ダンジョンマスター

 一部オールドゲームのファンの間では話題になっている、インディーズ会社Almost Human からリリースが間近なLegend of Grimrock。このRPGは名作Dungeon Masterの影響を強く受けており、あのゲーム性を現代のグラフィックステクノロジーにて蘇らせようという意図を持っている。そこで今回はそれにちなんでDungeon Masterについて語ってみたい。


 Dungeon Masterはオリジナル版がAtari STにて1987年に発売されて大ヒットとなり、以後Apple II GS, Amiga, PCに移植。 日本でもスーファミ, X68000, PC-9801, FM-Townsに移植されており、当時からゲーマーだった人に取っては非常に知名度が高いゲームである。ゲーム関連メディアから多数の賞を受けており、CRPGの歴史に残る名作と言える。その後続編となるChaos Strikes Backがリリースされたがこれも好評。更には新シリーズであるDungeon Master II: The Legend of Skullkeepがリリースされているがこちらはそれ程評判が良くなくて、それもあったのか1996年には製作のFTL Gamesが無くなってしまい、以後は新作が製作されていない。


 個人的にはこれまでにプレイした全ゲーム中のトップ10に確実に入る傑作だと考えており、当時非常にハマった作品である。存在を知ったのは当時のゲーム雑誌状況からしてログイン誌だったと思うが、オリジナル版の出たAtari STは日本ではレアな機種であり、私の持っていたAmiga版を待たないとならず確か実際にプレイしたのは1989年の事だったと記憶している。


 このゲームの画期的且つ最も面白かった所はリアルタイムでのダンジョン探索という要素である。古くはWizardryによる一人称視点での線画によるダンジョン描画に始まり、それはマシン能力の発達と共にカラーのグラフィックスでの描画へと変わっていった。このDMも壁面に変化のある模様を付けたりと進化してはいるが、そこに大幅な進歩が感じられる訳ではない。移動単位は相変わらずマス目単位だし、視点は前後左右の4方向へしか切り替える事が出来ない。


 だが当時のマシンパワーを利用して、ダンジョン内部でのゲーム進行をリアルタイムにした事にインパクトがあった(厳密に史上初の要素ではないが、完全に全てをリアルタイムにしたのはDMが初だと思う)。モンスターとの戦闘はターン制ではなくてリアルタイムであり、キャラクタの能力・状況や攻撃方法(魔法)によって次の攻撃を繰り出せるまでの待ち時間が変わるので、その辺を画面を見ながら素早く判断して行わないとならない。

 そしてマス目を移動中に「モンスターとエンカウントした」という表示が出て戦闘画面に切り替わるのでは無く、実際に視界内のダンジョンをモンスターが彷徨っており、戦闘に持ち込むまでの準備とダンジョンの形状を利用した戦い方が重要になるシーンが多い。敵が近付く前に遠くから攻撃も可能だし、反対に遠くから攻撃を仕掛けてくる敵も居る。更に危なくなったら退却するという作戦も採れれば、プレイヤーに対して設置されているトラップ系の装置を誘導したモンスターに対して使うなんて事まで出来てしまう。

 マウスでの操作を前提としており、世界の中に在るアイテム類を持ったり投げたりや、ドア等のオブジェクトの操作も現実世界に似た感覚で行える様になっている。それと食事と水分補給の概念もあるので、これにも随時気を付けてやる必要があるといった具合。これらの要素によって実際にダンジョン内部を自分自身が探索しているかのような気分になれるので、ゲーム内世界への没入感が極めて高いゲームとなっており、休みの日などは必要な休憩時間を除いてずっと潜ってプレイしていたものである。


 使用キャラクタは予め用意されている24人中から最大で4人までを選択可能。リアルタイム制という事もあって、必ずしも4人フルで構成するのが有利とは限らなくなっている。初回プレイ時は難解なパズルも多い為にかなりクリアまでに時間が掛かった憶えがあるが、一度クリアしたら今度は全然タイプの違うキャラクタで構成したパーティーで繰り返し挑んだり出来るのでリプレイ性も高い。



 ただし当時まだゲームに触れていなかった人が、今からプレイしてどう感じるのかは微妙なところではある。RPGにジャンルを限らず過去の名作ゲームには、ユニークなアイディアや優れたゲームバランス等によって、(グラフィックスやサウンドのクオリティを除けば)今プレイしても傑作であるという物もあるが、一方で当時は画期的だったアイディアがその後の作品に採り入れられた為に、今プレイしても当時のインパクトが感じられないという物もある。DMはどちらかと言えば後者であり、このリアルタイムの探索という方式はEye of the Beholderシリーズ三部作やWizardry 6などに影響を与え、1992年には世界を実際に3Dで作成したUltima Underworldが生まれている。


 当然時代が新しくなるほどグラフィックスとサウンドは高レベルになっていくので、DMでは同じ様な壁面のグラフィックスが延々と続き、プレイ中のBGMが無いという点は後続作品に比較して見劣りするのは否めない。フロッピーディスク一枚が主流の時代の作品というのもあってデータ量も多くは無く、ダンジョン内での戦闘面に特化した内容であり、ストーリーやNPCとの会話要素などはほぼ考慮されていない。よって後続の同系作品から入ったプレイヤーにとっては、その後にプレイするDMには発売時の強烈なインパクトは感じられない可能性が高い。


 私としては今からプレイしても、インパクトは無いにせよシステム面では面白い物を持っているし楽しめるとは思う。しかしこの手の一人称RPGをプレイした事が無い若い世代の人達に取っては、今やるならリアルタイムである事は単なる一要素に過ぎず、他にもいろいろな要素を含んだUltima Underworldの方が面白いであろうという気がするし、勧めるとしてもこちらの方になる。(近年は自由度の高いRPGが増えているが、今から20年前にこれだけの自由度を持ったRPGが存在していたというのは衝撃的でもあるだろうし)。

 逆にDM経験済み世代からすると、私もそうだが、UWの完成度と革新性は認めるものの、リアルタイム世界という衝撃はDMで既に経験済みなので、その意味でインパクトの強かったゲームはUWよりもDMであるという人の方が多いのではないだろうか? UWの方が遥かに深いRPGではあるが、DMはダンジョン探索に専念出来るという単純な構成だけに、実際に自分が潜っている感に関してはUWよりも上だったと感じる。



 現在では独自に製作したプログラムで、Windows上にて当時のゲームを再現しようというプロジェクト『Return To Chaos』が存在している。その作者から公認されている日本語の解説頁ALL Dungeon Masterもあり、ゲームの詳しいシステム等を知りたいならばこちらを参照すれば良いだろう。


 最後に棚を探して出て来た関連資料を紹介。まずはゲームのパッケージやマニュアル類。攻略本は細かいパラメータ等の資料目的と、リプレイ時に手書きのマップよりもちゃんとした綺麗な物が欲しくてタイプの異なる物を2冊購入した。



 当時ログイン誌を呼んでDMをプレイしていた方は憶えておられるだろうか? 付録の攻略用小冊子である。本編用が1冊と、CSB用が2冊。多分付録としてはこれだけだったと思う。



 冊子の中身と本誌記事の切り抜き。雑誌全てを保管するのは場所を取るので、興味の在る物だけ切り取ってから綴じて保管していたのだがその一部。攻略用小冊子の方にはDM座談会と称して、河野マタロー, 金井哲夫, 高橋ぴょん太, オタク五十嵐といった実に懐かしい面々が見られる。





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