ネバーエンディング・リカバリー

 先日F.E.A.R. 2 (Project Origin)が、ヘルスの回復の扱いを自動的にリチャージされるシステムから、旧来のメディキットを併用する形へとデザイン変更を行った件がニュースになった。プレイヤーが一定時間隠れていれば幾らでもヘルスを回復可能なこの方式は日本では自動回復、海外では“Regenerating Health”などと呼ばれており、近年では採用される事が多くなっている反面、その是非が論議の対象になっていたりもする要素である。Project Originのプレビューでもその辺は書いたのだが、今回改めて掘り下げてみようと思う。


 歴史的に振り返ってみると、このシステムを確立して広めたゲームと言えばHaloになる。厳密にはヘルスは従来の扱いで、シールドが時間経過でリチャージされて回復するというシステムだが、ダメージを受けたら隠れてリチャージを待ってから戦闘を再開するという方式は同じである。このシールドがリチャージされるという概念はSF設定だと不自然では無く、例えばMace Griffin Bounty Hunter, Star Wars Republic Commandoといったゲームでも採用されている。逆にシールドという概念を持ち込めない背景設定のゲームでは、ヘルスがリチャージされるという方式が不自然というのもあって広まらなかった。

 しかしダメージをヘルスの量として表現するのではなく、当たると画面が赤くなる等のエフェクトで表現してやるという方式が台頭。よく考えれば生身の人間にその様な能力が在る筈も無いのだが、画面上に数値としてヘルスの値を出さないので不自然さは軽減されるとして受け入れられた。

 これを最初に考えたのはどのゲームなのかは判らないが、定着させたのはCall of Duty 2と言って良いだろう。Xbox 360のローンチタイトルとしてリリースされて大ヒットとなり、この方式に追随する制作会社が増える事となった。2006年以降はその流れは加速傾向にあり、以下はコンソールとPC併せての発売済み有名タイトルの一覧。今後予定されているゲームでも採用している物は多い。


*Call of Duty 4
*Gears of War
*Rainbow Six Vegas
*Clive Barker’s Jericho (ゼロになっても他の隊員が助けられる)
*Timeshift
*Lost Planet (エネルギーを消費するので無限ではない)
*Brothers in Arms: Hell’s Highway (やや特殊な方式)
*Mercenaries 2: World in Flames (回復速度はキャラクタによって異なる)
*Kane & Lynch: Dead Men
*Blacksite: Area 51
*Dark Sector
*Haze
*Crysis (シールドのリチャージ)



 では次にヘルスの扱い方式別の具体的な比較を行ってみよう。


 まずは旧来のメディキットによる回復方式。この方法ではどの地点にどの程度のメディキットを配置するのかが重要となり、極端に楽でもなく難しくもないバランスを保ち、プレイヤーに適度な緊張感を持たせられれば成功となる。ほとんどの場合それはテストプレイを行って決定する訳だが、多くのプレイヤーに対して最適なバランスを設定するというのは非常に難しい。

 マップの進行をエリア単位で区切ったとして、例えば3番目のA3地点を突破するには平均して50のダメージを受けるというテスト結果が出ていたとする。そうなるとこのA3のエリア内に+50のメディキットを置いておくという対策が考えられる。そうしないとA3に到達した時点でヘルスが50よりも低いプレイヤーに取っては、ここでデッドエンドになってしまう可能性が出て来るからだ。以前のセーブに戻って、A2をもっと少ないダメージでクリアしてからA3までやって来るとかのやり直しを強いる事になる。


 しかしそうやって各エリアにメディキットを配置して行くと、平均よりも少ないダメージで乗り切れるプレイヤーには供給が過剰になってしまう。常に100近いヘルスを保って各エリアでの戦闘に臨めるので死の恐怖が薄くなり、緊張感が薄れてゲームが面白くなくなるという危険性がある訳だ。簡単ならば難易度を上げるというのも一つの手段だが、ゲーム途中で難易度を自由に変えられるというゲームはあまり多くない。

 調整は確かに難しいが、死の危険性を感じさせて緊張感をプレイヤーに生ませるには適した方式である。


 メディキットを拾うのと類似した方式として、メディキットを携帯可能という設定のゲームもある。S.T.A.L.K.E.R., F.E.A.R., Red Faction II, The Suffering等。取り残したメディキットを拾いに戻って回収すれば突破可能という際でも、その戻って回収に向かうという行為を面倒だとして嫌う声が多いが、これならばその可能性を減らす事が出来る。また何時でも適用が可能なので、戦闘エリア内にメディキットは多く置いてあるがそこに拾いに行かないとならない、というのに比べると融通が効く方式でもある。しかしどれだけのメディキットをどの地点に配置するかというバランス設定については、やはり同様の問題を抱えている。


 もう一つステーション方式というのも存在する。Half LifeDoom 3等。回復用の端末に貯蔵された分のヘルスを好きなだけ得られるという形式。一気に全部使っても良いし、余った場合には後で残された分を取りにも来られるようになっている。意味合い的にはメディキットを置いておくのとあまり変わらない。



 対する自動回復方式だが、こちらはどのエリアに入って来る場合でもプレイヤーのヘルスが一定値(最大値)である事から、難易度調整の苦労が軽減されるという利点を持つ。簡単になるという訳ではないが、エリアのスタート時点でヘルスが100なのか10なのかが判らないメディキット方式に比べると、常に同じ値ならば調整が楽になるのは間違いない。メディキットを探したり取りに戻ったりという作業も生じなくなるのでゲームの流れも良くなる。


 他に利点として挙げられているのは、まずアクションが連続して途切れないという点。少し休めば自動的に完全回復するので、思い切った行動に出られて派手に撃ち合える。そして敵の数を多くしたり、攻撃を非常に激しくも出来る。隠れて回復しながら戦えば対抗が可能だからであり、メディキット方式だと大量に置いたメディキットを拾える様なマップのデザインにしないと実現は難しい。グレネードやスナイパーライフルの様な大ダメージなども同じで、一度に大きなダメージが入るような設定はそれで詰んでしまう(回復が出来ない場合にはデッドエンド)可能性があるのでメディキット方式だと導入し辛いが、こちらでは連続して喰らわなければOKとなる。またミスに対しても寛容である。ロケットやグレネードの自爆等のミスで想定外の大きなダメージを受けてしまった場合、メディキット方式だとクイックロードでやり直さないとならないケースも出て来るが、こちらは完全回復が可能なのでその様な事は起きない。


 しかし上記の利点は、裏を返せばそのままこの方式の弱点にもなっている。幾ら撃たれても隠れれば回復となると死に難くなるので、緊張感が薄れるという問題あり。このシステムを利用して、例えばわざと体を出して敵に撃たせてスナイパーの居場所を掴んだりといった作戦が可能になってしまうのも問題である。ミスについても隠れてのリカバリーが幾らでも可能なので、それを気にせずに戦闘が大雑把になってしまうという傾向も強くなる。また敵のAIがこちらに積極的に向かって来ないタイプだと、遠距離からカバーに隠れての攻撃が有効過ぎる状況になってしまう。近距離戦でカバーの数が多くても同様。以上はメディキット方式の方が有利な点である。


 後はアクションFPSには向いているが、特殊部隊物等のリアル路線のゲームではSF設定で無い限りは不自然になるというのはある。



 双方に利点と欠点が存在しており、どちらかが絶対的に優位という物ではないし、当然個人の好みにもよるので議論になっているのを見掛けるたりもする。具体的なアンケートも幾つかネット上で見付けられる。


The Regenerating Health Meter Yay or Nay?
 Xboxの有名サイトでのアンケート。質問がハッキリとYESかNOかで二分された形式なので結果の信頼性はやや微妙だが、それでも81%が自動回復に賛成というのには驚かされる。コンソールゲームのユーザーには人気が高いというのは間違いないと言えるだろう。


What health system do you prefer?
 こちらは総合サイトで特にユーザーの使用機種の偏りは無いと思われる。質問も「どちらをより好むか?」と両極端ではない。結果は自動回復が40%で、メディキットが30%。残りはどちらでも良い。


Do medkits and health bars ruin games for you?
 ここはゲーム専門ではなくカルチャー系のサイトで、その意味ではPCゲーマーの方が多いと言えそう。ここでは57%とメディキット派がやや多い。


Poll: Health Bar or Regenerating Health
 上記サイトでの別のアンケート。ここでは結果が細かく分かれているが、今度は自動回復を好む人の方がやや多い。



 取り合えずこの結果からすると自動回復方式の人気はメディキット方式を上回っており、今後も採用するゲームは多くなると思われる。また自動回復方式はコンソールでの人気が高く、そしてマルチプラットフォームのゲームが増えるのも確実なので、PCで発売されるゲームでの採用数も増えるのは確実だろう。では何故コンソールのFPS系アクションで人気が出るのだろうか。


 一つ目はコントローラーの問題。片方のアナログスティックで移動、もう片方で照準を合わせるのを担当するとなると、移動しながら正確に狙いを付けるという行為が難しくなる。よってどうしても“動きを止めて狙いを付ける”という風に、左右のスティックの操作が分離しがちである。そこで以前はそれに合わせて、敵の反応速度・正確性・ダメージといった設定を落として、ある程度は止まって撃っても大丈夫にしてバランスを取ったりしていた。しかしこれだと敵の反応が鈍くてしかも弱いとなり不自然にも見えてしまう。だが自動回復ならば止まっている際に被弾してもあまり大きな問題にはならないので、敵の反応速度等を上昇させて人間らしく見せられるし、攻撃をより激しくも設定可能。つまり止まって撃ち合う行為を許容するので、移動と狙いの同時操作を難しいと考える一般的なゲーマーには受けが良くなる。


 次に上記と関連してカバーシステムとの相性が良い。カバーシステムは張り付いてしまえばほぼ移動の必要が無く、行うとしても左右方向だけで済むので、後は狙いを付ける方のスティックに集中出来るという点からコントローラーでの操作には適したシステムである。このカバーから顔を出したり引っ込めたりで戦うのが、自動回復方式とはマッチしている。同様の問題として、ダメージを避けて戦う手段としてPCでは一般的な左右へのリーン動作は、ボタン数が限定されるコントローラーでは好まれないというのもある。


 第三にHUDとの関連。ゲーム内世界を現実の物の様に見せる為に、(HUDが不自然ではないSF物を除けば)出来る限りゲーム内に表示されるHUDは減らしたいというゲームが増えている。その観点からすると、ヘルスの値が見えているメディキット方式は不自然で嫌われるという傾向になる。


 更にセーブデータとの絡み。コンソールでは全てのモデルがHDを搭載していないと、HDへのセーブを前提にはし辛い。またセーブデータのサイズが大きくなると、HDを持っていてもあまりそれを圧迫したくないという風にもなる。(PCに比較してサイズがかなり小さい傾向なので)。よってメモリーカードに保存するという方式が一般的になるが、これは有料なので出来る限りセーブする地点は少なくしたいし、データのサイズも小さくするのが理想である。よって各ミッションはアンロック状況だけを保存し、たった一箇所のチェックポイントだけをゲーム全体を通して使い回すゲームが増える。
 ところがこの方式だと、チェックポイントでの上書きセーブがヘルスが少ないタイミングで行われてしまう可能性が出て来る。するとこのヘルス値では無理だとなってチェックポイントからやり直しても、その時点で既に低いのでデッドエンドの可能性があって、そのマップの最初からやり直すしかなくなる。(救済措置を持ったゲームは存在するが)。しかし自動回復方式ならばこの様な問題を気に掛ける必要は無い。



 ただゲーム業界全体が自動回復方式で万事良しと考えている訳ではないし、制作側が自動回復方式の問題点を認識していない訳でも無い。よって様々な工夫や試みが行われており、最後にその辺りをまとめてみる。


 まず自動回復方式を使うにしても、死ぬまでにどの程度耐えられるのかや、回復するまでの速度の設定でプレイ感覚は大きく変わって来る。あまり強引なプレイをさせたくないのならば、両者を制限してやれば良い。一般的には難易度を変えるとこの設定が変化するというゲームが多い。


 バリエーションとして採用が多いのはメディキットとの併用タイプ。これは回復用のヘルスが4-5個程度の分割されたブロックとなっており、それぞれのブロック単位では自動回復するが、一度消えてしまうと消えた分のブロックはメディキットで回復させるしかないというシステム。F.E.A.R. 2, The Chronicles of Riddick, Pariah, Medal of Honor: Airborne, Resistance等で使われている。

 隠れて回復は可能だが、ブロックが完全に消えてしまうとメディキットを使うしかないのであまり無茶は出来ない。逆にブロックが残り一個になっても粘れるのでデッドエンドのとなる可能性は減らせるとなり、両方式の欠点を消すような形式となっている。よって今後増える可能性が高いと思えるし、自動回復方式が増えるのならばこちらのブロック回復の折衷型が多くなってくれればと個人的には希望する。



 メディキット方式でもバリエーションは数多い。ヘルスが足りないというデッドエンドを減らす為に、ヘルスが20%以下等の一定量以下になるとそこまでは回復するというシステムは結構使われている。特殊な例ではヘルスが無くなって倒れても、アイテムを持っていて一定時間内に適用すれば復活可能なProject: Snowblind。死亡という概念が無いPrey。仲間のメディックを近くに呼ばないと回復出来ないMedal of Honor: Pacific Assault。回復は無限に可能だが適用間隔に制限があるBattlefield: Bad Company。回復薬を適用するには時間が掛かるし動けなくなるので、安全な場所でしか行えないCall of Cthulhu: DCotEといった物がある。


 個人的に面白いと思うのは、Vietcongの様にメディキットを使って全回復は可能だが、回復する度にその最大値が徐々に低下して行くというシステム。無闇に使うとマップの最後の方になって苦戦する事になる。 


 メディキット方式だと上手いバランス調整が困難なので、自動難易度調整も解決策の一つとして考えられている。これは敵の数やダメージを自動的に変化させたり、箱の中から出るメディキットの量を現在のヘルス値に応じて調整するという方式。しかしこれはこれでどの位の速度で難易度を自動的に変化させるのかという方の調整が難しくなるので、あまり採用例は増えていない。



 私個人としてはメディキット方式の方が好みだが、ゲームによって合う合わないが出て来るので自動回復が嫌いという訳では無い。CODシリーズの様にカジュアルなタイプであればそれも良いと思う。ただ皆がそれに倣ってしまうのは止めて貰いたいと考えている。特にQuakeSerious Samの様な系統の純粋なアクション物では採用して貰いたくない。自動回復方式ではスピード感がアップするとあるが、こういったゲームでは回復が無限になるのはゲーム性を殺してしまう事になるので。

 最後にアンケート掲示板でも投票を募集しているのでよろしければどうぞ。