サバイバルホラーはサバイバル出来るのか?

 3Dアクションのジャンルにおける(サバイバル)ホラー物は衰退傾向にあり、リリースされる作品自体が少ないし、またホラーと名乗ってはいるが怖くないという物も増えている。今回はこの辺りの原因について分析してみたい。


1.制作コストの増加
 PC, Xbox 360, PS3という三機種のマルチプラットフォームで制作されるゲームにおいて(HD機市場)、このラインアップ中心に切り替わってからゲーム制作の費用が加速度的に増大している。ハードウェアの性能が向上した分だけクオリティを上げられる様になった訳だが、それだけグラフィックス関連のコンテンツの作り込みには費用が掛かるという事にもなり、一気に制作費が増大してしまった。その制作費を回収する為にはゲームを売らねばならず、その為に懸ける広告宣伝費も同様に増加。結果的に海外市場にてAAAと称される大物タイトルは、売り上げ100万本位では失敗と見なされるレベルにまで達している。


 ここで問題となるのはホラージャンルの市場規模で、このジャンルは固定的なファン層を維持してはいるものの、その数はスタンダードなアクション物に比べるとずっと少ない。アクション物では500万, 1000万本と大ヒットを飛ばすゲームが存在するが、昔ながらの純粋なホラー物がここまで売れるかとなると甚だ疑問である。そうなるとグラフィックス面に力を入れたホラーゲームを制作しようとなった際に、制作費+宣伝費の回収に加えて目標額分の利益を出すには最低でも例えば200万本は売る必要があるという試算結果が出た場合、それは無理だとして企画段階で没になる可能性が高い。そういった現況から、ホラー要素を含むが人気の高いアクション要素も導入という形式のアクションホラーが数多く作られる様に変わってきている。だがアクションホラーは純粋なホラーゲームに比較すると、それを怖いと感じるプレイヤーの数は少なくなるのは確かである。


 具体例としては日本産の代表的なホラーであるバイオハザードシリーズは4からアクション要素を強めており、売り上げは増加しているが旧作のファンからは批判が増えているという状況にある。こちらの新作6のインタビューでも、「純粋なホラー物を作っていたのでは大規模なマーケットにアピールするのが難しい」,  「自分達が生き残る為には大規模なマーケットへのアピールが必須」と語っており、「ホラーとアクション両面の折り合いを付けるのが大変だった」としているが、残念ながらプレイヤー側からはホラー面では後退してしまっているという評価が多い様だ。



2.カジュアル化が困難
 3Dアクション物で大ヒットを飛ばすゲームに共通して言えるのが、カジュアル層へのアピールとその取り込みが大きな役割を果たしているという点。コアなゲーマー層への売り上げだけでは限界があり、その数倍規模のカジュアル層に買って貰う事が飛躍的なセールスアップに繋がる。その為により低い難易度設定を設けたり、ゲームのシステムを簡易化したり、QTE(quick time event)を導入したりといった事が行われているのは御存知の通り。純粋なアクションに比べれば市場が小さなステルスゲームのジャンルにおいても、売る為のカジュアル化が目立つようになって来ている。


 ではホラーゲームもステルスゲームの様にカジュアル化の道を模索すれば良いのでは?となるとこれが難しい。まず「怖くて先に進めたくない」というのはホラーゲームにとって最高級の褒め言葉だが、カジュアル層にとっては「怖くて進められない」ゲームとは即ち自分にはプレイ出来ない事を意味し、その評判が知れ渡るほど売り上げが期待出来なくなるという根本的な問題を抱えている。
 次に現在HD市場はCo-opが大ブームとなっており、2~4人のキャンペーンCo-opに対応しているゲームが増えている。カジュアル層にとってもCo-op機能は人気があり、「苦手なゲームでもそれが上手いプレイヤーと一緒ならばサポートしてもらって楽しめる」, 「システムを理解済みのプレイヤーとならば、自分がルールを理解していなくても即プレイ可能」といった面が受けている。しかしホラーとCo-opは基本的に相性が悪く、二人以上でプレイを進めるスタイルでは怖さが減退してしまうという欠点を持つ。よって人気のCo-op機能を導入した上で、同時にホラーゲームとして十分に怖いという面を成立させるのは困難であり、売りたいと考える制作側からは敬遠される原因の一つになっている。


 難易度設定も折り合いを付けるのが困難な要素。アクション物ではカジュアル層向けに低い難易度を設定するのは容易だが、ホラー物では簡単になると怖くなくなるという厄介な問題が存在しており、ゲームの根本部分が否定されてしまう恐れがある。難易度とは相対的な要素なので、EasyやVery Easyでもそれをプレイする人にとっては普通以上の難易度となるなら問題無いのではないかとも思えるが、実際には解決すべき点が多い。例えば被ダメージが低いのでゾンビにボコ殴りにされても大丈夫という風にしてしまうと、プレイヤーの戦闘スキルとのバランスは取れたとしても、プレイヤーにとってゾンビが怖くなくなってしまう。つまり簡単化すると単なるアクションゲームに近くなっていくので、プレイヤーを怖がらせるという核の部分が失われてしまうのである。そんな中でAmnesiaなどは一つの解決方法を提示しているが、こういった上手いやり方を見付けるのはやはり大変である。



3.3D化の弊害
 ホラーゲームにおいて登場する各ロケーションやモンスター類は怖くなければならず、その為には基になるデザイン画が要求されてくる。そこで怖い画を描いたり異形のモンスターをデザイン可能な人材に依頼する訳だが、ここに大きな問題が存在している。完成した2Dの画像が十分に怖い・不気味だったとしても、その雰囲気を保ったままでそれを3D化するのは難題という点だ。怖さというのは多分にその画家のタッチ(画風)に影響しており、それを失ってしまっては困った事になる。つまり基のデザイン画の屋敷は不気味なのだが、それを3D化して構築した屋敷からはその不気味さが感じられないといった事が起こり得る。解り易い実例としては人気漫画のキャラクターを3Dゲーム化した際に、その3Dのポリゴンキャラクターからは原作における漫画家のタッチが失われてしまう事が多いというのと一緒。将来的には怖いロケーションやモンスターを3Dモデル+テクスチャーの完成品として提供する3Dアーティストが何人も出て来るのかも知れないが、現状ではまだ難しいプロセスだと言えよう。


 ちょっと話は変わって、アドベンチャーゲームにおいてもホラーはジャンルの一つとして確立しており、定期的にこのタイプのゲームはリリースされている。そしてこちらでは近年のゲームにおける怖さの減退といった目立った現象は起きていない。その理由としてADVの分野では完全3Dの世界を使ったゲームはまだ珍しく、Penumbraの様なゲームは稀である。三人称視点であれば、ポリゴン化されたメインキャラクターが擬似的な3Dで描かれた2D背景内を移動。一人称視点物では、疑似3Dとして描かれた2D画面が場所によって切り替わりながらのプレイというスタイルが主流。これが何を意味するのかと言うと、デザイナーが描いた怖い(不気味な)雰囲気の2Dの画をそのままゲーム内に持ち込めるという事であり、これは恐怖感を生み出すのに優位に働く。当然3D世界内で実際にモンスターが動いて襲って来るという効果は出せないが、ADVではモンスターとの戦闘の類は必須要素では無いので、そういった事項を外してゲームを制作すれば影響は無い。


 昔の据え置き3D機においても、PS1世代辺りのマシンでは能力が低いので完全な3D化は難しいという事情があった。それ故に2D化出来る所は2Dにしてメモリ不足を補ったりしていた訳だが、逆にその2D素材を多用している所がデザイナーの原画をそのまま持ち込めるという観点から、むしろ今の3D物よりも怖さを生んでいるというケースもある。ポリゴンも角が見えてしまうようなレベルの物のその平面に擬似3D的に描かれた2D素材を貼り付けたりしていたが、これも2D素材を使えるという点では同様。


 高度な3Dエンジンを使う事により、気色の悪いモンスターの造形や動きによる恐怖感の創造面では格段に進歩したが、ゲーム内世界から感じられる不気味さや恐怖感という面では、まだ2Dでのコンテンツに追い付いていないと思える。



 しかしホラーゲームの将来は決して暗い物では無い。これまではハイクオリティなグラフィックスでの3Dアクション物の現状について語ってきたが、それ以外では可能性も持っているからである。一つは低性能マシンへの移行で、HD機向けに作り込んでしまうと金が掛かるのであれば、やろうとしても限界がある携帯機やWii等へとシフト。低予算故に目標販売数をずっと低く設定出来るので、そうなればコアなファンだけをターゲットにした純粋なホラーゲームを作っても、それでペイ出来る可能性が高まる。大は小を兼ねるので、現行のHD機向けに簡素なグラフィックスのゲームを作るという手もあるが、どうしても「このマシンでこのグラフィックスは無いだろう」という受け取られ方をされかねず、その辺を皆が理解しているマシンの方がやり易い。ただしHD機と全く同じ様なスタイルの物を作っても、単にグラフィックスが劣化しただけのゲームと評価されてしまう恐れがあり、その辺は何等かのハードの特性に合わせた捻りなどは重要になってくるだろう。


 この分野の成功は一つのピークを越えられるかに懸かっている。現状まだ携帯機向けのホラーゲームは海外でも多い訳では無く、作り手側もホラーファンの多くが携帯機を持っているとは考えていない。だが今後地道に増え続けて臨界点を超えれば、ホラーファンがラインアップが充実した携帯機を買うようになるし、それによって携帯機の普及台数が増えればホラーゲームを制作する会社も増えてくる。ジャンルに関しては普及するまでは必ずしもアクション物でなくても良く、ジャンルとして定着してからでも遅くは無い。



 二つ目はPCでのダウンロード配信。つまりインディーズ系製作会社による低予算ホラーゲームである。ADVゲームのジャンルでは昔から存在しているが、Steamの様なダウンロード販売環境が整ってきた事からゲーム制作にチャレンジする会社はかなりの勢いで増えているし、増えればそれだけホラー物で勝負してくる会社も同時に増加する。圧倒的に低予算で作れるのはADVなどのジャンルだが、評価されれば相当売れる環境が生まれてきているので、予算的にもそれなりに掛けて充実した物が出て来る期待も持てる。こちらではPCというプラットフォームの存在が既にポピュラーなので、必要環境をあまり高く出来ない事と互換性の検証テストが大変という点を除けば、後はアイディアとクオリティ次第というやり易い状況にはある。


 完全3D物はなかなか予算的に厳しいかも知れないが、低予算なりに2Dを含んだデザインでもホラー物として成立させる事は十分に可能である。それと純粋なアクション物では高額予算の大手には敵わないので、大手が作ろうとしないがユーザーにはファンがかなり居るホラーのジャンルで勝負という方向性は悪くない。コアなホラーファンを狙っての市場自体は十分に存在していると考えられる。



 三つ目はアマチュア制作のフリーのホラーゲーム。単体版だけではなくサイトにアクセスしてブラウザ上からプレイするタイプも多い。この分野はあまり個人的に詳しくないのだが、日本産で日本語でプレイ可能な物も結構有るという点は大きなアドバンテージと言える。個人レベルの制作なのでADV形式が多い様だが、中には2Dアクションを含んだゲームも出ている。今後高い評価を受けた作品の作者が、更にクオリティを高めるべく有料作品へと乗り出す期待が持てるのが良い点。ただし日本からだとポピュラーなゲーム専用販売サイトが存在しないところがネックになる恐れはある。

 作品の方はニコニコ動画などを検索すると大量にヒットするが、ホラーだけに実際のプレイ動画を見てクオリティを確かめるというのはやり辛い。数は少ないがレビューサイトは幾つか見付けられる。



 以上の様にADV系ではそうでもないが、3Dアクションにおける(サバイバル)ホラーは厳しい状況に置かれている。最新エンジンを駆使した高度なグラフィックスの本当に怖いホラーゲームを幾つもプレイしてみたいとは思うのだが、それは難しいという現実は受け止めなければならない。打開策としては負荷の高いモデリングやアニメーション制作用の優れたツールが開発される事だが、来年から再来年に掛けて新世代機への切り替えが噂されているし、そうなるとノウハウをまた積み立て直しになる可能性が高いのでこれは難しそう。反対に現行世代であるXbox 360とPS3は新世代機発売後も相当年数寿命が続くと考えられ、それまでのノウハウを使う事で開発費は抑えられる, 新世代機には敵わないのでフルパワーで作る必要が薄れる, メーカーに支払うロイヤリティも下がってくる、といった観点から、現在Wiiを選択するのと同じ感覚で中規模予算のコアな3Dホラーゲーム開発用のプラットフォームとして使われる可能性は持っている。