を揺らすのが酔いに繋がるという話である。よって掲示板等での酔い防止策のアドバイスとしては、「(可能ならば)揺れの表現をオフにするべし」が一番多かった。しかし現在各種FPSの掲示板で酔いを訴えるプレイヤーに対するアドバイスとして最も多いのは、「それはFOVを広くすれば治る」だと個人的には思う。つまり酔いの原因の親玉としてFOVの狭さが犯人扱いされている訳だ。


 何時からこうなったのかとなると、やはり2004年発売のHalf-Life 2が大きく影響していると考えられる。このゲームでは酔いを訴える人が多く(数多く売れたというのはあるにしても)、その原因追及が話題ともなったのだが、そこで採り上げられたのがFOVの値である。新たに開発されたSource Engineで開発されているが、このエンジンではそれまで90度が定番だった水平FOVの値を75度に変更しており、これが酔いに繋がっているのではないかと疑惑の目を向けられたのである。ちなみに変更した理由は、世界の見え方がFOV75度の方がリアリティがあるという観点からである。


 結果的に多数のテスターを使っての検証では、酔いの最大の原因は乗り物パートで、特に高速移動時にクラッシュ等でいきなり止まるのが悪影響を及ぼすというものだった。しかしFOVの値も無関係ではないとして、パッチでFOVの値を90度まで拡大する事が可能にされている。しかしこの情報が正確には伝わらずに、FOVが狭いのが酔いの原因だったという風に誤解されたケースも多かったと思われる。そしてこれ以降もSource EngineのゲームはデフォルトFOV75度を貫き通し、その度にユーザーからはこれでは狭いという批判を受け続けるという歴史を辿った結果、狭いFOV=悪=酔い易いという図式で誤解が広まったのではないかと想像している。


 実際には3D酔いの原因は多岐に渡り、他にも画面の揺れ, 垂直同期をオフにした際のティアリング, 低いフレームレートでのプレイ, 室内の明るさやライトの種類, モーションブラー等のエフェクトなど、一概に原因は特定出来ない。それとFOVが60~65度程度のゲームが増えた事で、それによる違和感から酔いを感じる可能性が上昇したというのは事実だと思うが、高い確率で酔いが発生するという訳ではなく、あくまでも一部の人が酔いを訴えているに過ぎない。(酔わない人はいちいちそれを報告などしないから、掲示板等で酔いを訴える人が割合として多く居る様に見えるだけである)。FOVの狭さに不満を感じるのと、実際に酔ってしまうのは別の問題であり、後者の方が遥かに少数であるという点を混同しないように。


 最近のゲームで酔いを訴える人が多い物にSerious Sam 3があるが、むしろこのゲームはFOVの狭さは酔いとは関係が薄いというのを示す一例となっており、どれだけFOVをデフォルトから広くしようが同じ様に酔うという人ばかり見掛ける。(おそらくだがハンマーのモーション描写が悪さをしているのではないかと推測している。特に序盤はそれが多いので尚更。よって三人称視点にするとかが切り分けには効果的だろう。)。私としては昔から3D酔いの原因は画面の揺れが最も影響度が高いというのは変わらず、FOVが非常に強く影響しているというのは冤罪だと考えている。FOVが狭いゲームで酔った時に、すぐに「これはFOVの狭さが原因である」とするのは早計だということ。Head bobを切れるならばオフにする, 画面が揺れる打撃武器は使わない, スプリントで画面が揺れるならば控える等で、揺れ対策を行う方が治る可能性は高いと思う。


 最後にあなたが違和感を感じないのであれば、特にFOVの値をデフォルトからいじる必要は無い。プレイする前からいきなり90度以上に広げようとするのではなく、実際にプレイしてみてやり難いと感じてから修正方法を探すという態度で構わない。FOVの変更を想定していないゲームにて、強制的にそれを変えた時にデメリットが生じる危険性については前に書いた通りで、最初から90度設定のFPSの方が60度の物よりも良いとは言えるが、デフォルトが60度のFOVを単にそれだけ90度にした際に、総合的なプレイ感が必ずしも良くなるとは限らないからである。

 しかし逆にFOVの設定値がプレイ感に重要な影響を及ぼしているというのも事実であり、その割にはあまり意識されていない要素とも言えよう。コアなゲーマーでは無い方だと、これまでその値を意識した事も無かったという人も居るかもしれない。だが原因は良く解らないのだがどうもこのゲームはしっくり来ないという時に、FOVを変える事でそれが好転するという可能性もあるので、FPSゲーマーであればFOVの値に関心を持つというのは大事な事である。