責任のあいまいな対象

 1997年以降はインターネット対戦に対応したゲームが増えて、また徐々に個人レベルでの回線状況も進歩して来た事から、FPSにおけるマルチプレイゲームの人気は加速度的に上昇を続けて行った。その90年代末から21世紀初頭辺りまでの拡大期を振り返ってみると、ゲーム性についてはシンプルな物が多かったと言える。デスマッチとチーム・デスマッチというのが基本パターンで、その後人気を博したCTF(Capture the Flag)がチーム戦として加わるゲームが多くなる。他にもLast Man Standing, King of the Hill等がポピュラーだが、DMのバリエーションという範疇に収まっている。


 そこで今回考えてみたいのは、マルチプレイにおける責任感という点である。上記のモードに共通する要素として、個々のプレイヤーの戦闘能力が最重要とされるというのが挙げられる。この頃はクラス分けという概念を持ったゲームは少なく、各プレイヤーの操作するキャラクタに能力差も無い。プレイヤーの戦闘能力(腕)が直接成績に反映されるというゲーム性であった。よって各マッチの終了後に成績を見れば、自分が活躍出来たのかどうかがハッキリと分かるという様になっていた。もしチームが敗戦したのであれば、その敗戦にどれだけ自分が責任が在るのかがスコア(Frag数&死亡数)として明確に突き付けられるという事である。チームの人数は3-5人程度が一般的なので、それだけ各個人の責任分担も重いというのもあった。CTFの様に単純なTDMでは無いモードにおいては敵をどれだけ倒したかが全てではないが、やはり戦闘能力が重要視されているのに変わりは無い。


 この自分の活躍が明確に判断出来るという点は、同時に成績の悪いプレイヤーに対して明確にその責任を感じさせるという事につながる。そうなると直接チャットで非難はされなくても、「自分のせいでチームが負けた」というのを自覚せざるを得なくなる。それを乗り越える為には腕を研けば良いのだが、そういった状況が続くと次第に嫌になって「自分がゲームに参加するとチームに迷惑を掛ける」と変わり、結局はそのゲームから去ってしまうというケースも出て来る。そしてこう考える人が多くなると、ゲーム内での実力ピラミッドにて最下層を中心にして人が抜けて行ってしまい、それにより順にやや上にいた人達が次々に下の層へと落ちて、やがては同じ様に抜けて行くという負の連鎖が起きかねない。


 制作・販売している側からすると、この様な人口減少による過疎化が起きるのは避けないとならない。理想的なのは成績ランキングによって同レベルのプレイヤー同士が戦えるようにする事だが、これを実現するのはかなり難しい。まず根本的にある程度の数のプレイヤーがいないとランク分けは無理。次にプレイヤーにアカウントを制作させてその成績を管理するデータベース・サーバーを用意しないとならないのでコストも掛かる。それとインターネット対戦ではPingの良し悪しという別の重要要素が存在しており、“成績にマッチしているがPingが良くないサーバー”と“成績にマッチしていないがPingは良いサーバー”のどちらに接続してやる方が楽しくプレイ出来るのか、という判断は非常に困難である。
 なので多くの場合は、サーバーを建てる管理者が「初心者用」とか「初心者お断り」といったタイトルを付けて誘導する程度で、ランキング別の自動振り分け機能を持っていた様なFPSゲームは多分無かったと思う。あるとすれば当時は存在していたマルチプレイ専門の接続サービス会社によるランキング機能とかだろう。


 結果的にこの頃のマルチプレイでは、もしそのプレイヤーがチーム戦で迷惑を掛けたのならば、それをハッキリと自覚させるような物が大半だった。そしてそれは「弱者は去れ」という傾向にも繋がり、初心者プレイヤーや特にFPSが上手い訳ではないプレイヤーに対しては厳しい物となっていたのである。この事が良いのか悪いのかは各人の判断によるが、上に書いたように人口増加という面では良い方には働かないというのは確かだろう。
 ジャンルが異なるので極端な例になるが、一時は隆盛を誇ったゲームセンターでの対戦格闘ゲームの人気の減少も同じ事が言える。対等なレベル同士のマッチング機能の欠如により、実力的には下層の人が延々と負け続けるだけとなって嫌になり去ってしまい、やり込んでいる一部の人しか残らないというパターンである。FPSでも近年では1on1というDMよりも更に実力差がハッキリと出るモードは流行らなくなって来ているが、同じ様な理由と考えられる。



 ここで話を現在へと進めてみる。そのキッカケはBattlefield 1942 (2002)やWolfenstein: Enemy Territory (2003)の大成功辺りからだと思うが、近年のFPSゲームにおけるマルチプレイの形態には大きな変化が生じている。全てのゲームに共通する訳ではないが、以下にその傾向を書き出してみよう。


*チーム戦オンリーで、個人戦(Free for All)は持ってすらいないゲームも多い
*参加人数が増えて32-64人対戦というのも珍しくない
*戦場が一箇所集中ではなく、広いマップ内に分散して複数の拠点の奪い合いが行われるようになった(Conquest)
*クラス制を採用し、各人の役割分担を明確にしている
*単体の敵を倒すという行為は軽視されがちで、チームの為に働くという行為が重視される
*乗り物や各種兵器が加わり、これを操作する能力や役割が新たに重要となった
*高度な作戦行動に重きが置かれ、シンプルに「こうすれば良い」という分かり易さは減退している
*部隊を組んでの連携が取れるゲームが多い
*アンロック要素を設けて、ランキングが上がるほど強い武器やアイテムを入手可能という風な成長要素の導入


 こういったスタイルのモードに人気が出た理由、言い換えると売る側がこういうモードのマルチプレイを積極的に採用するようになった理由を考えてみる。第一にクラス制の採用によって、メディックやエンジニアの様に戦闘能力が低くても後方支援や特殊能力によって貢献出来るようになったので、「戦闘が上手くないから」という理由で対戦モードを避けていたユーザー層を引き込めるというのがある。
 第二に人間同士の撃ち合いは苦手でも、乗り物や兵器の操作が上手い人はそれでチームに貢献して活躍が出来るようになった。兵器という一歩兵の能力を大きく凌駕した要素が組み込まれたので、歩兵同士の戦闘では存在していた大きな実力差というのが無くなり、歩兵戦では弱い者でも立場を逆転させて高いレベルの相手に勝てるようになった。これもまた、「戦闘が上手くないから」という理由で対戦モードを避けていた層にアピールが出来る。



 そしてここで先に述べた件に繋がって来るのだが、私自身が近年のマルチプレイにて強く感じる点として「責任の所在が曖昧になった」というのがある。確かに各マッチの終了後に、自分が貢献出来たのか、それとも不味いプレイをしたのかは或る程度把握は出来る。しかし正確に自分の貢献度を示してみよと言われても、それが明確では無くなった。逆に最終的なポイントによる順位が下位であったとしても、自分が本当にその順位ほどに悪かったのかという点についてハッキリした判断が出来なくなって来ている。


 クラス制を採用しチームの為に尽す事が何よりも重要であるとして、相手を殺さなくてもチームへの貢献をすればポイントは入るようになった。しかしそれがメディックだったとして、ゲームの勝敗を分けるような重要なシーンで味方を治療or復活させて貢献するのと、全く勝敗には関係の無い場所で特に意味の無い治療や復活を行うのも、稼げるポイントとしては同じである。よって最終的な順意表を見ても、スコアが上のプレイヤーが本当にチームに貢献したのかは分からないし、下の方のプレイヤーが役に立たなかったのかも同様に判断が難しい。その結果としてポイントによる順位表だけ見ても、自分の居る順位が正確に貢献度や迷惑度を示しているのかが分かり難くなっている。当然その点を考慮してポイントと貢献度が一致するようなスコアシステムが工夫はされているが、まだ良く出来ているというレベルには無いという状況である。


 その他にも責任の所在を曖昧にする要素を挙げてみよう。


*チームの人数が多いので、それだけ各人の負う責任は分割されて小さくなる
*マップが広くて戦場が一箇所では無いので、今自分がどれだけ重要な戦闘を行っているのかの判断が難しい
*作戦行動が複雑化しているので、自分が今採っている行動やクラス選択が正しいのかどうかの判断が難しい


 特に現在の自分の行動が正しいのかについては、正確な判断を下すのが困難になっている。自分の感覚として「今はこの地点に行って、こういう事をするべきだ」という判断をしても、もしかしたらそれよりもチームに貢献出来る動きが別に在るのかも知れないし、ゲームのマップ全体の状況から判断するとむしろそれは悪手という可能性も否定は出来ない。かと言って全体マップを見ながら長い時間検討するのは、プレイから離れてしまうのでそれ自体が問題あり。徹底してやり込む事でその判断力は研ぎ澄まされては行くはずだが、そのレベルまで一つのゲームをプレイする人は全体からすると少数派のはず。なので漠然と各ゲームでの自分のプレイを評価してやるしかない。ゲーム終了後にリプレイを見ながら皆で反省会でも開ければ自分のプレイがどうだったのかについての意見も聞けるが、それはクランにでも入隊しない限りは無理である。


 これは現在のTDMやCTF系のゲームでも似たような状況になっている物が多い。昔の様に全てのプレイヤーが同じ状態からのスタートではなく、クラス分けによる能力差やサポート役のクラスの存在。初期装備がカスタマイズ可能で持っている武器やアイテムが異なる。或いはアンロック要素による各人の戦闘能力自体の差別化、といった要素が導入されており、同じ条件下の戦闘で負けたという感覚が薄くなっている。嫌な言い方をすれば、成績が悪くても「クラスの相性が悪くて撃ち負けた」とか「アンロックが進んでいる奴には適わない」とかの言い訳で、「自分が下手だからスコアが悪かった訳ではない」と納得させられるようになったとも言える。


 ついでにアンロック要素も責任感という面からは良いシステムではない。チームが勝つ事でボーナスが入るという設定が在っても、如何にしてアンロックのスピードを上げるかという点にのみ集中して、チームにとって必要な行動をしなくなる人が増えてしまうからだ。チームが負けてもアンロックが進めばそれで大喜びとなり、責任感など無視という人が多い状態でのゲームに陥ってしまう。チームへの貢献度が低いとアンロックのポイントが極端に減点されるとなれば変わるのだろうが、そこまで思い切ったシステムを導入するのは難しいだろう。



 各人がチームの成績に対して感じる責任感が希薄になったというのは、プレイが上手くない人でも気が滅入る事なくそのゲームを続けられるという観点からはプラスである。ゲームに慣れていない内はより以上の熟練者に対して劣るのは仕方の無い事であり、そこで過剰に自分の責任を感じながらプレイしなくても済むのは良い事だと思う。出来るだけ多くの人が楽しく感じながらプレイ出来るというのはやはり大きい。


 しかしそのゲームにある程度慣れて来てからは弊害も生じてくる。常にポイント順位で上位に位置する人は自分の貢献度を実感出来るのだろうが、私自身はそんなに上の方に順位が行く事はあまり無く、チーム人数が10人以上の規模でスコアが中位辺りに位置していると、先に述べたように自分がどの程度チームの役に立ったのかどうかが正確には把握出来ないケースが増えつつある。負けた時の責任が重いという事はそれだけ勝った時の嬉しさも増す訳で、昔のTDM等ならばスコアによって明確に自分の活躍が実感出来た。今でもチームが勝てばもちろん嬉しいが、当時の様なダイレクトに感じられる喜びは減少したように思える。


 また各個人が過剰にストレスを感じないようになるというのは良いのだが、その反面一定期間を過ぎても学習せずに、チームに貢献しないで勝手な行動をするプレイヤーを生み易いというのは大きな欠点である。責任を感じさせないというのは反省を生まないという事に繋がり、自分のやっている事は正しいのだと誤解してプレイを続ける人が出て来てしまう。例えばスコアさえ上なら良いのだと、戦況に関係ない所でポイントが稼げる行為を繰り返しているとか。今はこういう事をするべきだと的確な指示をAIにアドバイスさせるまでには至っていないし、コマンダーの様な全体指揮官についても「やらされている感」を与えてしまうという問題がある。チームメイトがアドバイスを与えようにも、短い時間の中で「なぜ今そういう行為よりもこれをやるべきなのか」と説得するのは難しい。
 私自身も常に的確な行動をしているという自信は無いが、明らかに妙な行動をしているプレイヤー、または何人かのグループというのは結構目にする。しかし明確に「今のゲームはあなたが原因で負けた」という感覚を与えられないようになっている今の傾向では、おかしな行動を正す事は難しいと言わざるを得ない。



 近年のチームプレイを重視したゲームの本来の狙いは、昔の単純なTDMやCTFの様な直接的で分かり易い勝利の喜びは減少させる代わりに、高度なチームプレイが上手く行って勝ったという達成感を与えるという点にある。だが不特定多数のプレイヤーが参加するインターネット対戦においてはその実現は非常に困難であり、実際にチーム全体が見事に連携して勝利するという様なゲームは稀にしか遭遇出来ない。むしろ困った事に、両軍共にチームワークに問題が有ってもどちらかは勝ってしまうので、それにより「今の対戦でチームが勝ったのはチームワークが上手く機能したからだ」、という“誤解”が生まれ易くなる。その誤解が「自分のプレイは正しい」という個人レベルの誤解に繋がり、よりチームワークを考えない自分勝手なプレイに終始するプレイヤーを増やして行く。


 正直な所、今のFPSのマルチプレイゲームは、フリー参加のインターネット対戦でプレイするには、要求されるチームワークのレベルが高過ぎる物が多い様に私には感じられる。これは本当に要求されているレベルが高いという意味ではなく、インターネット対戦に適したチームプレイの実現レベルは、制作側が考えているよりも結構低いランクに在るという意味である。クラン戦には向いているが、知らない同士がいきなりチームを組んでのゲームには不向き。
 制作側が「チームが協力しないと勝つ事が出来ないゲームである」としてルールを複雑化して高度な戦術を要求するほど、プレイヤー各人に取ってはゲームでの自分の貢献度や責任を計り難くなる可能性が増してしまう。つまりゲームが要求するレベルのチームワークが実現出来ない場合、むしろ要求するレベルが高いゲームほど上手く機能しなくなる危険性が高い。



 では将来的にはどうやって解決して行くのかだが、チームプレイをしなくても勝ってしまうから問題なのだというのはある。何回やっても自分のチームが負け続けるのならば、流石に何か別の行動を考えてみるプレイヤーも増えるだろう。しかしそういった的確なチームプレイを行ってくる強い対戦相手を常時用意する訳にも行かず、やるとすれば高度なbotのチームを用意して、それに個人或いはCo-opにて対戦してチームプレイを学ぶしか無い。しかし高度なチームプレイを行えるレベルのbotを多数動かせるような時代はまだ当分先になるだろう。


 ゲームを管理するAIとしては、現在何がやれるかというのをアドバイスしてくれるレベルにはあるが、同じく「今やっている行為には意味が無い」といった注意を与える能力を持たせるのも効果があると思われる。それでも続けると減点になる様なシステムもありだろう。ただ人によっては反発してゲームから去ってしまう可能性もあるので加減が難しい。


 もっと現実性がある物としては、スコアシステムを徹底的に整備してプレイヤーの実際の貢献度に出来る限り近い物にするという方法がある。同じ行為でも条件によって大きくポイントに差が付くという意味で、同時に今の行為には高ポイントが入ったというのを本人にも分かるようにして、効果的な行動を学習させてやる。


 他には動画サイトが発達した現在では、有志によるゲームのガイド動画は効果的かも知れない。こういう行為がチームには喜ばれるとか、こういう行為は駄目という風にポイントを教えてくれる物で、マップ単位での攻略ガイドなども考えられる。クラン戦のリプレイを使っても良いかも知れない。ゲーム中だとボイスチャットでも指導は困難だし、文章とSSでのガイドも限界があるので、何時でも見られる実際のプレイ動画での指導は受けが良いのでは無いだろうか。