Greenlightの終焉

2012年08月30日の開始より約5年の月日を経て、2017年6月6日をもってSteam Greenlightが終了した。終了すること自体は事前にアナウンスされていたとは言え、6/6の停止宣言は突然であり結構な騒ぎにもなった(登録直前だった開発者からのボヤキが多かった)。これは事前に明確に停止日をアナウンスすると駆け込みでトラブル状態(サーバー過負荷でアップロード出来ない等)になる恐れを考慮しての措置であろう。

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Greenlightの停止決定がアナウンスされたのは2017年2月11日(以前から終了する予定という話は出ていた)。まずはそこからのGreenlight末期の状況について書いてみたい。正確にいつ終わるのかが不明ということで、このアナウンス以降は駆け込みによる登録ゲームが一気に増えるようになった。私は月に一度くらい見に行っていたのだが、確か3月は登録数が450件以上有ったはずで、これだと最大の30件/P表示で15頁となり、タグで検索を掛けるにしても相当な数を見ないとならなくなる。このハイペースは終わるまで続き、5月辺りにはそろそろ終わりそうだという感じになってくると、ほとんど出来ていないとか登録規定に達していないゲーム(ムービーを最低でも一本登録等)の登録も目立つ様になってくる。「ゲームは全然出来ていないが、終わる前に登録しないとならないから登録する」といった釈明を説明文に書いて、コメント欄が非難で荒れたりという物も散見されていた。

この後は規定違反でさえなければ自由にSteamを通してゲームが販売可能となるSteam Directに切り替わるというのになぜそこまでしてGreenlightからのGreenlit達成にこだわるのか? その最大の理由はDirectへの登録料が未定という点にあった。登録料は100ドルから5000ドルの間になるとだけアナウンスされており、これが高額になったら困るという考えである。ちなみにGreenlightはゲームを登録する為の専用アカウントが100ドルなのに対して、Directではゲーム一本につきそれだけの値段が掛かるという違いがある。ただしこの登録料は大量のゲームをスパムの様にして発売されるのを防ぐ為であり、一種の保証金なので発売後に条件を満たせば返却されるというルール。

仮にだがこの登録料が1000ドル(日本円で約10万円)になったとしよう。(個人差はあるという前提で書くが)ここ日本においては「返金される可能性があるとは言え、そもそも10万円という金をまず先に用意するのというのは不可能だ」という人が多数だとは思えない。ところが物価や賃金相場は国によって異なる為に、支払いが地域差を考慮されずに一律ドル建てで1000ドルとなった場合、日本の感覚で言えばそれは50万とか100万円相当の金額に当たるという国も出て来る訳である(世界経済的に見れば日本よりも高額に感じる国の方が遥かに多いはず)。あるいは海外だと10代の学生という人も結構居て、日本やアメリカレベルの国でも彼等にとっては1000ドルは大金となるのは確か。そこで100ドルで済むGreenlightのうちに登録して販売しようという目的で登録ラッシュになったという事情がある。(最終的には同額の100ドルになったので急ぐ必要はなかった事にはなる)。

しかし終わる前に何とかしてという気持ちは解るのだが、終盤の登録者はそれまでよりも相当不利な状況に置かれていたというのは間違いない。Greenlightは単純に登録順に追加されていく方式で、ジャンル等のタグによる絞り込みのみとなり、投票人気順といった検索は出来ない。よって登録数があまりにも多過ぎる時に登録してもすぐに後ろの頁へと流れて行ってしまい、訪問者の目に留まるには著しく不利になる。私は通常いくつかの候補タグにて検索後に、先頭から戻っていって前回見たなという所まで戻る事でチェックをしていたが、ここまで数が多いと同じ様にしていても途中で止めてしまう人も増えるはずだから、実は興味を持ってもらえる可能性があったユーザーの目に触れないで終わるという危険が高まる。

最終的にはどうなったのかと言うと、6/6の終了時点でGreenlightに登録済みのゲーム数は約3400本。途中打ち切りとなるので独自の選定方法により最終Greenlit作品を選別するとされたが、結果としてその中の1600本程度がGreenlitを認定されている。あまりの多さに「返金処理を嫌がったValveがそれが出来ない様に多数を認定したのではないか?」といったコメントも見掛けたが、Greenlightの登録料100ドルは全額チャリティに回されるのでそんな事は無く、単に「ここで厳しく選定してもDirect経由で自由に販売出来るので意味は無い」という観点からの処理だと考えられる。

 
Greenlightが無くなった事による影響だが、これはインディーズ会社や個人にとって大きな痛手となる事が予想される。GreenlightとはSteamでの販売権を得る為の投票システムであるのは言うまでも無いが、実は登録掲載にあたりその販売権獲得を第一の目標とはしていないという所が結構多かったのである。

現時点での最大の懸念は、自分達の制作しているゲームをアピールする“効果的”な場所が無くなってしまったという点にある。小規模な物を除く大抵の作品は、自分達自身だけでは集める事が困難な程度の制作資金を必要とする。特に当サイトでメインとしているFPS/TPS系は比較的金が掛かる事で知られる。その為にクラウドファンディングという手法がある訳だが、これを成功させるには何しろ宣伝が重要となるのに、根本的にインディーズには宣言広告費という物が無い。するとどうなるか。公式サイトで「クラウドファンディング中なので資金援助をお願いします」とやったところで、そもそもほぼ誰もがそのゲームの存在を知らないのだから効果がない。Kickstarter, Indiegogo, Patreonといったサイトに掲載しても、そういったサイトを回って投資対象となるゲームを探している人はそう多くない。またはインディーズゲームをメインにするゲームサイトでニュースとして採り上げられても、そこへの訪問者は多くないから知名度は大して上がらない...といった具合である。同様にクラウドファンディングはしないにしても発売前の宣伝は盛り上げる意味で重要なのだが、その宣伝の方も効果的に行えるサイトが無いという状況である。

そんな中で有力な宣伝用サイトの意味合いがGreenlightには存在していた。公式によれば投票に参加したユーザー数はほぼ一千万人だそうで、この中の多数は票稼ぎの為に作られた架空のアカウントなのだろうが、それでも自分達のGreenlight頁にアクセスしてくれる(独立した)ユーザー数のカウントが1000を超えるのは割と普通だし、ちょっとした人気作ならば5000越え、トップランク辺りだと5万超えというレベルで見てもらえるのは非常に大きい。その他のサイトで1000人に見てもらうとなると大変だが、利用者がとてつもなく多いSteamならばGreenlight訪問者の割合が少なくても実数は多くなるという故の利点となる。そこで自分達のGreenlight頁から以下の様な目的で使用されている事も多かった。

・クラウドファンディングの開催サイトへと誘導
・このゲームを制作したとして売れるのかという判断の為の早期人気調査
・既に他のサイトで販売中のゲームの宣伝(Greenlitに失敗しても宣伝にはなる)

もちろんクラウドファンディングを含めた資金調達の達成はそれでも大変であり、Greenlitには到達しても資金集めには失敗というゲームの方が遥かに多い。よってGreenlitにはなったが制作資金が無い、あるいは実際に金を出してくれる人がこれだけ少ないのならば発売しても売れないだろうという判断から、Greenlitの状態で放置されているゲームは山ほど在るのが実情である。

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今後SteamにてGreenlightに当たる頁がどういう扱いになっていくのかは不明である。Greenlitに到達出来なかったGreenlight提出ゲームは現在コンセプトの頁へと移されており閲覧する事は可能である。もともとSteamにはコンセプト段階の作品を公開してユーザーから意見をもらうという頁が存在していたのだがそこへと移された事になる。Greenlightという投票システムを持ったイベント的な頁に比較してこのコンセプトのセクションは目立たないという欠点が在ったのだが、今後何も特別な措置が採られないのならばコンセプトの頁に掲載したとしても閲覧者の数はGreenlight時代に比べて激減するのは明らかで、もはや効果的な宣伝用頁とは成り得ない。

ユーザーの反応を見られなくなるのも痛い。掲載した作品がユーザーに人気があったらそれが制作へのモチベーションとなるが、そういった反応は閲覧者が少なくなれば得難くなる。提案や意見等のフィードバックも重要なのにそれも同じく少なくなる。後は集合的な情報サイトが無いと同種のゲームのかぶりが発生するという心配も見られた。それぞれが個別に制作しているとかなり出来た段階で似た様なゲームの存在に気が付いてももう変更が効かず、後発がパクリ扱いをされて売れないか、もしくはお互いに食い合って共倒れとなる心配がある。こういった問題解決の為には何か新しいインディーズが利用出来る宣伝頁がSteam内に設けられるというのがおそらくベストだが、この辺りはまるでどうなるのか予想がつかない。

そうなるとこれからは何に頼るべきなのかというのが、現在のアマチュア作品達の大きな悩みとなっている。そんな中で期待出来そうなサイトとしては、今やダウンロード用フリーゲームサイトの二大巨頭であるGame Joltitch.ioが在る。有料販売にも力を入れ出しているので早期アクセス作品をそのまま売る事も可能, 開発段階の作品頁にクラウドファンディング等の宣伝情報なども掲載出来る, ユーザーからのコメントも受け取れる、といった感じで制作側から見て使い勝手も良い。将来的にもまだ伸びには期待は出来るが、現時点ではやはりGreenlightに比べると利用者の規模が小さいし、どこまで大きくなるのかは未知数である。常用しているSteamの中に組み込まれていたからこそGreenlightも見ていたというユーザーは多いはずで、別サイトまで訪問してインディーズゲームをチェックするという人は相当少なくなってしまうだろう。

 
次回は新しく始まるSteam Directについて書く予定。

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