ゲームの製作予算は日に日に上昇を続け、それを回収する為に掛ける宣伝広告費も巨額になりつつある。AAAと称される大物タイトルにおいては、製作予算が数十億という単位なら、マーケティング費用も全世界で数十億という時代が既に到来している。それでも黒字にするにはとにかくゲームを売らないとならない訳で、売り上げ目標に400万とか500万本といった数字が出て来る御時世だ。
それが作られるゲームのデザインにも影響を及ぼしつつある。大量に売るとなったら、相当な売り上げを見込める人気シリーズ物でも無い限りは、広範囲のユーザーに対してPRしないとならない。そのすそ野は現在ではライトユーザーと呼ばれるレベルから、更に下がってゲーム初心者クラスにまで向けられている。コアなゲーマー向けに制作して100万本売れれば大成功という時代ではなく、例えばコアゲーマー向けに300万本売って、そこに加えてライトユーザー以下の層に100~200万本程度上乗せしようと考えるならば、必然的にそういったライト層にも楽しんで貰えるゲーム作りを心掛けないとならない。具体的には難易度の低下がその主要なポイントとなり、難易度設定に工夫を凝らすゲームも増えている。
それとゲーム業界では、今後10年20年といった将来を考えた場合に、対象ユーザーの変化という面にも対応していかないとならなくなっている。それは高齢ユーザーである。日本では相当少ないと思われるが、海外では高年齢層にもゲームを楽しむ人は結構存在している。ただしそのジャンルは、パズル等を中心にしたブラウザゲームやMMOG、市販の物であればストラテジーやRPG等の思考型ゲームとなり、圧倒的にPCでプレイするゲームのユーザーが多くなっている。一方でアクションゲームに関しては、現在の高年齢層は子供時代にゲーム機で遊んだという経験者が少数の為に、アピールするのが難しいという状況である。
しかしこれからはゲーム機でアクションゲームを楽しんだ経験があるという人間が高年齢層にも増えて行く事になる。例えばファミコンが発売されたのが1983年で、当時13歳だった少年は今年で40歳。20歳だったら47歳である。つまりこれまでとは違って、アクションゲームをプレイするという行為自体には抵抗感を持たない人が高年齢層に増えていく訳で、しかも現在では昔に比較してより広範囲の年齢層がゲームに慣れ親しんでいるから、年月が経るに従ってより高齢層にゲーム好きな人は多くなる計算になる。そうなれば当然ゲーム業界としても市場として無視出来ない事になるが、ジャンルがアクションゲームとなるとそこには問題も出て来る。
歳をとれば反射神経等の能力低下は避けられない事柄であり、若い頃に比較して相対的にアクションゲームは難しくなる。それではと別ジャンルに移行してゲームを続けてくれるのならば業界全体としてはダメージは被らないが、好みのジャンルがアクションだったならばそれを変えるかどうかは何とも言えない。また年齢が高くなるほど私生活の事情から忙しくなり、ゲームから離れがちになってしまい引退の可能性が高まるというのもある。だがゲーム業界としては、それを潮時にゲームからの引退を考えられてしまうのは好ましくない。特に日本のように少子化&高年齢化が顕著な市場においては、ゲームに抵抗感の無い40代や50代にアピールしてゲームを買って貰う事は、今後10年20年といったスパンを見据えると切実な課題でもある。そこでこの将来的な巨大市場を確保する為には、ゲームの難易度を下げたりといった対応で高年齢層にもプレイし易くするというのが重要になってくる。
この様な難易度を低下させる件が論議になった場合、当然そこには否定派も出て来る。曰く、「アクションゲームは困難を乗り越えてクリアし達成感を味わうのが大事なのだから、やたらと簡単にしてしまってはゲームをプレイする意味が無い」といった意見である。しかし難易度がVery Easy等だったにしても、プレイする本人が初心者で「簡単ではない」と感じているのならば、何ら問題は無い事になる。また“達成感”の意味の取り方も人によって異なる。ゲームを最後までクリアする事を達成感として考える場合ならば、自分がストレス無くプレイ出来る様な難易度でプレイして、より多くのゲームでそれを味わいたいというのも一つの考え方になり、どちらかが絶対的に正しいという話にはならない。
実際問題として難易度の低下という傾向に対してコアゲーマー層から批判的な意見が多いのは、それによって自分のプレイしているゲームが易しくなってしまっていると感じられるからであり、これは正確に言えば易しい難易度を設けるという事とは別の問題である。コアゲーマーにも初心者にも満足してもらえる様な難易度システムを用意する事は可能であり、単にその設定に失敗している制作会社が多いだけだと言えるだろう。一例として非難を浴びたBioshockの無限復活装置にしても、パッチで修正された様に有効/無効をプレイヤー側で切り替えられる方式ならば問題は無かった。
要は難易度を下げる必要があるとしても、今後はそれをどうやって下げるのかが重要視されてくる事になるだろう。これは掘り下げて考えてみると結構複雑な問題であり、以下ではそれについて考えてみたい。なおジャンルによって考え方は大きく異なるので、ここではアクションゲームに限っての話とする。それとライトゲーマー, 更にゲームに馴染みのない一般層, 高齢者層等を合わせて、ここではマス(大衆)ゲーマーと称することにする。
1.難易度設定の数
FPSやTPSではEasy, Normal(Medium), Hardの三段階を基本として、そこに更に高い難易度を加えたりするのが一般的で、謎解きを重視したアクション・アドベンチャー系では難易度自体を設けないというスタイルも過去には見受けられたが、徐々に難易度設定無しのゲームは減っている。マスゲーマーが増えてゲームをプレイする際の技量が下の方に広がりつつある現状では、より選択可能な難易度を増やしてそれに対応するのが妥当だと考えられる。具体的にはVery Easyの様にしてEasyの更に下の難易度を作る方法が一つ。または難易度設定とは別にオプションで難易度を下げられる選択肢を設けるというやり方もある。例えば先のBioshockの無限復活装置のON/OFFはその類だし、レーダーに敵の位置が映るかどうかとか、銃やアイテムのスロット制限の緩和とかいろいろと考えられる。いずれにしろこの様な幅広い難易度設定を持ったゲームは今後増えて行くはずである。
難易度の数は少ない方がスッキリしていて良いというのは確かだが、幅広いゲーマー層を少ない難易度の中に収めようとすると問題も発生する。難易度のバランスはモニター(被験者)を使ったプレイテストにより決められる訳だが、マスゲーマーへのアピールを重視してモニターにそのレベルのプレイヤーが増えると、全体的な(或いはNormal以下においての)難易度設定が下がり、コアゲーマー層から易し過ぎるとして不満が出たりしてしまう。それを考えると幅広い層への対応には、やはり難易度設定の細分化が重要なポイントになっていくだろう。
2.難易度は固定か可変か
難易度設定の一つの問題点として、プレイヤーがどの難易度を選ぶのかが判らないというのがある。各難易度がどんなプレイヤーに向いているのかという説明が出たりもするが、それをちゃんと読んでくれるのかどうかは判らない。初心者がEasyを選ぶとは限らず、普通(Normal)を選ぶのが一番良いんじゃないかと受け取られる恐れもある。また技量には個人差があるので、アクションゲームをあまりやった事が無いからと言って下手だとは限らない。初心者ならばEasyが向いているという説明を守ってそれを選んだが、実際には簡単過ぎて面白さが損なわれてしまうという可能性もある訳だ。
対策の一つとしてModern Warfareの様に、ゲーム開始前にテストを設けてプレイヤーに向いている難易度を診断するというやり方がある。正確な診断にはある程度の時間が必要なので、最初のマップは皆に同じ難易度でプレイさせて、その結果から推奨する難易度を示すという様な形が考えられる。これまでは主にコアゲーマーに向けてゲームを作っていたので、その辺の判断は自分で出来るだろうという観点からいきなり選ばせる方式だったが、難易度一覧を見てもどれが自分に向いているのか判断がつかないというプレイヤーも増えるはずなので、こういったテスト形式での難易度選別も一つのやり方として可能性は持っていると言えよう。
しかしゲーム開始時の難易度選択ミスへの対策としては、その後の難易度変更を可能にするという方法が一般的である。どんな時でも変えられるとまでは行かなくても、チェックポイントからのリスタート時には変えられるか、最低限そのチャプターの最初からなら変更してやり直しが可能というシステム。しばらく進めてからこの難易度は自分には合わないと感じたら、変更して自分に適した物に変えてしまえば良い。これまでは「大抵のプレイヤーは自分にとって適した難易度を自分で理解している」という前提があったので特別重要視されるシステムでは無かったが、マスゲーマーが増えてくるとかなり重要な物となる。「合っていなければ最初からやり直して」というのは酷い仕打ちと取られてしまうかも知れないし、もう難しくて先に進めないとなってゲームを投げ出されてしまう危険性も減らせる。
逆に難易度を可変方式にする際の難点としては、第一に技術的にそれを実現するのが難しいというケースがある。これは制作しているエンジンの仕様等がその理由。この辺は最初から対応する事を念頭に置いてエンジンが制作されれば良いので、将来的には大きな障害とはならない。次に非常に基本的な点だが、それが可能だという事を確実にユーザー側に伝える手段を持たないとならない。マニュアルは読まないし、ゲーム画面に出るヘルプ機能も見ないというプレイヤーは結構居るので、難易度は何時でも変えられるという機能があるのを伝える方法も実は大事となる。死亡時のリスタート画面に出すにしても、確実にそれが目に留まる様に考慮しないとならない。
それと難易度を可変にしてゲームのクリアを容易にすると、攻略本が売れなくなるかも知れないという問題も出て来る。攻略本が占める利益の割合はかなり大きく、大物ゲームの制作時には相当重要な項目となる。よって攻略本の売り上げアップの為に、ゲーム発売以降はゲーム雑誌に対して攻略情報の掲載を制限したりというのは定番である。(昔聞いた話では、確か北米のEAだったと思うが、大体ゲームの稼ぐ利益の内で8~15%程度を攻略本販売の分が占めているとしていた)。
ただしアクションゲームでは比較的他のジャンルに比べて攻略本の持つ意義は低く、アクションや戦闘自体が難しいからヒントの為に買おうと考える人はゲームによってはかなりの少数となる。戦闘面ではなくて謎解き要素が多いゲームではその解答。他にはシークレットやアイテムの場所の解説とか、実績(トロフィー)関連の達成の為のヒント等が重要視されており、それらを求める人はゲームの難易度に関係無く攻略本を購入してくれるので影響は少ないという見方も出来る。
最後に作り手側の考えとして、難易度調整は制作側がキチっとやるべき要素であって、ユーザー側の判断でコロコロと変えられるという風に、ユーザー任せにしてはいけないという発想がある。つまり多くのプレイヤーにとってバランス良くプレイ出来る難易度バランスを達成するのが、制作チームの腕の見せ所という理論である。だがこれは今後通用しなくなるのではないかというのが個人的な意見である。
ゲーマーが10代中心だった頃はそれでも良かった。子供には修練の時間も十分にあるし、アクションゲームに必要な反射神経といった点でも優れている。しかし増え続ける高齢者層を購買ターゲットに含めていく未来ではそうは行かない。40代以上ともなれば自由時間は確実に削られるし、反射神経が次第に衰えていくのも避けられない。アクションゲームに不慣れなライトゲーマーについても同様の事が言える。一般的に彼等はゲーマー層ほど難所で頑張るという忍耐力を持たないし、技量面でも比較的劣っている。よって誰にとっても適切に調整された絶妙な難易度構成というのは極めて困難となり、制作側の努力によって補える物では次第に無くなってくる。結果的にユーザー側に自由に難易度を変更させる(もしくは難易度を下げるオプション設定を別に設ける)という方式が、将来的にはかなりポピュラーになっていくものと考えている。
3.自動難易度調整
ユーザーのプレイをモニターし、それを基準にして難易度を自動的に変更するという方式も存在している。そしてマスゲーマー向けにはこの方式の方が、適切な難易度を自動で設定出来るという意味では向いているとも考えられる。いちいちユーザー側が変えないとならないよりは、自動方式の方がユーザーフレンドリーと言えるからだ。ではこれが上手い手法なのかとなると、それはやり方によるとしか言えない。
一番穏当で影響力が少ない手法としては、同じチェックポイント(セクション)で繰り返し死亡している場合に、一時的に難易度を下げるというのがある。その下げ方にはいろいろなやり方があるのでここでは詳しく触れないが、そこを突破出来たら次のチェックポイントからは元の難易度に戻すという方法である。マスゲーマーが特定の箇所で詰まった際の救済策としては有効な手段なのは言うまでもない。なお高い難易度でのプレイにおいては好まれない設定なので、作動する難易度はNormal以下という風にでも決めておけば影響も少なくなる。プレイヤーがオプション設定から有効/無効を切り替えられる機能も在った方が良いだろう。この類はゲーム全般に影響を及ぼさないので、今後は採用数も増えていく可能性は高いと思う。
それに対してゲーム全般において難易度調整を有効にするという方法はどうなのか。常にプレイヤーの成績をモニターしておいて、能力に応じて易しくしたり難しくしたりの難易度変更をゲーム側が自動で行うという物である(これもまた作動する難易度は普通Normal以下とかになるだろう)。よって理屈としては、常に適切な難易度でプレイ出来るのでゲームが面白くなるはずという話になる。しかし実際の所は難題も多い機能で、例えば上げ下げする幅の調整からして難しい。徐々に変化させるのか、一気に変えるのかはプレイヤーの好みもあるので、一律の設定だと不満が生じる恐れがある。また変えたとしてどうやって戻すのかも選択肢はいろいろだ。その難所をクリアしたらすぐに変更前の設定に戻すべきなのか、そのままの設定でしばらく様子をみるべきなのか。ユーザー側にそういった各種の調整方法に関する設定を任せるという考え方もあるが、それでは複雑化するし“自動”というメリットが薄れてしまう。
なお現状ではこの様なシステムを組み込んで成功しているメジャーなアクションゲームというのが思い浮かばない。FPSで採用している有名な物ではSiN: Episodes oneが在るが、これはシステムが複雑過ぎたり機能にバグが在ったりで成功したとは言えない。個人的にもあまり良いシステムとは考えていないのだが、相当上手くやったら良い物が出来そうという感はある。ライトユーザーが当人にとって適切ではない難易度を選んでしまった際の対応策として、そのシステム自体は優れているように見えるので、どこかが採用して成功を収めれば追随する所が増えそうな機能ではある。
4.難易度調整の存在を知らせるべきか
これは前の自動難易度調整に関連する議題だが、自動調整を組み込むとしてそれをプレイヤー側に知らせる方が良いのか、それとも隠しておく方が良いのかという点について考えてみよう。
明確に調整機能の搭載を知らせる場合の利点は、マスゲーマーに対して「苦戦している箇所では自動的に易しくなる調整が存在しているので、誰にでも最後までクリアが出来ます」と言う風にアピール出来るのがまずは大きい。例えば別のゲームのある箇所で難し過ぎて挫折したという経験のあるプレイヤーには魅力的に映るはずで、売り上げアップの手段としては効果的である。それとゲームが難し過ぎるという不満は大幅に減らせる事になるし、その分最後までクリアしてくれる人の数も多くなる。クリアまでの時間も非搭載時に比べたら短くなるはずなので、あまり長い時間掛けたくないという人向きでもある。反対に問題点としては、ゲーム側に手加減されているのでクリアしても達成感が薄れるというのが挙げられる。ただこれをどう捉えるかは個人差があり、ライトユーザー層ではあまりそんな事は気にしないかも知れない。
一方でその存在を隠す場合には、プレイヤーの「この難易度でクリアした」という達成感を損なわないというのがメリットになる。どんなレベルまで隠すのかはいろいろだが、もしかすると全てのプレイヤーが知らないだけで搭載されているゲームが存在しているかも知れない。欠点は公開時と逆で、アクションゲームは難しいと考えているマスゲーマーに対してアピール出来ないのが痛い。また隠すという目的上、あまり派手に難易度を変えてユーザーに気が付かれない様にしないとならないので調整が難しくなる。
ゲーム全体に自動難易度調整機能を持つゲームならばその点を売りとして宣伝する可能性が高いが、難所でのみ自動的に働くタイプだと公開/非公開のどちらの方式が増えるのかは何とも言えない。ただどちらにしても、難易度数を増やしたりゲームを簡単にするオプションを設けるタイプや、プレイヤー自身に難易度変更を行わせる手動タイプの方が主流になりそうな気がするので、自動難易度調整を持ったゲーム自体はあまり出て来ないような気がしている。
5.どんなタイプでも調整可能なのか
この件は前にも書いた事があるのだが、難易度を低下させる行為とミスマッチなジャンルもある。アクション系で言えば(サバイバル)ホラーとかがそれに当たる。プレイヤーに恐怖を感じさせる重要な要素として、敵に襲われると死に易く、また対抗する攻撃手段も限定されているという高難易度設定が良く使われる。これを易しくしようとして、敵に攻撃されてもなかなか死なないとか、十分な武器と弾薬を持っているという風にしてしまうと、ホラーという根本要素が否定されてゲームが詰まらなくなってしまう。なのでマスゲーマーに向けて、「易しいけれども怖い」という風に作るのが困難になり、幅広い層に向けて何百万本も売れる(サバイバル)ホラーは制作し辛いという話。
よく考えると「プレイヤーが怖がる」のがイコール「逃走や戦闘が難しいシーン」ではないので、戦闘や逃走シーン以外のイベント等で怖がらせて、その他は易しくするという風にするのは不可能ではないと思うのだが、かなり構成が難しいのは確かだろう。それと戦闘面以外で怖がらせるのであればアドベンチャーゲームの方が向いており、そちらで作った方が良いというのもある。或いは「ホラーゲームは難しいのが当然」と理解してくれるゲーマー層にターゲットを絞って作るという方法もある。だが当然目標売上本数は低くなり、それに応じて予算も減るので、HD機ではなく携帯ゲーム機等にプラットフォームをシフトしていく傾向が強くなるであろう。よって巨額の予算を掛けた純粋にホラーを追求したゲームというのはほとんど出なくなるのではないかと予想している。アクション要素を強めてホラー色を薄めたアクション・ホラーの方が、難易度を下げても通用し易いので将来的には主流になっていくと考えられる。
他の可能性としては、怖さではなくグロさを追求したゲームというのは考えられる。敵のデザインや動きが非常に気持ち悪いとか、流血やゴアの派手なエフェクトで怖がらせるといった系統のゲーム。このジャンルならばゲームを易しくする事は大分許容されるので、グロテスクな描写を怖さへと結び付けるような狙いは有り得ると思う。
6.どうやって易しくするのか
実はこの根本的なテーマが一番深い検討の余地を秘めている。マスゲーマーに対して難易度を下げようという場合、Easyよりももっと易しくすれば良いというのは第一に思い付く点である。だが事はそれほど単純ではない。ユーザーが望んでいるのは「簡単だが面白いゲーム」であって、単に凄く簡単なゲームでは無い。マスゲーマーでも大きな困難にブチ当たらずにクリアまで行ける難易度設定だけならば誰でも作れるが、それでいて満足感も得られて面白くするというのは考えてみるとかなり難しい。
FPSを例に取ると、簡単にする為の設定として、「近距離での撃ち合い時に敵のリアクション速度を下げる」, 「敵の攻撃による命中率や被弾ダメージを下げる」, 「狙いを付けるのが難しいので敵の移動速度を下げる」, 「自動回復するHPの耐久度を増して、回復時のスピードも上げる」, 「オートエイムの適用範囲を広げる」といった項目が考えられる。しかしEasyよりも下げるとなると、見た目として不自然になる恐れがある。敵の移動速度があからさまに人間として遅ければ変に見えるし、反応速度が遅いというのも同様。自分のすぐ近くで撃っている敵の弾が当たらないとか、自分自身のHPが簡単に回復するので無敵状態に近いというのも問題がある。オートエイムもやり過ぎると不自然。要は確かに簡単にはなるが、アクションのスピード感や戦闘時のリアリティをあまりにも低下させると、いくらマスゲーマーとは言え満足度も低下してしまうということ。
よって難易度を低下させる要素の中で、どれが適しているのかをゲームのタイプ等によってよく検討しないとならない。上記の例では銃の集弾率を上げたり、走りながら撃っても照準のブレが少なくなるとか、リロードモーションの時間を減らしたりする方が目立たない。敵のAIについても、こちらに接近してくる動きを減らしたりや、グレネードを投げ込む可能性を下げる、プレイヤーのHPが危険な状態では敵の銃撃が自動的に緩くなるという様な調整方法が考えられる。スローモーションの様な特殊能力を持ってるのならば、それをより頻繁で効果的に使える様にするというのもアリだろう。部隊として行動しているなら、味方の戦闘能力を上昇させるという方法もある。
プラットフォームを飛び移ったりするタイミングアクションがメインのゲームでは、ジャンプ距離を若干伸ばしてやる, プラットフォームの動きを遅くする, 空中での姿勢制御の余地を緩和する, 止まった状態からでも走り+ジャンプと同じ距離飛べる, アクション時に敵の妨害等が無くなる, 連続したアクション達成までに制限時間のある箇所ではそれを延ばす, しがみつく等のアクションに失敗してもリカバリーの時間を設ける等々が考えられるが、ゲームのタイプによっても適した修正は異なる。あまりにも簡単に出来てしまっては問題があるという点が重要なので、プレイヤー側の達成感を考慮した調整が求められてくる。このタイプの利点としては、FPSの人間同士による撃ち合いとは違って「ジャンプ動作等が現実と比較して不自然だ」という印象は薄いので、調整方法に制限が少ないというのが挙げられる。
ステルス物ではより敵に検知され難くするというのが基本となるが、こちらはこれまでの実際のステルスゲームにおいても現実世界と比較したらゲーム的で不自然な物が大半なので、調整はし易いと言える。例として敵に見付かっても隠れてやり過ごせれば発見状態がリセットされるとかは現実世界では不自然だが、ゲームの世界ではその様にしても特別に不自然ではないので、低難易度ではその様にするというやり方は可能である。敵の認識距離も現実と比較すれば短いので、それを更に短くしてもあまり変にはならない。
QTEを多用するゲームならば、キー入力の有効時間を延ばすのには限界もあるので、少ない種類のボタンしか使われないようにするとか、連続入力を要求される際の回数を減らすとかの方が適切であろう。
上記に加えてユーザー側が選択可能な難易度低減オプションというのもあるので、調整項目やその変更の仕方は無限であり、そんな中から低難易度でも楽しめる設定を見付ける事が今後はゲーム制作会社に求められるようになっていく。とは言え「簡単で且つ面白い」という目標自体も、その見方には個人差があるので難しい。自分は未プレイだがセガから出ている『ベヨネッタ』というヒット作が在って、このゲームでは難易度EasyとVery Easyにおいてオートマチック操作をサポートしている。これは本来押すべき操作ボタンではなく、単に同一のボタンをタイミングを合わせて押しているだけで、自動的に操作が行われるというシステムである。公式サイトではその実際の操作をムービーとして見られる(Action→イージー・オートマチック)。
これを見て「これはもうゲームじゃないとか」、「こうまでしてゲームをプレイする意義は無いのでは」といった感想を持たれる方もいると思うのだが、全てのプレイヤーが強制されるシステムでは無いし、難易度設定とは別にこの機能はオフにも出来るので特に変な機能とは言えない。またこれを変に感じるのはゲーマー視点からの感想であって、マスゲーマーは特に変とは感じないかも知れない。この辺は実際にマスゲーマーにテストプレイをして貰ってその反応を見る事になるが、このゲームに限らずマスゲーマーの反応はコアゲーマーからは窺い知れない面があるので、「それはないんじゃないか」と思えるような簡易化設定が登場してくる可能性は大いにある。そういったゲームの簡易化の是非については「ゲームをプレイする意義って何だ?」というような所に繋がってくるので、またそれは別の争点となる。
7.コアゲーマーへの影響
最後にゲーマー視点から見て、マスゲーマーをも重視した開発側の変化はどう捉えるべきなのか。コアゲーマーがより高い金を払ってゲームを買っている訳では無いので、マスゲーマーとの発言権の重みは開発側から見れば一緒。コアゲーマーが売り上げの大半を占めるという予測でもない限りは、マスゲーマー側の意見も同様に尊重される事になる。
一応は高難易度でのプレイを好むプレイヤーにとっては、その難易度でのプレイに影響が無いのならば別に問題とはならないし、普段はEasyやNormalでプレイするという人でも、様々な簡易化オプションが設定から自由にオフに出来るならば良いという話になる。つまり自分がプレイする難易度において影響が無いのならば、その他の難易度における調整が変に見えたとしても、それがマスゲーマーには受け入れられているのならば、「それはそれ」としてコアゲーマー側でも認めるべき時代になっていると言えよう。つまりどういう風に用意された難易度や設定を用いて遊ぶのかは個人の自由であり、あまり声高に他人の好むプレイスタイルを非難するべきではないという事である。もちろん個人的にはマスゲーマーは無視してコアゲーマー向けのPCゲームをもっと多く作って欲しいとは思うが、現状ではそれは人件費の安い東欧とか限られた地域から少数が出て来ているだけに過ぎず、そういう風に業界全体が変わる可能性はゼロに近いという点は否定出来ない。
現時点でゲームの難易度設定の簡易化対応において問題なのは、難易度をEasy, Normalと言った難易度設定で下げるのではなく、ゲームの基本デザインとして変えてしまう傾向が見られるというのがある。つまりゲームを易しくする要素をオフには出来ない基本システムに設定して、そこから各難易度を調整していくというやり方が増えているという意味。例えば敵の攻撃にタイミングさえ合わせれば自動的にカウンターが出るというシステムとかがそれ。ゲームを易しくするシステムは低難易度のみにて自動的に組み込まれるか、ユーザー側で任意にオンオフ出来る方式が望ましく、この辺は将来に向けて不安な点である。
RPGやRTSではマスゲーマー向けにどういう風に変わっていけば良いのか等はまた違った話になるので、その辺は該当ジャンルのファンで近年の傾向に詳しい方とかは自分で考えてみても面白いだろう。
Seiryu_PGD: 休日をくれ
サバイバルホラーもあまりにオーバーキルだと
怖いというよりイライラするとかウザいとか
別の負の感情が発生するので
なかなか難しいとこだとは思うんですよ
やはり怖がらせる程度に収める
手心調整が必要なのではないかと
dBソフトの「プロデュース」的な作業ですね