もっとも気楽なゲーム

 ここ数年、個人レベルでの動画制作が格段に普及してきている。その理由はいろいろとあるが、中でも制作した動画をアップロード可能なサイトが増えており、またその際のデータサイズも増加しているというのが大きい。記憶装置の大容量化&回線速度のアップと共にその低価格化が進み、それによってサーバー運営側が規定する動画のアップロード可能サイズが上昇しつつあり、動画を制作してもそれをアップロードする為の無料で借りられるスペースが無い(足りない)という過去の状況は消えつつある。高画質(大容量)動画を多数アップロードするとなると有料会員になる必要があるサイトも多いが、無料の範囲内で個人がアップロード可能なサイズは増加傾向にあるし、今後も当然増して行くだろう。


 ゲーマーが制作するゲーム動画に関してもそれは同じ。そしてこの様に動画の容量がアップすると、これまでにはアップロードが難しかった画質の良い動画や、かなり再生時間が長い動画も制作が可能になってくる。その影響を受けて近年増えつつあるのが『ゲームプレイ動画』である。ゲームをプレイしている動画ならば全て『ゲームプレイ動画』になってしまう訳だが、ここではちょっと意味合いを限定させてさせてもらう。


 その昔から存在していたタイプとしては、代表的な物として攻略動画というのがある。シークレットの在処や実績解除用に必要なアイテムの場所等を示したりする物で、その部分だけを編集して繋げた動画となる。文章での説明よりも明確に解る事から役に立つし需要も多かった。次にレビュー動画として幾つかの大手ゲームサイトにて、プレイしているシーンを編集した物にレビュアーがコメントを付けるという形式の物がある。その他では個人或いはゲームサイトが、単にゲームをプレイしているシーンを撮影するという動画ならば以前から多数出ていた。



 それに対してここで定義する『ゲームプレイ動画』とは、一本のゲームを最初から最後まで(若しくはその大半を)プレイしているのを、全てまとめて動画として公開しているタイプを指す。昔からあるVideo Walkthrough(攻略動画)との区別はやや曖昧だが、こちらが「攻略に不必要な部分はカット」, 「機械的で無駄のないプレイ」, 「シークレット要素やアイテムの位置等の重要な点は漏らさず示す」といった形式が一般的なのに比較して、『ゲームプレイ動画』はそのプレイヤーのプレイをそのまま撮影した物が主となる。よって死亡シーンが入っていたりもするし、一直線にゴールを目指すスタイルでのプレイとも限らない。高難易度でのプレイを収録した動画も多いし、逆にそのジャンルが得意ではないプレイヤーが挑戦するスタイルの物もあったりする。または実際のリアルタイムでのプレイを収録した実演型の動画に対して、既にクリア済みのプレイヤーによる見栄えの良いスマートな再プレイというケースもある。


 当然ながら総動画再生時間はかなりの長さになったりもするので、全部で数十本だったり、またはそれぞれがかなりの長さを持っているというのが普通。しかしそれでも無料の範囲内でかなりのサイズまでアップロードが可能になっているので、この様な完全版プレイ動画のアップ数が増えて来ている。だがこういったゲーム全編を収めたプレイ動画が出て来ると問題も発生してくる訳で、今回はその辺をいろいろと考えてみたい。



 根本的な問題として、ゲーム動画自体は許可無く作成されているので著作権上違法となる。しかし楽曲をアップロードしたりするのと違って、制作されたゲームデータその物をアップロードしているのではないから、そのデータを使って他者(視聴者)がゲームをプレイ可能になる訳では無い。その意味で監視の目は違法ダウンロードに比較するとはるかに緩い。普通動画サイトでは規約違反による運営側での削除と、著作権を持っている側からの申請による削除というレベルが設けられているが、現状では運営側がプレイ動画を自発的に削除するといった体制には無いようだ。
 ゲームを制作している側からするとどうなのかとなると、大手代理店や制作会社側から強硬な削除の意見が出ているという話は聞いた事がない。だが同時に皆で賛成しているという事でも無い。ゲームプレイ動画は販売側から見て利点と欠点を併せ持つので、取り締まるかどうかの判断が難しいというのが実際である。



 欠点としてまず思い浮かぶのはネタバレである。ゲームの最後まで収録している動画を全部見たとしたら、その内容についてプレイ前に知ってしまう事になるからだ。ただしゲームのジャンルによってその影響度は大きく異なってくる。一番困ると思われるのはアドベンチャーゲームで、謎解きを楽しむのがメインなのに、それが既に全部解ってしまっていては、自分でプレイする際の楽しさが相当に失われてしまうのは間違いない。だがアドベンチャーでも、シナリオ分岐型のゲームでその内の一つを見せるだけならば、ネタバレの度合いはかなり減少するとは言える。


 RPGはタイプがいろいろとあるので微妙だ。ストーリーが重要なゲームであればそれを明かされてしまうのはマイナスになるし、登場キャラ固定型のゲームもネタバレの影響を受け易い。一方で自由度が高く展開の変化に富んだタイプはネタバレの程度が減少するし、ウィザードリィの様にパーティーを各自が作成するタイプでは、組み合わせによってゲーム性も変わるので被害は比較的少な目である。


 アクションゲームでもタイプにより大分違う。アクション・アドベンチャーと呼ばれる謎解き重視の物ではネタバレが大きな問題となるが、純粋にアクションをテーマにした物では影響は少ない。しかしいずれにしろゲームの展開を見せてしまう事にはなるので、ゲームプレイ動画を最後まで見られてしまった場合、マイナス面の方が大きいと考えるのが普通である。なおCo-opはともかくとして対戦マルチプレイについてはネタバレ要素が少ないので、そのプレイ動画の公開はさほどマイナスにはならないと言える。



 逆に利点の方だが、ゲーム動画は宣伝用のツールとして大きな役割を果たしてくれるという面を持っている。ゲームを買って貰うには第一にその存在を知って貰う必要があるが、多数の国においてそれを行おうとするのは大変は労力になる。特に近年ではテレビや雑誌というメディアから離れて、インターネット上が情報を得る主な場所になっている人も増えている。そういう層に対してはWebページでの広告に加えて、動画サイトでの動画による宣伝というのも重要視されつつあり、ゲーム代理店では自社の宣伝ページをYouTubeの様な大手動画サイトに持っている所も出て来ている。


 動画サイトの多くは人気の動画を表示してくれる機能を持っていたりするので、そんな中で自社のゲームプレイ動画が人気を得れば、それによりゲームの大きな宣伝になるというプラス効果が期待できる。(もちろん逆に動画を見て購入を止めるというケースも有り得るが)。完全版のプレイ動画であっても何所まで視るのかは個人の自由なので、適当な部分まで視て購入を決意したらそこで止めて、後は実際のゲームでという風にすればネタバレの問題は軽減される。よって一概に「ネタバレ要素の強いゲームプレイ動画は徹底して削除に回るべき」とはならず、現時点では各社様子見の状況にあると言えるだろう。今後は例えばゲームのアンケート等で、「このゲームをどこで知りましたか?」、「購入した動機は何ですか?」といった問いに、「動画サイトで視たから」という答えが増えてくれば、更に寛容になっていくと考えられる。



 これからも個人レベルでの動画制作はより手軽なツールが出て来たりとかで発展していくと思われ、それに連れてゲームプレイ動画も増えるのは確実である。個人的にもそれ自体には賛成であり、デモがリリースされていないゲームのプレイを鑑賞したりする際に役立つし、デモが在ってもより実際のゲームプレイ感について知りたいという際にも好きなだけ視られるので便利である。それと既に自分がクリア済みのゲームを他のプレイヤーの視点で見てみるというのも結構楽しめる。


 ただゲームプレイ動画の普及が、ゲームをプレイするという概念を曖昧化しないか?という点は気になっている。よく映画とゲームの違いは、プレイヤーが実際に“操作”という形で対象に働きかけるかどうかにあるとされる。つまり一般的にゲームは能動的であり、映画は受動的である(どちらが優れているのかという問題では無く)。しかし近年ではゲームの大衆層への広がりに関連して、簡易化および簡素化が進みつつある事から、ゲームにおいても受動的なイメージが増加しつつある。例えば「映画的な体験が出来る」と銘打って、開発側が設定したレールの上をただ進む事しか出来ない物とか、重要なイベントを含めて多くのシーンがムービーで処理されてプレイヤーが実際のプレイとして関与出来ない物がそれに当たる。そういったスタイルの方がマス(大衆)ゲーマー層には受けるという意図がそこには含まれているのは言うまでもない。


 ゲームが一番の娯楽と考えているのではなく、「面白ければゲームもやる」という程度の捉え方の人もゲーム機所持者の全体数からすると結構な割合でいる。そういう人はそんなに本数をこなさないし、自分から積極的に自分がやりたいと思うゲームを探したりもしない。そしてとにかく楽しめれば良いという考えなので、そのゲームが能動的か受動的なのかに対するこだわりもない。そういった層にアピールするとなると、プレイヤー側の能動的なゲームへの関わりを減らして、受動的に最後まで流れていく様な“楽な”ゲームが好まれるのは確実である。しかしそれが突き進められた結果として、ゲームを自分で実際にプレイする事に特別な意味を見い出さないプレイヤーが増えて行くのではないかと考えている。言い方を変えると、ゲームプレイ動画を視る事で実際にそのゲームをプレイしたかの様に捉えて、そこで満足してしまう人が増えるのではないかという話だ。


 実際にゲームをプレイするのと違い、ゲームプレイ動画の鑑賞は完全に受動的であり楽な行為である。そしてほとんどの場合、楽な事は人間にとって好まれる。ゲーマー視点からすればそれはゲームでは無いというのは確かだが、ゲーマーでは無い人の視点からするとそれが特にいけない行為、大袈裟に言うならゲームへの冒涜、とは考えない状況も十分に起こり得る。ゲームを買わずに済ませられるという金銭的なメリットもあるし、本当に面白く感じて自分もやってみたくなったのなら、見終わった後に購入すれば良いだけとして、先に全編を動画として鑑賞する事に抵抗を覚えない人も増えるだろう。つまり映画を鑑賞するように、他人がゲームをプレイしているのを動画として視て楽しみ、それを自分自身がゲームをプレイする行為の代わりとする。そんな人が増加するのではないかという気がしている。



 「自分でプレイせずに、ゲームをずっと視ているだけでは面白いはずがない」。私もゲーマーなのでその意見は理解出来る。しかしゲームプレイ動画を結構視るようになってからは、その思い込みは修正せざるを得ないという気持ちになっている。そんな風に私が考えるようになった大きな理由として、実況動画の存在が挙げられる。
 
 実況動画とは何かを知らない人の為に定義すると、ゲームをプレイしているのと同時に自分で喋っている動画の事である。細かく分けるとその種類は様々で、初見プレイでそのまま感想を喋っている物, 主にリアクションを収録している物(ホラー系に多い), 既にクリア済みのゲームを設定を変えてプレイしている解説系動画、という風に一般的には分けられる。その他2人以上での掛け合いを収録している物や、喋り方に特徴がある点をそのまま特徴(利点)にしているタイプも存在している。大抵は人間がリアルタイムで喋るのでトークに上手い下手はあるが、必ずしも上手い方が面白いとは限らない。また人間が喋る以上はその人の喋り方や内容が気に入らないとかで嫌われたり等の視聴者側の好みが当然出て来るし、根本的に喋りは無い方が良いと考える人もいる。



 そういった多数の実況動画の中には相当面白い物も存在しており、ある面ではゲームの視聴者側にその魅力を伝えるのに貢献している。それがゲームの売り上げに繋がるのならば、売り手側にしてみればこれは嬉しいし推奨もしたい。しかしあまりにも面白いという点が、逆効果になる危険性もあると個人的には感じられる。


 第一にどんなゲームなのかを知る為にある程度視るという点では、実況動画を含めてゲームプレイ動画は便利なのだが、あまりにも実況が面白くて途中で止め辛いという優れた物もある。それで最後まで視てしまえば、ゲームの内容を大なり小なり知ってしまう事から、自分で再度それをプレイするというモチベーションが低下する事は避けられない。第二に特にゲームが得意ではない(or初心者)に取って、「自分がプレイしてもこれより面白くはならないのではないか」と感じさせるレベルだったりすれば、これも動画を視る事で満足してしまう可能性も出て来る。第三に特殊例だが、ホラーゲームを自分では怖くてプレイに踏み切れないという人が、その実況動画を自分でのプレイの代わりにしてしまうというケースもある。


 最後に実況動画が純粋に面白い動画という風に受け止められるようになると、そこに“ゲームのプレイ動画である”という意味合いが減少してくるのは避けられない。つまりゲーム以外を含めての面白い動画を探している人は相当いる状況なので、その中で“ゲームを実況している面白い動画”というのが一つのジャンルとして認められてくると、ゲームとは自分でプレイする物なのかそれとも他人のプレイしているのを視る物なのかという境界線が、ゲーマー以外の動画ファンに取っては曖昧になるという意味。既に実況動画はゲームの枠を超えた一種のエンターテインメントになっており、それが実際にゲームをプレイするという行為ではなくても、視聴者を楽しませるという意味では魅力的な物である点は否定出来ない状況にある。よってゲームというメディアに対して、実際のプレイからではなくそのプレイ動画から入るという人も今後は増加するはずで、そういう人に取ってはゲームは自分でプレイするものだという意識自体が希薄になるだろう。



 個人的には非常に面白いと感じる物でも途中で区切りを付けて、ネタバレになるので最後までは視たりはしない。(後にレビューを書くとなると、先に全部の内容を動画で知ってからでは純粋な評価が困難になるという理由もある)。だがそれはゲーマー視点での見方であって、もっとゲームを気軽な物と考える人達にとっては、ゲームを楽にプレイしたいという思考が、やがてはプレイ動画で楽しむという形に変わって行ってしまっても不思議ではない。もちろん全てのゲームを動画視聴で済ませるというのは少数派だと思うが、本当にプレイしたいメインのゲーム以外は動画を視る事で済ませてしまうというケースは大いに有り得ると思う。


 なおこの様な実況動画は日本のニコニコ動画に多く、海外動画サイトにも海外のゲーマーが喋っている物が存在するが、その割合は比較的多くないように感じられる。これはニコニコ動画では、コメントがそのまま動画上に流れるという機能があり、その視聴者側の反応が更に動画を面白くしているし作者側にも好評という要素があるのと、タグや検索機能が優秀なので目的の動画を見付け易い(作者側からすると見付けられ易い)というのが大きいと思われる。(ゲームプレイ実況動画だけを検索したり、再生数等での人気による並べ替えが可能)。世界的に見ると日本の市場規模が縮小化している現状では、世界の動画サイトにこういった人気のゲームプレイ動画が更に増えてくるまでは、世界レベルでのゲーム市場に大きな影響は及ぼさないとは思うが、アップロードサイトが発展してくればどうなるかは分からない。



 個人的にはこういった面白いプレイ動画は実況の有り無しにかかわらずもっと出て来て欲しいとは思うのだが、ゲームを自分でプレイせずに動画を視る事で楽に済ませるという風潮が広まるのは良い気がしない。販売する側にとってもそうなったら売り上げが減るので大問題だ。しかしプレイ動画を徹底して削除するというのはファンからの反発を買う恐れがあるし、先に書いたように面白いほど販促ツールとして働いてくれる可能性もあるので判断が難しい。妥協点としてネタバレで被害を受け易いゲームでは発売後一定期間のアップロードは禁止されるとか、ゲームによって許可されたりされなかったりという風になっていくかも知れない。現状では制作側からのプレイ動画への取り締まりor推奨の声は大きくなってはいないが、ここ数年で議論が活発化する可能性はあると考えている。


 


 最後に幾つかニコニコ動画内の実況動画を紹介してみる。なおこのブログではニコニコ動画の外部プレイヤーに対応していないので、ニコニコ動画のアカウントを持っていない人はそのままでは見られない。面倒だがnicozonの様な外部プレイヤーを使ってもらいたい。(URLを貼り付けてURL Openを押下する)。それとニコニコ動画では、有料会員以外は混雑時間帯は規制が行われて低画質モードになるので注意。物によってはかなり画質が汚くなる。平日の18:00~翌AM2:00までと、土日祭日の10:00~翌AM2:00までがそれに当たる。





 爆笑動画としてあまりに有名な作品。物真似しながらCall of Duty 4: Modern Warfareのマルチプレイに挑んでいる。私はガンダムについてはほとんど知らないがそれでも楽しめる。Part 2も有り。




 喋りによる実況ではなく動画内にコメント字幕を入れるというタイプ。他の媒体からの画像を挿入したりと編集が凝っており、PCゲームのプレイ動画としてはトップクラスの再生数を誇るシリーズ。




 これもコメント数が多い実況動画。BGMやサウンドを追加したり、複数人で喋ったりというやや変則系なので好みが分かれ易いと思われる。





 Left 4 Deadシリーズは4人でのボイスチャットによる実況動画として人気があり、全てがCo-op実況ではないが両方合わせて5千本以上の動画がアップロードされている。これはXbox 360でのCo-op動画でまだ未完だが、知らない者同士が進むに連れて連携が取れていくという構成になっている。編集によるハイライトシーンの再現やスロー再生を行ったりと凝っており面白い。





 友人との2人Co-opなのだが、自分は攻撃せずに回復等の必要最小限の行為しかせず、相方のプレイ振りを側に付いてアドリブで実況するのみという真の意味での実況動画。まだ未完だが非常に人気が高い。





  ホラー系の実況動画は多く、冷静に喋るタイプもあるが大抵は恐がりがあえてプレイという物である。“絶叫プレイ動画”というタグでも結構出て来る。ただしほとんどがコンソールのゲームで、PCでも出ているゲームではあまり種類がない。そんなPC版での実況から一つ紹介。





 FPSに慣れていない女性がかなりグダグダな状態でプレイする実況動画。こういうのもあるという意味で紹介。


 
 こういった昔のゲームをプレイする動画というのも結構アップロードされている。現在では売り上げに影響がほぼ無いので、その意味では安全な動画である。これは再生数が既に150万を超えている人気実況動画で、理不尽な死にゲーをプレイしている。作者は他にもこのタイプの難解な死にゲーを中心にアップロードしており、どれも人気が高い。