縮みゆく外箱

 私はゲームのCD/DVDは100枚500円とかのシンプルなCD袋に入れて保管し、箱の方は部屋の片隅に積んでおいて、一杯になって来たら潰したりして小さくして押入れの中にしまい込むというようにしている。しかし近年は箱が小さくなった為に溜りが遅くなったので久しくこの作業をやっておらず、この休みに実に久し振りにこの片付け作業を行った。そこで今回はこの機会にPCゲームの箱の変遷について語ってみようと思う。


 まず最初に現在のPCゲームの箱の状況についてまとめてみる。北米でパッケージの形態に変化が起き始めたのは2001年頃からで、それまでのPCゲームの箱は大きな物が多い上にサイズが統一されていない事に、「陳列に不便な上にスペースを取る」と小売店側が不満を表し、コンソールのゲームの様な統一された箱型を求めたというのがキッカケらしい。それによりIEMAという統一団体が現在の箱の形状を決めて、各メーカーも限定版の様な特殊パッケージ以外はそれに従っているという状況である。


 北米の箱サイズはMini-Boxと呼ばれており、縦横はDVDケースとほぼ同じサイズだが厚さが2倍程度ある。ゲームの一覧を見直してみると、2001年発売の物は従来サイズの大型の箱と混在しているが、2002年には既に統一化が完了していたようだ。形状は外装となる薄い紙の箱の中にダンボールの補強財を入れるというのが一般的だったが、ちょっと凝った物では表面を浮き彫りにしたりというのがポピュラーである。また表の面がフラップとなっていて、開くと宣伝文句等が書き込まれたページが開くというタイプも結構良く見られる。最近では同じサイズの厚型プラスティックのDVDケースを採用する物が増えて来ており、これに外装として紙ケースを巻いてそこがフラップとして開けられるようになっているというのも多い。
 箱の中には紙袋に入っているCDがそのまま入れられているか、ちゃんとCDケースに収められていて、そのCDケースに小型のマニュアルが挿入されているというパターンも有る。紙ケースは箱の中で動いてしまうので、輸送中にCDに傷が付いたりする危険性への対策というのが一つ。それと北米では旬を過ぎて残った品を陳列するのに大きなスペースを取るのを小売店側が嫌う為、メーカー側が返品されて来た品の外箱を捨ててしまって、そのまま中のCDケース(Jewel Case)を再出荷可能なようにしておくというのも大きな理由となる(ワゴンセール等に便利)。処分価格で通販する時に小さく軽くなるので送料が安くなるというメリットも有り。



 写真のDark Messiah, Call of Cthulhuは英国版。Quake 4, Area-51は北米版の箱。


 欧州(UK)では何時頃からかはハッキリしないが(少なくとも2001年には出て来ている)、スタンダードな薄型DVDケースへの移行が行われている。北米との箱サイズの違いを生んだ原因の一つとして、欧州ではメディアがDVDになるのが早かったという点が挙げられる。2004年頃のゲームは既にDVDオンリーでの発売となっており、それ故に薄型のケースで対応する事が出来た。一方北米ではメディアがDVDに切り替わったのはやっと昨年辺りからで、それまではCD4-6枚組の多数枚セットで対応しており、そうなると薄いケースに入れるのは困難という事情があったのである。全てCD版のみでDVD版を別に用意しなかった理由は、これもまた小売店側からの圧力となる(北米では小売店側が強い力をもっている)。同じゲームを複数の別種パッケージにすると間違って買う客がおり、その際の対応や返品するのならば手続きが面倒だからである。DVD版だけにする事が許可されなかったのも同じ様に、CDドライブしか持っていないのに購入して返品しろとクレームを言って来る客がいるから。 


 一方でこのUK版にも欠点は有る。大抵のケースはシンプルな構造をしており、CDを固定する軸が一個しかない物がほとんどである。よって複数枚で構成されている場合には同じ軸に3枚程度のCDを押し込む事になり、取出しが固くてやり難いというケースも発生していた。それとケースが薄い為に厚いマニュアルが入れられないという問題も持っている。RPGやRTS系では特に厚いマニュアルになったりする事が多いし、他のゲームでもコスト減の為に多国語兼用マニュアルが使われたりすると厚さが増す(五ヶ国語対応なら五倍のページ数)。その結果ページ数減少のシワ寄せで非常に小さい字で書き込まれた読み難い物になったり、収め切れない内容の一部をPDF形式でCD上に収録したりというケースも出て来る。北米版は空間が大きいのでその点では有利となる。


 ここからは昔に遡ってみるが、1980年代については私はIBM PCのゲーマーではなかったので、PCにおける箱のデザインの変遷についての詳細はよく分からない。ただ私のプレイしていたAmiga等の機種においても特に統一された形式というのは無く、メーカー別に統一されているという傾向が強かったように思う。陳列されている物を見た際に一目でどのメーカーの物か分かるし、同じメーカーの製品を整理して並べ易いという意味も有ったのだろう。それ以外では基本的に箱は大きい物が多く、これは当然多数のゲームが並べて陳列された際に目立つようにするという狙いを持っていた。


 左図は1990年代前半のMS-DOSのゲームの箱だが、比較用のDVDケースと並べて見てもその大きさと厚さが目立つ。なおSierraの箱は特に厚いが、これは同社の統一形式と言うか必要が無くてもこのサイズがよく使われていた。内容物の収納には厚紙で作られたどのゲームでも使い回しの効く白か黒のシンプルな箱を使い、それを(消しゴムのようにして)外周となる紙ケースの中に入れるというパターンが基本形。欧州版では固い厚紙で製作された箱に直接印刷されているというパターンが多かったように思う。いずれも箱の蓋をパカっと開けて中身を取り出すという形式である。
 ちなみに80年代はメディアとなるのがペナペナとした5インチFDだったので、収納する箱は薄くても大丈夫だったしそういう物が多かった。EAのレコードジャケット形式の薄型パッケージなどは有名である。しかしゲームの容量の肥大化と共に必要枚数が増えて来たのと、ハードケースで衝撃に強い上に読み取り面に保護シャッターが付いていて信頼性の向上した3.5インチFDが次第に採用されるようになり、それに伴い箱に厚さが要求されるようになって来たのである(3.5インチFDを重ねて束ねて入れるというパターンが多く、またCD-ROMへの移行の前には10枚組み以上という枚数も存在していた)。


 CD-ROM時代が来ても箱自体の大きさについては大して変わらなかったが、メディアが薄くなったので非常に厚い箱は減っていった。Windows 95以降はマルチメディアの流行でCD4-8枚組み程度のゲームというのも結構出ていたが、これには折り畳みジャケットへの収納形式が多かったので箱自体には特に厚みは必要無かったのである。
 左図は90年代中盤のCD-ROMになった後の基本サイズの見本。Day of the Tentacleは厚紙に直接印刷されている固い箱タイプ。Bloodはこの頃から目立って来た厚紙補強形式の箱である。薄い紙で作られた箱の内部に、CD-ROMのケースを差し込んで固定出来るようになっている厚紙を入れて補強している。


 90年代後半から現在の形式に変わるまでの間は左の様なサイズの箱が多くなった。宣伝に力を入れているゲームでは、表面がフラップになっていて開けられるようになっている形式が流行り出したのもこの頃である。若干上記のBloodの箱よりは小さ目になっている。厚紙(ダンボール)での補強形式に変わりは無い。なおこの頃までの大きな箱のゲームでは、マニュアルも現在の物より一回り大きく読み易い物が多かった。





 近年ゲームの箱が小型化した事で、確かに収納スペースは小さくて済むようになった。しかし私のように昔からのゲーマーとしては、ゲームの箱に個性が無くなったようで寂しさを感じる一面も持っている。今や販売会社側が箱に凝った意匠を施そうとしても限定版以外では難しくなっており、通常版は或る意味では無個性化してしまっている。私は基本的に通販を利用する事が多いのだが、たまに店に行って棚に並んでいるゲームを見ても、その画一化された小さな箱の状態がどうも購買欲を誘わない。昔のように様々な形状の大きな箱が壁一杯に並んでいた頃が懐かしく感じられてしまう。という事で、以下はいろいろと特殊なゲームのパッケージを振り返ってみたい。


 まずは目立つように大きな箱を使うというのは常套手段。これは現在でも限定版では良く見られる手法である。通常の箱は縦長なので、それを横長の大きな箱に入れて目立つようにするというのが多い。このQuake IIもそうだが、シリーズ物や拡張版をまとめたパッケージによく採用されていた(限定というほどではないが、初回プレス以降は同じ形状の物を作る予定が無いというケースに使われる)。id softwareではセットパックとしてこのサイズが定番だったし、Sierraも過去作品のまとめにこの横長タイプを結構な数リリースしている。






 自分の持っている物の中で最大サイズの箱と言えばUltima IX Ascensionが挙げられる。これは通常版や日本語版も大きいのだが、写真の海外限定版は比較画像で分かるように更に一回り大きい上に中にいろいろな物が入っているので重くなっている。その他思い付く所では私は持っていないがDuke Nukem: Kill-A-Ton Collectionも大きな箱で有名だろう。


 続いての目立たせる為の方法としては変形パッケージというのも有る。中でもアクションゲームファンにはEidosの台形パッケージが有名だろう。会社の登場した1996年から2000年辺りまでは、同社の全てのゲームにではないがこの形状がスタンダードな物として使われていた。上部に向けてフラップが開くようになっている。店に行ってもEidosのゲームを探したければすぐに形状で判別出来るという利点を持っていた。











 その他にいろいろな物を適当に選んで紹介。
*(Unreal)箱の内部にCDケースを差し込んでやるというスタイル。これはそこそこ見られた。表面を透明フィルムで覆って、その中に剥き出しのCDを何枚も並べるというパターンも同様。

*(Marathon 2)ちょっと写真では分かり難いかもしれないが、中央部分に意匠が施された立体パッケージ







*(Darkseed)中央がハメ込みの立体加工されていて、更に箱が横から見ると台形になっている。そのまま立てて展示すると表面が上を向くので都合が良い。

*(Star Trek: Harbinger)大きなプラケースでトレードマークを模った特殊形状










 もう一つ箱が大きかった時代の利点としては、中にいろいろな物を入れる余地があったというのが挙げられる。特別な限定版だけというのではなく、初回出荷分は全て、或いはその後も普通に様々なアイテムが収録されていたりして、それがゲームの雰囲気を盛り上げるのに効果を挙げていたのである。例えばUltimaシリーズは布で出来た全体マップを収録し、その他にもゲーム内での魔法関連の本をマニュアルとは別に製作して入れたりと豊富な内容で有名だった。


 コンピューターゲームの創成期からアドベンチャーゲームをメインとした会社として活躍して来たInfocomもその凝ったデザインで知られている。ここは文字だけのテキスト・アドベンチャーを主体とした所であり、その代わりにパッケージ内にオマケに付ける点に工夫を凝らしていた。例えば推理物となるDeadlineではパッケージ自体が捜査を行うプレイヤーに対する報告書の形状を成しており、大きな封筒を開けると中には本物の様な様式で製作された各種報告書・現場写真・現場で採取された錠剤等が入っている。





 同じくSuspendedは人間の顔の形状を模った白い立体プラスティックを箱内に据えた巨大なパッケージとなっており(現物が見付からないので全体写真はハメ込み)、プラスティックをどけると写真の顔(マニュアル)が出て来る。
 ストーリーは冷凍睡眠状態の主人公が眠る施設に何者かが侵入して来るのでその陰謀を阻止するという物なのだが、主人公自身は動く事が出来ない為に、視覚・聴覚・運搬等のそれぞれが限定された機能を持つ6体のロボットに指令を出して作業を行う。それを分り易くする為に大きなゲーム版の様なプレートが付属しており、その上に各ロボットの駒を貼り付けて動かし状況を把握出来るようになっている。








 Crusader: No Remorseもゲーム前にプレイヤーを盛り上げる要素に力を入れている。通常のマニュアルの他に大きな新聞、対テロリスト用の対策マニュアル、反対にレジスタンス側のガイドも収録という充実振り。これは後にWindows版として発売された日本語版でもちゃんと再現されていた。こういう風に分冊化したマニュアルやガイドを入れるという方法は今の小さな箱では難しくなっており、その為か凝った構成の内容物にお目に掛かる事はほとんど無くなっている。







 個人的にはどうも今のパッケージは味気ないという感は拭えないのだが、今後もパッケージ形態はそのままで、通常版よりも高い限定版のみが凝った形状や内容物になるという風潮は続いて行くだろう。しかしその限定版でもアート的に凝った物ではなく、ゲーム自体とは関係の無い特典を付けるというケースが多いので、あまり興味を惹かれないというのが実際である。最近でいうとS.T.A.L.K.E.R.の缶ケースが良いと感じた位か(地図やガイドが入っている)。箱の形状を変えるのはもう難しくなっているので、この様にゲームに関連した内容物を充実させる物が増えて欲しいと願っている。