ここ一年位の話だが、Xbox 360関連のゲームサイトに行く事が時々ある。マルチプラットフォームのタイトルだとゲームの情報が360先行で出て来たりや、同じくデモの配信も360先行で行われたりするのでそのリアクションを探りにForumを覗いたりするのがその理由である。今回はそんな中で360における実績(Achievement System)という要素の現状と将来について書いてみたい。
先にXbox 360における”実績(Achievements)”について、ご存じない方もいると思うので簡単に説明しておく。まず”実績”とは何かと言うと、各ゲーム毎に設定された「達成目標の一覧」の事であり、それぞれの項目をクリアすると設定されたポイントの獲得が可能になっている。例えば「難易度Hardでゲームをクリア」とか「Xというマップをノーセーブでクリア」とかの条件を満たすとポイントが貰えるの意味。一種のアンロック要素と言えるが、実際のゲームのプレイには関わっていないし、ポイント以外の報酬が貰える訳ではないという点が特徴である。
アンロック要素の種類としては、一度クリアすると最初から異なった武器を持って始められるようになる・別のキャラでプレイが可能になる・新ゲームモードがプレイ可能になる、といった物は”その後のゲームプレイ自体に影響を与えるアンロック要素”に分類され、FPSだとPainkillerのタロットカードなんかがその典型だろう。次に開発中のデザイン画像やムービー等にアクセスが可能になるという”その後のゲームプレイには影響を与えないアンロック要素”というのもコンソールの世界ではポピュラーである。そして360の実績とはその更に外に独立して存在する物であり、ゲーム内容との直接の関連は持っていない。つまり実績を解除しても実際のゲームの内部で恩恵が受けられるという訳ではない(ゲームのアンロック要素と同じ意味の実績項目が存在するというケースは有る)。発売されているゲームの実績一覧はAchieve360Points.com やXBOX360 実績解除スレまとめ @wiki 等で確認が可能であり、具体的にどんな項目が存在するのかに興味の有る方はそちらを参照して欲しい。
実績の設定やポイント配分は開発会社側が行うが、どういったクリア条件を設定するのかは自由である。ただし一定の規制は存在している。
*実績項目数は5個以上80個以下(ほとんどは50個以下)
*全ての実績の合計獲得ポイントは、一般的なパッケージ版ゲームでは最大で1000Pまで
*追加のダウンロードコンテンツでは最大で25%までの追加ポイントが可能(パッケージ版なら250P)
*マルチプレイ用の実績とのポイント配分は自由(ただしマルチプレイの実績解除はゴールド会員でないと不可)
*何が達成条件なのかを具体的に示さなくても良い(シークレット実績)
Xbox360ではLiveと呼ばれるシステムが用意されており、ネットへの接続環境があれば会員になる事が出来て、フレンドリストの作成や有料・無料の追加コンテンツ&デモをダウンロードしたりが可能になる。会費は無料だが(シルバー メンバーシップ)、オンライン対戦に参加するには有料のゴールド会員になる必要がある。会員は世界で一つだけのゲーマータグ(アカウント名)を持つ事が出来て、この中のプロフィールにて持っているゲームの一覧や、オンラインゲームなら対戦成績を管理したりが可能になっている。そしてそのゲーマータグ別にこの実績の解除状況が管理可能であり、ゲーマースコアという名前で全てのゲームの実績の合計ポイントも与えられ、このスコアによる世界ランキングも存在している。
さて今回この実績をテーマに採り上げた理由として、この要素が近い内にPCの世界にも入って来るからというのがある。VistaではこのLiveのサービスを同様に備えており、360と同じくシングルプレイであれば無料で実績要素へのアクセスが可能である。ただし仕様上Vistaオンリーのタイトルのみが対応可能と思われ、現在ではHalo 2やShadowrun等実績への対応ゲームが極端に少ないので目立っていない。しかし数年後にはVista以上がOSの必須環境になるのは必然だろうし、そうなって来れば当然メーカー側も実績要素を導入するようになって来る筈である。
まずはこの実績の持つ良い面から見て行くが、一つは達成感によって満足を得られるという点。一例としてHitmanシリーズでは各ミッションをクリアした後にスコアが表示されて、ここで最高レベルの”Silent Assassin”のランクを獲得するのが目標というファンも多い。しかし実際には達成してもそれは自己満足でしかないし、変な言い方だが達成の証拠が残る訳でもない。しかしそこに「5 Professional Silent Assassins(プロフェッショナルの難易度にて5個以上のミッションでSAを獲得)」といった実績を追加する事で、その実績の解除(達成)は自分への勲章になるし、他のプレイヤーから自分のゲーマータグを参照された際にクリアの証拠にもなる。この様なスコアの形式で何等かの達成条件がゲーム中に存在する場合、それをゲーム内の閉じた世界ではなくグローバルな実績という要素に記録させるというのは面白さを増す物と言えるだろう。
次にリプレイ時のモチベーションの維持である。例えば「難易度を上げてもう一度プレイしても良いかなと考えているのだが、単に難易度が上がるだけではちょっと魅力に欠ける」、「面白いと思うのだが、既に最高難易度までクリアしてしまった」というゲームが有ったとしよう。そこにゲーム側から一種の縛り(制限)や別の目標を与えてやる事で、リプレイのモチベーションを上げてやる事が可能になる。いわゆる”やり込み要素”の条件をゲーム側から具体的に示してやるの意味。クリアすれば実績ポイントが貰えて記録も残るので、単に自分の心の中だけで決めた条件下でプレイするよりもモチベーションも上がるという利点がある。ほんの一例だが、「特定のマップをノーセーブクリア」、「特定のマップをノーダメージクリア」、「特定のマップを特定の武器のみを使ってクリア」といった実績項目が存在する。
反対に製作会社側から見ても実はメリットが有る。収録された”全てのマップ”と”全ての難易度”について個々に実績項目として設定するというのが定番なのだが、こうしておく事でどこまでプレイヤーがゲームをクリアしたのか(どこでゲームを止めてしまったのか)、どの難易度がどれだけの人にクリアされているのか、というデータを集めて分析する事が可能になっている。
だがこの実績は良い所ばかりではなく、問題点も指摘されている。簡単に言えばあまりにも実績の持つ意味が大きくなり過ぎてしまったので、それが悪い方へと出てしまうケースが発生しているという話になる。先に極端な例から書いて行くが、実績解除Pがゲーマースコアとして記録されるようになると、この点数のランキング上位を狙うというプレイヤーが出て来る。それ自体は個人の嗜好なので問題ではないのだが、ポイントを上げるという行為が単なる手段として扱われるようになると歪が生じておかしな事にもなってしまう。
実績はどんなゲームであろうと1000Pまでしか設定する事が出来ない。よってポイントだけに注目するなら、どのゲームで稼いでも1000Pは1000Pで変わらない。しかしゲームによって普通にクリアしてもほぼ1000P近くが獲得出来てしまう物も有れば、相当やり込まないと(或いは実力がないと)高ポイントの獲得が難しいという物も存在する。そうなると実績の達成だけに目を付けるならば、簡単に達成可能なゲームの方が有利という話になって来る(厳密に言えば実績の達成内容は見られるので、同じポイントを稼いでいる人でもその評価は変わって来るが)。
それが高じて来ると、ゲームの攻略方法ではなくて実績の達成方法をアドバイスする事を狙いとした攻略サイトが出て来る。更に発展して「短時間の努力で実績を達成するにはどんなゲームを選べば良いのか」という、本末転倒な目的のサイトまでが出現。中には同様に実績解除の為の攻略本まで存在している。それによって、「実際のゲーム内容の評価は低いのに、実績の解除が簡単なので人気が出る」といったおかしな状況が生じているのである。その為に凡庸で人気の無かったゲームが、値段が下がると実績解除の目的で売れ出すというケースも有るそうだ。またこれに関連した特殊例だが、実績Pを上げる事が技量的・時間的・経済的に難しい場合に、それを請け負ったりする人も出て来たりしている。要はアカウントを借りて代わりに実績を解除し、場合によってはそれで報酬を貰うといったケース。
そうなって来ると、それ程大きな売り上げは見込めないという自覚のある会社が、「実績解除が簡単である」という点を(公言はしないまでも)一つの売りにしてゲームを発売するという事態も起こり得る。しかしそれだとその辺の狙いを良く知らない人には、多くの人がプレイしているゲーム=面白いゲームという誤解を与えかねない。
そしてもっと大きな問題として、本来実績とはゲームプレイとは独立した物であり、そんな物を気に掛けない人には何の影響も与えないはずなのだが、その実績がゲームのデザインという根本部分にも影響を与え始めているという点が挙げられる。例えばゲームのプレイ時間との絡み。近年のアクションゲームはどんどんプレイ時間が短くなる傾向にあるのは御存知の通り。これは一般的にはグラフィックスの表現力が格段に向上した為に、数多くの異なったロケーションのマップを大量に作りこむ事が大変な負荷になったからとされている。しかしそこには「ゲームが短いという不満を、実績によるリプレイ性によってカバーする」という意図も見え隠れしている。
実績の定番として「異なった難易度でのクリア」が存在するが、当然それにはクリアに数十時間掛かるゲームよりは、6-8時間位でクリア可能な方が良い訳だ。同様に何等かの形でマップやゲームのリプレイを要求する実績が多いので、その観点からも全体が短い方が実績解除を狙うユーザーには受けが良いとなり、それがゲームの一回のクリア時間が短くなる傾向に拍車を掛ける原因となる。
実績の解除はゲームの内容には影響しないのだから、本来のゲームの評価とは別物として考えられるべき要素である。実績の設定を本当に適当に済ませている感のあるゲームでも、ゲーム本体が面白ければそれで何の問題も無いというのが大原則である。しかし実績がそれだけ注目を浴びて、ユーザーの間でも「面白い実績を設けるゲームは良いゲーム」という見方が強くなって来ると、肝心のゲームの中身を疎かにして実績で勝負という考えのゲームも当然出て来る。つまり本来ならば、「ゲーム内容が面白いからこそリプレイがしたくなる→だからゲームを面白くする努力をしよう」となる所が、「ゲームプレイ自体の向上を差し置いて、リプレイ性を高めるような実績を面白くする方の努力を行う」という誤った方向に力を入れる会社が出て来てしまうという危険性を持っている。こういうゲームは実績重視のプレイヤーには受けるかも知れないが、単にゲームを楽しみたいという人には本質を逸脱した異常な開発姿勢にしか見えないだろう。実際問題として「実績の評判が良いゲーム(内容が面白い/簡単に解除可能)ほど、レビューのスコアも高いし売り上げも伸びている」という調査結果も発表されており、本来なら実際のゲームプレイ内容とは関係が無いはずの実績が、最早全てのメーカーにとって無視出来ない要素になりつつあるのだ。
その悪影響としてFPSではどんな物が考えられるだろうか? まず上で書いた”全体のプレイ時間が短くなり難易度を変えてリプレイさせる事を推奨するゲーム”が増えてしまう件は最大級の大きな問題と言える。他に幾つか例を考えてみると、
*「或る特定の武器のみを使って、どれかマップをクリアする」という実績を設けたとして、それをちゃんと行えるようにする為に全般的にマップ内で拾える弾薬数を増やすという調整を行う。それが”マップ内の弾薬数が多目で簡単である”というバランスの崩壊を生んだりする。
*「銃器を使わずに殴るだけでクリア(or ナイフでのクリア)」という設定を設けて、それが実際に可能なように調整を行う。その結果として”撃つよりも近付いて攻撃した方が簡単(ナイフが強過ぎる)”といった妙なアンバランスさに繋がる。
*「シークレットの全発見」という設定を設けた為に、マップが複雑に分岐したデザインになり普通に進めたい人が迷い易くなる
*任意にセーブが出来てしまうのは実績の達成を簡単にしてしまうという理由から、チェックポイントでのセーブのみのデザインとなる
マルチプレイの実績については現時点では微妙である。実績解除には必須となる有料のゴールドメンバーシップがどの程度PCゲーマーに受け入れられるのかが不明で、会員数が少ないと当然会社側もマルチプレイ用の実績には力を入れては来ないだろう(シングルプレイの方に1000P全てをを割り振ってしまう等)。また製作会社側がLiveに対応させる道を選択するのかもまだ不透明である。
こちらの実績に関しても使い方・捉え方次第という感じで、例えば典型的な実績として「チーム戦で50・100試合に勝利する」みたいな物が有るのだが、これを”だから皆でチームの為に頑張ろう”という風に考えてくれれば良いのだが、勝てないと判断したらさっさとゲームを抜けてしまう人を増やしかねないという悪い面も持っている。或いは特定の行為を要求するタイプの場合。例えば「CTFで50回旗を取る」という実績に対して、皆が旗を取る事に執着してしまい守る人間が居なくなるとか、「Xという武器で30人以上を倒す」という実績なら、状況を考えずにその武器に固執するといったプレイヤーが出て来たりもするという問題がある。
実績は上手く機能さえすれば、やり込みやリプレイの楽しみを増やしてもくれる物としてプラスとなる。だがそこに重点を置き過ぎるとゲームの製作に歪を生じさせてしまうという両刃の剣でもある。その辺のバランスを上手く考えて、各社が来るべきGames for Windows – Live時代に臨んでくれれば良いのだが.....。